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任務の報告……全員が亡者になっていたこと、そして遺品の受け渡しを私とイルハルトはすぐに済ませた。報告を受けたある者は涙を流し、またある者は悲しみを堪えた顔で礼を告げた――。

あの胸糞悪い任務が最後だったようで、私の使う名前が『ステラ』に決まってルンルンのイルハルトと対照的に私はこの先の展開に胸騒ぎを覚えていた。
そうこうしている内に、ついに、目的地である王都――イルハルト討伐ギルドの本部に到着した。正確にはイルハルト討伐ギルドは本部と呼ばれるそこのみで、支部などはないのだが、本人曰く数年以内に作るから名称的には合っているそうだ。

「うわ、埃っぽい」
「暫く帰ってませんでしたからね」
「いや、暫く帰ってなかっただけではないでしょう。書類も魔道具?も全部ぐちゃぐちゃに置いてあるじゃないですか」

思っていたよりも敷地が広く、5階建ての建物3棟という立派な建物。しかしながら中身は少し……いや、かなり汚かった。ソファであったものの上に大量に置かれた包装を解かれていない食べ物やよく分からない器具、他には、私も知っているレベルでかなり強力な魔道具ごちゃごちゃに混ぜられていた。
床も紙ゴミや資料、呪いの気配を感じる魔導書なども散りばめられている。イルハルトの雑な人間性を表している様だ、と失礼なことを頭の中で考えた。

「……掃除は少しだけ苦手なんです。あと、そこら辺にある魔道具はあなたの自由に使っていいですよ。殆ど依頼者からの貰い物ですし、少なくとも僕は全く使いません」
「はあ。魔道具は有り難く貰っておきます。でも、ちゃんと掃除しないと仕事も出来ないでしょう?」
「分かってはいるのですが、なんとも……そうだ!ステラさんは、キャンプ地もこまめに綺麗にしていましたし、掃除は絶対得意ですよね!」
「苦手、ではないですが」

これは押しつけられる雰囲気。咄嗟にそう察するが、どうせこの男の押しの強さでは拒否する事など出来ないと一瞬でそこまで考え直し、あえて口を閉じた。

「よし!ステラさんの最初の任務は、このギルドの掃除です!入団書類には僕が全部記入しておきますから、貴女はそちらをお願いしますね。大丈夫、掃除用の魔道具はそこの本が重なっているところの奥の棚に入っています」
「やっぱりですか」
「それじゃあ、僕は今回受けていた諸々の書類の提出準備があるので!」
「今回はやりますが、次からは貴方にも手伝ってもらいますから」

最後の言葉は聞いているのか聞いていないのか。今回使わないのか、机の上に元々置かれていた書類の山をバサリと床に落とし、机に置いた方の書類に何やら書き込みを始める。

「……今後も押し付けられそう」

そう先の事を憂いて、順序付けて片付けていこうと周囲を一望し、掃除の計画を立てた。

***

とりあえず、本来であればギルドメンバーが受注するための依頼が貼り付けられているであろうギルドボードのある階と居住スペースである寮は今日中に掃除しようと目標を立てる。

必要そうなもの――魔道具、本、書類などの捨ててはいけないものと明らかなゴミや食べカス、必要なのか判断できない系統の書類などなど分類していく。
きっと書類に関しては、イルハルトも憶えていないレベルのものが多いだろうが、きっと捨てた後に今後災厄が降りかかるのは自分自身だと確信した故に、きっちりと分け切った。
しかしながら、この掃除は私にとっては有用であった。なにせ、彼がこのギルドに所持していたのは非常に希少性が高い魔道具が多かったからだ。

片付けが進んでいけば、私が見たことのなかった魔道具も多数存在した。
例えば、空間移動ができる魔道具……テレポートと呼ばれるものだ。これは私が元居た時代でも、未だに高値で取引されていた故に私は持っていなかった。
あとは麻酔系、冷凍庫などに組み込まれる一般的な氷の魔道具、魔力を水に変換するという世にも珍しい魔道具などなど、一般的なものから超希少なものまで揃っている。売れば従者や掃除婦などいくらでも雇えるであろうものがその辺に落ちているなんて、恐ろしいギルドだと思った。

許可をもらったので、使える魔道具を片っ端から装備しながらも、イルハルトの優秀さを改めて考えた。
殆どが依頼主からもらったものと言っていたが、こんな希少な道具たち、並大抵の感謝の気持ちで渡すものではない。彼は今まで一人でもかなりの数、そして想像もつかない難易度の任務を熟してきたのだろう。
数年後には名の知れたギルドになっているのも納得だ。

そんな風に、こんな汚ギルドを作り上げるようなだらしのないイルハルトに関心していたせいだろうか、予想外のことが起きた。ギルドの天井に大穴が空いたのだ。
私が今居たのは、1階。丁度ギルドの中央の辺りなのだが、天井を突き破るようにして、破壊されたのだろう。

「っ!!!」
「はっ!相変わらず、犬小屋みてぇな場所だな!!」

振ってくる瓦礫を咄嗟にさっき掘り起こした氷の魔道具で分厚い膜を作る事で防ぎ切った私の目の前に現れたのは、どことなく見覚えのある姿の男だった。
プラチナブロンドの髪の毛を軽くオールバックにしているが、記憶よりも幼い顔立ち、低い背丈。服はかなり気崩しているが、どこかの魔法学校の学生服に見える。知らない姿、知らない服装、けれどどことなく見知ったその姿形。
その姿をとった男はポケットに手を入れて、威圧的な視線を向けながら、此方を見下ろしていた。

「アレン……」

容姿は似通っているものの記憶とかなり違う。けれど、この魔力……。何年も一緒にいたのだ。私が間違える筈がない。目の前の男の名前が口からポロリと出た。
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