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第四章:ブレメンス
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「サミュエル!現状は!?」
「遠方から炎の攻撃魔法が飛んできた。魔法自体は僕が防御して打ち消したから魔導車には影響は出ていない」
どうやら先程の衝撃はサミュエルが拘束を無理矢理解除したことで起こったもののようだった。ブレメンスはどうやら、フィオレントの人間を敵に回してでも私を殺したいらしい。何故それほどまでに恨まれているのかが分からない。私はあの国からいらないと言われたから、そのままいなくなっただけなはずだ。別に時限式の爆弾を設置したり、一部の地域を滅ぼしたりだなんてあくどい真似はしていない。
だからこそこんなにも恨まれている理由が分からないのだ。
「私が捕縛してくるから、ここで魔導車を護っていて」
「ブレメンスの連中か。俺も同行する」
「っ待て!!俺も――」
「クラウスとサミュエルは待機。ハルトリッヒと私で行ってくるわ」
外に出てきたハルトリッヒとクラウス。咄嗟にこれは盗賊の襲撃なんてレベルのものではないということをすぐ理解したのだろう。
サミュエルは現状を分かっていそうなのでここに置いていく。そしてハルトリッヒは魔力ですぐにブレメンスの人間の襲撃だと理解したようだったのでつい来るのを許可した。
「私は直進したところにいるのを捕縛する。貴方は東側にズレたところにいるのを捕縛してきて」
「ああ、分かった」
あくまで『捕縛』という行動を取るようにハルトリッヒに念押しする。きっと命令されてやっているだけだ。ハルトリッヒ達と同じだろう。叩くべきはトップであって、それ以外は関係がないのだ。
それにしても襲撃者がこんなにもすぐに来るとは思っていなかった。
見つけた襲撃者がいたのは、切り立った断崖。それを背にして私を待っていた。1対1で対峙しようだなんて、腕に自信があるのかもしれない。そう思って少し警戒した。
「ソフィア=トリプレート。ブレメンスの災厄の元凶……!!お前を殺す!!!」
「私は何も関与していない――なんて言っても無駄なのでしょうね。殺しはしないから、安心なさい」
正直、私が対峙した敵の能力は、ハルトリッヒに比べるとかなり劣っていた。警戒損である。
もしかしたらハルトリッヒがあの国の最終兵器だったのかもしれない。彼もブレメンスに居た頃は『最高傑作』やら『最強』やらとずっと囁かれていたと言っていた。自分を倒すような人間は一人もいなかったから、負けた時はこれ以上ない程に驚いたとも。
「っ離せ!!!」
「はいはい。これで魔法は使えないからね~~」
四肢を動かないようにする拘束具を嵌めた上で、魔法を使えなくする魔道具も腕に付けておく。私が許可しない限り、この襲撃者は魔法を何一つ使うことは出来ない。魔道具がない国の人間にはこれで十分だろう。
襲撃者を引きずってこちらに合流したハルトリッヒと共にクラウスが来るのを待つ。普通に襲撃者を魔導車まで運ぶのは重いので、クラウスを呼び出したのだ。彼に運んでもらった方が楽だ。少し甘ったれている自覚はあるが、折角使える駒があるのだから、使わない手はないだろう。それに彼は戦っていないのだから、体力は有り余っているだろう。
「ハルトリッヒ……お前、裏切ったのか」
「ん?おー。気が変わった」
「知り合い?」
「名前すら知らん」
「……こんの!!!!裏切り者共がああぁぁああ!!!」
近くにいるので、至近距離で叫び声が五月蠅い。耳を塞いだ。
どうせどんなに吠えようとも、身体の自由も魔法も封じているから何も出来やしない。そう油断していたのが良くなかった。襲撃者達の身体を見て、驚きで目を見張る。顔や、服から出ている身体の一部全てが刻印で真っ黒に染まり、気付いた時には至近距離で雷と大きな火炎が襲撃者の身体の内側から弾けて身体を包んでいた。
咄嗟の判断で炎は水魔法で打ち消したが、雷の魔法は水を通して私の身体を貫いた。
「っう゛、あ」
「おい!くっそ、もろにくらったのか……」
地面が崩れ、宙に投げ出される私とハルトリッヒ。
視界の端に映った風景で察する。今、何もない空に居る。思っていたよりも私達は高い崖の上に居たようだ。
ああ、くだらないところで油断してしまった。もしかしたら私はこのまま命を落とすのかもしれない。そう、ボケーっと落ちていく風景を眺めていた――のだが、遠くに見知った顔が見えた。
「ソフィア!!!!!」
クラウスだ。
必死な顔で、攻撃をくらった今の私よりも死にそうな顔で走ってきているのが見えた。しかし断言できる。彼は間に合わない。
ふと最後の瞬間思った。私、彼を残して死にたくなかったな。あんな悲しい顔をさせたくなかった。
