26 / 28
25.
しおりを挟む
「おかえりなさいませ!ご主人さ……ま」
「面白えことしてるじゃねえか、お前」
プライドを押し殺して働いていた、知り合いになど絶対に見られたくなかったはずの姿を、一番見られたくなかった相手に見られてしまった。
さて。私が何故メイド服を着て、この自分が言うのも聞くのもおぞましいような言葉を吐いているのか。その理由は1週間前に遡る。
私はこの地域で起きていた連続放火魔の調査及び捕縛の任務を受注していた。
調査の段階では良かった。筒がなく進んで、犯人は近くの魔法学校の不良生徒であることまで分かったからだ。しかし事件はその犯人を現行犯で捕縛する時に起こった。
炎の魔法が特に得意らしい犯人は、逃げながらも、いざとなればどこかに火をつけて私の気を引こうとしていることはわかっていた。だからずっと警戒して魔道具に強力な魔力を込め続けていた。そしていざ犯人が行動を起こしたと認識した瞬間、私の魔法は予想以上の火力で犯人を包んでいた。
そして一緒に破壊してしまったのだ。
この私が今働かされている店の系列店をーー。
ちなみに捕縛対象は予想以上に出てしまった出力の魔法をギリギリで私が店の方に逸らしたおかげで、服が弾け飛んで片腕に火傷を負う程度の怪我で済んだ。これは幸いである。キレ散らかしていたが。
「アンタねえ、確かにこの辺りを騒がせていた放火魔を捕まえてくれるのは有り難いのよ?」
「……じゃあ、今回の件は賠償金のみで不問とーー」
「でもね!アンタのイルハルト冒険ギルドは以前もこの店の系列店を破壊しているの。まるで狙ったように、ね」
「それはギルドマスターがやってしまったことだと思うので申し訳ないとは思いますが、私には関係があーー」
「だからね!!反省の色を見せて欲しいのよ。アンタ、顔綺麗だし、うちの壊れていない方の系列店で働くってことで。仕事終わりと休日に来てね」
そうして話は終わった。
一方的な会話だった。全ての話を、なんだか女性口調のゴリマッチョのおじさんに遮られて、何も言えずに終わったのだ。
そして反省の色を見せると言う意味で今に至る。
イルハルトにも相談したが、「あー、ごめんね。心当たりすごくある。頑張って、サブマスター」と丸投げされた。本当に無責任な男だと思う。しかし店を壊してしまった私にも責任はある。魔法で火をつけようとしているのを止めようとしたせいだとはいえ私の注意不足には変わりない。それに彼と同じように私まで無責任になってしまったら、色々な意味で崩壊してしまうだろう。自身の衣食住が保証されなくなるのは困る。だからこそ、私は責任を取ることにして休日にもおとなしく働いているのだ。
アレンの誘いを今回断ったのはこれが理由だったりする。これがなかったとしても断っていた可能性は高いが。
******
「で?メイドのステラちゃん?いつもはクソ生意気なお前からまさかそんな名称で呼ばれる日が来るとはなあ。俺が?ご主人さーー」
「何故、そんな意地悪なことを仰るのですか」
「え……は??」
「私はいつでもご主人様に従順なメイドだったと思います。もしかして何かご主人様の気に障ることをしてしまったのですか。申し訳、ありません。でもご主人様に嫌われて、こんなふうに意地悪な言葉を言われるのは悲しいです。貴方に必要とされなくなったら私はーー」
「えっと、その、ごめん」
ちょっとした意趣返しのつもりだった。
人が一生懸命、仕方なく働いている姿を見てこの男は私を揶揄っていたのだ。だから顔を伏せて悲しそうな表情を作った上で震わせた声で彼をご主人様扱いしてみた。
どうせもっとバカにされるか返答に全く応じない私に怒りを見せるかのどちらかだと思っていた。
しかしその反応は違うものだった。あの生意気で謝罪や反省、そして道徳という言葉を母親の母体に忘れてきたのかと思うほどに最低な男からの謝罪の言葉が口から出てきたのだ。自身の耳と目を疑う反応だった。
「面白えことしてるじゃねえか、お前」
プライドを押し殺して働いていた、知り合いになど絶対に見られたくなかったはずの姿を、一番見られたくなかった相手に見られてしまった。
さて。私が何故メイド服を着て、この自分が言うのも聞くのもおぞましいような言葉を吐いているのか。その理由は1週間前に遡る。
私はこの地域で起きていた連続放火魔の調査及び捕縛の任務を受注していた。
調査の段階では良かった。筒がなく進んで、犯人は近くの魔法学校の不良生徒であることまで分かったからだ。しかし事件はその犯人を現行犯で捕縛する時に起こった。
