上 下
58 / 74
第三章:ポッシェ村

57.ソフィアの告白

しおりを挟む
ポッシェ村の私達の仮住まいに帰ってから、私は全てを話した。
私がブレメンスの聖女だったこと、身体にはその聖女の刻印が刻まれていること、サミュエルには聖女だったころに出会ったこと、婚約者がいたが妹と婚約者が結ばれたことで追い出されてしまったこと、身分を失ってからは『フィーア=アドライン』という偽名を使って魔道具を作っていたこと、そしてこの間襲ってきた襲撃犯たちは元聖女の私を殺すためにブレメンスから差し向けられたという事実を――。
途中でサミュエルがクラウスを見ながら何度も溜息を吐いていたが、それは無視した。どうせくだらない嫉妬だろう。サミュエルはクラウスが知らないということに優越感を持っていたようだから。相変わらず性格が悪すぎる。

「これで全部よ。もし聞いて後悔したならすぐに王都に戻って。全てが終わったら知らせるから、安全なところに居た方が良いわ」

そう。私は私の命を狙っている元をこれから処理しに行くつもりだ。せっかく治療したハルトリッヒとはきっとまた敵対することになるのだろう。今回は彼の仲間から彼らへの依頼内容を聞き出したから、その対価を支払うためにも彼を助けた。情報だけ抜き出して、見殺しは私の正義ではないから。しかし私の前に立ちはだかるというのであれば、彼をまた倒す覚悟が私にはある。私だって死にたくはないのだ。
だから、それらの処理が全て終わったら、秘密を知ってしまったクラウスの安全も確保されるだろう。だからそう言った……のだが。

「俺は後悔なんてしていない」

クラウスから返ってきたのは、こちらを真っすぐに見つめる瞳だった。
初めて出会った時と同じ意思の強さを秘めた瞳。もしかしたらクラウスは私がこの国の人間ではない、別の国、別の立場を持つ人間だということに気付いていたのかもしれない。それか私の秘密について、既になんとなく知っていたか。そう疑っていたが――。

「正直、フィーアがソフィア=トリプレート……聖女だったことには驚いた。だが、俺が想定していたほどの秘密ではなかったから、安心もした」
「……私、どんな秘密を抱えてると思われていたの」
「過去に償い切れない程の犯罪を犯した、とかか?あとは国の一つや二つは滅ぼしてそうとも思っていたな。魔法の研究のための大量虐殺とか、遊び感覚で街に魔物を誘導したとか」
「えっと、私ってクラウスにそんなに嫌われていたの??」

なんて男なんだ。犯罪者だの国を滅ぼしてそうだのと、私に対して持っているイメージが酷すぎやしないか?
私の気のせいでなければ、私はこの男から愛の告白を受けた気がするのだが。正直返事を求められると困るが、確実に嫌われてはいないと思っていただけに、こんなイメージを持たれていたのは若干ショックだ。
私はそんなに犯罪を犯しそうなのだろうか。これでも品行方正に生きてきたつもりなのだが。

「お前……ソフィアの力だったら出来るだろう。国を滅ぼすだのの下りは冗談として、あんな刻印を刻まれたような人間たちが差し向けられているくらいだ。何かしらの事情があって、とんでもないことをしでかしているのではないかと疑ってはいた」
「ちなみに私が大犯罪者だった場合はどうしたの?」
「そう、だな。それがどんなものだったとしても、一生をかけて一緒に罪を償うつもりだったさ」
「……クラウスは相変わらず真面目ね」

彼の答えを聞いて、少しだけ安心した。
クラウスはやはり正常な倫理観を持っている。彼であればきっと、私が人間としての道を踏み外しそうになったとしても止めてくれるのだろう。そんな気がする。

「うん。クラウスは真面目だし、厳しすぎるよ」
「うっわ、びっくりした。急に復活しないで」

先程までしぼんでいたサミュエルが急に会話に横入りしてきた。暫くは静かだろうと思っていただけに驚きも大きい。

「好きな女が身体を壊しそうになりながら悩んでいたんだ。当然、その気持ちを軽くするためにもできることはするだろう」
「本当、僕とは真逆のタイプだ!」
「お前はむしろ、一緒に罪を犯しそうだな」
「ええー!ひどい!!」

この二人は相変わらず仲がいいなと思う。二人ともがお互いのことを熟知している。
しかしサミュエルについては私も思ったことだ。もしも道を踏み外しそうになった場合、クラウスは止めてくれる人間だが、サミュエルは共に堕ち続ける人間だろう。本当に真逆な二人だと私も思う。しかしそんな二人だからこそ、相性が良いのかもしれない。
そんなことを感じながら、未だに言い争っている二人を置いて、今夜の食事を用意するためにキッチンへ向かった。今日は私が美味しいものを作ろうと思う。

