18 / 28
17.
しおりを挟む
任務の報告……全員が亡者になっていたこと、そして遺品の受け渡しを私とイルハルトはすぐに済ませた。報告を受けたある者は涙を流し、またある者は悲しみを堪えた顔で礼を告げた――。
あの胸糞悪い任務が最後だったようで、私の使う名前が『ステラ』に決まってルンルンのイルハルトと対照的に私はこの先の展開に胸騒ぎを覚えていた。
そうこうしている内に、ついに、目的地である王都――イルハルト討伐ギルドの本部に到着した。正確にはイルハルト討伐ギルドは本部と呼ばれるそこのみで、支部などはないのだが、本人曰く数年以内に作るから名称的には合っているそうだ。
「うわ、埃っぽい」
「暫く帰ってませんでしたからね」
「いや、暫く帰ってなかっただけではないでしょう。書類も魔道具?も全部ぐちゃぐちゃに置いてあるじゃないですか」
思っていたよりも敷地が広く、5階建ての建物3棟という立派な建物。しかしながら中身は少し……いや、かなり汚かった。ソファであったものの上に大量に置かれた包装を解かれていない食べ物やよく分からない器具、他には、私も知っているレベルでかなり強力な魔道具ごちゃごちゃに混ぜられていた。
床も紙ゴミや資料、呪いの気配を感じる魔導書なども散りばめられている。イルハルトの雑な人間性を表している様だ、と失礼なことを頭の中で考えた。
「……掃除は少しだけ苦手なんです。あと、そこら辺にある魔道具はあなたの自由に使っていいですよ。殆ど依頼者からの貰い物ですし、少なくとも僕は全く使いません」
「はあ。魔道具は有り難く貰っておきます。でも、ちゃんと掃除しないと仕事も出来ないでしょう?」
「分かってはいるのですが、なんとも……そうだ!ステラさんは、キャンプ地もこまめに綺麗にしていましたし、掃除は絶対得意ですよね!」
「苦手、ではないですが」
これは押しつけられる雰囲気。咄嗟にそう察するが、どうせこの男の押しの強さでは拒否する事など出来ないと一瞬でそこまで考え直し、あえて口を閉じた。
「よし!ステラさんの最初の任務は、このギルドの掃除です!入団書類には僕が全部記入しておきますから、貴女はそちらをお願いしますね。大丈夫、掃除用の魔道具はそこの本が重なっているところの奥の棚に入っています」
「やっぱりですか」
「それじゃあ、僕は今回受けていた諸々の書類の提出準備があるので!」
「今回はやりますが、次からは貴方にも手伝ってもらいますから」
最後の言葉は聞いているのか聞いていないのか。今回使わないのか、机の上に元々置かれていた書類の山をバサリと床に落とし、机に置いた方の書類に何やら書き込みを始める。
「……今後も押し付けられそう」
そう先の事を憂いて、順序付けて片付けていこうと周囲を一望し、掃除の計画を立てた。
***
とりあえず、本来であればギルドメンバーが受注するための依頼が貼り付けられているであろうギルドボードのある階と居住スペースである寮は今日中に掃除しようと目標を立てる。
必要そうなもの――魔道具、本、書類などの捨ててはいけないものと明らかなゴミや食べカス、必要なのか判断できない系統の書類などなど分類していく。
きっと書類に関しては、イルハルトも憶えていないレベルのものが多いだろうが、きっと捨てた後に今後災厄が降りかかるのは自分自身だと確信した故に、きっちりと分け切った。
しかしながら、この掃除は私にとっては有用であった。なにせ、彼がこのギルドに所持していたのは非常に希少性が高い魔道具が多かったからだ。
片付けが進んでいけば、私が見たことのなかった魔道具も多数存在した。
例えば、空間移動ができる魔道具……テレポートと呼ばれるものだ。これは私が元居た時代でも、未だに高値で取引されていた故に私は持っていなかった。
あとは麻酔系、冷凍庫などに組み込まれる一般的な氷の魔道具、魔力を水に変換するという世にも珍しい魔道具などなど、一般的なものから超希少なものまで揃っている。売れば従者や掃除婦などいくらでも雇えるであろうものがその辺に落ちているなんて、恐ろしいギルドだと思った。
許可をもらったので、使える魔道具を片っ端から装備しながらも、イルハルトの優秀さを改めて考えた。