炎の魔法が特に得意らしい犯人は、逃げながらも、いざとなればどこかに火をつけて私の気を引こうとしていることはわかっていた。だからずっと警戒して魔道具に強力な魔力を込め続けていた。そしていざ犯人が行動を起こしたと認識した瞬間、私の魔法は予想以上の火力で犯人を包んでいた。
そして一緒に破壊してしまったのだ。
この私が今働かされている店の系列店をーー。
ちなみに捕縛対象は予想以上に出てしまった出力の魔法をギリギリで私が店の方に逸らしたおかげで、服が弾け飛んで片腕に火傷を負う程度の怪我で済んだ。これは幸いである。キレ散らかしていたが。
「アンタねえ、確かにこの辺りを騒がせていた放火魔を捕まえてくれるのは有り難いのよ?」
「……じゃあ、今回の件は賠償金のみで不問とーー」
「でもね!アンタのイルハルト冒険ギルドは以前もこの店の系列店を破壊しているの。まるで狙ったように、ね」
「それはギルドマスターがやってしまったことだと思うので申し訳ないとは思いますが、私には関係があーー」
「だからね!!反省の色を見せて欲しいのよ。アンタ、顔綺麗だし、うちの壊れていない方の系列店で働くってことで。仕事終わりと休日に来てね」
そうして話は終わった。
一方的な会話だった。全ての話を、なんだか女性口調のゴリマッチョのおじさんに遮られて、何も言えずに終わったのだ。
そして反省の色を見せると言う意味で今に至る。
イルハルトにも相談したが、「あー、ごめんね。心当たりすごくある。頑張って、サブマスター」と丸投げされた。本当に無責任な男だと思う。しかし店を壊してしまった私にも責任はある。魔法で火をつけようとしているのを止めようとしたせいだとはいえ私の注意不足には変わりない。それに彼と同じように私まで無責任になってしまったら、色々な意味で崩壊してしまうだろう。自身の衣食住が保証されなくなるのは困る。だからこそ、私は責任を取ることにして休日にもおとなしく働いているのだ。
アレンの誘いを今回断ったのはこれが理由だったりする。これがなかったとしても断っていた可能性は高いが。
******
「で?メイドのステラちゃん?いつもはクソ生意気なお前からまさかそんな名称で呼ばれる日が来るとはなあ。俺が?ご主人さーー」
「何故、そんな意地悪なことを仰るのですか」
「え……は??」
「私はいつでもご主人様に従順なメイドだったと思います。もしかして何かご主人様の気に障ることをしてしまったのですか。申し訳、ありません。でもご主人様に嫌われて、こんなふうに意地悪な言葉を言われるのは悲しいです。貴方に必要とされなくなったら私はーー」
「えっと、その、ごめん」
ちょっとした意趣返しのつもりだった。
人が一生懸命、仕方なく働いている姿を見てこの男は私を揶揄っていたのだ。だから顔を伏せて悲しそうな表情を作った上で震わせた声で彼をご主人様扱いしてみた。
どうせもっとバカにされるか返答に全く応じない私に怒りを見せるかのどちらかだと思っていた。
しかしその反応は違うものだった。あの生意気で謝罪や反省、そして道徳という言葉を母親の母体に忘れてきたのかと思うほどに最低な男からの謝罪の言葉が口から出てきたのだ。自身の耳と目を疑う反応だった。
396
お気に入りに追加
1,637
あなたにおすすめの小説
婚約者を想うのをやめました
かぐや
恋愛
女性を侍らしてばかりの婚約者に私は宣言した。
「もうあなたを愛するのをやめますので、どうぞご自由に」
最初は婚約者も頷くが、彼女が自分の側にいることがなくなってから初めて色々なことに気づき始める。
*書籍化しました。応援してくださった読者様、ありがとうございます。

【完結】貴方をお慕いしておりました。婚約を解消してください。
暮田呉子
恋愛
公爵家の次男であるエルドは、伯爵家の次女リアーナと婚約していた。
リアーナは何かとエルドを苛立たせ、ある日「二度と顔を見せるな」と言ってしまった。
その翌日、二人の婚約は解消されることになった。
急な展開に困惑したエルドはリアーナに会おうとするが……。
【完結】忘れてください
仲 奈華 (nakanaka)
恋愛
愛していた。
貴方はそうでないと知りながら、私は貴方だけを愛していた。
夫の恋人に子供ができたと教えられても、私は貴方との未来を信じていたのに。
貴方から離婚届を渡されて、私の心は粉々に砕け散った。
もういいの。
私は貴方を解放する覚悟を決めた。
貴方が気づいていない小さな鼓動を守りながら、ここを離れます。
私の事は忘れてください。
※6月26日初回完結
7月12日2回目完結しました。
お読みいただきありがとうございます。

君に愛は囁けない
しーしび
恋愛
姉が亡くなり、かつて姉の婚約者だったジルベールと婚約したセシル。
彼は社交界で引く手数多の美しい青年で、令嬢たちはこぞって彼に夢中。
愛らしいと噂の公爵令嬢だって彼への好意を隠そうとはしない。
けれど、彼はセシルに愛を囁く事はない。
セシルも彼に愛を囁けない。
だから、セシルは決めた。
*****
※ゆるゆる設定
※誤字脱字を何故か見つけられない病なので、ご容赦ください。努力はします。
※日本語の勘違いもよくあります。方言もよく分かっていない田舎っぺです。
【掌編集】今までお世話になりました旦那様もお元気で〜妻の残していった離婚受理証明書を握りしめイケメン公爵は涙と鼻水を垂らす
まほりろ
恋愛
新婚初夜に「君を愛してないし、これからも愛するつもりはない」と言ってしまった公爵。
彼は今まで、天才、美男子、完璧な貴公子、ポーカーフェイスが似合う氷の公爵などと言われもてはやされてきた。
しかし新婚初夜に暴言を吐いた女性が、初恋の人で、命の恩人で、伝説の聖女で、妖精の愛し子であったことを知り意気消沈している。
彼の手には元妻が置いていった「離婚受理証明書」が握られていた……。
他掌編七作品収録。
※無断転載を禁止します。
※朗読動画の無断配信も禁止します
「Copyright(C)2023-まほりろ/若松咲良」
某小説サイトに投稿した掌編八作品をこちらに転載しました。
【収録作品】
①「今までお世話になりました旦那様もお元気で〜ポーカーフェイスの似合う天才貴公子と称された公爵は、妻の残していった離婚受理証明書を握りしめ涙と鼻水を垂らす」
②「何をされてもやり返せない臆病な公爵令嬢は、王太子に竜の生贄にされ壊れる。能ある鷹と天才美少女は爪を隠す」
③「運命的な出会いからの即日プロポーズ。婚約破棄された天才錬金術師は新しい恋に生きる!」
④「4月1日10時30分喫茶店ルナ、婚約者は遅れてやってきた〜新聞は星座占いを見る為だけにある訳ではない」
⑤「『お姉様はズルい!』が口癖の双子の弟が現世の婚約者! 前世では弟を立てる事を親に強要され馬鹿の振りをしていましたが、現世では奴とは他人なので天才として実力を充分に発揮したいと思います!」
⑥「婚約破棄をしたいと彼は言った。契約書とおふだにご用心」
⑦「伯爵家に半世紀仕えた老メイドは伯爵親子の罠にハマり無一文で追放される。老メイドを助けたのはポーカーフェイスの美女でした」
⑧「お客様の中に褒め褒めの感想を書ける方はいらっしゃいませんか? 天才美文感想書きVS普通の少女がえんぴつで書いた感想!」
大好きなあなたが「嫌い」と言うから「私もです」と微笑みました。
桗梛葉 (たなは)
恋愛
私はずっと、貴方のことが好きなのです。
でも貴方は私を嫌っています。
だから、私は命を懸けて今日も嘘を吐くのです。
貴方が心置きなく私を嫌っていられるように。
貴方を「嫌い」なのだと告げるのです。

私のことを愛していなかった貴方へ
矢野りと
恋愛
婚約者の心には愛する女性がいた。
でも貴族の婚姻とは家と家を繋ぐのが目的だからそれも仕方がないことだと承知して婚姻を結んだ。私だって彼を愛して婚姻を結んだ訳ではないのだから。
でも穏やかな結婚生活が私と彼の間に愛を芽生えさせ、いつしか永遠の愛を誓うようになる。
だがそんな幸せな生活は突然終わりを告げてしまう。
夫のかつての想い人が現れてから私は彼の本心を知ってしまい…。
*設定はゆるいです。
(完結)貴方から解放してくださいー私はもう疲れました(全4話)
青空一夏
恋愛
私はローワン伯爵家の一人娘クララ。私には大好きな男性がいるの。それはイーサン・ドミニク。侯爵家の子息である彼と私は相思相愛だと信じていた。
だって、私のお誕生日には私の瞳色のジャボ(今のネクタイのようなもの)をして参加してくれて、別れ際にキスまでしてくれたから。
けれど、翌日「僕の手紙を君の親友ダーシィに渡してくれないか?」と、唐突に言われた。意味がわからない。愛されていると信じていたからだ。
「なぜですか?」
「うん、実のところ私が本当に愛しているのはダーシィなんだ」
イーサン様は私の心をかき乱す。なぜ、私はこれほどにふりまわすの?
これは大好きな男性に心をかき乱された女性が悩んで・・・・・・結果、幸せになったお話しです。(元さやではない)
因果応報的ざまぁ。主人公がなにかを仕掛けるわけではありません。中世ヨーロッパ風世界で、現代的表現や機器がでてくるかもしれない異世界のお話しです。ご都合主義です。タグ修正、追加の可能性あり。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる