上 下
76 / 78
第四章:ブレメンス

75.

しおりを挟む
あの後。体調が悪くないのであれば夜風にあたりにいかないかとクラウスに誘われ、私は彼の手を取った。

「……ありがとう、な」
「え?」
「暴走しかけてた俺とサミュエルを止めてくれただろう。それに、ブレメンスの兵士たちも、ソフィアのおかげで誰も死なずに済んだんだ。……別に殺してやろうと思っていたわけじゃない。俺はーー」

なるほど、と納得する。クラウスは親しくなってからは相変わらず丁寧で律儀だ。
そもそもクラウスがあんな精神状態になってしまっていたのは私のせいだ。だからこそ止めて当然だと思っていたのだが、彼はそうは思っていない。自分自身が全て悪いと責めてしまっている。それは少し気に食わなかった。

「私、クラウスのことが好き」
「え……あ、はあ!?」
「もう!あの時も言ったでしょう!!私の一世一代の告白、忘れたっていうの?」
「忘れてない!断じて忘れてなんていないが……その、それは、友人として、か?」
「失礼ね!当然異性として、よ!だからこそ、私のためにっていう理由で人を殺させたくなかった。そのために、私にしては珍しく、先のことを顧みずに全員治したの。残りの魔力がからっからになるくらいに」
「夢、じゃないよな?」

人の本気の告白を夢扱いしようとしているクラウスの頬を軽く抓る。
そうすると『いって!……夢じゃない』と言いながらも彼は微笑んだ。夢であってたまるかと私も思っているのだ。肝心の彼に夢だなんて勘違いされたらたまらない。

「とにかく!私が好きになった人は、理由もなく他国の人間を傷つけたり、皆殺しにしようとするような人じゃないわ。わかってるから、自分を責めないで。結局誰も死んでなんていないんだから」
「っあり、がとう」
「え、泣いてる!?」
「泣いてない!!」

礼を言うと同時に私を抱きしめてくるクラウスの声は涙声だった。その珍しい泣き顔を拝んでやろうと、身体を離すために力を入れるがびくともしない。頭をグッと彼の肩に押し付けられているのだ。戦闘中よりも筋肉を使っているはずなのに、自分の首周りがプルプルと震えるだけで、おでこはクラウスの体温を吸い続けている。

「見るな!」
「やだ!見たい!!好きな人の泣き顔は見てみたいじゃない?」
「っ!好きだからって言われたってなんでも許すわけじゃない」
「私、クラウスのために命を懸けたのにな。それに感情さえも全て開示して……。クラウスは私に何も見せてくれないのね。悲しいわ」
「おま、え!それはずるいぞ」

私の言葉に動揺したのだろう、クラウスの腕の力が緩んだところで、私は顔を上げた。
そこにあったのは、目元を赤く腫らしながらも、それを拭って恥ずかしそうな顔をする愛おしい人の姿。

「全く、相変わらず強情で意地の悪い女だ」
「でも、そんな女のことが?クラウスはー?すー?」
「ああ!好きだよ!!誰よりも愛してるよ!!!悪いか!?」

やけくそになって、大きな声で愛を発するクラウス。
自分より大きな身体を持った男なのに、その言葉が嬉しく、頬を赤らめる姿が可愛いと思ってしまうのは、もう末期の症状なのだろう。
魔法でも治せない不治の病。実の母がその病に罹っている姿を見てから、私がずっと拒否していたはずのもの。
初めてのその感情は、私に暖かい仲間と優しい恋人、そして安心して帰ってこられる場所フィオレントを与えてくれた。

******
X(旧Twitter)に小話載せてます。
今回はサミュエルとハルトリッヒの裏での話です。
しおりを挟む
感想 16

あなたにおすすめの小説

貴方が側妃を望んだのです

cyaru
恋愛
「君はそれでいいのか」王太子ハロルドは言った。 「えぇ。勿論ですわ」婚約者の公爵令嬢フランセアは答えた。 誠の愛に気がついたと言われたフランセアは微笑んで答えた。 ※2022年6月12日。一部書き足しました。 ※架空のお話です。現実世界の話ではありません。  史実などに基づいたものではない事をご理解ください。 ※話の都合上、残酷な描写がありますがそれがざまぁなのかは受け取り方は人それぞれです。  表現的にどうかと思う回は冒頭に注意喚起を書き込むようにしますが有無は作者の判断です。 ※更新していくうえでタグは幾つか増えます。 ※作者都合のご都合主義です。 ※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。 ※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。