******

Twitterにおまけ載せてます。
なんかクラウスとサミュエルの会話文みたいなやつです。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

転生悪役令嬢の考察。

saito
恋愛
転生悪役令嬢とは何なのかを考える転生悪役令嬢。 ご感想頂けるととても励みになります。

さよなら、英雄になった旦那様~ただ祈るだけの役立たずの妻のはずでしたが…~

遠雷
恋愛
「フローラ、すまない……。エミリーは戦地でずっと俺を支えてくれたんだ。俺はそんな彼女を愛してしまった......」 戦地から戻り、聖騎士として英雄になった夫エリオットから、帰還早々に妻であるフローラに突き付けられた離縁状。エリオットの傍らには、可憐な容姿の女性が立っている。 周囲の者達も一様に、エリオットと共に数多の死地を抜け聖女と呼ばれるようになった女性エミリーを称え、安全な王都に暮らし日々祈るばかりだったフローラを庇う者はごく僅かだった。 「……わかりました、旦那様」 反論も無く粛々と離縁を受け入れ、フローラは王都から姿を消した。 その日を境に、エリオットの周囲では異変が起こり始める。

捨てられ令嬢の恋

白雪みなと
恋愛
「お前なんかいらない」と言われてしまった子爵令嬢のルーナ。途方に暮れていたところに、大嫌いな男爵家の嫡男であるグラスが声を掛けてきてーー。

ペットたちと一緒に異世界へ転生!?魔法を覚えて、皆とのんびり過ごしたい。

千晶もーこ
ファンタジー
疲労で亡くなってしまった和菓。 気付いたら、異世界に転生していた。 なんと、そこには前世で飼っていた犬、猫、インコもいた!? 物語のような魔法も覚えたいけど、一番は皆で楽しくのんびり過ごすのが目標です! ※この話は小説家になろう様へも掲載しています

〖完結〗二度目は決してあなたとは結婚しません。

藍川みいな
恋愛
15歳の時に結婚を申し込まれ、サミュエルと結婚したロディア。 ある日、サミュエルが見ず知らずの女とキスをしているところを見てしまう。 愛していた夫の口から、妻など愛してはいないと言われ、ロディアは離婚を決意する。 だが、夫はロディアを愛しているから離婚はしないとロディアに泣きつく。 その光景を見ていた愛人は、ロディアを殺してしまう...。 目を覚ましたロディアは、15歳の時に戻っていた。 毎日0時更新 全12話です。

虚弱で大人しい姉のことが、婚約者のあの方はお好きなようで……

くわっと
恋愛
21.05.23完結 ーー 「ごめんなさい、姉が私の帰りを待っていますのでーー」 差し伸べられた手をするりとかわす。 これが、公爵家令嬢リトアの婚約者『でも』あるカストリアの決まり文句である。 決まり文句、というだけで、その言葉には嘘偽りはない。 彼の最愛の姉であるイデアは本当に彼の帰りを待っているし、婚約者の一人でもあるリトアとの甘い時間を終わらせたくないのも本当である。 だが、本当であるからこそ、余計にタチが悪い。 地位も名誉も権力も。 武力も知力も財力も。 全て、とは言わないにしろ、そのほとんどを所有しているこの男のことが。 月並みに好きな自分が、ただただみっともない。 けれど、それでも。 一緒にいられるならば。 婚約者という、その他大勢とは違う立場にいられるならば。 それだけで良かった。 少なくとも、その時は。

そんなに妹が好きなら死んであげます。

克全
恋愛
「アルファポリス」「カクヨム」「小説家になろう」に同時投稿しています。 『思い詰めて毒を飲んだら周りが動き出しました』 フィアル公爵家の長女オードリーは、父や母、弟や妹に苛め抜かれていた。 それどころか婚約者であるはずのジェイムズ第一王子や国王王妃にも邪魔者扱いにされていた。 そもそもオードリーはフィアル公爵家の娘ではない。 イルフランド王国を救った大恩人、大賢者ルーパスの娘だ。 異世界に逃げた大魔王を追って勇者と共にこの世界を去った大賢者ルーパス。 何の音沙汰もない勇者達が死んだと思った王達は……

旦那様、最後に一言よろしいでしょうか?

甘糖むい
恋愛
白い結婚をしてから3年目。 夫ライドとメイドのロゼールに召使いのような扱いを受けていたエラリアは、ロゼールが妊娠した事を知らされ離婚を決意する。 「死んでくれ」 夫にそう言われるまでは。

処理中です...