66 / 76
第三章:ポッシェ村
65.
しおりを挟む
出発はあの3人の争いから1週間後。
移動するための魔導車やら、衣食住の準備やらをしていたら4人分ということでかなりかかってしまった。まあ、私はそっちの準備は殆どしていないが。クラウスが一人で文句を言いながら苦労していたのを見ていただけだ。
しかし私の荷物は小さいが口の部分が大きいバッグのみ。しかしバッグにしっかりと仕掛けをした。内部の空間を拡張する魔法だ。
以前から構想はあったが、魔法式が細かすぎて中々実現には至らなかったもの。それを1週間ほぼ寝ずに作業をすることで創り上げた。
「じゃ、いっちょ帰省といくか!」
「久しぶりだなー、ブレメンス」
「初めて行くのは俺だけか。あまり聞いたことはないが……そういえば、どんな国なんだ?」
「魔法を使える人間にとっての地獄」
各々ブレメンスに対して述べている中、クラウスだけは何も知らないようだった。
だから行ったことがあるサミュエルに向けた問い。それに私のブレメンスに対する意見をそのまま述べておいた。
魔法使いが労働をしたとしても報酬をほぼ与えずに、飼い殺しにするような国だ。国民の生活水準は一部の魔法使いのおかげで悪くはなかったはずだが、私たちにとっては地獄だった。
「俺は文化や環境、産業、規模なんかを聞きたかったのだが。お前のような優れた魔法使いが産まれた国だからな」
「魔法はほとんど発達していないわ。そもそも魔道具もないしこれで興味が失せたんじゃない?」
「……否定はできないな」
「クラウスは魔道具バカだからね。仕方ないよ」
クラウスと魔道具の話で盛り上がってしまう私もそれは含まれてしまうのだろうか。
サミュエルの言葉に少し引っ掛かるものを感じながら、バカと言われてサミュエルに文句を言うクラウスとそれを揶揄う姿勢をとるサミュエルのやり取りを見つめる。
結局巻き込んでしまった。ハルトリッヒは私を殺そうとした前科があるから、巻き込んでもそこまで罪悪感はないが、サミュエルもクラウスも本来であれば私の事情には関係のない人間だ。
「まだ僕らを巻き込んだーって悩んでるの?」
「俺らが勝手に巻き込まれに行ったんだから気にするな……って言ってもお前は気にするんだろうな」
私が完全に黙ったことに気付いたのだろう。サミュエルとクラウスがこちらに近付いてくる。相変わらず二人とも私のことをよく見ている。
「じゃあ、帰ってきたらデートで旅行に行くっていうのはどう?フィオレントの東側に有名な温泉があるんだ」
「ガルレアの温泉か。俺も行く。あそこは食べ物も美味しいしな」
「……クラウスは来なくていいんだけど」
「死亡フラグ立ててんじゃねーよ。バカども」
「じゃあ君は来ないんだね、ハルトリッヒ。邪魔者が一人減ってラッキーだ」
「やっぱ行くわ。なんかこいつムカつく」
ハルトリッヒの言葉にサミュエルが肩を落として、クラウスとハルトリッヒが忍び笑いを漏らしていた。
全員一緒に置いていくと言ったせいだろうか。
なんだか以前よりは3人の間に流れる空気がマシなものになっているような気がした。1週間前に気になった懸念については少しは安心できそうだ。
「おっ!魔導車来たな」
「……格好いいな、これ。動物が先頭についてないなんて、動物にも優しい」
魔導車に乗るのは初めてらしいハルトリッヒが目を輝かせる。
なんだかんだ言いながら、ハルトリッヒは純粋な男だった。この後、魔導車の中で誰が隣に座るかで一悶着があるということをまだ知らない私は、少しだけこの自由への旅が楽しくなりながら魔導車に乗り込んだのだった。
******
お知らせ:
小説の続きについて。
一応誰と恋愛関係になるのかについては、既に作者の中で決まっていますが、現在そのメインキャラではないキャラのルートを完結後に書くか検討しています。(分岐としてはクラウスルート、サミュエルルート、ハルトリッヒルートって感じです)
それを決めるために一旦感想欄の解放とX(旧Twitter)の方で質問投げてます。とりあえずその結果見て、他キャラと結ばれて欲しいという意見が多ければ、今後について考えます。気が向いたらよろしくお願いいたします。
