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第三章:ポッシェ村

55.食事会①

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あれから。
ハルトリッヒは特に逃げ出すこともなく、大人しく私が作ったものや彼のためにオリジナルレシピで調合した魔法薬を飲むことで、失った体力と、万全でない体調を取り戻し始めていた。
一応は彼の専属のドクターのような立場になってしまったので、今日も様子を見に――行こうとしたのだが。

「さて、今日は僕とデートしてもらうよ」
「え、無理」
「約束してたのに!!?」

なるほど。今日が約束の日だった様だ。完全に頭から抜け落ちていたが。

「もう、ハルトリッヒの容体は君がつきっきりで世話しなくても大丈夫なくらいには回復したのだろう?」
「そう、ね。もうそろそろ外に出ても問題ないレベルには回復しているわ」

少し前までは、食事のほかに少量だが魔力を彼に流し込むことで魔力補給も一緒にしていたが、今はそれはしていない。きちんと食事をして、規則正しく睡眠をとれば、あと数日できっと元の状態と同等くらいには戻るだろうと予測している。
正直、彼がその後どのような行動をとるのかは私には分からない。
ブレメンスに戻るのか、私とまた対峙するのか、それともブレメンスを出て平和に暮らすのか。被害に遭ったのが私だけということもあって、私から何か行動を起こさなければ、彼が牢獄にぶち込まれたりすることはない。だから最終的には彼の選択次第なのだ。
話が逸れたが、私は今日もハルトリッヒの元へ行く予定だった。自分がやり始めたことだ。最後まで責任を取る必要がある。

「じゃあ、僕とデートし――」
「ない」
「即答かー。でも僕、よくよく考えると、ハルトリッヒと一緒にいた敵の相手をした時のご褒美ももらってないんだよね。僕ってかわいそー」

痛いところを突かれた。
正直、ハルトリッヒの回復に専念しすぎて彼らにお礼の言葉すら言っていないことを思い出したのだ。それに最近クラウスの様子もおかしい。さっきも見かけたが、何か思い悩んでいるように見えた。

「分かった」
「お?デートしてくれるんだ!!やったー!!どこ行く!?僕のおすすめは――」
「今日は貴方とクラウスにお礼をする日にするわ」
「……なんて?3人で出かけるのはデートとは呼ばないよ??分かってる!?」
「分かっているけど?貴方はお礼をして欲しい。だから、私はこれからお礼をする」

クラウスも一緒と聞いて、明らかにサミュエルが落ち込むが、丁度いい機会かもしれない。それに最近はいろんなことがありすぎて、私も少し疲れている。お礼も兼ねて、美味しいものでも食べに行って、クラウスの悩んでいることも聞き出せれば上々。

「……デートは別の日に、ね」
「やっぱり、僕は君のそういうところが好きだよ」

熱烈な告白をされてしまったが、一応私の言うことを聞いて、色んな面で私のことを支えてくれている彼へのお礼でもある。彼が望むこと全てを叶えてあげることは出来ないが、デートくらいだったら良いだろう。
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