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意外なことに、アレンはあのまま店先で帰らずにそのまま席まで案内されてしまっていた。
せめて接客は別のメイドに任せようとしたのだが、別のメイドが来るとガン無視。結果、案内した私が他のメイドに代わって接客まですることになってしまったのだった。
最初は『格好いい人が来た!』『美形がメイド喫茶に!!?絶対落とす』と息巻いていた先輩方にはもっと頑張って欲しかったというのが本音だ。私はもう1日のパワーをアレンが来た時点で使い切ったので、帰りたかった。
「ご注文はお決まりですか?ご主人様」
「っえ、ああ、その……このフルーツティーとパフェ」
「愛がいっぱい!トロピカルフルーツのキュンキュン♡ファンタジーティーとドジっ子メイドの「失敗しちゃったぁ、でもご主人様への愛はたくさん!」ラブリーパフェでしょうか。申し訳ないのですが、きちんと正式な名称を言ってもらえなければお持ち出来ません」
「はああ!?この恥ずかしい名称の物体を!言うのか!!?俺が??」
接客しに行くと、動揺しながらもメニューを指さして答えるアレン。
というか彼の言う恥ずかしい名称。ここ暫くで麻痺し始めていた感覚を呼び覚まされて、苦笑いする。私はこれをここ最近ずっと読み上げているという事実に改めて戦慄しながら、お店の決まりである正式名称をお客様にもきちんと読み上げて注文してもらわないとメニューを提供してはいけないという決まりは中々に鬼畜だと改めて思った。
「じゃあまずは、フルーツティーから!愛がいっぱい!トロピカルフルーツのキュンキュン♡ファンタジーティー」
「っ~~~!!あ、っあい、あ……あー、くっそ!!」
「そんな汚い言葉言ったら、メッですよ!」
ちなみに、この汚い言葉を言ったらメイドが『メッ!』というのも店のルールだ。アレンは机に沈み込んでいた。
正直私も机に沈み込んで、このメイド服を着て接客しているという現実から目を逸らしたいのだが。しかし仕事は仕事だ。
「ご主人様、頑張りましょう!愛がいっぱい!トロピカルフルーツのキュンキュン♡ファンタジーティー、ですよ!」
「う……お前、楽しんでるだろ」
「ご主人様、私は純粋に応援しているだけなのにーー」
「あーー、分かったよ。仕事だもんな。言うよ」
正直、ここまで恥ずかしがられるとほんの少しだけ面白くなり始めていたが、誤魔化した。
ちなみに未来の彼は、こんな恥ずかしい言葉だろうと平然と言う。証拠?以前偶然入ったカフェがメイドカフェ系統のコンセプトカフェで、そこで平然と詰まることなくメニューを読み上げていたからだ。
「あいがいっっぱい、トロピカルフルーツのきゅ、き、きゅんっ……」
道のりは長そうだ。
******
「……味は悪くなかった。で、俺あとこのチェキ撮影っていうのやりたいんだけど。もちろんお前と」
先ほどよりは恥ずかしくなくなったのだろうアレンはもう帰るだろうと送り出そうとしたところでそんなことを言い始めた。『は?』という一文字が口から漏れなかったのは、私がこの仕事に慣れてしまったという悲しい事実の証明。
内心は、『は?これ以上私を辱めてどうするの??いじめ?嫌がらせ???』である。あと、こんな記録残されたくない。基本的には私は一時的にここに贖罪に来ているだけの人間である。本所属でないと言うこともあり、いつもであれば断るのだ。だから今回もそれを理由に逃げようとしたーーのだが。
「チェキ撮影入りましたー!」
「私、撮影役やります!!!」
先輩メイド達が許してくれなかった。きっと知り合いだとバレている。
どうせ所持するのはアレンだけだ。そう諦め、仕方なくアレンに接近して、右手でハートマークの片割れを作る。近づくとアレンが唾を飲む音が聞こた。
しかしこちらから目を逸らして一向にもう片方のハートマークを作ってくれない。ふざけているのかと彼を見上げると、強い視線と目が合い、顔が真っ赤に染まったのが見えた。肌が白いこともあり、赤くなるとわかりやすい人だと思った。
「ご主人様、左手を貸してください。それで、親指以外を曲げてーー」
「ぬおっ!おま、急に」
「はい、撮影するのでこのまま固定してくださいね」
こうしてチェキには、真っ赤なアレンとメイドの私がハートを作っているところが焼き付けられたのだった。