殆どが依頼主からもらったものと言っていたが、こんな希少な道具たち、並大抵の感謝の気持ちで渡すものではない。彼は今まで一人でもかなりの数、そして想像もつかない難易度の任務を熟してきたのだろう。
数年後には名の知れたギルドになっているのも納得だ。
そんな風に、こんな汚ギルドを作り上げるようなだらしのないイルハルトに関心していたせいだろうか、予想外のことが起きた。ギルドの天井に大穴が空いたのだ。
私が今居たのは、1階。丁度ギルドの中央の辺りなのだが、天井を突き破るようにして、破壊されたのだろう。
「っ!!!」
「はっ!相変わらず、犬小屋みてぇな場所だな!!」
振ってくる瓦礫を咄嗟にさっき掘り起こした氷の魔道具で分厚い膜を作る事で防ぎ切った私の目の前に現れたのは、どことなく見覚えのある姿の男だった。
プラチナブロンドの髪の毛を軽くオールバックにしているが、記憶よりも幼い顔立ち、低い背丈。服はかなり気崩しているが、どこかの魔法学校の学生服に見える。知らない姿、知らない服装、けれどどことなく見知ったその姿形。
その姿をとった男はポケットに手を入れて、威圧的な視線を向けながら、此方を見下ろしていた。
「アレン……」
容姿は似通っているものの記憶とかなり違う。けれど、この魔力……。何年も一緒にいたのだ。私が間違える筈がない。目の前の男の名前が口からポロリと出た。
あの胸糞悪い任務が最後だったようで、私の使う名前が『ステラ』に決まってルンルンのイルハルトと対照的に私はこの先の展開に胸騒ぎを覚えていた。
そうこうしている内に、ついに、目的地である王都――イルハルト討伐ギルドの本部に到着した。正確にはイルハルト討伐ギルドは本部と呼ばれるそこのみで、支部などはないのだが、本人曰く数年以内に作るから名称的には合っているそうだ。
「うわ、埃っぽい」
「暫く帰ってませんでしたからね」
「いや、暫く帰ってなかっただけではないでしょう。書類も魔道具?も全部ぐちゃぐちゃに置いてあるじゃないですか」
思っていたよりも敷地が広く、5階建ての建物3棟という立派な建物。しかしながら中身は少し……いや、かなり汚かった。ソファであったものの上に大量に置かれた包装を解かれていない食べ物やよく分からない器具、他には、私も知っているレベルでかなり強力な魔道具ごちゃごちゃに混ぜられていた。
床も紙ゴミや資料、呪いの気配を感じる魔導書なども散りばめられている。イルハルトの雑な人間性を表している様だ、と失礼なことを頭の中で考えた。
「……掃除は少しだけ苦手なんです。あと、そこら辺にある魔道具はあなたの自由に使っていいですよ。殆ど依頼者からの貰い物ですし、少なくとも僕は全く使いません」
「はあ。魔道具は有り難く貰っておきます。でも、ちゃんと掃除しないと仕事も出来ないでしょう?」
「分かってはいるのですが、なんとも……そうだ!ステラさんは、キャンプ地もこまめに綺麗にしていましたし、掃除は絶対得意ですよね!」
「苦手、ではないですが」
これは押しつけられる雰囲気。咄嗟にそう察するが、どうせこの男の押しの強さでは拒否する事など出来ないと一瞬でそこまで考え直し、あえて口を閉じた。
「よし!ステラさんの最初の任務は、このギルドの掃除です!入団書類には僕が全部記入しておきますから、貴女はそちらをお願いしますね。大丈夫、掃除用の魔道具はそこの本が重なっているところの奥の棚に入っています」
「やっぱりですか」
「それじゃあ、僕は今回受けていた諸々の書類の提出準備があるので!」
「今回はやりますが、次からは貴方にも手伝ってもらいますから」
最後の言葉は聞いているのか聞いていないのか。今回使わないのか、机の上に元々置かれていた書類の山をバサリと床に落とし、机に置いた方の書類に何やら書き込みを始める。
「……今後も押し付けられそう」
そう先の事を憂いて、順序付けて片付けていこうと周囲を一望し、掃除の計画を立てた。
***
とりあえず、本来であればギルドメンバーが受注するための依頼が貼り付けられているであろうギルドボードのある階と居住スペースである寮は今日中に掃除しようと目標を立てる。
