【完結済み】妹が私の婚約者も立場も欲しいらしいので、全てあげようと思います

皇 翼

文字の大きさ
上 下
62 / 79
第三章:ポッシェ村

61.

しおりを挟む
『俺もお前について行く』。
その言葉と共にハルトリッヒは私のブレメンス行きへの同行を願い出た。

「さっきも言ったと思うけど、国王ひいてはブレメンス王国自体と対立する可能性が高いのよ?」
「そんなこと、分かってるが?」
「……そう。ならご自由にどうぞ」

止めても聞かない。ハルトリッヒは既に覚悟を決めてしまっているようだった。
だからこそ自由にさせた。この手の人間は、自分が一度決めたことは曲げないのだ。だからこのフィオレント帝国に強制的に置いて行こうと、その覚悟の強さでフィオレントの王都を破壊してでも私についてきてしまうだろう。そんな予感があった。

私は仕方がないと諦めて納得した。しかし、このハルトリッヒの選択に納得できない者が二人いた――。

******

「ダメだ。信用できない。そんな人間に知らない土地で背中を預けられない」
「僕もこれ以上男が増えるのは嫌だな」
「これ以上男が増える?もしかしてブレメンスにまでついてくる気なの!?」

上からクラウス、サミュエルの意見。まるで一緒にブレメンスに行くかのような二人の物言いに戦慄する。
何をとぼけたことを言っているんだ。意味が暫く飲み込めなかった。

「え……当然そのつもりだったよ」
「来ないでって言っても?」
「王族としての立場をフルに使ってでも同行する!!」

正直なところ、私の事情を知っていると言ってもサミュエルとクラウスはついてこない……否、心配して同行を願い出られたとしても置いていくつもりだった。
これは私自身が自由のみを得るための戦いだ。ブレメンスに到着してしまえば、休む暇もないくらいに戦いの連続になるだろう。
裏切らないという面に於いては人間としても信用しているし、戦闘面ついても信頼している。けれど。

「サミュエルはともかく、クラウスにはそこまでしてもらう義理はないわ。貴方には直接関係がないことだもの」

そう。私と彼ら……特にクラウスは、生死を懸けさせるような仲ではない。
内に秘めた気持ちは置いておいて、これは関係性の問題だ。サミュエルについては勝手に『ソフィア=トリプレート及びフィーア=アドラインを命に代えて守り続けること』などという命を懸けた誓いを立てていたから彼がついてくるのはもう諦めよう。
しかしクラウスは何か制約があるわけではないのだ。

「あはは!じゃあクラウスは留守番だね!!」
「留守番などするつもりはない!!!何故この軽薄男サミュエルは同行が許されて、俺は許されないんだ。それに関係がないとは聞き捨てならない」
「そこの軽薄男サミュエルは、馬鹿なことに『私を守る』という死の制約を立てているのよ。だから同行を許可した」
「……お前、重すぎる男は嫌われるぞ?」
「人の事言えないくらいに重いくせに、なんでクラウスは引いてるの??」

やはりというかなんというかサミュエルがやらかした死の誓いについてはクラウスは知らなかったようだ。
死の誓いなんて聞けば、ドン引きという反応になるよなとクラウスの行動を見ることで自分の中の常識を肯定しながら、話を続ける。

「私の立場や事情は話した。でもブレメンスなんていう危険な場所にクラウスを連れて行く気はない」
「いや、俺も同行する」
「だから、貴方にそんなことをさせるわけには――」
「好いた女が危険な場所に行くと分かっているのに、何も言わずに軽薄な男と、敵か味方か分からない男に任せて平気でいられる男がいるとでも?俺に好きな女も近くで守れないような負け犬になれと??」

好意をハッキリと口に出して言われて、押し黙ってしまう。
クラウスが嘘を吐くような人間ではないと分かっているからこそ、このように気持ちを表に出されると、どう反応していいのか分からなかった。

「それと、関係がないなんて言うな。俺はソフィアの事が好きなんだ。守れるのであれば、死の誓いを立ててもいいと思えるほどに――」
「うっわ。僕の事重いって言ったの謝ってね」
「サミュエルは黙ってて。クラウスも、もう分かった。ついてきていいから、そういう馬鹿な真似はしないで」

私の返答を聞いて、クラウスは満足そうに笑う。
死の誓いパート2をやらせるくらいだったら、まだブレメンスに一緒に来てくれる方がマシだ。サミュエルと同じ誓いなんてされた日には、その命に責任を持ちきれずに心が折れそうだ。
サミュエルもとんでもないことをしでかすが、そんな人間の近くにいたクラウスも放っておくと何をしでかすか分からない人間だと分かってしまった会話だった。正直、周囲にこんなイカレポンチばかりだなんて事実は知りたくなかったが。
しおりを挟む
感想 20

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢は処刑されないように家出しました。

克全
恋愛
「アルファポリス」と「小説家になろう」にも投稿しています。 サンディランズ公爵家令嬢ルシアは毎夜悪夢にうなされた。婚約者のダニエル王太子に裏切られて処刑される夢。実の兄ディビッドが聖女マルティナを愛するあまり、歓心を買うために自分を処刑する夢。兄の友人である次期左将軍マルティンや次期右将軍ディエゴまでが、聖女マルティナを巡って私を陥れて処刑する。どれほど努力し、どれほど正直に生き、どれほど関係を断とうとしても処刑されるのだ。