******
X(旧Twitter)にこの話の小話を載せています。
せめて接客は別のメイドに任せようとしたのだが、別のメイドが来るとガン無視。結果、案内した私が他のメイドに代わって接客まですることになってしまったのだった。
最初は『格好いい人が来た!』『美形がメイド喫茶に!!?絶対落とす』と息巻いていた先輩方にはもっと頑張って欲しかったというのが本音だ。私はもう1日のパワーをアレンが来た時点で使い切ったので、帰りたかった。
「ご注文はお決まりですか?ご主人様」
「っえ、ああ、その……このフルーツティーとパフェ」
「愛がいっぱい!トロピカルフルーツのキュンキュン♡ファンタジーティーとドジっ子メイドの「失敗しちゃったぁ、でもご主人様への愛はたくさん!」ラブリーパフェでしょうか。申し訳ないのですが、きちんと正式な名称を言ってもらえなければお持ち出来ません」
「はああ!?この恥ずかしい名称の物体を!言うのか!!?俺が??」
接客しに行くと、動揺しながらもメニューを指さして答えるアレン。
というか彼の言う恥ずかしい名称。ここ暫くで麻痺し始めていた感覚を呼び覚まされて、苦笑いする。私はこれをここ最近ずっと読み上げているという事実に改めて戦慄しながら、お店の決まりである正式名称をお客様にもきちんと読み上げて注文してもらわないとメニューを提供してはいけないという決まりは中々に鬼畜だと改めて思った。
「じゃあまずは、フルーツティーから!愛がいっぱい!トロピカルフルーツのキュンキュン♡ファンタジーティー」
「っ~~~!!あ、っあい、あ……あー、くっそ!!」
「そんな汚い言葉言ったら、メッですよ!」
ちなみに、この汚い言葉を言ったらメイドが『メッ!』というのも店のルールだ。アレンは机に沈み込んでいた。
正直私も机に沈み込んで、このメイド服を着て接客しているという現実から目を逸らしたいのだが。しかし仕事は仕事だ。
「ご主人様、頑張りましょう!愛がいっぱい!トロピカルフルーツのキュンキュン♡ファンタジーティー、ですよ!」
「う……お前、楽しんでるだろ」
「ご主人様、私は純粋に応援しているだけなのにーー」
「あーー、分かったよ。仕事だもんな。言うよ」
正直、ここまで恥ずかしがられるとほんの少しだけ面白くなり始めていたが、誤魔化した。
ちなみに未来の彼は、こんな恥ずかしい言葉だろうと平然と言う。証拠?以前偶然入ったカフェがメイドカフェ系統のコンセプトカフェで、そこで平然と詰まることなくメニューを読み上げていたからだ。
「あいがいっっぱい、トロピカルフルーツのきゅ、き、きゅんっ……」
道のりは長そうだ。
******
「……味は悪くなかった。で、俺あとこのチェキ撮影っていうのやりたいんだけど。もちろんお前と」
先ほどよりは恥ずかしくなくなったのだろうアレンはもう帰るだろうと送り出そうとしたところでそんなことを言い始めた。『は?』という一文字が口から漏れなかったのは、私がこの仕事に慣れてしまったという悲しい事実の証明。
内心は、『は?これ以上私を辱めてどうするの??いじめ?嫌がらせ???』である。あと、こんな記録残されたくない。基本的には私は一時的にここに贖罪に来ているだけの人間である。本所属でないと言うこともあり、いつもであれば断るのだ。だから今回もそれを理由に逃げようとしたーーのだが。
「チェキ撮影入りましたー!」
「私、撮影役やります!!!」
先輩メイド達が許してくれなかった。きっと知り合いだとバレている。
どうせ所持するのはアレンだけだ。そう諦め、仕方なくアレンに接近して、右手でハートマークの片割れを作る。近づくとアレンが唾を飲む音が聞こた。
しかしこちらから目を逸らして一向にもう片方のハートマークを作ってくれない。ふざけているのかと彼を見上げると、強い視線と目が合い、顔が真っ赤に染まったのが見えた。肌が白いこともあり、赤くなるとわかりやすい人だと思った。
「ご主人様、左手を貸してください。それで、親指以外を曲げてーー」
「ぬおっ!おま、急に」
「はい、撮影するのでこのまま固定してくださいね」
こうしてチェキには、真っ赤なアレンとメイドの私がハートを作っているところが焼き付けられたのだった。
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