必要そうなもの――魔道具、本、書類などの捨ててはいけないものと明らかなゴミや食べカス、必要なのか判断できない系統の書類などなど分類していく。
きっと書類に関しては、イルハルトも憶えていないレベルのものが多いだろうが、きっと捨てた後に今後災厄が降りかかるのは自分自身だと確信した故に、きっちりと分け切った。
しかしながら、この掃除は私にとっては有用であった。なにせ、彼がこのギルドに所持していたのは非常に希少性が高い魔道具が多かったからだ。
片付けが進んでいけば、私が見たことのなかった魔道具も多数存在した。
例えば、空間移動ができる魔道具……テレポートと呼ばれるものだ。これは私が元居た時代でも、未だに高値で取引されていた故に私は持っていなかった。
あとは麻酔系、冷凍庫などに組み込まれる一般的な氷の魔道具、魔力を水に変換するという世にも珍しい魔道具などなど、一般的なものから超希少なものまで揃っている。売れば従者や掃除婦などいくらでも雇えるであろうものがその辺に落ちているなんて、恐ろしいギルドだと思った。
許可をもらったので、使える魔道具を片っ端から装備しながらも、イルハルトの優秀さを改めて考えた。
殆どが依頼主からもらったものと言っていたが、こんな希少な道具たち、並大抵の感謝の気持ちで渡すものではない。彼は今まで一人でもかなりの数、そして想像もつかない難易度の任務を熟してきたのだろう。
数年後には名の知れたギルドになっているのも納得だ。
そんな風に、こんな汚ギルドを作り上げるようなだらしのないイルハルトに関心していたせいだろうか、予想外のことが起きた。ギルドの天井に大穴が空いたのだ。
私が今居たのは、1階。丁度ギルドの中央の辺りなのだが、天井を突き破るようにして、破壊されたのだろう。
「っ!!!」
「はっ!相変わらず、犬小屋みてぇな場所だな!!」
振ってくる瓦礫を咄嗟にさっき掘り起こした氷の魔道具で分厚い膜を作る事で防ぎ切った私の目の前に現れたのは、どことなく見覚えのある姿の男だった。
プラチナブロンドの髪の毛を軽くオールバックにしているが、記憶よりも幼い顔立ち、低い背丈。服はかなり気崩しているが、どこかの魔法学校の学生服に見える。知らない姿、知らない服装、けれどどことなく見知ったその姿形。
その姿をとった男はポケットに手を入れて、威圧的な視線を向けながら、此方を見下ろしていた。
「アレン……」
容姿は似通っているものの記憶とかなり違う。けれど、この魔力……。何年も一緒にいたのだ。私が間違える筈がない。目の前の男の名前が口からポロリと出た。
148
お気に入りに追加
1,643
あなたにおすすめの小説
愛することをやめたら、怒る必要もなくなりました。今さら私を愛する振りなんて、していただかなくても大丈夫です。
石河 翠
恋愛
貴族令嬢でありながら、家族に虐げられて育ったアイビー。彼女は社交界でも人気者の恋多き侯爵エリックに望まれて、彼の妻となった。
ひとなみに愛される生活を夢見たものの、彼が欲していたのは、夫に従順で、家の中を取り仕切る女主人のみ。先妻の子どもと仲良くできない彼女をエリックは疎み、なじる。
それでもエリックを愛し、結婚生活にしがみついていたアイビーだが、彼の子どもに言われたたった一言で心が折れてしまう。ところが、愛することを止めてしまえばその生活は以前よりも穏やかで心地いいものになっていて……。
愛することをやめた途端に愛を囁くようになったヒーローと、その愛をやんわりと拒むヒロインのお話。
この作品は他サイトにも投稿しております。
扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品(写真ID 179331)をお借りしております。
【完結】365日後の花言葉
Ringo
恋愛
許せなかった。
幼い頃からの婚約者でもあり、誰よりも大好きで愛していたあなただからこそ。
あなたの裏切りを知った翌朝、私の元に届いたのはゼラニウムの花束。
“ごめんなさい”
言い訳もせず、拒絶し続ける私の元に通い続けるあなたの愛情を、私はもう一度信じてもいいの?
