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第四章:ブレメンス
73.
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苦しい。
その嫌な感覚で意識が再び覚醒する。
何も見えないのに、どこにいるのかすらも分からないのに、ただ息が出来なくて……。そして内側から炎で焼かれているような痛みが全身を襲っている。
私は命を落としたはずなのに私は何故こんなにも苦しんでいるのだろう。いつになったら楽になれるのだろうか。私はこんな苦しみを与えられないといけないような人間なのだろうか。この苦しみはいつまで続くのだろう。何も分からない。分からないことだらけで、その闇の中にいるような感覚が不安で怖くて仕方がなかった。
「っ嫌、痛い…………助けて」
「大丈夫だ。ソフィアは俺が助ける」
辛うじて出た助けを求める言葉。それに返事をするように、聞き覚えのある声でその言葉が耳に落ちてきたと同時に身体を襲っていた痛みが少し和らいでいく。
いつの間にか私の意識は再び闇へと落ちていった。
***
「クラウス!!」
夢現の中で聞こえたその声の主の名前を意識の内側で呼んだと思ったら、口から出ていた。
口から出ていた?そこまで思考して疑問に思う。
声が出せていて、認識してみれば視界いっぱいに現実世界が映っている。私は生きている。
以前走馬灯を見たことがあったが、そこから目覚めた時と似たような感覚。
空気は肺を循環して、身体には血液が循環している。遠くでは人の気配もするし、視界もクリアだ。私はきちんと『この世界に存在している』。
「助かったんだ……」
最後、まだ生きていたいと強く願っていて、次の瞬間にはソレを手に入れられていたという実感だけに、とても呆気ないというか不思議な気持ちだった。
何故あの状況から生還できたのかは分からないが、まずは状況把握だ。
身体に異常はなく、服は誰かが眠っている間に着替えさせたのだろう、真っ白で半袖、形はワンピースタイプの服を纏っていた。きっと入院患者服というものだろう。
そして腕には大量の注射針が刺されている。見ていて痛々しいが、意識がなかったせいか痺れや痛みはない。それに魔力がある程度戻っているお陰か、体内に毒の気配もすでになかった。抜いても特に問題はないだろう。
寝かされていたベッドから一旦起き上がり、周囲を見回すが、ブレメンスの城の中ではない。医務室であろう白で包まれたこの空間の中でも視界の隅……壁やベッドの柱に施された独特の蔦のような装飾を見るに、ここはフィオレント国内。
とりあえず安全な場所に居るということで、身体に入っていた緊張は抜けた。
状況が分かったのであれば、すぐに目的を果たしたい。
腕やそれ以外の部位にも大量に刺さっていた注射針やら、計測用の魔道具を全て身体から取り払う。取った時に、いくつかは警報音が鳴ったが、気にせず全てをベッドの上に落としておいた。
そしてそのままここから出るためにカーテンをズラして、そのまま外にも医療器具が大量に置いてあるこの部屋から出た。
正直、警報音が未だに鳴り続けているこの部屋から出ない方が良いのではないかという思考が過りはしたが、今は少しでも早く会いたい人がいた。
***
外に出ると、窓の外は真っ暗だった。どうやら今は夜のようだ。何時かは分からない。
でもそんなことどうでもいい。私が生きているということは、クラウスに会えるということだ。彼にとにかく早く会いたくて仕方がなかった。
先程までゆっくりだった歩みは、歩数を重ねるごとに早く、力強くなっていく。最後の方は全力でこの広い廊下を走っていた。そして視界の端に、目覚めて初めての『人間』を見つけた。
「あの!!」
「うわ!?って、貴女は……ええ、なんで動いているんですか!!?」
「私が動いていることよりも、クラウスは!クラウス=カッシュメイスはどこですか!!」
私が見つけたのは、巡回中だったのだろう看護師の制服を着た女性。
驚かせたのは申し訳ないが、私は焦りの方が先走っていた。
「ああああ、あ、案内しますから!!もうこれ以上は動かないでください」
私の肩を掴んで落ち着かせると同時に、通信機の魔道具でどこかに連絡を取る看護師。
彼女の反応からして、私の目的の人物は近くにいるのだろう。彼女、そしてそれ以外の関係者であろう人達に迷惑を掛けているという自覚はあったが、死地から戻りハイになっていたのであろう私は止まる事などできなかった。