断罪されたので、私の過去を皆様に追体験していただきましょうか。

下菊みこと
恋愛
悪役令嬢が真実を白日の下に晒す最高の機会を得たお話。 小説家になろう様でも投稿しています。

【完結】皇太子の愛人が懐妊した事を、お妃様は結婚式の一週間後に知りました。皇太子様はお妃様を愛するつもりは無いようです。

五月ふう
恋愛
 リックストン国皇太子ポール・リックストンの部屋。 「マティア。僕は一生、君を愛するつもりはない。」  今日は結婚式前夜。婚約者のポールの声が部屋に響き渡る。 「そう……。」  マティアは小さく笑みを浮かべ、ゆっくりとソファーに身を預けた。    明日、ポールの花嫁になるはずの彼女の名前はマティア・ドントール。ドントール国第一王女。21歳。  リッカルド国とドントール国の和平のために、マティアはこの国に嫁いできた。ポールとの結婚は政略的なもの。彼らの意志は一切介入していない。 「どんなことがあっても、僕は君を王妃とは認めない。」  ポールはマティアを憎しみを込めた目でマティアを見つめる。美しい黒髪に青い瞳。ドントール国の宝石と評されるマティア。 「私が……ずっと貴方を好きだったと知っても、妻として認めてくれないの……?」 「ちっ……」  ポールは顔をしかめて舌打ちをした。   「……だからどうした。幼いころのくだらない感情に……今更意味はない。」  ポールは険しい顔でマティアを睨みつける。銀色の髪に赤い瞳のポール。マティアにとってポールは大切な初恋の相手。 だが、ポールにはマティアを愛することはできない理由があった。 二人の結婚式が行われた一週間後、マティアは衝撃の事実を知ることになる。 「サラが懐妊したですって‥‥‥!?」

この戦いが終わったら一緒になろうと約束していた勇者は、私の目の前で皇女様との結婚を選んだ

めぐめぐ
恋愛
神官アウラは、勇者で幼馴染であるダグと将来を誓い合った仲だったが、彼は魔王討伐の褒美としてイリス皇女との結婚を打診され、それをアウラの目の前で快諾する。 アウラと交わした結婚の約束は、神聖魔法の使い手である彼女を魔王討伐パーティーに引き入れるためにダグがついた嘘だったのだ。 『お前みたいな、ヤれば魔法を使えなくなる女となんて、誰が結婚するんだよ。魔法しか取り柄のないお前と』 そう書かれた手紙によって捨てらたアウラ。 傷心する彼女に、同じパーティー仲間の盾役マーヴィが、自分の故郷にやってこないかと声をかける。 アウラは心の傷を癒すため、マーヴィとともに彼の故郷へと向かうのだった。 捨てられた主人公が、パーティー仲間の盾役と幸せになる、ちょいざまぁありの恋愛ファンタジー短編。 ※思いつきなので色々とガバガバです。ご容赦ください。 ※力があれば平民が皇帝になれるような世界観です。 ※単純な話なので安心して読めると思います。

私が我慢する必要ありますか?【2024年12月25日電子書籍配信決定しました】

青太郎
恋愛
ある日前世の記憶が戻りました。 そして気付いてしまったのです。 私が我慢する必要ありますか? ※ 株式会社MARCOT様より電子書籍化決定! コミックシーモア様にて12/25より配信されます。 コミックシーモア様限定の短編もありますので興味のある方はぜひお手に取って頂けると嬉しいです。 リンク先 https://www.cmoa.jp/title/1101438094/vol/1/

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

(完)貴女は私の全てを奪う妹のふりをする他人ですよね?

青空一夏
恋愛
公爵令嬢の私は婚約者の王太子殿下と優しい家族に、気の合う親友に囲まれ充実した生活を送っていた。それは完璧なバランスがとれた幸せな世界。 けれど、それは一人の女のせいで歪んだ世界になっていくのだった。なぜ私がこんな思いをしなければならないの? 中世ヨーロッパ風異世界。魔道具使用により現代文明のような便利さが普通仕様になっている異世界です。

婚約破棄された私は、処刑台へ送られるそうです

秋月乃衣
恋愛
ある日システィーナは婚約者であるイデオンの王子クロードから、王宮敷地内に存在する聖堂へと呼び出される。 そこで聖女への非道な行いを咎められ、婚約破棄を言い渡された挙句投獄されることとなる。 いわれの無い罪を否定する機会すら与えられず、寒く冷たい牢の中で断頭台に登るその時を待つシスティーナだったが── 他サイト様でも掲載しております。

処理中です...