55 / 74
第三章:ポッシェ村
54.ハルトリッヒの目覚め③
しおりを挟む
米、鶏肉、バター、ケチャップ、玉ねぎ、卵、ソースを用意して、魔力を込めることで中身を置き換えていく。
トレースする魔力については、ハルトリッヒから事前に貰っておいた髪の毛を媒体にしている。真っ黒な部分の毛を貰ったから、失くしにくくて便利だなと無駄に触り心地が良い水分量も申し分のないソレを軽くいじる。
そうしている間に、食材が元々持っている魔力の置き換えは完了した。今回料理で使う火もあらかじめ彼の魔力でつけておく。これで準備は完了だ。
それにしてもオムライスを作るのは久しぶりだった。
ブレメンスに居た時は材料調達含めて全て自分でやっていたが、王都では全て食事が出て、そこまでの道中でも大体は外食か保存食だったからだ。作ってもお菓子くらいだ。それに直近では、クラウスやサミュエルが気を利かせて作ってくれていたので、それに甘え切っていた。
「さて、卵3つ使っちゃおう」
調理を開始すれば、時間を空けていたといっても勝手に手が動いて料理を作っていた。
バターで炒めた玉ねぎと鶏肉の甘い香りが漂う。それに少しだけお腹を空かせながらも、ごはんとケチャップを加えてチキンライスを作る。一方、別の鍋ではケチャップとソースが煮詰まり、濃厚なデミグラスソースの香りが立ち上っていた。
ここまで完成したところで、フライパンの上にあらかじめ溶いておいた卵と牛乳を混ぜたものを落としてふんわりと固めていく。じゅわじゅわと焼ける音が心地よかった。中にチキンライスを閉じ込め、触れば破けてしまいそうなくらいにやわらかいオムライスの完成だ。
最後に、器に盛り付けられたオムライスの上に、濃厚なデミグラスソースがたっぷりとかけた。
我ながら美味しそうにできたと思う。お店にも出せそうだなと自画自賛しながら、同時進行で作っていたオニオンスープもよそっておく。これももちろん、ハルトリッヒの魔力で置き換え済みだ。もしハルトリッヒが実は予想以上に弱っていて、オムライスという固形物が食べられなかった場合もこちらだけでも食べられればと思って用意したものだ。
こうして料理の準備は1時間もかからずに終わった。ねんのため、ハルトリッヒの魔力で保温魔法をかけながら、彼のいる部屋にそれらを運ぶ。
「はい。ご飯持ってきた」
ハルトリッヒは私が持ってきたものを見ると同時に、スプーンを奪い取るように私の手からひったくった。しかし、食べようとスプーンで掬おうとする手つきは少し震えている。毒でも盛っていると思われているのだろうか。そんなものを盛っていないと証明するために、代わりに最初の一口を食べてあげようとしたところで、ハルトリッヒが決意したように動いた。お腹が空き始めていただけに少しだけ残念に思ったことは秘密だ。
決意したら早いようで、彼は掬ったそれを口に突っ込んだ。
「……やっぱり貴方自身の魔力で染め上げたものは食べられるのね」
実のところ、原理的には出来るだろうが、実際に食べられるかは賭けの部分があったので、きちんと咀嚼して飲み込んだのを見て、胸をなでおろした。
ボケっとハルトリッヒを観察していたのだが、ハルトリッヒが2口目を口に運ぼうとしたところでギョッとする。
「なんで泣いてるの!!?」
「え……は?なんだ、これ」
ぽろぽろと金色の瞳から涙が落ちていく。
え、泣くほどまずかった?何か分量を間違えてしまった??と戸惑うが、ハルトリッヒは休むことなくスプーンを使ってオムライスを減らしていった。
そしてオニオンスープまで完食した後に一言、とても小さな声で呟いた。
「美味しかった……ありがとう」
「どういたしまして。貴方が回復するまではまた作るわ」
一応、不味すぎて泣いたわけではなかったようで安心した。
何故泣いたのかは彼の感情の問題もあるような気がしたので、深くは聞かなかった。今は普通に起きてボケっとしているので、体調的には問題ないのだろう。
完全に回復する日もそう遠くはないのだろうと思いながら、彼の居る部屋を後にした。
トレースする魔力については、ハルトリッヒから事前に貰っておいた髪の毛を媒体にしている。真っ黒な部分の毛を貰ったから、失くしにくくて便利だなと無駄に触り心地が良い水分量も申し分のないソレを軽くいじる。
そうしている間に、食材が元々持っている魔力の置き換えは完了した。今回料理で使う火もあらかじめ彼の魔力でつけておく。これで準備は完了だ。
それにしてもオムライスを作るのは久しぶりだった。
