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街の端。街外に面した小高い監視塔を目指して移動する。私は身体能力の強化をして、イルハルトは身体強化系の魔法で移動速度を上げて付いてきているようだ。
「さて、移動中に僕の魔法について話しておきますね。実は特別なものを2つ持っているんです。ふふ、すごいでしょう?」
「あー、はいはい。すごいです。それで、どんな魔法なんですか」
「重力操作と猛毒生成。基本的に、重力操作で相手を動けなくしている最中にじわじわと生成した毒を染み込ませていきます」
ニコリと笑ったイルハルトのその笑顔に若干寒気を感じた。普通に考えて、そんな表情で楽しそうに言うような闘い方ではない。だから自然と感想が口から漏れてしまった。
「うっわ、嫌な闘い方ですね」
「ふふ、そんな褒めないでください。照れてしまいます」
「褒めてないですけど」
「それで君の能力は?」
イルハルトが問いかけ、私の方をキラキラとした瞳で見つめてくる。そんな彼にげっそりとしながら私は自身の能力を明かす。
「私の能力は――」
イルハルトはその能力の内容を聞いて、息を呑んだ。
そしてその直後にうっとりとした溶けるような瞳を私に向けて言った。
「やはり、欲しいですね」
私は完全に彼のターゲットになってしまったらしい。正直サラマンダーよりも厄介かもしれないと感じた。
***
私達二人が目的地に到着した時には、サラマンダーらは既に街の門を今にも破壊せんと攻撃を仕掛けていた。
「さて、最大火力まで高めてくださいね。期待していますよ」
「誰に言っているのですか?今までにないくらいに強い魔法を打たせてあげますよ……もう、元のヘボい魔法じゃ物足りなくなってしまうかも」
「ふふ、それは楽しみです。では、いきますよ」
イルハルトの魔力を読み取り、私自身の魔力を混ぜ合わせる。そうして魔術が発動する――というところで、私の今できる最大の出力で彼の魔法を強化した。
そうして魔法が発動した瞬間。イルハルトが指を指し向けた空間が、目に見える程に歪む。そして飛翔していた筈のサラマンダーがチリ紙のようにくしゃりと小さくなり、拳一つ分程の大きさに丸まった。直後に血しぶきが雨のように大地に降り注ぐ。
段々と歪みは大きくなり、そのサラマンダーの近くにいた別の個体が、悶絶の籠った悲鳴混じりの鳴き声を上げる。イルハルトが魔法を発動させた空間を中心に、サラマンダー達の肉体が歪み、それらを全て撃ち落としていった。
轟音を立て、目にも止まらぬ速さで空を飛んでいたサラマンダー達が小さくなって地に落下する。
街の住人たちは何が起きたのかという戸惑いによってざわついていたが、イルハルトと私はただただ無機質な瞳で魔力を込め続け、竜が落ちていくその様を見つめていた。
近くにいたサラマンダー達からは骨が砕け、肉が飛び散る、独特で嫌な音が聞こえる。
「……本当に、すごい火力ですね」
「あまり心地良い光景ではありませんが」
結局は人間が彼らの卵を盗んだせいでこんなことになってしまったのだから。
わざわざサラマンダー達が人間に危害を加えたわけではない。むしろ逆だ。誰でも自分のものを盗まれれば――特にそれが大切なものであれば、怒り、取り戻そうとするだろう。あのサラマンダー達はそれをしただけなのだ。
「でも殺さなければ、アレは止まらなかった。彼らの本能だから」
「分かっています。あのままではサラマンダー達が止まることなく、この街は破壊しつくされていたであろうことも」
手が震えた。罪のない命を強い力で蹂躙した後に残るのは、いつでも後悔だった。
「君はあまり自分の能力が好きではないのですね」
「……ええ。便利だとは思いますが」
「でも僕は君のことをますます気に入りました!!やはり、欲しいです」
「そういえば、その『欲しい』ってどういう意味で言ってるんですか?正直鳥肌が立ちますし、なんか狙われているみたいで気持ちが悪いのですが」
急に変化した話題に少し呆れるが、彼も空元気であることを察していた私はその空元気に付き合ってやることにした。少ししか共に過ごしていないのになんとなく感情を読み取れるようになったのは、イルハルト自身も私に心を許し始めているということなのだろう。
「ああ、言っていませんでしたか?僕、ギルドマスターなんです。最近僕が創設したギルド――イルハルト討伐ギルド。そこに是非とも君に入って欲しいのです」
「イルハルト、討伐ギルド……イルハルト=カーゼンマイル?」
「おや、僕の名前をご存知だったのですか!いやー、もしかしてうちのギルドの存在を既に知っていましたか?流石、実力者の耳には入ってるんですね!え?入団したいって!?勿論大歓迎です!」
見覚えのあり過ぎる名前に目を見開くが、それと同時に少し笑ってしまった。なんて因果なのだろう。彼は、私がここに来る切っ掛けになったあの看板の広告主……討伐ギルドの創設者のイルハルト=カーゼンマイル。なんだかバラバラになっていたパズルのピースが少しだけ繋がった気がした。
「私は入団したいなんて一言も言っていません」
ニコリ。今日一番の笑顔でそう言い放つ。
