上 下
67 / 77
第四章:ブレメンス

66.

しおりを挟む
「本当に!魔導車が壊れるかと思ったのよ!!」
「……すまん。サミュエルに煽られて、思わず我を失った」
「アイツが全部悪い。俺は悪くないから謝らねえ」

確かにサミュエルは悪かったし、現在も罰を与えているからこの場にはいない。だが、この2人の喧嘩っ早さもどうかと思う。
事の経緯は、この魔導車に乗った直後の事だ。この魔導車は移動速度と効率を重視したようで、寝台部屋シャワー室、食事兼休憩部屋のみがついている自動運転車だ。魔力を吸収する腕輪を乗車している人間のうちの誰かの腕に付け、そこから吸収することで寝ている間も移動し続けてくれる。走り続ければ3日ほどでブレメンスだ。
まだ眠る時間ではないということで、最初は休憩部屋の方に全員で乗り込んだのだ。そして備え付けてあったソファーに座ろうとした時に争いが起きた。

ソファーは2人掛けであり、机を挟んでもう一個2人掛けのものがあるという配置だった。
特に何も言うことなく、私の隣に腰を下ろしたハルトリッヒ。そこにサミュエルが絡んだのだ。『ソフィアの隣は僕だから、どいてくれ』と。曰く、自身が3人の中では一番魔力探知に優れているから、守れるのは自分だということらしい。正直まだ暫くはフィオレント国内だし、危険はそこまでない。もし何かあっても、私であれば避けることは出来る。だからただ単に隣に来たいだけだろう。
そんなサミュエルをハルトリッヒは『めんどうくさい』で一蹴し、無理矢理退かそうとしたサミュエルとそれに対抗するハルトリッヒの争いが始まった。そしてそれを止めようとしたクラウスが今度は『じゃあ、クラウスとハルトリッヒが隣同士に座ればいい。クラウスは別にソフィアの隣に座りたくなんてないみたいだしね』というサミュエルの言葉に反抗して、争いが大きくなったことで今に至る。

諸悪の根源であるサミュエルは、現在魔導車の外側――魔導車の魔力を吸収する腕輪を付けた上で天井に縛り付けてある。怒ったハルトリッヒとクラウスがそれをした。少しやりすぎかとは思ったが、まあ静かになったので私は何も言わなかった。時折くぐもった叫び声が聞こえてくるが、問題ないだろう。きっと反省してくれるはずだ。

「とりあえず、サミュエルを外に出しておけば盗賊や魔物の襲撃はないでしょう。今後は外への警戒は交代制でやるとして……少ししたらサミュエルを魔導車の中に戻しておいてね」

それだけ言って寝台の方へ移動した。
寝っ転がりながら、ブレメンスの王都の地図を開く。もしもの辞退の時の避難経路の確保や、戦う時の陣形を考えておきたかったからだ。
一応はサミュエルやクラウスと言ったフィオレントで立場がある人間がこちらにはいる。だから、平和的に済ませられるように二人の方から書状は既に出されており、今回は正式な訪問ということになっているのだ。これが吉と出るか凶と出るかはまだ分からない。

しかし私はそう簡単に解決する問題ではないと考えていた。サミュエルについてもきっとそうだろう。だから彼はきっと盗賊や魔物ではなく、ハルトリッヒのようなブレメンスからの刺客を警戒している。正直言い方は良くはなかったが、彼の懸念は私もしていることだ。
ブレメンス国内の内情や王侯貴族の汚さを分かっていないクラウスやハルトリッヒは分かっていない。

戦闘用の強力な使い切りの魔道具や武器、防具を人数分用意しながら空間拡張魔法を使った袋にそれぞれ詰めていた時の事。魔導車が外側から大きく揺らされた――。

******

アルファポリス内ではクラウスルートが推しの人が多くて、Twitterではサミュエルルート推しの人が多い感じです。
ちなみにハルトリッヒルートの想定としては、誰も選ばなかったパターンを想定しています。なんかゲームでいうノーマルエンド(全員との可能性を残しながらのエンディング)みたいな感じですね。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

