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26(ディラン視点7)
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「私、ここに来てやっと決意を固められた。一度王都に戻ってユリウスと話してくる。それで自分の気持ちにもちゃんと片を付けてくるわ……逃げ続けるのはもう、やめる」
決意を秘めた瞳でフェルは言う。俺は悟った。これでもう彼女が俺の近くにいてくれる幸せな夢……そして彼女にとっての悪夢が終わるのだ、と。
***
共に馬で屋敷に帰還するとすぐにフェルの客室に行き、彼女のストロベリーブロンドの綺麗な髪を鋏で整えていく。
パサリ、パサリと不揃いになってしまっている長い部分の髪の毛が床に落ちる……俺が好きだった長くて綺麗な髪の毛の面影を消していく。
それが少し寂しくて、こいつも昔はこのくらいに髪の毛が短かったな、なんて現実逃避で考えた。
しかしそれは逆効果だったようだ。なにせ昔を思い出すと同時にやるせない気持ちになってしまうのだ。”やはり自分は彼女の事が好きで好きで仕方がないのだ”、と。
好きだ。彼女のためならばどんな嫌な事も恐怖も乗り越えられるほどに。恐ろしい魔王にだって立ち向かえてしまう程に。でもこの気持ちは既に『恋』などという生易しいものではなく『愛』という重苦しいものに変化してしまっていた。
伝えたい……でも、彼女の事を考えると伝えるわけにはいかない。
フェルだったら、きっと俺の気持ちを蔑ろにはできないだろう。もしかしたらここに残ってくれるかもしれない。慰めてくれるかもしれない。もしかしたらユリウスと会いに行くこと自体を諦めてくれるかもしれない――。
でも、だからこそ彼女の優しさに甘える様な事はしたくなかった。それにそんなことをしたら俺がユリウスをわざわざ足止めしている意味もなくなってしまう。仲間を、親友を裏切るような真似はしたくない。
そのあってはならない”もしも”の可能性を切り捨てなければいけなかった。
なにせ俺はこの『愛』という感情のせいで、俺は強くなった……強くなってしまった。本当に厄介な感情だ。なにせ俺はもう、自分の願いよりも彼女の願いを優先したいと思ってしまっているのだ。
自分の願いよりも彼女の心を――笑顔を優先したあの日からこれは必然になってしまっていたのかもしれない。
自分の少しだけ残っている『引き留めたい』そんな余計な気持ちも一緒に切り捨てるように彼女の指触りの良い髪の毛を切る。そしてそれと同時に願いも込めた。フェルの未来が幸せなものであるように、と――。
我ながらかなり良い出来だと思う。なにせずっと彼女を目で追ってきたのだ。似合う髪型など分かりきっている。
「ほら、出来たぞ」
「……なんていうか意外。ディランって器用だったのね。こんなに付き合い長いのに知らなかったわ」
「ん?喧嘩なら買うぞ?」
「ううん。今回はそういう意味で言ったんじゃないわ……今回は。お礼くらいは言っておいてあげる。ありがとう……なんていうかこの髪型、すごく好き」
「っなんだか含みがあるのが気に食わないが、お気に召したなら何より。んじゃ、王都出発する前に軽く眠れ。酷い隈だからな」
『好き』というその言葉に思わず動揺してしまった。嬉しかったのだ。彼女への気持ちを込めたこの髪型を好きだと言ってもらえたことで俺自身のこの重苦しい感情を少しでも認めてもらえたような、昇華させてもらえたような、そんな気さえした。所詮は俺の勝手な勘違いなのだが。
大丈夫。彼女が疲れをとって目を醒ます頃にはきっと笑顔で送り出せる。
「はいはい。なんか母親みたい。ディランママー」
「お前みたいなクソ生意気な子供を産んだ覚えはない……さて、俺もう行くわ」
「ん。本当、ありがとね……流石私の最高の幼馴染」
部屋から出て、扉を締める直前。はにかんだ笑顔で言われたその言葉。幼馴染以上になんて見てもらえない事が悲しくて、悔しくて。でも珍しく彼女が素直に好意の気持ちを伝えてくれた事実が嬉しくて、愛おしかった。
「愛してる……いや、愛していたよ。フェリシア」
閉じられた扉に囁かれた小さな呟きは、目の前の扉すら届く前に空気に溶けて消えた。
******
あとがき:
