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悲しいかな、一番最初にこの場で正気に戻ったのは私の妹・ブレラ=コンセンティだった。

「な、なななな、なんでその女と契約を結ぼうとしているのよ!!?主人は私のはずよ!!?!?」
「主人?……貴女が?」

軍神がブレラの立っていた高所まで一瞬で移動して、彼女の顔を覗き込む。ニコニコとした朗らかな笑みだった。
ブレラはその笑みに見惚れたのだろう、一瞬軍神の顔に蕩けるような視線を送った後、すぐに偉そうな態度に戻る。

「そ、そうよ!主人にして、伴侶になってやってもいいのよ?ふふっ」
「……凡人風情が?」
「え?」

先ほどまで私に対して甘ったるい声を掛けていたものと同一と思えないほどに冷たい声音だった。
それに対して驚いたのだろう。ブレラは偉そうな態度はどこへやら、急に無力な少女のように驚きに目を見張った。

「僕、凡人……いえ、凡人以下の雑魚に仕える気なんてないんですよね。それに伴侶?なんの魅力も感じない人間を僕は伴侶にしようだなんて思えません」
「あ、う、わ、私は凡人なんかじゃないわ!!!」
「ほう?」
「このヴィッシュレーヴェンの王女よ!!ここに集まっている人間の誰よりも偉くて、位が高くて、顔だって綺麗だし、血筋だって良い、それに王族よ!!それに一応、魔法も使えるし……」

最初は懸命に食らいついていたブレラだったが、軍神に言い返す言葉は段々と弱くなっていく。
その姿はあまりにも矮小で憐れだった。所詮は軍神と人間。遠目から見ていても、実力の差は歴然。どれだけ意地を張っても、ブレラが小さな存在にしか見えなかった。
所詮、アレらは人間とは別次元の存在なのだ。それを勝手な都合で呼び出して、私物化しようだなんて、するべきことではなかった。
きっとこの場で私だけが恐れている。この軍神は、やろうと思えば一瞬でこの場の人間を殺すことができる。そんな存在なのだ。
だからブレラにそれ以上喋らないでくれと思うが、私は魔力が身体から抜けきって、一言も喋ることすらできない。
ハラハラして見つめていると、軍神が一言発した……否、発したのは一文字だった。

「……で?」
「えっと、その、だから私は偉いの!貴方の仕えるべき人間、そして伴侶にされてやっても良いって言ってるの」
「うん、同じような言葉ばかり。飽きました」
「え、あがっ」

軍神が笑顔を浮かべて指を鳴らした瞬間、ブレラが吹き飛んで、魔法陣の上に落ちてきた。高所から一気に落下したせいだろう、彼女は仰向けに倒れて、上がった手がピクピクと動いている。自慢の顔面からは血が滴っていた。きっとぐちゃぐちゃになってしまっているのだろう。彼女の顔がこちらを向いていなくてよかった。だってそんなもの見たくなどなかったから。
この軍神は簡単に人の命を奪うようなことができるのだ。あまりにも恐ろしい存在。なぜ私はまだ生きているのか分からないが、ここで死にたいだなんて思えない。
この恐ろしい存在の興味が向かないように、ただ息を殺して、気配を消していた。
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