その嫌な感覚で意識が再び覚醒する。
何も見えないのに、どこにいるのかすらも分からないのに、ただ息が出来なくて……。そして内側から炎で焼かれているような痛みが全身を襲っている。
私は命を落としたはずなのに私は何故こんなにも苦しんでいるのだろう。いつになったら楽になれるのだろうか。私はこんな苦しみを与えられないといけないような人間なのだろうか。この苦しみはいつまで続くのだろう。何も分からない。分からないことだらけで、その闇の中にいるような感覚が不安で怖くて仕方がなかった。
「っ嫌、痛い…………助けて」
「大丈夫だ。ソフィアは俺が助ける」
辛うじて出た助けを求める言葉。それに返事をするように、聞き覚えのある声でその言葉が耳に落ちてきたと同時に身体を襲っていた痛みが少し和らいでいく。
いつの間にか私の意識は再び闇へと落ちていった。
***
「クラウス!!」
夢現の中で聞こえたその声の主の名前を意識の内側で呼んだと思ったら、口から出ていた。
口から出ていた?そこまで思考して疑問に思う。
声が出せていて、認識してみれば視界いっぱいに現実世界が映っている。私は生きている。
以前走馬灯を見たことがあったが、そこから目覚めた時と似たような感覚。
空気は肺を循環して、身体には血液が循環している。遠くでは人の気配もするし、視界もクリアだ。私はきちんと『この世界に存在している』。
「助かったんだ……」
最後、まだ生きていたいと強く願っていて、次の瞬間にはソレを手に入れられていたという実感だけに、とても呆気ないというか不思議な気持ちだった。
何故あの状況から生還できたのかは分からないが、まずは状況把握だ。
身体に異常はなく、服は誰かが眠っている間に着替えさせたのだろう、真っ白で半袖、形はワンピースタイプの服を纏っていた。きっと入院患者服というものだろう。
そして腕には大量の注射針が刺されている。見ていて痛々しいが、意識がなかったせいか痺れや痛みはない。それに魔力がある程度戻っているお陰か、体内に毒の気配もすでになかった。抜いても特に問題はないだろう。
寝かされていたベッドから一旦起き上がり、周囲を見回すが、ブレメンスの城の中ではない。医務室であろう白で包まれたこの空間の中でも視界の隅……壁やベッドの柱に施された独特の蔦のような装飾を見るに、ここはフィオレント国内。
とりあえず安全な場所に居るということで、身体に入っていた緊張は抜けた。
状況が分かったのであれば、すぐに目的を果たしたい。
腕やそれ以外の部位にも大量に刺さっていた注射針やら、計測用の魔道具を全て身体から取り払う。取った時に、いくつかは警報音が鳴ったが、気にせず全てをベッドの上に落としておいた。
そしてそのままここから出るためにカーテンをズラして、そのまま外にも医療器具が大量に置いてあるこの部屋から出た。
正直、警報音が未だに鳴り続けているこの部屋から出ない方が良いのではないかという思考が過りはしたが、今は少しでも早く会いたい人がいた。
***
外に出ると、窓の外は真っ暗だった。どうやら今は夜のようだ。何時かは分からない。
でもそんなことどうでもいい。私が生きているということは、クラウスに会えるということだ。彼にとにかく早く会いたくて仕方がなかった。
先程までゆっくりだった歩みは、歩数を重ねるごとに早く、力強くなっていく。最後の方は全力でこの広い廊下を走っていた。そして視界の端に、目覚めて初めての『人間』を見つけた。
「あの!!」
「うわ!?って、貴女は……ええ、なんで動いているんですか!!?」
「私が動いていることよりも、クラウスは!クラウス=カッシュメイスはどこですか!!」
私が見つけたのは、巡回中だったのだろう看護師の制服を着た女性。
驚かせたのは申し訳ないが、私は焦りの方が先走っていた。
「ああああ、あ、案内しますから!!もうこれ以上は動かないでください」
私の肩を掴んで落ち着かせると同時に、通信機の魔道具でどこかに連絡を取る看護師。
彼女の反応からして、私の目的の人物は近くにいるのだろう。彼女、そしてそれ以外の関係者であろう人達に迷惑を掛けているという自覚はあったが、死地から戻りハイになっていたのであろう私は止まる事などできなかった。
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