この話は正直書かなくても読まなくても大して支障はなかったのですが書きました←
こういう感じの失恋話が性癖なんですよね~。書かずにはいられない。趣味悪くてごめんなさいww
決意を秘めた瞳でフェルは言う。俺は悟った。これでもう彼女が俺の近くにいてくれる幸せな夢……そして彼女にとっての悪夢が終わるのだ、と。
***
共に馬で屋敷に帰還するとすぐにフェルの客室に行き、彼女のストロベリーブロンドの綺麗な髪を鋏で整えていく。
パサリ、パサリと不揃いになってしまっている長い部分の髪の毛が床に落ちる……俺が好きだった長くて綺麗な髪の毛の面影を消していく。
それが少し寂しくて、こいつも昔はこのくらいに髪の毛が短かったな、なんて現実逃避で考えた。
しかしそれは逆効果だったようだ。なにせ昔を思い出すと同時にやるせない気持ちになってしまうのだ。”やはり自分は彼女の事が好きで好きで仕方がないのだ”、と。
好きだ。彼女のためならばどんな嫌な事も恐怖も乗り越えられるほどに。恐ろしい魔王にだって立ち向かえてしまう程に。でもこの気持ちは既に『恋』などという生易しいものではなく『愛』という重苦しいものに変化してしまっていた。
伝えたい……でも、彼女の事を考えると伝えるわけにはいかない。
フェルだったら、きっと俺の気持ちを蔑ろにはできないだろう。もしかしたらここに残ってくれるかもしれない。慰めてくれるかもしれない。もしかしたらユリウスと会いに行くこと自体を諦めてくれるかもしれない――。
でも、だからこそ彼女の優しさに甘える様な事はしたくなかった。それにそんなことをしたら俺がユリウスをわざわざ足止めしている意味もなくなってしまう。仲間を、親友を裏切るような真似はしたくない。
そのあってはならない”もしも”の可能性を切り捨てなければいけなかった。
なにせ俺はこの『愛』という感情のせいで、俺は強くなった……強くなってしまった。本当に厄介な感情だ。なにせ俺はもう、自分の願いよりも彼女の願いを優先したいと思ってしまっているのだ。
自分の願いよりも彼女の心を――笑顔を優先したあの日からこれは必然になってしまっていたのかもしれない。
自分の少しだけ残っている『引き留めたい』そんな余計な気持ちも一緒に切り捨てるように彼女の指触りの良い髪の毛を切る。そしてそれと同時に願いも込めた。フェルの未来が幸せなものであるように、と――。
我ながらかなり良い出来だと思う。なにせずっと彼女を目で追ってきたのだ。似合う髪型など分かりきっている。
「ほら、出来たぞ」
「……なんていうか意外。ディランって器用だったのね。こんなに付き合い長いのに知らなかったわ」
「ん?喧嘩なら買うぞ?」
「ううん。今回はそういう意味で言ったんじゃないわ……今回は。お礼くらいは言っておいてあげる。ありがとう……なんていうかこの髪型、すごく好き」
「っなんだか含みがあるのが気に食わないが、お気に召したなら何より。んじゃ、王都出発する前に軽く眠れ。酷い隈だからな」
『好き』というその言葉に思わず動揺してしまった。嬉しかったのだ。彼女への気持ちを込めたこの髪型を好きだと言ってもらえたことで俺自身のこの重苦しい感情を少しでも認めてもらえたような、昇華させてもらえたような、そんな気さえした。所詮は俺の勝手な勘違いなのだが。
大丈夫。彼女が疲れをとって目を醒ます頃にはきっと笑顔で送り出せる。
「はいはい。なんか母親みたい。ディランママー」
「お前みたいなクソ生意気な子供を産んだ覚えはない……さて、俺もう行くわ」
「ん。本当、ありがとね……流石私の最高の幼馴染」
部屋から出て、扉を締める直前。はにかんだ笑顔で言われたその言葉。幼馴染以上になんて見てもらえない事が悲しくて、悔しくて。でも珍しく彼女が素直に好意の気持ちを伝えてくれた事実が嬉しくて、愛おしかった。
「愛してる……いや、愛していたよ。フェリシア」
閉じられた扉に囁かれた小さな呟きは、目の前の扉すら届く前に空気に溶けて消えた。
******
あとがき:
この話は正直書かなくても読まなくても大して支障はなかったのですが書きました←
こういう感じの失恋話が性癖なんですよね~。書かずにはいられない。趣味悪くてごめんなさいww
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