しかし、この男との妙な縁はきっと既に結ばれてしまったのだろう。そう確かに感じながら。
「さて、移動中に僕の魔法について話しておきますね。実は特別なものを2つ持っているんです。ふふ、すごいでしょう?」
「あー、はいはい。すごいです。それで、どんな魔法なんですか」
「重力操作と猛毒生成。基本的に、重力操作で相手を動けなくしている最中にじわじわと生成した毒を染み込ませていきます」
ニコリと笑ったイルハルトのその笑顔に若干寒気を感じた。普通に考えて、そんな表情で楽しそうに言うような闘い方ではない。だから自然と感想が口から漏れてしまった。
「うっわ、嫌な闘い方ですね」
「ふふ、そんな褒めないでください。照れてしまいます」
「褒めてないですけど」
「それで君の能力は?」
イルハルトが問いかけ、私の方をキラキラとした瞳で見つめてくる。そんな彼にげっそりとしながら私は自身の能力を明かす。
「私の能力は――」
イルハルトはその能力の内容を聞いて、息を呑んだ。
そしてその直後にうっとりとした溶けるような瞳を私に向けて言った。
「やはり、欲しいですね」
私は完全に彼のターゲットになってしまったらしい。正直サラマンダーよりも厄介かもしれないと感じた。
***
私達二人が目的地に到着した時には、サラマンダーらは既に街の門を今にも破壊せんと攻撃を仕掛けていた。
「さて、最大火力まで高めてくださいね。期待していますよ」
「誰に言っているのですか?今までにないくらいに強い魔法を打たせてあげますよ……もう、元のヘボい魔法じゃ物足りなくなってしまうかも」
「ふふ、それは楽しみです。では、いきますよ」
イルハルトの魔力を読み取り、私自身の魔力を混ぜ合わせる。そうして魔術が発動する――というところで、私の今できる最大の出力で彼の魔法を強化した。
そうして魔法が発動した瞬間。イルハルトが指を指し向けた空間が、目に見える程に歪む。そして飛翔していた筈のサラマンダーがチリ紙のようにくしゃりと小さくなり、拳一つ分程の大きさに丸まった。直後に血しぶきが雨のように大地に降り注ぐ。
段々と歪みは大きくなり、そのサラマンダーの近くにいた別の個体が、悶絶の籠った悲鳴混じりの鳴き声を上げる。イルハルトが魔法を発動させた空間を中心に、サラマンダー達の肉体が歪み、それらを全て撃ち落としていった。
轟音を立て、目にも止まらぬ速さで空を飛んでいたサラマンダー達が小さくなって地に落下する。
街の住人たちは何が起きたのかという戸惑いによってざわついていたが、イルハルトと私はただただ無機質な瞳で魔力を込め続け、竜が落ちていくその様を見つめていた。
近くにいたサラマンダー達からは骨が砕け、肉が飛び散る、独特で嫌な音が聞こえる。
「……本当に、すごい火力ですね」
「あまり心地良い光景ではありませんが」
結局は人間が彼らの卵を盗んだせいでこんなことになってしまったのだから。
わざわざサラマンダー達が人間に危害を加えたわけではない。むしろ逆だ。誰でも自分のものを盗まれれば――特にそれが大切なものであれば、怒り、取り戻そうとするだろう。あのサラマンダー達はそれをしただけなのだ。
「でも殺さなければ、アレは止まらなかった。彼らの本能だから」
「分かっています。あのままではサラマンダー達が止まることなく、この街は破壊しつくされていたであろうことも」
手が震えた。罪のない命を強い力で蹂躙した後に残るのは、いつでも後悔だった。
「君はあまり自分の能力が好きではないのですね」
「……ええ。便利だとは思いますが」
「でも僕は君のことをますます気に入りました!!やはり、欲しいです」
「そういえば、その『欲しい』ってどういう意味で言ってるんですか?正直鳥肌が立ちますし、なんか狙われているみたいで気持ちが悪いのですが」
急に変化した話題に少し呆れるが、彼も空元気であることを察していた私はその空元気に付き合ってやることにした。少ししか共に過ごしていないのになんとなく感情を読み取れるようになったのは、イルハルト自身も私に心を許し始めているということなのだろう。
「ああ、言っていませんでしたか?僕、ギルドマスターなんです。最近僕が創設したギルド――イルハルト討伐ギルド。そこに是非とも君に入って欲しいのです」
「イルハルト、討伐ギルド……イルハルト=カーゼンマイル?」
「おや、僕の名前をご存知だったのですか!いやー、もしかしてうちのギルドの存在を既に知っていましたか?流石、実力者の耳には入ってるんですね!え?入団したいって!?勿論大歓迎です!」
見覚えのあり過ぎる名前に目を見開くが、それと同時に少し笑ってしまった。なんて因果なのだろう。彼は、私がここに来る切っ掛けになったあの看板の広告主……討伐ギルドの創設者のイルハルト=カーゼンマイル。なんだかバラバラになっていたパズルのピースが少しだけ繋がった気がした。
「私は入団したいなんて一言も言っていません」
ニコリ。今日一番の笑顔でそう言い放つ。
しかし、この男との妙な縁はきっと既に結ばれてしまったのだろう。そう確かに感じながら。
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