8 / 28
7.
しおりを挟む
私が希少な鉱石を見つけて掘り出す度に感嘆の声をあげるイルハルトだったが、段々と私の素性に疑問を深め始めたのだろう彼は、容赦なく質問攻めするようになってきていた。
どうやって見つけているのか、そんな鉱物や探索に関する深い知識はどこで身に着けたのか、年齢はいくつなのか、何故こんな田舎にいるのか、本当はどこの地方の出身なのか、などなど。
その全てにテキトーにお茶を濁して答えたり、知らない振りをすることで、ギリギリのところで逃れていたが、まずい状態になっているのは否定のしようがなかった。
そもそも私がこれくらい誰でも出来るだろうと思っていることは『誰でも出来る事』ではないのだと彼に文句を言ったら、言い返されてしまった。
曰く。私がずっとやっていたこと。それは一定で魔道具に全く同じ量の魔力を流し続けることと聴力を限界まで研ぎ澄まし、物凄く微細な音を聞き分ける能力。並の人間が簡単に出来るようなことではない。
例えば前者にしても、一定の魔力を保つ集中力と何があっても流す魔力が乱れない冷静さと凪のような心、そして魔力の繊細な操作とそれを続けられるだけの魔力量がなければ、話にならない。
後者にしても、元々与えられたフィジカルもあるだろうが、それに加えて音を聞き分け続ける集中力も必要なのだ。
……という風にイルハルトが力説していた。
『君の『誰でも出来るだろう』という認識が、当たり前の世界であれば、こんな石一つでそんな高値はつかない』だそうだ。
しかし、イルハルトが疑問を私にぶつけ続けるという嫌な状況をぶち壊すものが現れる。
「……いますね、しかも帰り道に」
「そうですね」
最悪なことに目の前に現れたのは、足だけでも2メートルはあるであろう巨大蜘蛛の身体を持ち、本来それの頭のある部分から女性の上半身が生えている化け物。A級モンスターに分類される『アラクネ―』と呼ばれる存在だった。
A級モンスター。最低でも3年以上の魔物狩りの修練を積んでいるという条件の上で、試験を受験してやっと討伐参加の許可を貰えるモンスターである。脅威度としては、村や街の1つが数日で滅ぼされるレベル。
帰り道にはその化け物の張った壁面全てを覆う程の大きさの巣が張られている。出口はここ以外ないというのに……この魔物はそういう手段で何人もの人間や動物、魔物を喰らってきたのかも知れない。
その魔物は腹を空かせているのか、女の口からチキチキと気持ちの悪い噛音をたてながらこちらを見つめている。人間のものとは程遠い口の形が不気味だった。そんな生き物が8本の足でユラユラと段々近付いてきている。
この姿はきっと節足動物、それも蜘蛛が嫌いな人が見れば、気絶するレベルだろう。
「さて、君は洞窟の奥に行っていてください。弱い……それも非戦闘員を庇い続けて戦える程、この魔物は生易しいモノではない。それにそもそも僕の魔法って護ることに適してませんしね」
「それでは、お任せします」
今までも思ってはいたが、存外このイルハルトという男は私に対する対応が甘い。非戦闘員だと話した私の仕事について来たというのは困った話ではあるが、基本的には私を魔物から庇い、危険なものを退ける方策をとってくれる。
少々上から目線であることは気になるが、ずっと付いてきていたのも戦闘担当の人間がいないのに森の奥にずんずん進んでいった私を心配しての行動であったとも解釈することができた……甘い考えかもしれないが。
とにかく、私から目的のものを引き出したいという下心があるからと言えど、護ろうとしてくれていることには変わりないため、正体がバレないためにも大人しくその言葉に従い、イルハルトを置いて行った――のだが。
「神様は見てるってやつでしょうか」
私の目の前には、先程のアラクネーと同等級に分類されるA級モンスターが血走った眼でこちらを見ていた。
どうやって見つけているのか、そんな鉱物や探索に関する深い知識はどこで身に着けたのか、年齢はいくつなのか、何故こんな田舎にいるのか、本当はどこの地方の出身なのか、などなど。
その全てにテキトーにお茶を濁して答えたり、知らない振りをすることで、ギリギリのところで逃れていたが、まずい状態になっているのは否定のしようがなかった。
そもそも私がこれくらい誰でも出来るだろうと思っていることは『誰でも出来る事』ではないのだと彼に文句を言ったら、言い返されてしまった。
曰く。私がずっとやっていたこと。それは一定で魔道具に全く同じ量の魔力を流し続けることと聴力を限界まで研ぎ澄まし、物凄く微細な音を聞き分ける能力。並の人間が簡単に出来るようなことではない。
例えば前者にしても、一定の魔力を保つ集中力と何があっても流す魔力が乱れない冷静さと凪のような心、そして魔力の繊細な操作とそれを続けられるだけの魔力量がなければ、話にならない。
後者にしても、元々与えられたフィジカルもあるだろうが、それに加えて音を聞き分け続ける集中力も必要なのだ。
……という風にイルハルトが力説していた。
『君の『誰でも出来るだろう』という認識が、当たり前の世界であれば、こんな石一つでそんな高値はつかない』だそうだ。
しかし、イルハルトが疑問を私にぶつけ続けるという嫌な状況をぶち壊すものが現れる。
「……いますね、しかも帰り道に」
「そうですね」
最悪なことに目の前に現れたのは、足だけでも2メートルはあるであろう巨大蜘蛛の身体を持ち、本来それの頭のある部分から女性の上半身が生えている化け物。A級モンスターに分類される『アラクネ―』と呼ばれる存在だった。
A級モンスター。最低でも3年以上の魔物狩りの修練を積んでいるという条件の上で、試験を受験してやっと討伐参加の許可を貰えるモンスターである。脅威度としては、村や街の1つが数日で滅ぼされるレベル。
帰り道にはその化け物の張った壁面全てを覆う程の大きさの巣が張られている。出口はここ以外ないというのに……この魔物はそういう手段で何人もの人間や動物、魔物を喰らってきたのかも知れない。
その魔物は腹を空かせているのか、女の口からチキチキと気持ちの悪い噛音をたてながらこちらを見つめている。人間のものとは程遠い口の形が不気味だった。そんな生き物が8本の足でユラユラと段々近付いてきている。
この姿はきっと節足動物、それも蜘蛛が嫌いな人が見れば、気絶するレベルだろう。
「さて、君は洞窟の奥に行っていてください。弱い……それも非戦闘員を庇い続けて戦える程、この魔物は生易しいモノではない。それにそもそも僕の魔法って護ることに適してませんしね」
「それでは、お任せします」
今までも思ってはいたが、存外このイルハルトという男は私に対する対応が甘い。非戦闘員だと話した私の仕事について来たというのは困った話ではあるが、基本的には私を魔物から庇い、危険なものを退ける方策をとってくれる。
少々上から目線であることは気になるが、ずっと付いてきていたのも戦闘担当の人間がいないのに森の奥にずんずん進んでいった私を心配しての行動であったとも解釈することができた……甘い考えかもしれないが。
とにかく、私から目的のものを引き出したいという下心があるからと言えど、護ろうとしてくれていることには変わりないため、正体がバレないためにも大人しくその言葉に従い、イルハルトを置いて行った――のだが。
「神様は見てるってやつでしょうか」
私の目の前には、先程のアラクネーと同等級に分類されるA級モンスターが血走った眼でこちらを見ていた。
116
お気に入りに追加
1,637
あなたにおすすめの小説
婚約者を想うのをやめました
かぐや
恋愛
女性を侍らしてばかりの婚約者に私は宣言した。
「もうあなたを愛するのをやめますので、どうぞご自由に」
最初は婚約者も頷くが、彼女が自分の側にいることがなくなってから初めて色々なことに気づき始める。
*書籍化しました。応援してくださった読者様、ありがとうございます。

【完結】貴方をお慕いしておりました。婚約を解消してください。
暮田呉子
恋愛
公爵家の次男であるエルドは、伯爵家の次女リアーナと婚約していた。
リアーナは何かとエルドを苛立たせ、ある日「二度と顔を見せるな」と言ってしまった。
その翌日、二人の婚約は解消されることになった。
急な展開に困惑したエルドはリアーナに会おうとするが……。
【完結】忘れてください
仲 奈華 (nakanaka)
恋愛
愛していた。
貴方はそうでないと知りながら、私は貴方だけを愛していた。
夫の恋人に子供ができたと教えられても、私は貴方との未来を信じていたのに。
貴方から離婚届を渡されて、私の心は粉々に砕け散った。
もういいの。
私は貴方を解放する覚悟を決めた。
貴方が気づいていない小さな鼓動を守りながら、ここを離れます。
私の事は忘れてください。
※6月26日初回完結
7月12日2回目完結しました。
お読みいただきありがとうございます。

君に愛は囁けない
しーしび
恋愛
姉が亡くなり、かつて姉の婚約者だったジルベールと婚約したセシル。
彼は社交界で引く手数多の美しい青年で、令嬢たちはこぞって彼に夢中。
