貴方の『好きな人』の代わりをするのはもうやめます!

皇 翼

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私は昔、現在使えているこの能力が判明する前は『落伍者』や『落ちこぼれ』、そして『不幸の塊』と呼ばれる存在だった。

私は何も最初からこの『強化の力』を持っていたわけではない。
むしろ私はオールタント伯爵家という魔法で有名な名門一族の産まれではあったが、幼少期の私は何も持っていなかった。
魔力は家の誰よりもあるのに、いつまでたっても魔法の一つも使えないだけでなく、本来この血を持つ者の一部が受け継ぎ、扱えるはずの相伝魔法も持っていない。
何もできない『無能』。ゴミのような存在としてずっと扱われていたのだ。

幼い身でも『使えないモノ』と罵られながら家の家事や雑用をやらされるのは当然。住む場所も本邸から離れたギリギリ雨風をしのげるだけのボロ屋。時々、苛ついた実の兄や両親、使用人たちの感情の捌け口として暴力も振るわれていた。
いつでも擦り傷や皸、青あざが絶えない子供時代だった。

とある日のことだ。
いつも通り朝早くから起きて夜中まで家事をした後。自身に配給された少ない量の食糧で、いつも通りの慎ましやかな食事を作ろうとしていた時にそれは起きた。
突如として、外に繋がるボロ屋の扉が開いたかと認識したと同時に頭を地面に強かに打ち付ける。
私は気付いた瞬間には押し倒されていた。それも実の兄に。首を絞められる感覚と共に感じた強い酒気。兄は酔っ払っていた。案の定、今日も貴族の会議や舞踏会やらの何かでこの家が馬鹿にされるなりなんなりしたのだろう。このオールタント伯爵家はここ3代ほどずっと魔法を使えるのに、少ない量の魔力しか持たないという人間が当主になるという事態が続いていた。

そう、所持している魔力量が少ない。それに対して、私は何一つ魔法を使うことが出来ないのに、持っている魔力量は誰よりも多い。それもやっかまれる原因となっていたのだろうと今なら分かる。

苦しい、苦しい、息が出来ない、やめて、誰か助けて――。
そんな考えが浮かぶが、今までも一度も誰一人として助けてくれなかったのだ。こんな時だけ誰かが助けてくれるなんてことはないだろう。

「お前が!お前さえ、産まれていなければ――!!お前の魔力は本来俺のものだったんだ!!それさえあれば、俺は魔法の勉強ももっと頑張ったんだ!!そしてあの戦役でも活躍できたはずなんだ!!それで、それで!パパやママに罵られた挙句、周りに馬鹿にされることもなかったんだ!!俺は魔力量が少ないから、何もできなかっただけなんだ。本当の俺は、こんなんじゃない。お前が全部持っていたんだ、俺から全て奪って!!ふざけるな!!!!この不幸の塊めが!!」

兄が叫び散らかす。酔っ払ったその男の主張は、とても自己中心的で、身勝手で、醜いものだった。
主張と同時に私の服を破っていたようで、兄の手が私の未発達の胸部を掴むように触れる。

「……へぇ、割と育ってたんだな。これから滅茶苦茶にしてやるよ。お前の女としての尊厳も、その、いつでも睨んでくる小生意気な瞳も、何もかもを穢してやる」

そして意識が落ちそうになった時、その言葉と共に太腿の辺りに固い棒状のモノが当たるような感覚があった。瞬時に意識が覚醒し、性的な危機を感じる。
兄は、実の妹である私の首を絞めながら、興奮し、発情していた。

頭に血が上る。

気持ちが悪い、気持ちが悪い、気持ちが悪い!!!

今まで罵られ、殴られても、日単位で食料を与えてもらえなくても、どんな酷い扱いを受けても、一言も文句を言ってこなかった。ずっと無能な自分が悪いと思い込んでいたからだ。
しかし、実際に聞いてみた兄の主張はどうだろう。自身の魔力量が少ないのは、私のせい?彼は私よりも早く産まれていたというのに、どうやって私が彼から魔力量を奪ったというのだろう。

それに魔力量が少ないから、努力を出来なかった?努力をしなかったから、馬鹿にされる程度の魔法しか使えないのだ。私はどれだけ痛い思いをして、稽古をして、努力しても、魔法の一つすら出力することが出来ず、使うことも出来ないというのに、彼は魔法を使うことが出来る。使えるのに、努力をしなかったのだ。当主になるからと、私よりも遙かに甘やかされた指導しかされていない。
そんな何もかもを私のせいにするクズは、私自身を踏みにじり、犯そうとしている。
そんな酷く醜く、汚い彼に、心の底から怒りがこみあげて来た。

殺意のままに、丁度料理を作るために手に持っていた魔道具……火をつける魔道具に怒りと共に魔力をありったけ込めて起動させる――と、起動時にいつもと使う時と違う感覚があった。
目の前で下半身を寛げ、陰茎を晒す兄が炎に包まれる。

「え?――ああ゛あ゛ああ、が、いだ、な、ん゛」

痛がって、火を消そうという本能で転げまわる兄を蹴り飛ばし、笑みを浮かべた。彼が暴れまわったせいか、火は消えているが、きっと傷は残るだろう。死んでいない事を少し残念に思いながらも、その後は屋敷の周辺を燃やし尽くした。まるで、今までの理不尽に対する怒りをぶつけるかのように――。
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