貴方の『好きな人』の代わりをするのはもうやめます!

皇 翼

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今日の任務は、王都から半日程移動した場所にある小さな村でのものだった。
依頼内容は、最近畑を荒らしている魔物の退治。現場に行ってみれば、名前も付いていないような雑魚魔物がいただけだった。
依頼が完了したことを伝えると同時に、必要書類に署名を貰いに行くために依頼者の家に向か――おうとしたところで、腕を掴まれた。

「やっと捕まえた」
「え……」
「しょう、ぶ……しろ!俺と!!」

完全に油断しきっていた私の腕を掴んで静止したのは、ここに来る前に絡んできていた男・アレンだった。
きっと瞬間移動で飛ばされた地点から、私の魔力を辿ってここまで来たのだろう。いくら目的があるとはいえ、熱心な人間だと思う。未来の彼とは執着の度合い、しつこさが違うなと思ってしまう。私にとってのアレンはいつでも余裕を見せていて、私がどんなことをしても笑って受け入れてくれている。なんなら浮気したとしても、受け入れてくれるんじゃないかというレベルで私に対して執着していなかった気さえしてくる。
けれど、今の彼を見ていると、そういう部分を隠していただけなのではないだろうかと思えた。

過去のことを思い出していたせいだろう。今目の前にいるアレンは、私が無視したのだと思い込み、プンプンと怒っていた。
感情をそのまま噴出させていて、子供っぽく映る。そういえば今の彼の年齢はいくつなのだろうか。少し気になった。

「そういえば、アレン……様は今おいくつですか?」
「は?なんでお前に年齢なんて言わねえと――」
「あ。じゃあ、いいです」
「って、なんでだよ!!知りたくねえのかよ!?」

うっわ、なんていうかこの人……面倒くさい。聞かれたくないのか、聞かれたいのか、どっちなんだ。
私としては、どうせアレンの本来の年齢を思い出して、今の年代と照らし合わせれば分かるかと考えて、聞かなくていいかという結論に至ったのだが。
アレンはアレンで、私なぞに興味を持っていないと明言されたようでムカついたのかもしれない。なにせ今の彼は、20歳である今の私よりも確実に年下だ。精神年齢も低い故に、そういう部分が出やすいのだろう。否、まだ隠そうという気がないのかもしれない。

「……15」
「え?」
「だから!15歳だ!!お前、興味あったんじゃないのかよ、俺の年齢に」

意外だ。答えてくれたようだった。
そしてやはり今の私よりも5個下。そりゃ、子供に感じるわけだ。私がずっと接していたアレンは出会った時が22歳、そして現在は26歳。11年分の差があるわけだ。それだけあれば、人間は変わるということだろう。雰囲気や性格、言葉遣いなどなど、全然違うのだから。

「で、ステラ。お前はいくつなんだよ」
「私ですか?私は20歳です」
「はっ!ババアじゃねえか!!イルハルトよりも2個上だし」
「でもそのババアに負けたんですよね、貴方」
「…………」

否定のしようがない事実を言ったら、彼を言い負かしてしまったようだ。彼は顔を伏せてしまっている。
ちょっと可哀想なことをしてしまったかもしれない。しかしここで慰めたら慰めたで、アレンが怒り狂うことを悟っているので、何も言えない。もうギルドに帰りたいと思ったところで、アレンが伏せていた顔を上げた。

「俺の部屋に行くぞ」
「は???」

アレンの思考は、過去も現在も相変わらず読むことが出来ない。
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