拝啓、婚約者様。ごきげんよう。そしてさようなら

みおな
恋愛
 子爵令嬢のクロエ・ルーベンスは今日も《おひとり様》で夜会に参加する。 公爵家を継ぐ予定の婚約者がいながら、だ。  クロエの婚約者、クライヴ・コンラッド公爵令息は、婚約が決まった時から一度も婚約者としての義務を果たしていない。  クライヴは、ずっと義妹のファンティーヌを優先するからだ。 「ファンティーヌが熱を出したから、出かけられない」 「ファンティーヌが行きたいと言っているから、エスコートは出来ない」 「ファンティーヌが」 「ファンティーヌが」  だからクロエは、学園卒業式のパーティーで顔を合わせたクライヴに、にっこりと微笑んで伝える。 「私のことはお気になさらず」

そんなに優しいメイドが恋しいなら、どうぞ彼女の元に行ってください。私は、弟達と幸せに暮らしますので。

木山楽斗
恋愛
アルムナ・メルスードは、レバデイン王国に暮らす公爵令嬢である。 彼女は、王国の第三王子であるスルーガと婚約していた。しかし、彼は自身に仕えているメイドに思いを寄せていた。 スルーガは、ことあるごとにメイドと比較して、アルムナを罵倒してくる。そんな日々に耐えられなくなったアルムナは、彼と婚約破棄することにした。 婚約破棄したアルムナは、義弟達の誰かと婚約することになった。新しい婚約者が見つからなかったため、身内と結ばれることになったのである。 父親の計らいで、選択権はアルムナに与えられた。こうして、アルムナは弟の内誰と婚約するか、悩むことになるのだった。 ※下記の関連作品を読むと、より楽しめると思います。

殿下、幼馴染の令嬢を大事にしたい貴方の恋愛ごっこにはもう愛想が尽きました。

和泉鷹央
恋愛
 雪国の祖国を冬の猛威から守るために、聖女カトリーナは病床にふせっていた。  女神様の結界を張り、国を温暖な気候にするためには何か犠牲がいる。  聖女の健康が、その犠牲となっていた。    そんな生活をして十年近く。  カトリーナの許嫁にして幼馴染の王太子ルディは婚約破棄をしたいと言い出した。  その理由はカトリーナを救うためだという。  だが本当はもう一人の幼馴染、フレンヌを王妃に迎えるために、彼らが仕組んだ計略だった――。  他の投稿サイトでも投稿しています。

婚約破棄ですか???実家からちょうど帰ってこいと言われたので好都合です!!!これからは復讐をします!!!~どこにでもある普通の令嬢物語~

tartan321
恋愛
婚約破棄とはなかなか考えたものでございますね。しかしながら、私はもう帰って来いと言われてしまいました。ですから、帰ることにします。これで、あなた様の口うるさい両親や、その他の家族の皆様とも顔を合わせることがないのですね。ラッキーです!!! 壮大なストーリーで奏でる、感動的なファンタジーアドベンチャーです!!!!!最後の涙の理由とは??? 一度完結といたしました。続編は引き続き書きたいと思いますので、よろしくお願いいたします。

【完結】公爵令嬢は、婚約破棄をあっさり受け入れる

櫻井みこと
恋愛
突然、婚約破棄を言い渡された。 彼は社交辞令を真に受けて、自分が愛されていて、そのために私が必死に努力をしているのだと勘違いしていたらしい。 だから泣いて縋ると思っていたらしいですが、それはあり得ません。 私が王妃になるのは確定。その相手がたまたま、あなただった。それだけです。 またまた軽率に短編。 一話…マリエ視点 二話…婚約者視点 三話…子爵令嬢視点 四話…第二王子視点 五話…マリエ視点 六話…兄視点 ※全六話で完結しました。馬鹿すぎる王子にご注意ください。 スピンオフ始めました。 「追放された聖女が隣国の腹黒公爵を頼ったら、国がなくなってしまいました」連載中!

婚約破棄されたので、隠していた力を解放します

ミィタソ
恋愛
「――よって、私は君との婚約を破棄する」  豪華なシャンデリアが輝く舞踏会の会場。その中心で、王太子アレクシスが高らかに宣言した。  周囲の貴族たちは一斉にどよめき、私の顔を覗き込んでくる。興味津々な顔、驚きを隠せない顔、そして――あからさまに嘲笑する顔。  私は、この状況をただ静かに見つめていた。 「……そうですか」  あまりにも予想通りすぎて、拍子抜けするくらいだ。  婚約破棄、大いに結構。  慰謝料でも請求してやりますか。  私には隠された力がある。  これからは自由に生きるとしよう。

婚約破棄をされ、父に追放まで言われた私は、むしろ喜んで出て行きます! ~家を出る時に一緒に来てくれた執事の溺愛が始まりました~

ゆうき
恋愛
男爵家の次女として生まれたシエルは、姉と妹に比べて平凡だからという理由で、父親や姉妹からバカにされ、虐げられる生活を送っていた。 そんな生活に嫌気がさしたシエルは、とある計画を考えつく。それは、婚約者に社交界で婚約を破棄してもらい、その責任を取って家を出て、自由を手に入れるというものだった。 シエルの専属の執事であるラルフや、幼い頃から実の兄のように親しくしてくれていた婚約者の協力の元、シエルは無事に婚約を破棄され、父親に見捨てられて家を出ることになった。 ラルフも一緒に来てくれることとなり、これで念願の自由を手に入れたシエル。しかし、シエルにはどこにも行くあてはなかった。 それをラルフに伝えると、隣の国にあるラルフの故郷に行こうと提案される。 それを承諾したシエルは、これからの自由で幸せな日々を手に入れられると胸を躍らせていたが、その幸せは家族によって邪魔をされてしまう。 なんと、家族はシエルとラルフを広大な湖に捨て、自らの手を汚さずに二人を亡き者にしようとしていた―― ☆誤字脱字が多いですが、見つけ次第直しますのでご了承ください☆ ☆全文字はだいたい14万文字になっています☆ ☆完結まで予約済みなので、エタることはありません!☆

処理中です...