王命を忘れた恋

須木 水夏
恋愛
『君はあの子よりも強いから』  そう言って貴方は私を見ることなく、この関係性を終わらせた。  強くいなければ、貴方のそばにいれなかったのに?貴方のそばにいる為に強くいたのに?  そんな痛む心を隠し。ユリアーナはただ静かに微笑むと、承知を告げた。

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

七年間の婚約は今日で終わりを迎えます

hana
恋愛
公爵令嬢エミリアが十歳の時、第三王子であるロイとの婚約が決まった。しかし婚約者としての生活に、エミリアは不満を覚える毎日を過ごしていた。そんな折、エミリアは夜会にて王子から婚約破棄を宣言される。

彼を追いかける事に疲れたので、諦める事にしました

Karamimi
恋愛
貴族学院2年、伯爵令嬢のアンリには、大好きな人がいる。それは1学年上の侯爵令息、エディソン様だ。そんな彼に振り向いて欲しくて、必死に努力してきたけれど、一向に振り向いてくれない。 どれどころか、最近では迷惑そうにあしらわれる始末。さらに同じ侯爵令嬢、ネリア様との婚約も、近々結ぶとの噂も… これはもうダメね、ここらが潮時なのかもしれない… そんな思いから彼を諦める事を決意したのだが… 5万文字ちょっとの短めのお話で、テンポも早めです。 よろしくお願いしますm(__)m

私に代わり彼に寄り添うのは、幼馴染の女でした…一緒に居られないなら婚約破棄しましょう。

coco
恋愛
彼の婚約者は私なのに…傍に寄り添うのは、幼馴染の女!? 一緒に居られないなら、もう婚約破棄しましょう─。

【完結】側妃は愛されるのをやめました

なか
恋愛
「君ではなく、彼女を正妃とする」  私は、貴方のためにこの国へと貢献してきた自負がある。  なのに……彼は。 「だが僕は、ラテシアを見捨てはしない。これから君には側妃になってもらうよ」  私のため。  そんな建前で……側妃へと下げる宣言をするのだ。    このような侮辱、恥を受けてなお……正妃を求めて抗議するか?  否。  そのような恥を晒す気は無い。 「承知いたしました。セリム陛下……私は側妃を受け入れます」  側妃を受けいれた私は、呼吸を挟まずに言葉を続ける。  今しがた決めた、たった一つの決意を込めて。 「ですが陛下。私はもう貴方を支える気はありません」  これから私は、『捨てられた妃』という汚名でなく、彼を『捨てた妃』となるために。  華々しく、私の人生を謳歌しよう。  全ては、廃妃となるために。    ◇◇◇  設定はゆるめです。  読んでくださると嬉しいです!

結婚式で王子を溺愛する幼馴染が泣き叫んで婚約破棄「妊娠した。慰謝料を払え!」花嫁は王子の返答に衝撃を受けた。

window
恋愛
公爵令嬢と王太子殿下の結婚式に幼馴染が泣き叫んでかけ寄って来た。 式の大事な場面で何が起こったのか? 二人を祝福していた参列者たちは突然の出来事に会場は大きくどよめいた。 王子は公爵令嬢と幼馴染と二股交際をしていた。 「あなたの子供を妊娠してる。私を捨てて自分だけ幸せになるなんて許せない。慰謝料を払え!」 幼馴染は王子に詰め寄って主張すると王子は信じられない事を言って花嫁と参列者全員を驚かせた。

旦那様に離婚を突きつけられて身を引きましたが妊娠していました。

ゆらゆらぎ
恋愛
ある日、平民出身である侯爵夫人カトリーナは辺境へ行って二ヶ月間会っていない夫、ランドロフから執事を通して離縁届を突きつけられる。元の身分の差を考え気持ちを残しながらも大人しく身を引いたカトリーナ。 実家に戻り、兄の隣国行きについていくことになったが隣国アスファルタ王国に向かう旅の途中、急激に体調を崩したカトリーナは医師の診察を受けることに。

処理中です...