移動するための魔導車やら、衣食住の準備やらをしていたら4人分ということでかなりかかってしまった。まあ、私はそっちの準備は殆どしていないが。クラウスが一人で文句を言いながら苦労していたのを見ていただけだ。
しかし私の荷物は小さいが口の部分が大きいバッグのみ。しかしバッグにしっかりと仕掛けをした。内部の空間を拡張する魔法だ。
以前から構想はあったが、魔法式が細かすぎて中々実現には至らなかったもの。それを1週間ほぼ寝ずに作業をすることで創り上げた。
「じゃ、いっちょ帰省といくか!」
「久しぶりだなー、ブレメンス」
「初めて行くのは俺だけか。あまり聞いたことはないが……そういえば、どんな国なんだ?」
「魔法を使える人間にとっての地獄」
各々ブレメンスに対して述べている中、クラウスだけは何も知らないようだった。
だから行ったことがあるサミュエルに向けた問い。それに私のブレメンスに対する意見をそのまま述べておいた。
魔法使いが労働をしたとしても報酬をほぼ与えずに、飼い殺しにするような国だ。国民の生活水準は一部の魔法使いのおかげで悪くはなかったはずだが、私たちにとっては地獄だった。
「俺は文化や環境、産業、規模なんかを聞きたかったのだが。お前のような優れた魔法使いが産まれた国だからな」
「魔法はほとんど発達していないわ。そもそも魔道具もないしこれで興味が失せたんじゃない?」
「……否定はできないな」
「クラウスは魔道具バカだからね。仕方ないよ」
クラウスと魔道具の話で盛り上がってしまう私もそれは含まれてしまうのだろうか。
サミュエルの言葉に少し引っ掛かるものを感じながら、バカと言われてサミュエルに文句を言うクラウスとそれを揶揄う姿勢をとるサミュエルのやり取りを見つめる。
結局巻き込んでしまった。ハルトリッヒは私を殺そうとした前科があるから、巻き込んでもそこまで罪悪感はないが、サミュエルもクラウスも本来であれば私の事情には関係のない人間だ。
「まだ僕らを巻き込んだーって悩んでるの?」
「俺らが勝手に巻き込まれに行ったんだから気にするな……って言ってもお前は気にするんだろうな」
私が完全に黙ったことに気付いたのだろう。サミュエルとクラウスがこちらに近付いてくる。相変わらず二人とも私のことをよく見ている。
「じゃあ、帰ってきたらデートで旅行に行くっていうのはどう?フィオレントの東側に有名な温泉があるんだ」
「ガルレアの温泉か。俺も行く。あそこは食べ物も美味しいしな」
「……クラウスは来なくていいんだけど」
「死亡フラグ立ててんじゃねーよ。バカども」
「じゃあ君は来ないんだね、ハルトリッヒ。邪魔者が一人減ってラッキーだ」
「やっぱ行くわ。なんかこいつムカつく」
ハルトリッヒの言葉にサミュエルが肩を落として、クラウスとハルトリッヒが忍び笑いを漏らしていた。
全員一緒に置いていくと言ったせいだろうか。
なんだか以前よりは3人の間に流れる空気がマシなものになっているような気がした。1週間前に気になった懸念については少しは安心できそうだ。
「おっ!魔導車来たな」
「……格好いいな、これ。動物が先頭についてないなんて、動物にも優しい」
魔導車に乗るのは初めてらしいハルトリッヒが目を輝かせる。
なんだかんだ言いながら、ハルトリッヒは純粋な男だった。この後、魔導車の中で誰が隣に座るかで一悶着があるということをまだ知らない私は、少しだけこの自由への旅が楽しくなりながら魔導車に乗り込んだのだった。
******
お知らせ:
小説の続きについて。
一応誰と恋愛関係になるのかについては、既に作者の中で決まっていますが、現在そのメインキャラではないキャラのルートを完結後に書くか検討しています。(分岐としてはクラウスルート、サミュエルルート、ハルトリッヒルートって感じです)
それを決めるために一旦感想欄の解放とX(旧Twitter)の方で質問投げてます。とりあえずその結果見て、他キャラと結ばれて欲しいという意見が多ければ、今後について考えます。気が向いたらよろしくお願いいたします。
550
お気に入りに追加
3,558
あなたにおすすめの小説
公爵令嬢の立場を捨てたお姫様
羽衣 狐火
恋愛
公爵令嬢は暇なんてないわ
舞踏会
お茶会
正妃になるための勉強
…何もかもうんざりですわ!もう公爵令嬢の立場なんか捨ててやる!
王子なんか知りませんわ!
田舎でのんびり暮らします!
