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第四章:ブレメンス
71.
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ハルトリッヒが捕まえていたらしい野生動物の肉と、食べられるらしい草花を炒めたものを食べてお腹を満たしてからは移動をし続けた。加速魔法を使って木の隙間を縫うようにただひたすら進み続ける。
朝も夜も走り続け、途中にある街も全て飛ばして寄り道することなく、ただブレメンスに向かうことだけを考えていた。この後の作戦なんて知らない。私は自由を手にいれる、そしてこの気持ちを伝えるんだという意思の元で駆け抜けていた。
そして全力で魔法を使い続けて1日半ほど。見覚えのある都市が遠くに見えた。
同じ速度で追従しているハルトリッヒと言葉を交わすことはない。しかし確実に目配せをしながら、最後の道を駆けた。
***
王都に入った瞬間、その異様な雰囲気に足が止まった。
どの家も扉が閉まり、人っ子一人姿が見えない。本来であれば、王都であり国の中心ということもあり、昼夜問わず賑わっている通りにも関わらずだ。
「なに、これ」
「……家の中に人間の気配は感じるが。てか、こっちを見てるな。どの家からも視線を感じる」
「ええ。警戒されている?いえ、恐怖の方が近いわね」
「こんなこと気にしても仕方がないな。さっさと城の方に行くぞ」
ハルトリッヒが、まるで私を護るように先を歩き、私はそれについていく。少しこの異常な景色に呑まれかけていた私にはそれが有り難かった。
城へ入る跳ね橋を越える直前。ハルトリッヒが歩みをピタリと止める。
そこには恐怖を浮かべて端で震え続ける兵士と、斬撃や魔法で致命傷を負ったたくさんの人間たちが転がっていた。息も絶え絶えで、死にかけている。視認できる範囲では、死亡している者はいないようだった。
「ん?治すのか?」
「ええ。ここにこびりついている魔力、クラウスとサミュエルのものよ」
これらは全部あの二人がやったことだ。
最後にクラウスに会ったのは、崖から落ちた時。もしかしたら私が死んだと思っているのかもしれない。事実私も自分が死んだと思った。走馬灯っぽいものすら見ていたのだから、クラウスからしたら私が死んだと確実に見えるだろう。
だからこうやって暴走しているのかもしれない。だって、普段のクラウスだったら絶対にこんなことはしない。サミュエルの方は……なんとも言えないが。
私はクラウスに罪を背負わせたくなかった。
急いでいるので、ここの範囲全体に回復魔法をかけて、一番近くにいた兵士の致命傷が治ったことを確認してから進んだ。
騎士館、武具庫、厩舎、使用人居住区画を通り、城内へと入る。外も人も物も壊されて、酷い状態ではあったが、城内は更に凄惨な光景が広がっていた。なんとか理性があるのか、ギリギリで兵士たちは生きているが、血が飛び散り、美術品は破壊されて、壁も進行方向であろう方向へ貫通していた。城内は魔法や武器で傷付けられて元の姿の面影がない。
きっとまだこの城への襲撃が起きてそんなに時間が経っていないせいもあるだろう。急いで来ていなければ、この辺は腐敗臭がしていたことが簡単に予測できる。それほどに酷い惨状だった。
そして痕跡を追い続けて、30分ほど。少し先にクラウスの強力な魔力を感じた。
「っおい!走るな!!」
ここは敵地だ。こんな状態ではあるが、敵兵が潜んでいる可能性がある故のハルトリッヒの静止だろう。しかしそれは聞いてられなかった。
やっと目的の人物が見つかったのだ。早く止めたいという思いと、自分が無事であることを知らせたいという気持ちが溢れていた。
朝も夜も走り続け、途中にある街も全て飛ばして寄り道することなく、ただブレメンスに向かうことだけを考えていた。この後の作戦なんて知らない。私は自由を手にいれる、そしてこの気持ちを伝えるんだという意思の元で駆け抜けていた。
そして全力で魔法を使い続けて1日半ほど。見覚えのある都市が遠くに見えた。
同じ速度で追従しているハルトリッヒと言葉を交わすことはない。しかし確実に目配せをしながら、最後の道を駆けた。
***
王都に入った瞬間、その異様な雰囲気に足が止まった。
どの家も扉が閉まり、人っ子一人姿が見えない。本来であれば、王都であり国の中心ということもあり、昼夜問わず賑わっている通りにも関わらずだ。
「なに、これ」
「……家の中に人間の気配は感じるが。てか、こっちを見てるな。どの家からも視線を感じる」
「ええ。警戒されている?いえ、恐怖の方が近いわね」
「こんなこと気にしても仕方がないな。さっさと城の方に行くぞ」
ハルトリッヒが、まるで私を護るように先を歩き、私はそれについていく。少しこの異常な景色に呑まれかけていた私にはそれが有り難かった。
城へ入る跳ね橋を越える直前。ハルトリッヒが歩みをピタリと止める。
そこには恐怖を浮かべて端で震え続ける兵士と、斬撃や魔法で致命傷を負ったたくさんの人間たちが転がっていた。息も絶え絶えで、死にかけている。視認できる範囲では、死亡している者はいないようだった。
「ん?治すのか?」
「ええ。ここにこびりついている魔力、クラウスとサミュエルのものよ」
これらは全部あの二人がやったことだ。
最後にクラウスに会ったのは、崖から落ちた時。もしかしたら私が死んだと思っているのかもしれない。事実私も自分が死んだと思った。走馬灯っぽいものすら見ていたのだから、クラウスからしたら私が死んだと確実に見えるだろう。
だからこうやって暴走しているのかもしれない。だって、普段のクラウスだったら絶対にこんなことはしない。サミュエルの方は……なんとも言えないが。
私はクラウスに罪を背負わせたくなかった。
急いでいるので、ここの範囲全体に回復魔法をかけて、一番近くにいた兵士の致命傷が治ったことを確認してから進んだ。
騎士館、武具庫、厩舎、使用人居住区画を通り、城内へと入る。外も人も物も壊されて、酷い状態ではあったが、城内は更に凄惨な光景が広がっていた。なんとか理性があるのか、ギリギリで兵士たちは生きているが、血が飛び散り、美術品は破壊されて、壁も進行方向であろう方向へ貫通していた。城内は魔法や武器で傷付けられて元の姿の面影がない。
きっとまだこの城への襲撃が起きてそんなに時間が経っていないせいもあるだろう。急いで来ていなければ、この辺は腐敗臭がしていたことが簡単に予測できる。それほどに酷い惨状だった。
そして痕跡を追い続けて、30分ほど。少し先にクラウスの強力な魔力を感じた。
「っおい!走るな!!」
ここは敵地だ。こんな状態ではあるが、敵兵が潜んでいる可能性がある故のハルトリッヒの静止だろう。しかしそれは聞いてられなかった。
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