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私が希少な鉱石を見つけて掘り出す度に感嘆の声をあげるイルハルトだったが、段々と私の素性に疑問を深め始めたのだろう彼は、容赦なく質問攻めするようになってきていた。
どうやって見つけているのか、そんな鉱物や探索に関する深い知識はどこで身に着けたのか、年齢はいくつなのか、何故こんな田舎にいるのか、本当はどこの地方の出身なのか、などなど。
その全てにテキトーにお茶を濁して答えたり、知らない振りをすることで、ギリギリのところで逃れていたが、まずい状態になっているのは否定のしようがなかった。
そもそも私がこれくらい誰でも出来るだろうと思っていることは『誰でも出来る事』ではないのだと彼に文句を言ったら、言い返されてしまった。
曰く。私がずっとやっていたこと。それは一定で魔道具に全く同じ量の魔力を流し続けることと聴力を限界まで研ぎ澄まし、物凄く微細な音を聞き分ける能力。並の人間が簡単に出来るようなことではない。
例えば前者にしても、一定の魔力を保つ集中力と何があっても流す魔力が乱れない冷静さと凪のような心、そして魔力の繊細な操作とそれを続けられるだけの魔力量がなければ、話にならない。
後者にしても、元々与えられたフィジカルもあるだろうが、それに加えて音を聞き分け続ける集中力も必要なのだ。
……という風にイルハルトが力説していた。
『君の『誰でも出来るだろう』という認識が、当たり前の世界であれば、こんな石一つでそんな高値はつかない』だそうだ。
しかし、イルハルトが疑問を私にぶつけ続けるという嫌な状況をぶち壊すものが現れる。
「……いますね、しかも帰り道に」
「そうですね」
最悪なことに目の前に現れたのは、足だけでも2メートルはあるであろう巨大蜘蛛の身体を持ち、本来それの頭のある部分から女性の上半身が生えている化け物。A級モンスターに分類される『アラクネ―』と呼ばれる存在だった。
A級モンスター。最低でも3年以上の魔物狩りの修練を積んでいるという条件の上で、試験を受験してやっと討伐参加の許可を貰えるモンスターである。脅威度としては、村や街の1つが数日で滅ぼされるレベル。
帰り道にはその化け物の張った壁面全てを覆う程の大きさの巣が張られている。出口はここ以外ないというのに……この魔物はそういう手段で何人もの人間や動物、魔物を喰らってきたのかも知れない。
その魔物は腹を空かせているのか、女の口からチキチキと気持ちの悪い噛音をたてながらこちらを見つめている。人間のものとは程遠い口の形が不気味だった。そんな生き物が8本の足でユラユラと段々近付いてきている。
この姿はきっと節足動物、それも蜘蛛が嫌いな人が見れば、気絶するレベルだろう。
「さて、君は洞窟の奥に行っていてください。弱い……それも非戦闘員を庇い続けて戦える程、この魔物は生易しいモノではない。それにそもそも僕の魔法って護ることに適してませんしね」
「それでは、お任せします」
今までも思ってはいたが、存外このイルハルトという男は私に対する対応が甘い。非戦闘員だと話した私の仕事について来たというのは困った話ではあるが、基本的には私を魔物から庇い、危険なものを退ける方策をとってくれる。
少々上から目線であることは気になるが、ずっと付いてきていたのも戦闘担当の人間がいないのに森の奥にずんずん進んでいった私を心配しての行動であったとも解釈することができた……甘い考えかもしれないが。
とにかく、私から目的のものを引き出したいという下心があるからと言えど、護ろうとしてくれていることには変わりないため、正体がバレないためにも大人しくその言葉に従い、イルハルトを置いて行った――のだが。
「神様は見てるってやつでしょうか」
私の目の前には、先程のアラクネーと同等級に分類されるA級モンスターが血走った眼でこちらを見ていた。
どうやって見つけているのか、そんな鉱物や探索に関する深い知識はどこで身に着けたのか、年齢はいくつなのか、何故こんな田舎にいるのか、本当はどこの地方の出身なのか、などなど。
その全てにテキトーにお茶を濁して答えたり、知らない振りをすることで、ギリギリのところで逃れていたが、まずい状態になっているのは否定のしようがなかった。
そもそも私がこれくらい誰でも出来るだろうと思っていることは『誰でも出来る事』ではないのだと彼に文句を言ったら、言い返されてしまった。
曰く。私がずっとやっていたこと。それは一定で魔道具に全く同じ量の魔力を流し続けることと聴力を限界まで研ぎ澄まし、物凄く微細な音を聞き分ける能力。並の人間が簡単に出来るようなことではない。
例えば前者にしても、一定の魔力を保つ集中力と何があっても流す魔力が乱れない冷静さと凪のような心、そして魔力の繊細な操作とそれを続けられるだけの魔力量がなければ、話にならない。
後者にしても、元々与えられたフィジカルもあるだろうが、それに加えて音を聞き分け続ける集中力も必要なのだ。
……という風にイルハルトが力説していた。
『君の『誰でも出来るだろう』という認識が、当たり前の世界であれば、こんな石一つでそんな高値はつかない』だそうだ。
しかし、イルハルトが疑問を私にぶつけ続けるという嫌な状況をぶち壊すものが現れる。
「……いますね、しかも帰り道に」
「そうですね」
最悪なことに目の前に現れたのは、足だけでも2メートルはあるであろう巨大蜘蛛の身体を持ち、本来それの頭のある部分から女性の上半身が生えている化け物。A級モンスターに分類される『アラクネ―』と呼ばれる存在だった。
A級モンスター。最低でも3年以上の魔物狩りの修練を積んでいるという条件の上で、試験を受験してやっと討伐参加の許可を貰えるモンスターである。脅威度としては、村や街の1つが数日で滅ぼされるレベル。
帰り道にはその化け物の張った壁面全てを覆う程の大きさの巣が張られている。出口はここ以外ないというのに……この魔物はそういう手段で何人もの人間や動物、魔物を喰らってきたのかも知れない。
その魔物は腹を空かせているのか、女の口からチキチキと気持ちの悪い噛音をたてながらこちらを見つめている。人間のものとは程遠い口の形が不気味だった。そんな生き物が8本の足でユラユラと段々近付いてきている。
この姿はきっと節足動物、それも蜘蛛が嫌いな人が見れば、気絶するレベルだろう。
「さて、君は洞窟の奥に行っていてください。弱い……それも非戦闘員を庇い続けて戦える程、この魔物は生易しいモノではない。それにそもそも僕の魔法って護ることに適してませんしね」
「それでは、お任せします」
今までも思ってはいたが、存外このイルハルトという男は私に対する対応が甘い。非戦闘員だと話した私の仕事について来たというのは困った話ではあるが、基本的には私を魔物から庇い、危険なものを退ける方策をとってくれる。
少々上から目線であることは気になるが、ずっと付いてきていたのも戦闘担当の人間がいないのに森の奥にずんずん進んでいった私を心配しての行動であったとも解釈することができた……甘い考えかもしれないが。
とにかく、私から目的のものを引き出したいという下心があるからと言えど、護ろうとしてくれていることには変わりないため、正体がバレないためにも大人しくその言葉に従い、イルハルトを置いて行った――のだが。
「神様は見てるってやつでしょうか」
私の目の前には、先程のアラクネーと同等級に分類されるA級モンスターが血走った眼でこちらを見ていた。
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