※勢いよく本編完結しまして、番外編ではイチャイチャするふたりのその後をお届けします。
拝啓、許婚様。私は貴方のことが大嫌いでした
結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
【ある日僕の元に許婚から恋文ではなく、婚約破棄の手紙が届けられた】
僕には子供の頃から決められている許婚がいた。けれどお互い特に相手のことが好きと言うわけでもなく、月に2度の『デート』と言う名目の顔合わせをするだけの間柄だった。そんなある日僕の元に許婚から手紙が届いた。そこに記されていた内容は婚約破棄を告げる内容だった。あまりにも理不尽な内容に不服を抱いた僕は、逆に彼女を遣り込める計画を立てて許婚の元へ向かった――。
※他サイトでも投稿中
大好きなあなたが「嫌い」と言うから「私もです」と微笑みました。
桗梛葉 (たなは)
恋愛
私はずっと、貴方のことが好きなのです。
でも貴方は私を嫌っています。
だから、私は命を懸けて今日も嘘を吐くのです。
貴方が心置きなく私を嫌っていられるように。
貴方を「嫌い」なのだと告げるのです。

もう、愛はいりませんから
さくたろう
恋愛
ローザリア王国公爵令嬢ルクレティア・フォルセティに、ある日突然、未来の記憶が蘇った。
王子リーヴァイの愛する人を殺害しようとした罪により投獄され、兄に差し出された毒を煽り死んだ記憶だ。それが未来の出来事だと確信したルクレティアは、そんな未来に怯えるが、その記憶のおかしさに気がつき、謎を探ることにする。そうしてやがて、ある人のひたむきな愛を知ることになる。

女騎士と文官男子は婚約して10年の月日が流れた
宮野 楓
恋愛
幼馴染のエリック・リウェンとの婚約が家同士に整えられて早10年。 リサは25の誕生日である日に誕生日プレゼントも届かず、婚約に終わりを告げる事決める。 だがエリックはリサの事を……

二度目の恋
豆狸
恋愛
私の子がいなくなって半年と少し。
王都へ行っていた夫が、久しぶりに伯爵領へと戻ってきました。
満面の笑みを浮かべた彼の後ろには、ヴィエイラ侯爵令息の未亡人が赤毛の子どもを抱いて立っています。彼女は、彼がずっと想ってきた女性です。
※上記でわかる通り子どもに関するセンシティブな内容があります。

あなたの秘密を知ってしまったから私は消えます
おぜいくと
恋愛
「あなたの秘密を知ってしまったから私は消えます。さようなら」
そう書き残してエアリーはいなくなった……
緑豊かな高原地帯にあるデニスミール王国の王子ロイスは、来月にエアリーと結婚式を挙げる予定だった。エアリーは隣国アーランドの王女で、元々は政略結婚が目的で引き合わされたのだが、誰にでも平等に接するエアリーの姿勢や穢れを知らない澄んだ目に俺は惹かれた。俺はエアリーに素直な気持ちを伝え、王家に代々伝わる指輪を渡した。エアリーはとても喜んでくれた。俺は早めにエアリーを呼び寄せた。デニスミールでの暮らしに慣れてほしかったからだ。初めは人見知りを発揮していたエアリーだったが、次第に打ち解けていった。
そう思っていたのに。
エアリーは突然姿を消した。俺が渡した指輪を置いて……
※ストーリーは、ロイスとエアリーそれぞれの視点で交互に進みます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる