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私には夢がある。
幼い頃、公爵家から追い出されてからずっと追い続けている夢が。

私は聖女になりたい。
けれどそれは、別に『か弱い人々を救いたい』や『国の力になりたい』、『聖女としての権力が欲しい』なんて理由ではない。私はただ、叔父を地獄に突き落として、絶望させてやりたい。両親の家を乗っ取ったあの男を。

私は私の両親が死んだ直後、8歳の時にコークスレッド公爵家を追い出された……否、殺されかけてなんとか逃げ出してきて現在に至るのだ。命からがら抜け出してきてからは、アーカード孤児院という場所で、『レヴィ=ガルシアンド』という名前を使って、素性を隠しながら生きて来た。
叔父の策略により、いつの間にかレヴィアンナ=コークスレッドは死んだことになっていたからだ。それどころか歴史から消されている。
私は全てを彼に奪われたのだ。両親との思い出がたくさんあった家も、本来の立場も、両親の残してくれたはずの遺産も。

そしてあの叔父――私の実の父の弟にして、私を殺そうとしていたトンファル=コークスレッドは今、自身の娘であるレベッカ=コークスレッドを聖女にして、公爵家としての立場と権力を保とうとしている。
何故聖女にすることで権力を保てるのか。それはコークスレッドという特殊な家柄に由来する。コークスレッドは神の血を受け継ぐ家だ。王族も神の血を受け継いでと神話でも描かれているが、コークスレッドも別の神の血を受け継いでいるのだ。だから今まで娘が産まれた時は必ず他の聖女候補を抑えて、聖女に成ってきた。そんな家柄なのだ。例外は今まで一度もない。

だからその歴史を、レヴィ=ガルシアンドという無名の女として滅茶苦茶にしてやるのだ。私の夢とは要は、復讐だ。
あの男が私から奪ったものを全てを壊してやった上で、滅茶苦茶にしてやりたい。

……こんな理由で聖女を目指していたから天罰が下されたのだろうか。
聖女になるための第一の試練を突破した時に、私が発現させた能力は本当に最低最悪なものだった。

そもそも、どうやって聖女になるのか。
それはその時代で一番『聖神力』が高く、清い心を持ったがなれるとされている。だからそのための試練をいくつも受けさせられるのだ。
そしてその『試練』を受ける乙女達は聖乙女ヴァルキュルと呼ばれ、国立の魔法学校であるシュメルティーア魔道学院に所属し、王族に連なる立場としての教養や聖女になるための細々とした知識……主に王侯貴族の関係性やダンス、食事マナー、礼儀作法などなどを同時に身に着ける。
それと同時に様々な『試練』を攻略していき、聖女としての能力を発現させていき、競い合うのだ。


そうして、私はその初歩、聖乙女ヴァルキュルになるための第一の試練だった『女神の洞窟の攻略』を完了した時に授けられた能力が『女神の手』と呼ばれる前代未聞の能力だったのだ。
確かに誰にも発現したことのない能力、そしてとても珍しい能力でどんな能力であるかも不明だと説明を受けた時は正直ワクワクした。しかし、蓋を開けてみれば、とんだハズレ能力だったのだ――。
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