愛らしいと噂の公爵令嬢だって彼への好意を隠そうとはしない。
けれど、彼はセシルに愛を囁く事はない。
セシルも彼に愛を囁けない。
だから、セシルは決めた。
*****
※ゆるゆる設定
※誤字脱字を何故か見つけられない病なので、ご容赦ください。努力はします。
※日本語の勘違いもよくあります。方言もよく分かっていない田舎っぺです。
大好きなあなたが「嫌い」と言うから「私もです」と微笑みました。
桗梛葉 (たなは)
恋愛
私はずっと、貴方のことが好きなのです。
でも貴方は私を嫌っています。
だから、私は命を懸けて今日も嘘を吐くのです。
貴方が心置きなく私を嫌っていられるように。
貴方を「嫌い」なのだと告げるのです。
【掌編集】今までお世話になりました旦那様もお元気で〜妻の残していった離婚受理証明書を握りしめイケメン公爵は涙と鼻水を垂らす
まほりろ
恋愛
新婚初夜に「君を愛してないし、これからも愛するつもりはない」と言ってしまった公爵。
彼は今まで、天才、美男子、完璧な貴公子、ポーカーフェイスが似合う氷の公爵などと言われもてはやされてきた。
しかし新婚初夜に暴言を吐いた女性が、初恋の人で、命の恩人で、伝説の聖女で、妖精の愛し子であったことを知り意気消沈している。
彼の手には元妻が置いていった「離婚受理証明書」が握られていた……。
他掌編七作品収録。
※無断転載を禁止します。
※朗読動画の無断配信も禁止します
「Copyright(C)2023-まほりろ/若松咲良」
某小説サイトに投稿した掌編八作品をこちらに転載しました。
【収録作品】
①「今までお世話になりました旦那様もお元気で〜ポーカーフェイスの似合う天才貴公子と称された公爵は、妻の残していった離婚受理証明書を握りしめ涙と鼻水を垂らす」
②「何をされてもやり返せない臆病な公爵令嬢は、王太子に竜の生贄にされ壊れる。能ある鷹と天才美少女は爪を隠す」
③「運命的な出会いからの即日プロポーズ。婚約破棄された天才錬金術師は新しい恋に生きる!」
④「4月1日10時30分喫茶店ルナ、婚約者は遅れてやってきた〜新聞は星座占いを見る為だけにある訳ではない」
⑤「『お姉様はズルい!』が口癖の双子の弟が現世の婚約者! 前世では弟を立てる事を親に強要され馬鹿の振りをしていましたが、現世では奴とは他人なので天才として実力を充分に発揮したいと思います!」
⑥「婚約破棄をしたいと彼は言った。契約書とおふだにご用心」
⑦「伯爵家に半世紀仕えた老メイドは伯爵親子の罠にハマり無一文で追放される。老メイドを助けたのはポーカーフェイスの美女でした」
⑧「お客様の中に褒め褒めの感想を書ける方はいらっしゃいませんか? 天才美文感想書きVS普通の少女がえんぴつで書いた感想!」
(完結)貴方から解放してくださいー私はもう疲れました(全4話)
青空一夏
恋愛
私はローワン伯爵家の一人娘クララ。私には大好きな男性がいるの。それはイーサン・ドミニク。侯爵家の子息である彼と私は相思相愛だと信じていた。
だって、私のお誕生日には私の瞳色のジャボ(今のネクタイのようなもの)をして参加してくれて、別れ際にキスまでしてくれたから。
けれど、翌日「僕の手紙を君の親友ダーシィに渡してくれないか?」と、唐突に言われた。意味がわからない。愛されていると信じていたからだ。
「なぜですか?」
「うん、実のところ私が本当に愛しているのはダーシィなんだ」
イーサン様は私の心をかき乱す。なぜ、私はこれほどにふりまわすの?
これは大好きな男性に心をかき乱された女性が悩んで・・・・・・結果、幸せになったお話しです。(元さやではない)
因果応報的ざまぁ。主人公がなにかを仕掛けるわけではありません。中世ヨーロッパ風世界で、現代的表現や機器がでてくるかもしれない異世界のお話しです。ご都合主義です。タグ修正、追加の可能性あり。
【完結】捨ててください
仲 奈華 (nakanaka)
恋愛
ずっと貴方の側にいた。
でも、あの人と再会してから貴方は私ではなく、あの人を見つめるようになった。
分かっている。
貴方は私の事を愛していない。
私は貴方の側にいるだけで良かったのに。
貴方が、あの人の側へ行きたいと悩んでいる事が私に伝わってくる。
もういいの。
ありがとう貴方。
もう私の事は、、、
捨ててください。
続編投稿しました。
初回完結6月25日
第2回目完結7月18日
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる