貴方の『好きな人』の代わりをするのはもうやめます!

皇 翼

文字の大きさ
上 下
7 / 28

6.

しおりを挟む
「おはようございます。良い朝ですね」
「おはようございます。貴方に朝から会ったせいで、私にとっては良い朝ではなくなりました」
「ふふ、そんなこと言われたら照れてしまいますね」
「耳付いていないんですか?」

その無駄に爽やかな笑顔にイラっと来る。
厭味を返したというのに、全く気にしていないという態度。面の皮が厚い男だと思った。
今日は、少し前に見つけた洞窟の中に鉱石を採りに行く予定だ。
『何処へ行くのですか?』というイルハルトの問いかけに何も答えず、道具だけを持って、ぐんぐん目的の場所に進んでいく。
途中何度か魔物に遭遇したが、仕方なく逃げ回る私の横でヤレヤレと言った様子で魔物を魔法で瞬殺するイルハルトがいた。彼からは『この程度の魔物も倒せないのに、街の外をぶらつくのはやめた方が良いのでは?』やら『腰に刺したレイピアは飾りですか?』だのと散々言われた。
『この程度の魔物、貴方さえいなければ一人で倒しています』という言葉を飲み込むのが大変だった。私は実のところ根本的な性格が負けず嫌いなこともあり、あまり馬鹿にされたり、誰かに下に見られることに慣れていないのだ。だから我慢するという行為に対するストレスが激しかった。

「ここからは仕事の時間なので、帰ってもら――」
「嫌です」
「貴方が怪我して動けなくなっても、私、その場に置いて行きますからね」
「大丈夫ですよ。僕、そんな鈍臭くないので。むしろ君が怪我をしたら助けてあげます」

置いて行こうとしたのに、それを笑顔で拒否された挙句に此方の方が怪我をすると思われている。それに少しの苛立ちを覚えながらも、これ以上拒否しても無駄だと察し、洞窟の奥へと足を進めた。

少し前に買って、改良した音叉おんさのような魔道具を腰部分につけたポケットから取り出す。そこから伸びた、聴きとる用の線を蟀谷こめかみに付け、魔道具を発動させた。
イルハルトは『何をやっているんだ??』という疑問を持ったような顔をしていたが、ということを強調していたこともあり、勝手についてきた彼は何も質問をしてくることなく、大人しく私についてきていた。

「この先かな」

そして音叉によって出力、反響してきた音が感覚的にほんの少し”ぐにゃり”となる場所を見つけた時には、自然と口角が上がる。頭の中で貨幣が落ちるような音がした気がする。

「これって、もしかしてアークトゥルスの瞳……ですか!?」
「はい。まあ、でもこれは小さいのでハズレですね」

周りの石を砕き、小指の爪の先程の大きさのソレを取り出しながらイルハルトに答える。闇の中に輝く虹色の光。現在使っている魔道具の光が当たる角度によって様々な表情を見せる。赤、青、黄色、緑、際限なく色が変化していくその姿は、見ているだけでもその人の目を楽しませる代物だ。
アークトゥルスの瞳とは、強い護りの力が宿った浄化石のことである。大きさによって加護の範囲や効果が決まり、指輪や鎧と言ったものの装飾として使われることが多い。呪いや闇属性の魔法といったものへの耐性も強力なため、多くの人がこの石の加護が宿った装飾品を探し求めているという程の品である。

「何を言っているんですか!?この大きさでも、これは十数万エルド(※)はくだらなかったはずですよ??」
「そもそもそんな高値で売るつもりはないので。そこまでのルートも持ってないですし、暫く食べるお金に困らない程度で十分です」
「……僕だったら、その石を高値で売り払うルートも確保できますが」
「最低限の生活費さえあればそれでいいので、あまり儲けには興味ありません」
「はあ。なんてもったいない事を」

嘘だ。本当はずっと自身が本来いるはずの時代に帰るための方法を探し続けている。だからそれらを調べるためにもお金は喉から手が出る程に欲しかった。この小さな街では、買い取ってもらえる価格などは結局たかが知れているのである。
しかし昨日今日で出会ったばかりの、馴れ馴れしい妙な男に頼るほど私は愚かではない。
何も考えずに信じて、従った先で何かを理不尽に搾取されるのは嫌だ。その思いもあり、彼の事はずっと疑い続けているのだ。
後ろで顔を手で覆い、項垂れるイルハルトがいたが、それを無視して再び魔道具を起動させる。今後暫くは付きまとわれることを考えて、依頼された魔物を狩れない分今日は少し多めに鉱石を採っておきたかった。

******
※エルド=お金の単位。大体1円=1エルドでの換算。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

婚約者を想うのをやめました

かぐや
恋愛
女性を侍らしてばかりの婚約者に私は宣言した。 「もうあなたを愛するのをやめますので、どうぞご自由に」 最初は婚約者も頷くが、彼女が自分の側にいることがなくなってから初めて色々なことに気づき始める。 *書籍化しました。応援してくださった読者様、ありがとうございます。

【完結】貴方をお慕いしておりました。婚約を解消してください。

暮田呉子
恋愛
公爵家の次男であるエルドは、伯爵家の次女リアーナと婚約していた。 リアーナは何かとエルドを苛立たせ、ある日「二度と顔を見せるな」と言ってしまった。 その翌日、二人の婚約は解消されることになった。 急な展開に困惑したエルドはリアーナに会おうとするが……。

【完結】忘れてください

仲 奈華 (nakanaka)
恋愛
愛していた。 貴方はそうでないと知りながら、私は貴方だけを愛していた。 夫の恋人に子供ができたと教えられても、私は貴方との未来を信じていたのに。 貴方から離婚届を渡されて、私の心は粉々に砕け散った。 もういいの。 私は貴方を解放する覚悟を決めた。 貴方が気づいていない小さな鼓動を守りながら、ここを離れます。 私の事は忘れてください。 ※6月26日初回完結  7月12日2回目完結しました。 お読みいただきありがとうございます。

君に愛は囁けない

しーしび
恋愛
姉が亡くなり、かつて姉の婚約者だったジルベールと婚約したセシル。 彼は社交界で引く手数多の美しい青年で、令嬢たちはこぞって彼に夢中。 愛らしいと噂の公爵令嬢だって彼への好意を隠そうとはしない。 けれど、彼はセシルに愛を囁く事はない。 セシルも彼に愛を囁けない。 だから、セシルは決めた。 ***** ※ゆるゆる設定 ※誤字脱字を何故か見つけられない病なので、ご容赦ください。努力はします。 ※日本語の勘違いもよくあります。方言もよく分かっていない田舎っぺです。

【掌編集】今までお世話になりました旦那様もお元気で〜妻の残していった離婚受理証明書を握りしめイケメン公爵は涙と鼻水を垂らす

まほりろ
恋愛
新婚初夜に「君を愛してないし、これからも愛するつもりはない」と言ってしまった公爵。  彼は今まで、天才、美男子、完璧な貴公子、ポーカーフェイスが似合う氷の公爵などと言われもてはやされてきた。  しかし新婚初夜に暴言を吐いた女性が、初恋の人で、命の恩人で、伝説の聖女で、妖精の愛し子であったことを知り意気消沈している。  彼の手には元妻が置いていった「離婚受理証明書」が握られていた……。  他掌編七作品収録。 ※無断転載を禁止します。 ※朗読動画の無断配信も禁止します 「Copyright(C)2023-まほりろ/若松咲良」  某小説サイトに投稿した掌編八作品をこちらに転載しました。 【収録作品】 ①「今までお世話になりました旦那様もお元気で〜ポーカーフェイスの似合う天才貴公子と称された公爵は、妻の残していった離婚受理証明書を握りしめ涙と鼻水を垂らす」 ②「何をされてもやり返せない臆病な公爵令嬢は、王太子に竜の生贄にされ壊れる。能ある鷹と天才美少女は爪を隠す」 ③「運命的な出会いからの即日プロポーズ。婚約破棄された天才錬金術師は新しい恋に生きる!」 ④「4月1日10時30分喫茶店ルナ、婚約者は遅れてやってきた〜新聞は星座占いを見る為だけにある訳ではない」 ⑤「『お姉様はズルい!』が口癖の双子の弟が現世の婚約者! 前世では弟を立てる事を親に強要され馬鹿の振りをしていましたが、現世では奴とは他人なので天才として実力を充分に発揮したいと思います!」 ⑥「婚約破棄をしたいと彼は言った。契約書とおふだにご用心」 ⑦「伯爵家に半世紀仕えた老メイドは伯爵親子の罠にハマり無一文で追放される。老メイドを助けたのはポーカーフェイスの美女でした」 ⑧「お客様の中に褒め褒めの感想を書ける方はいらっしゃいませんか? 天才美文感想書きVS普通の少女がえんぴつで書いた感想!」

大好きなあなたが「嫌い」と言うから「私もです」と微笑みました。

桗梛葉 (たなは)
恋愛
私はずっと、貴方のことが好きなのです。 でも貴方は私を嫌っています。 だから、私は命を懸けて今日も嘘を吐くのです。 貴方が心置きなく私を嫌っていられるように。 貴方を「嫌い」なのだと告げるのです。

私のことを愛していなかった貴方へ

矢野りと
恋愛
婚約者の心には愛する女性がいた。 でも貴族の婚姻とは家と家を繋ぐのが目的だからそれも仕方がないことだと承知して婚姻を結んだ。私だって彼を愛して婚姻を結んだ訳ではないのだから。 でも穏やかな結婚生活が私と彼の間に愛を芽生えさせ、いつしか永遠の愛を誓うようになる。 だがそんな幸せな生活は突然終わりを告げてしまう。 夫のかつての想い人が現れてから私は彼の本心を知ってしまい…。 *設定はゆるいです。

(完結)貴方から解放してくださいー私はもう疲れました(全4話)

青空一夏
恋愛
私はローワン伯爵家の一人娘クララ。私には大好きな男性がいるの。それはイーサン・ドミニク。侯爵家の子息である彼と私は相思相愛だと信じていた。 だって、私のお誕生日には私の瞳色のジャボ(今のネクタイのようなもの)をして参加してくれて、別れ際にキスまでしてくれたから。 けれど、翌日「僕の手紙を君の親友ダーシィに渡してくれないか?」と、唐突に言われた。意味がわからない。愛されていると信じていたからだ。 「なぜですか?」 「うん、実のところ私が本当に愛しているのはダーシィなんだ」 イーサン様は私の心をかき乱す。なぜ、私はこれほどにふりまわすの? これは大好きな男性に心をかき乱された女性が悩んで・・・・・・結果、幸せになったお話しです。(元さやではない) 因果応報的ざまぁ。主人公がなにかを仕掛けるわけではありません。中世ヨーロッパ風世界で、現代的表現や機器がでてくるかもしれない異世界のお話しです。ご都合主義です。タグ修正、追加の可能性あり。

処理中です...