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「おい!ステラ!!仕事終わったんだろ、いくぞ」
「……また来たんですか」
「お前が言ったことなんだからな、ちゃんと責任を取れ」
アレンはカフェにハマったのか、今日も今日とて誘いに来ている。これで既に初回を合わせて6回目だ。
私はカフェに誘いにこいだなんて言った覚えはないのだが、密室ではなくカフェを提案したことで私が言って誘ったことになってしまったのだろうか。
昔から変わった思考をしていて読めないとは思っていたが、年下のはずの彼の思考が理解できない。
「ステラさん……ご愁傷様です。貴女の犠牲は忘れません」
「なんで死んだみたいな扱いされているんですか」
「ギルドマスターである僕のために……サブマスターの鏡ですね。ありがとう。それでは!」
「逃げた!!?」
仕事終わりアレンに絡まれているところにタイミングよく部屋から出てきたイルハルトは無責任にもどこかへ行ってしまった。イルハルトがこのギルドにいることは基本的に少ない。ギルドマスターは存外忙しいようだった。だからこれがアレンとイルハルトの久しぶりの邂逅というわけだ。
しかし彼のせいで現代のアレンに出会ってしまったようなものなのに、なんて人なんだろうか。
いざ自分がアレンに絡まれる対象から脱すると、自分が絡まれないうちにさっさと逃げる。自分に正直なのは良いが、最低限の責任感というものは持っていて欲しい。イルハルトのような人間に思っても無駄かもしれないが。
「仕方がないので今日も付き合いましょう」
「よし!じゃあ、今日は東にあるポッシェ・デ・オルカに行くぞ!」
確か、季節のフルーツタルトが有名なカフェだったはずだ。
カフェに着くと、下調べは万全とばかりにアレンはタルトを5つ注文した。もちろん私の分ではない。
実は3回目辺りからアレンはブラックコーヒーを頼むのをやめた。遂に耐えきれなくなったようだ。そして店員が毎回私の方に持ってくるような甘いケーキやら紅茶やらを頼むのだ。私は何も言わずにそれをそのままアレンの方へと差し出す。すると彼の表情がふわりと綻ぶように笑顔に包まれる。
それを見て、子供っぽい表情だな~、ずっとその表情でいたら良いのに、なんて思うが本人の耳に入るようなことがあればキレ散らかすことがわかっているので、口には一切出さない。私はただひたすらアレンに絡まれながら紅茶やケーキを楽しむ。
それが最近の日課だった。
「そういえば。明日から暫くはこう言ったカフェ巡りには付き合えませんよ」
「は?カフェ巡りじゃねえよ!!お前の情報収集!だ!!」
「ああ、はい。情報収集には付き合えません」
言い直してあげるとブスッとした表情をしながらも納得してくれたのかそれ以上は何も言ってこない。最近は最初のような戦闘に関することは聞かれなく、雑談レベルの話ばかりだ。だがそれは本人も自覚があるのかもしれない。現にバツが悪そうだ。誤魔化してあげるためにも話を続ける。
「行かなければならないところがあるんです」
「ふーん。どれくらい?」
「そうですね、2週間ほどでしょうか。だからこうして一緒には来られません」
「……休みの日は?」
信じられない言葉を聞いた気がする。
アレンは仕事の日だけでなく休みの日すら私から奪おうというのか。というかそもそも敵認定している相手とこうして会ってお茶しているどころか、休日まで会おうとするのはどういった心境だろう。
そんなことを考えながらも、私の答えは決まっていた。
「休日は用事があるので無理です」
「は?俺以上に大事な用事なんてあるのか??」
「ええ。あります。今の私にとって何よりも大切なことなんです」
元の時代に帰る方法を調べるという何よりも大切な用事がある。
そして未来に戻った先のアレンに一発いれてやるのだ。だからここにいつまでも留まっているつもりなどない。
……というのはいつもの理由で暫くは私は休日はとある事情によって潰れる予定にある。本当に不本意ながら、私の自業自得といえばそうなのだが。とにかく、用事があるのは事実なのだ。
「なんなんだよ、俺が会いにきた時よりも幸せそうな顔しやがって……そんなに大事かよ、その用事が」
「ん?何か言いましたか?」
アレンが何かを言ったような気がするが、未来のアレンにどう一発いれてやろうかと考えている私は彼の言葉に注意を払っていなかったのもあり、ほとんど聞き取れなかった。幸せそうとは聞こえたが、それはムカつく相手への報復を考えているのだから、不幸な顔はしていないだろう。
「べっつにー!もう帰るぞ!!俺はお前みたいに暇じゃないんだから」
「人のプライベートな時間を奪っておいて、相変わらず言い方が最低ですね。まあ、暫く会わないのでなんでも良いですが」
何故だか苛立ち始めたアレンの機嫌を取ることなく、私たちは帰路についた。
******
X(旧Twitter)にこの話の小話を載せています。アレン視点でかなり短めです。
「……また来たんですか」
「お前が言ったことなんだからな、ちゃんと責任を取れ」
アレンはカフェにハマったのか、今日も今日とて誘いに来ている。これで既に初回を合わせて6回目だ。
私はカフェに誘いにこいだなんて言った覚えはないのだが、密室ではなくカフェを提案したことで私が言って誘ったことになってしまったのだろうか。
昔から変わった思考をしていて読めないとは思っていたが、年下のはずの彼の思考が理解できない。
「ステラさん……ご愁傷様です。貴女の犠牲は忘れません」
「なんで死んだみたいな扱いされているんですか」
「ギルドマスターである僕のために……サブマスターの鏡ですね。ありがとう。それでは!」
「逃げた!!?」
仕事終わりアレンに絡まれているところにタイミングよく部屋から出てきたイルハルトは無責任にもどこかへ行ってしまった。イルハルトがこのギルドにいることは基本的に少ない。ギルドマスターは存外忙しいようだった。だからこれがアレンとイルハルトの久しぶりの邂逅というわけだ。
しかし彼のせいで現代のアレンに出会ってしまったようなものなのに、なんて人なんだろうか。
いざ自分がアレンに絡まれる対象から脱すると、自分が絡まれないうちにさっさと逃げる。自分に正直なのは良いが、最低限の責任感というものは持っていて欲しい。イルハルトのような人間に思っても無駄かもしれないが。
「仕方がないので今日も付き合いましょう」
「よし!じゃあ、今日は東にあるポッシェ・デ・オルカに行くぞ!」
確か、季節のフルーツタルトが有名なカフェだったはずだ。
カフェに着くと、下調べは万全とばかりにアレンはタルトを5つ注文した。もちろん私の分ではない。
実は3回目辺りからアレンはブラックコーヒーを頼むのをやめた。遂に耐えきれなくなったようだ。そして店員が毎回私の方に持ってくるような甘いケーキやら紅茶やらを頼むのだ。私は何も言わずにそれをそのままアレンの方へと差し出す。すると彼の表情がふわりと綻ぶように笑顔に包まれる。
それを見て、子供っぽい表情だな~、ずっとその表情でいたら良いのに、なんて思うが本人の耳に入るようなことがあればキレ散らかすことがわかっているので、口には一切出さない。私はただひたすらアレンに絡まれながら紅茶やケーキを楽しむ。
それが最近の日課だった。
「そういえば。明日から暫くはこう言ったカフェ巡りには付き合えませんよ」
「は?カフェ巡りじゃねえよ!!お前の情報収集!だ!!」
「ああ、はい。情報収集には付き合えません」
言い直してあげるとブスッとした表情をしながらも納得してくれたのかそれ以上は何も言ってこない。最近は最初のような戦闘に関することは聞かれなく、雑談レベルの話ばかりだ。だがそれは本人も自覚があるのかもしれない。現にバツが悪そうだ。誤魔化してあげるためにも話を続ける。
「行かなければならないところがあるんです」
「ふーん。どれくらい?」
「そうですね、2週間ほどでしょうか。だからこうして一緒には来られません」
「……休みの日は?」
信じられない言葉を聞いた気がする。
アレンは仕事の日だけでなく休みの日すら私から奪おうというのか。というかそもそも敵認定している相手とこうして会ってお茶しているどころか、休日まで会おうとするのはどういった心境だろう。
そんなことを考えながらも、私の答えは決まっていた。
「休日は用事があるので無理です」
「は?俺以上に大事な用事なんてあるのか??」
「ええ。あります。今の私にとって何よりも大切なことなんです」
元の時代に帰る方法を調べるという何よりも大切な用事がある。
そして未来に戻った先のアレンに一発いれてやるのだ。だからここにいつまでも留まっているつもりなどない。
……というのはいつもの理由で暫くは私は休日はとある事情によって潰れる予定にある。本当に不本意ながら、私の自業自得といえばそうなのだが。とにかく、用事があるのは事実なのだ。
「なんなんだよ、俺が会いにきた時よりも幸せそうな顔しやがって……そんなに大事かよ、その用事が」
「ん?何か言いましたか?」
アレンが何かを言ったような気がするが、未来のアレンにどう一発いれてやろうかと考えている私は彼の言葉に注意を払っていなかったのもあり、ほとんど聞き取れなかった。幸せそうとは聞こえたが、それはムカつく相手への報復を考えているのだから、不幸な顔はしていないだろう。
「べっつにー!もう帰るぞ!!俺はお前みたいに暇じゃないんだから」
「人のプライベートな時間を奪っておいて、相変わらず言い方が最低ですね。まあ、暫く会わないのでなんでも良いですが」
何故だか苛立ち始めたアレンの機嫌を取ることなく、私たちは帰路についた。
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X(旧Twitter)にこの話の小話を載せています。アレン視点でかなり短めです。
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