貴方の『好きな人』の代わりをするのはもうやめます!

皇 翼

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改めて、アレン=ロスティシアと向き合う。睨みつけるように彼の出来物やシミが一つもない完璧に美しい顔を見つめると、彼はそれが気に食わなかったのか、ベッと舌を出してこちらに喧嘩を売ってくる。

「イルハルトも張り切っちゃってるみたいだけど、お前みたいな雑魚が俺に一撃なんて入れられるわけがないだろ」
「……貴方、本当に性格が悪いわね。いつかその鼻っ柱叩きおられるわよ?」
「いつか?じゃあ、今やってみろよ。ザ・コ」

本当にイラつく男だと感じた。そういえば昔の事が話題になると、現代のアレンは話すことを嫌がっていたが、きっとこれが原因だったのだろうと今更ながらその理由が分かった気がした。あまりにも態度も性格も全てが悪い。未来のアレンとは似ても似つかない。

「貴方の方が雑魚だって証明してあげますよ」

私が強気に出るのには理由があった。
現代のアレンがいくら嫌がると言っても、話していれば多少は昔の情報なんて出てくるものだ。ちょいちょい口を滑らせるアレンの話によって、学生時代の彼は『時間を止める魔法』が完全には覚醒していなかったということを知っていた。
止められても精々1分。それ以上は無理だった、と。だから私の実力であれば、確実に同じくらいの年齢の自分には勝てていただろうとも何度か言われたことがある。その言葉を心の奥底では信じていたからこそ、大口を叩くことが出来たのだ。

私の強みは、手数の多さ、そして馬鹿みたいに出る火力。これは、初めてアレンに褒められた時の技。

別に彼を殺したりなどというつもりはない。とりあえずの目標としては、雑魚呼ばわりだけはなんとかすると同時に、あの街の人達に対する仕打ちを後悔させてやりたいという気持ちで動いていた。

アレンの能力は時間を停止させること。正確には、自身の体と精神だけが時間を遡り続けることによって、止まっている時間に干渉する。その原理で時間を止めているのだ。
一見、最強の能力に見えるかもしれない。しかしどんな能力にだって弱点はあるものだ。

彼の最大の弱点は、『皮膚が触れた任意のものの時間だけ、自分と同じように時間を遡ってしまうこと』。
空気を吸うという行為や、他の物体を動かすと言った行為はこの仕組みのおかげでできている。だから、唯一の弱点とも言えるその部分を突くのだ。強制的に触れさせる状況を作る。
時間が止まっていたとしても、彼自身の身体には物理的力が働く。
空気や水、土などと言った自然物には彼の時間停止は効かない――否、生命活動に関わるため、自然と効かないように彼自身が無意識の内にしているのだ。だからそこが弱点になる。

最初に複数のあえて可視化しているカマイタチを生成し、それらを操ってアレンの方向に投げると同時。アレンを中心とした半径1キロ圏内に超巨大な水球を生成し、その水球の外側と敢えて空気を残すように作っていた自身の周囲を分厚い氷魔法で覆った。アレンがもし時間を止めたとしても、彼の身体にはこの水たちの性質が働き続ける。
でもこれだけでは足りない。
きっとアレンは内側のこの氷が魔法でどうにも出来ないと悟ると同時に、この水球の外に出ようとするだろう。だからこそその辺りの水には魔道具で電気を纏わせておいた。彼が想定通りに動けば、身体が麻痺して動かなくなるだろう。

そして決行。
体感最初の数十秒は、分厚い氷の向こう側から何かしら抵抗するような音が聞こえて来ていたが、それもすぐに止んだ。そして外側に張っておいた電気で麻痺する魔法が発動したのが魔道具から私に伝わってくる。
きっとアレンは私が魔道具で水魔法、氷魔法、雷魔法を発動させた直後に時間を止め、私に辿り着こうとしたのだろうが、途中でソレを断念。そして最終的にはこの魔法の圏外に出ようと外側に行ったのだろうことが、未来のアレンと無駄に付き合いが長い私には簡単に予測できた。

そうして決着がついたことを悟った私が、急いでイルハルトと共にアレンを助けに行った時には、彼は既にぐったりとしていた。
魔道具で少し増幅した回復魔法を施すと、麻痺が治ったのか、アレンは開口一番に怒鳴ってくる。

「ふっざけんな!!てめぇ、俺を殺す気か!!?」
「いや、別に殺す気はないですが。っていうか、時間を止めるなんて最強の能力を持ってるくせに、このくらいで死んじゃうの?」
「っぶふ!!……本当にステラは面白い子ですね」

イルハルトが笑ったことに、更に怒りが沸いてきたのだろう。アレンの蟀谷がぴくぴくと動いているのが見えた。
しかしながらこの戦略が簡単に通じたのも、アレンが若かったからこそだろう。実際、未来のアレンは毒で全身が痺れた状態のはずなのに、『今回は参ったよ』などと言いながら、平然と立っていやがったのだ。だから、今のアレンも似たような感じで出てきたとしても、死にはしないだろうと考えていた。けれど予想以上にアレンは麻痺でダメージを受けており、怒られて煽りはしたが、一番驚いていたのは私自身だった。

「お前……ステラ!!いつか、絶対倒してやるからな!!これで終わりだと思うなよ!」
「……はぁ?」

そう言って、アレンは魔法で一瞬のうちに目の前から消える。
上品さの欠片もない去り際だった。

「……君も目を付けられてしまいましたね」
「元はと言えば、貴方のせいでは??何、無関係を装っているんです?」

私は勢いでとはいえ、結局あのクソ生意気な昔のアレンと関わることになってしまったことを少しだけ後悔していた。
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