私は妙に達観した視点で自身の間抜けさに絶望した――。
「遠方から炎の攻撃魔法が飛んできた。魔法自体は僕が防御して打ち消したから魔導車には影響は出ていない」
どうやら先程の衝撃はサミュエルが拘束を無理矢理解除したことで起こったもののようだった。ブレメンスはどうやら、フィオレントの人間を敵に回してでも私を殺したいらしい。何故それほどまでに恨まれているのかが分からない。私はあの国からいらないと言われたから、そのままいなくなっただけなはずだ。別に時限式の爆弾を設置したり、一部の地域を滅ぼしたりだなんてあくどい真似はしていない。
だからこそこんなにも恨まれている理由が分からないのだ。
「私が捕縛してくるから、ここで魔導車を護っていて」
「ブレメンスの連中か。俺も同行する」
「っ待て!!俺も――」
「クラウスとサミュエルは待機。ハルトリッヒと私で行ってくるわ」
外に出てきたハルトリッヒとクラウス。咄嗟にこれは盗賊の襲撃なんてレベルのものではないということをすぐ理解したのだろう。
サミュエルは現状を分かっていそうなのでここに置いていく。そしてハルトリッヒは魔力ですぐにブレメンスの人間の襲撃だと理解したようだったのでつい来るのを許可した。
「私は直進したところにいるのを捕縛する。貴方は東側にズレたところにいるのを捕縛してきて」
「ああ、分かった」
あくまで『捕縛』という行動を取るようにハルトリッヒに念押しする。きっと命令されてやっているだけだ。ハルトリッヒ達と同じだろう。叩くべきはトップであって、それ以外は関係がないのだ。
それにしても襲撃者がこんなにもすぐに来るとは思っていなかった。
見つけた襲撃者がいたのは、切り立った断崖。それを背にして私を待っていた。1対1で対峙しようだなんて、腕に自信があるのかもしれない。そう思って少し警戒した。
「ソフィア=トリプレート。ブレメンスの災厄の元凶……!!お前を殺す!!!」
「私は何も関与していない――なんて言っても無駄なのでしょうね。殺しはしないから、安心なさい」
正直、私が対峙した敵の能力は、ハルトリッヒに比べるとかなり劣っていた。警戒損である。
もしかしたらハルトリッヒがあの国の最終兵器だったのかもしれない。彼もブレメンスに居た頃は『最高傑作』やら『最強』やらとずっと囁かれていたと言っていた。自分を倒すような人間は一人もいなかったから、負けた時はこれ以上ない程に驚いたとも。
「っ離せ!!!」
「はいはい。これで魔法は使えないからね~~」
四肢を動かないようにする拘束具を嵌めた上で、魔法を使えなくする魔道具も腕に付けておく。私が許可しない限り、この襲撃者は魔法を何一つ使うことは出来ない。魔道具がない国の人間にはこれで十分だろう。
襲撃者を引きずってこちらに合流したハルトリッヒと共にクラウスが来るのを待つ。普通に襲撃者を魔導車まで運ぶのは重いので、クラウスを呼び出したのだ。彼に運んでもらった方が楽だ。少し甘ったれている自覚はあるが、折角使える駒があるのだから、使わない手はないだろう。それに彼は戦っていないのだから、体力は有り余っているだろう。
「ハルトリッヒ……お前、裏切ったのか」
「ん?おー。気が変わった」
「知り合い?」
「名前すら知らん」
「……こんの!!!!裏切り者共がああぁぁああ!!!」
近くにいるので、至近距離で叫び声が五月蠅い。耳を塞いだ。
どうせどんなに吠えようとも、身体の自由も魔法も封じているから何も出来やしない。そう油断していたのが良くなかった。襲撃者達の身体を見て、驚きで目を見張る。顔や、服から出ている身体の一部全てが刻印で真っ黒に染まり、気付いた時には至近距離で雷と大きな火炎が襲撃者の身体の内側から弾けて身体を包んでいた。
咄嗟の判断で炎は水魔法で打ち消したが、雷の魔法は水を通して私の身体を貫いた。
「っう゛、あ」
「おい!くっそ、もろにくらったのか……」
地面が崩れ、宙に投げ出される私とハルトリッヒ。
視界の端に映った風景で察する。今、何もない空に居る。思っていたよりも私達は高い崖の上に居たようだ。
ああ、くだらないところで油断してしまった。もしかしたら私はこのまま命を落とすのかもしれない。そう、ボケーっと落ちていく風景を眺めていた――のだが、遠くに見知った顔が見えた。
「ソフィア!!!!!」
クラウスだ。
必死な顔で、攻撃をくらった今の私よりも死にそうな顔で走ってきているのが見えた。しかし断言できる。彼は間に合わない。
ふと最後の瞬間思った。私、彼を残して死にたくなかったな。あんな悲しい顔をさせたくなかった。
私は妙に達観した視点で自身の間抜けさに絶望した――。
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