〖完結〗私は旦那様には必要ないようですので国へ帰ります。
藍川みいな
恋愛
辺境伯のセバス・ブライト侯爵に嫁いだミーシャは優秀な聖女だった。セバスに嫁いで3年、セバスは愛人を次から次へと作り、やりたい放題だった。
そんなセバスに我慢の限界を迎え、離縁する事を決意したミーシャ。
私がいなければ、あなたはおしまいです。
国境を無事に守れていたのは、聖女ミーシャのおかげだった。ミーシャが守るのをやめた時、セバスは破滅する事になる…。
設定はゆるゆるです。
本編8話で完結になります。
聖女であることを隠す公爵令嬢は国外で幸せになりたい
カレイ
恋愛
公爵令嬢オデットはある日、浮気というありもしない罪で国外追放を受けた。それは王太子妃として王族に嫁いだ姉が仕組んだことで。
聖女の力で虐待を受ける弟ルイスを護っていたオデットは、やっと巡ってきたチャンスだとばかりにルイスを連れ、その日のうちに国を出ることに。しかしそれも一筋縄ではいかず敵が塞がるばかり。
その度に助けてくれるのは、侍女のティアナと、何故か浮気相手と疑われた副騎士団長のサイアス。謎にスキルの高い二人と行動を共にしながら、オデットはルイスを救うため奮闘する。
※胸糞悪いシーンがいくつかあります。苦手な方はお気をつけください。
聖女の取り巻きな婚約者を放置していたら結婚後に溺愛されました。
しぎ
恋愛
※題名変更しました
旧『おっとり令嬢と浮気令息』
3/2 番外(聖女目線)更新予定
ミア・シュヴェストカは貧乏な子爵家の一人娘である。領地のために金持ちの商人の後妻に入ることになっていたが、突然湧いた婚約話により、侯爵家の嫡男の婚約者になることに。戸惑ったミアだったがすぐに事情を知ることになる。彼は聖女を愛する取り巻きの一人だったのだ。仲睦まじい夫婦になることを諦め白い結婚を目指して学園生活を満喫したミア。学園卒業後、結婚した途端何故か婚約者がミアを溺愛し始めて…!
《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。
友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」
貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。
「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」
耳を疑いそう聞き返すも、
「君も、その方が良いのだろう?」
苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。
全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。
絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。
だったのですが。
婚約者の愛した人が聖女ではないと、私は知っています
天宮有
恋愛
私アイラは、3人いる聖女候補の1人だった。
数ヶ月後の儀式を経て聖女が決まるようで、婚約者ルグドは聖女候補のシェムが好きになったと話す。
シェムは間違いなく自分が聖女になると確信して、ルグドも同じ考えのようだ。
そして数日後、儀式の前に私は「アイラ様が聖女です」と報告を受けていた。
【完結】聖女の妊娠で王子と婚約破棄することになりました。私の場所だった王子の隣は聖女様のものに変わるそうです。
五月ふう
恋愛
「聖女が妊娠したから、私とは婚約破棄?!冗談じゃないわよ!!」
私は10歳の時から王子アトラスの婚約者だった。立派な王妃になるために、今までずっと頑張ってきたのだ。今更婚約破棄なんて、認められるわけないのに。
「残念だがもう決まったことさ。」
アトラスはもう私を見てはいなかった。
「けど、あの聖女って、元々貴方の愛人でしょうー??!絶対におかしいわ!!」
私は絶対に認めない。なぜ私が城を追い出され、あの女が王妃になるの?
まさか"聖女"に王妃の座を奪われるなんて思わなかったわーー。
【取り下げ予定】愛されない妃ですので。
ごろごろみかん。
恋愛
王妃になんて、望んでなったわけではない。
国王夫妻のリュシアンとミレーゼの関係は冷えきっていた。
「僕はきみを愛していない」
はっきりそう告げた彼は、ミレーゼ以外の女性を抱き、愛を囁いた。
『お飾り王妃』の名を戴くミレーゼだが、ある日彼女は側妃たちの諍いに巻き込まれ、命を落としてしまう。
(ああ、私の人生ってなんだったんだろう──?)
そう思って人生に終止符を打ったミレーゼだったが、気がつくと結婚前に戻っていた。
しかも、別の人間になっている?
なぜか見知らぬ伯爵令嬢になってしまったミレーゼだが、彼女は決意する。新たな人生、今度はリュシアンに関わることなく、平凡で優しい幸せを掴もう、と。
*年齢制限を18→15に変更しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる