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私達は資料を渡された後も、眼球狩人アイ・ハンターに関する事件についての調査を続けていた。
今は図書館に備え付けられた一室を借りて、資料をまとめていた。

「……資料がどれも気持ち悪すぎて、萎えるよー」
「萎えても良いので、きちんと調査を続けてください。貴方は今、事件の発生場所のマッピングをしてるんでしょう。被害者女性の類似性を調べている私よりは見ている資料の気持ち悪さはマシなはずでしょう」
「それはそう……だけどさ」

ここまで調べてみて分かったこと。それはこの眼球狩人アイ・ハンターの事件に主犯とその模倣犯が存在していること。
そしてその頻度から、見つけられていない被害者がたくさんいるであろうことだった。死体の貫かれている角度、傷口、目の抉られ方。そして調査書によって残されていた魔力痕跡。それらを観察・分析していけば、本物と偽物を見分けることが出来た。本当に微量だが、本物にはおかしな魔力が含まれている。人間でも魔物でもない。
私がそれを見分け、アーサーに渡すことでマッピングさせていた。

そうして分析していくことで分かったことがあった。
まず被害者について。本物に狙われ、惨殺された少女たちにはとある共通点があるようだった。
1つ目。20歳以下の年若い少女であったこと。
そして2つ目。みんな翠の瞳を持っていた。
翠の瞳というが、意外にその瞳を持つものは多い。隣国のトレラント人がこの特徴を持って産まれることが多いのだ。私も含めて。だからそんなに珍しい特徴ではない。
しかし最後の共通点が非常に引っかかった。被害者たちは皆、クローシュロッチの出身または死ぬ前にそこに立ち寄った人間だった。クローシュロッチ、それはかつて私が生まれ育ったフルーレント領の一部に付けられた名前だ。
あの苦々しい思い出しかない嫌な場所。調べれば調べるほどにその地に何もかもが収束する。きっと警察機構側で出た被害者達も殆どがこの地にたどり着いて殉職している。彼らが殉職した地もここに近いところに集中していたから。

「なんだか毎朝僕と会う時と似た顔をしているね。クローシュロッチに何か嫌な思い出でもあるのかい?」
「私、そんなに顔に出ていましたか?……というか、私が貴方と毎朝会うのを嫌がっているの分かっていたんですね」
「うん。君は嫌がる顔も可愛いからね。つい」
「きもちわるっ!!」

ちょっとゾッとした。
ソファに寝転がってそんなことを言うこの男を蹴り飛ばしてやりたくなったが、今は不本意ながら相棒だ。なんとかその衝動を堪えて会話を続ける。

「クローシュロッチは私の出身地なんですよ」
「へー。花の都出身だったんだね。だから君からはいつでも香しい花の香りがするのかな」
「貴方がクローシュロッチにどんなお綺麗なイメージを持っているのかは知りませんが、あの地はそんな綺麗な場所ではありませんよ。……土地も、人間も」

あのあたりの土地を支配する私の両親は、常に私腹を肥やすために町全体を商業化していたが、少し中心地から離れれば、そこには貧しい人間たちが集まるスラム街のような場所が広がっている。町全体が豊かかと言われればそうではない場所なのだ。しかも両親や私の姉はそこを『ゴミ溜め』と言って住人を見下して、なんの助力もしてこなかった。
クローシュロッチの住人の心が汚いのはこういうところを見てもわかるだろう。

「さて。くだらない話をしていないで、ここを発つ準備をしてください。もう調査だけで1週間も時間を消費してしまっています。そろそろ動きましょう」
「ふふ、新婚旅行みたいで素敵だね」
「何をボケているんですか?これは任務です。あとイラっと来たので、資料の片付けはしておいてください」

下らない冗談を言っているアーサーを無視して、彼に背を向ける。なんだか後ろで文句を言っているが、無視を決め込む。
正直あの地に里帰りなんて冗談じゃないが、行かないことには任務を遂行などできない。仕方なく覚悟を決めて自室への帰路を急いだ。
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