恋人を目の前で姉に奪い取られたので、両方とも捨ててやりました

皇 翼

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柔らかな日差しが差し込む朽ち果てた古城。ガリアと私、フローラ……二人の『いつもの場所』。
瞳に映ったのは、大好きな彼……将来を誓い合った仲でもあった彼と、嬉しそうに、醜く顔を歪めた姉がキスを交わす姿だった。

最初は何が起こっているのかすら分からなかった――否、分かりたくなんてなかった。しかし、二人の息が上がるほどに長い接吻が終わる頃には全てを理解した。自分は姉に大切なものを奪われたのだ。

「セーラ!!貴女は何度同じことをするつもりなの!!?」

自然と大きく、張り上げられた声が怒りで震える。掴みかかった目の前の女が憎くて憎くて仕方がなかった。

私の姉である彼女は、今まで何もかも私から奪ってきた。大切にしていた玩具は彼女の我が儘で壊され、私に対して優しかったメイドは彼女の命令で首にされた。私に与えられたはずの可愛いドレスだって、最終的には彼女のものになり、私にはボロボロになった姉の服がと言われて渡された。
悪い事は全て私のせいにされるのは勿論、彼女の周囲の人間を使って、何度も酷い目にも合わされた。
それを両親に相談してみようものなら、父には『嘘を吐くな』と糾弾され、母には『そんなにもお姉ちゃんの事が嫌い?』と悲しまれる。挙句の果てに相談した事実を知った姉からのイジメが更に酷いものになるのだ。

それでも私はずっと耐え続けていた。

しかし、もう耐えられなかった。この姉を許せなかった。私は自分の左目につけられていた眼帯を勢いよく引き千切る。

「な、なにを――?」
「ゴミはちゃんと焼却しないと」
「痛っ、いやあああぁぁぁああああああ」

元々、私は一族の中でも魔力が突出していた。だから他人を傷つけないように、力を抑えるために、魔力封印の魔法がかかった眼帯を目に装着していた。けれど一度感情が限界を迎えた私には、もうそんなものは邪魔でしかなかった。
全身が蒼い炎に包まれる。それは掴んでいたセーラの首から髪の毛、ドレスにまで燃え広がり、彼女を苦しめていた。

もっと……もっと苦しめばいい。今まで自分が受けていた苦痛を全てこの女に――。

私はもう理性も常識も、この後の事も何もかもがどうでもよかった。全ての箍が外れていたのだ。しかし、そんな私達を見逃さない人間がいた。

「何をしているんだ!?」
「うぐっ――」

今まで硬直してた男・ガリアが正気を取り戻し、私の胸の辺りを突き飛ばすように、思い切り蹴り飛ばす。
予想外の方向からの攻撃だった事もあるが、ガリアの気配で無意識の内に纏っていた魔力を弱めていた私は古城の壁にまで叩きつけられた。
身体強化の魔法を使って蹴り飛ばされた故に、すぐには動けない。それどころか運悪く転がった時に左目には何か棒状のものが刺さり、肋骨も折れて肺に刺さっているのだろう――呼吸が苦しかった。

「なんて、酷い怪我を――大丈夫か!?」
「待、ちなさ、い」
「まだ意識があるのか……この化け物め」
「ばけ――もの」

痛みに侵される中、最も大切な人から一番言われたくなかった言葉を吐き捨てられる。今まで何度も周囲から囁かれて来た言葉。
先程までの怒りはどこへ行ってしまったのか、私はまるでこの世の終焉を見たかのような心境に陥ってしまう。

精神的にも肉体的にも大きなダメージを負った故に、小指の一本も動かすことが出来ず、気を失ったセーラがガリアによって運ばれていくのを空虚な瞳で見つめることしか出来なかった――。
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