ブレメンスに居た時は材料調達含めて全て自分でやっていたが、王都では全て食事が出て、そこまでの道中でも大体は外食か保存食だったからだ。作ってもお菓子くらいだ。それに直近では、クラウスやサミュエルが気を利かせて作ってくれていたので、それに甘え切っていた。
「さて、卵3つ使っちゃおう」
調理を開始すれば、時間を空けていたといっても勝手に手が動いて料理を作っていた。
バターで炒めた玉ねぎと鶏肉の甘い香りが漂う。それに少しだけお腹を空かせながらも、ごはんとケチャップを加えてチキンライスを作る。一方、別の鍋ではケチャップとソースが煮詰まり、濃厚なデミグラスソースの香りが立ち上っていた。
ここまで完成したところで、フライパンの上にあらかじめ溶いておいた卵と牛乳を混ぜたものを落としてふんわりと固めていく。じゅわじゅわと焼ける音が心地よかった。中にチキンライスを閉じ込め、触れば破けてしまいそうなくらいにやわらかいオムライスの完成だ。
最後に、器に盛り付けられたオムライスの上に、濃厚なデミグラスソースがたっぷりとかけた。
我ながら美味しそうにできたと思う。お店にも出せそうだなと自画自賛しながら、同時進行で作っていたオニオンスープもよそっておく。これももちろん、ハルトリッヒの魔力で置き換え済みだ。もしハルトリッヒが実は予想以上に弱っていて、オムライスという固形物が食べられなかった場合もこちらだけでも食べられればと思って用意したものだ。
こうして料理の準備は1時間もかからずに終わった。ねんのため、ハルトリッヒの魔力で保温魔法をかけながら、彼のいる部屋にそれらを運ぶ。
「はい。ご飯持ってきた」
ハルトリッヒは私が持ってきたものを見ると同時に、スプーンを奪い取るように私の手からひったくった。しかし、食べようとスプーンで掬おうとする手つきは少し震えている。毒でも盛っていると思われているのだろうか。そんなものを盛っていないと証明するために、代わりに最初の一口を食べてあげようとしたところで、ハルトリッヒが決意したように動いた。お腹が空き始めていただけに少しだけ残念に思ったことは秘密だ。
決意したら早いようで、彼は掬ったそれを口に突っ込んだ。
「……やっぱり貴方自身の魔力で染め上げたものは食べられるのね」
実のところ、原理的には出来るだろうが、実際に食べられるかは賭けの部分があったので、きちんと咀嚼して飲み込んだのを見て、胸をなでおろした。
ボケっとハルトリッヒを観察していたのだが、ハルトリッヒが2口目を口に運ぼうとしたところでギョッとする。
「なんで泣いてるの!!?」
「え……は?なんだ、これ」
ぽろぽろと金色の瞳から涙が落ちていく。
え、泣くほどまずかった?何か分量を間違えてしまった??と戸惑うが、ハルトリッヒは休むことなくスプーンを使ってオムライスを減らしていった。
そしてオニオンスープまで完食した後に一言、とても小さな声で呟いた。
「美味しかった……ありがとう」
「どういたしまして。貴方が回復するまではまた作るわ」
一応、不味すぎて泣いたわけではなかったようで安心した。
何故泣いたのかは彼の感情の問題もあるような気がしたので、深くは聞かなかった。今は普通に起きてボケっとしているので、体調的には問題ないのだろう。
完全に回復する日もそう遠くはないのだろうと思いながら、彼の居る部屋を後にした。
862
お気に入りに追加
3,603
あなたにおすすめの小説
チート過ぎるご令嬢、国外追放される
舘野寧依
恋愛
わたしはルーシエ・ローゼス公爵令嬢。
舞踏会の場で、男爵令嬢を虐めた罪とかで王太子様に婚約破棄、国外追放を命じられました。
国外追放されても別に困りませんし、この方と今後関わらなくてもいいのは嬉しい限りです! 喜んで国外追放されましょう。
……ですが、わたしの周りの方達はそうは取らなかったようで……。どうか皆様穏便にお願い致します。
【完結】殿下、自由にさせていただきます。
なか
恋愛
「出て行ってくれリルレット。王宮に君が住む必要はなくなった」
その言葉と同時に私の五年間に及ぶ初恋は終わりを告げた。
アルフレッド殿下の妃候補として選ばれ、心の底から喜んでいた私はもういない。
髪を綺麗だと言ってくれた口からは、私を貶める言葉しか出てこない。
見惚れてしまう程の笑みは、もう見せてもくれない。
私………貴方に嫌われた理由が分からないよ。
初夜を私一人だけにしたあの日から、貴方はどうして変わってしまったの?
恋心は砕かれた私は死さえ考えたが、過去に見知らぬ男性から渡された本をきっかけに騎士を目指す。
しかし、正騎士団は女人禁制。
故に私は男性と性別を偽って生きていく事を決めたのに……。
晴れて騎士となった私を待っていたのは、全てを見抜いて笑う副団長であった。
身分を明かせない私は、全てを知っている彼と秘密の恋をする事になる。
そして、騎士として王宮内で起きた変死事件やアルフレッドの奇行に大きく関わり、やがて王宮に蔓延る謎と対峙する。
これは、私の初恋が終わり。
僕として新たな人生を歩みだした話。
誰も信じてくれないので、森の獣達と暮らすことにしました。その結果、国が大変なことになっているようですが、私には関係ありません。
木山楽斗
恋愛
エルドー王国の聖女ミレイナは、予知夢で王国が龍に襲われるという事実を知った。
それを国の人々に伝えるものの、誰にも信じられず、それ所か虚言癖と避難されることになってしまう。
誰にも信じてもらえず、罵倒される。
そんな状況に疲弊した彼女は、国から出て行くことを決意した。
実はミレイナはエルドー王国で生まれ育ったという訳ではなかった。
彼女は、精霊の森という森で生まれ育ったのである。
故郷に戻った彼女は、兄弟のような関係の狼シャルピードと再会した。
彼はミレイナを快く受け入れてくれた。
こうして、彼女はシャルピードを含む森の獣達と平和に暮らすようになった。
そんな彼女の元に、ある時知らせが入ってくる。エルドー王国が、予知夢の通りに龍に襲われていると。
しかし、彼女は王国を助けようという気にはならなかった。
むしろ、散々忠告したのに、何も準備をしていなかった王国への失望が、強まるばかりだったのだ。
駒として無能なお前は追放する?ええ、どうぞ?けど、聖女の私が一番権力を持っているんですが?
水垣するめ
恋愛
主人公エミリー・ヘミングスは男爵家の令嬢として生まれた。
しかし、父のトーマスから聖女として働くことを強制される。
聖女という地位には大きな権力と名声、そして金が入ってくるからだ。
エミリーは朝から晩まで働かされ、屋敷からも隔離され汚い小屋で暮すことを強要される。
一度駒として働くことが嫌になってトーマスに「聖女をやめたいです……」と言ったが、「駒が口答えするなっ!」と気絶しそうになるぐらいまで殴られた。
次に逆らえば家から追放するとまでいわれた。
それからエミリーは聖女をやめることも出来ずに日々を過ごしてきた。
しかしエミリーは諦めなかった。
強制的に働かされてきた聖女の権力を使い、毒親へと反撃することを決意する。
虐げられた私、ずっと一緒にいた精霊たちの王に愛される〜私が愛し子だなんて知りませんでした〜
ボタニカルseven
恋愛
「今までお世話になりました」
あぁ、これでやっとこの人たちから解放されるんだ。
「セレス様、行きましょう」
「ありがとう、リリ」
私はセレス・バートレイ。四歳の頃に母親がなくなり父がしばらく家を留守にしたかと思えば愛人とその子供を連れてきた。私はそれから今までその愛人と子供に虐げられてきた。心が折れそうになった時だってあったが、いつも隣で見守ってきてくれた精霊たちが支えてくれた。
ある日精霊たちはいった。
「あの方が迎えに来る」
カクヨム/なろう様でも連載させていただいております
あなたが、王太子になれたのは、私のおかげだったみたい。でも、婚約破棄するからしかたありませんね。これからあなたはただのクズです。
猿喰 森繁
恋愛
まぁ、王子どころか廃太子になりそうですけど。
それは、覚悟のうちでしたよね?
百年の恋も冷める瞬間とは、いったいどんな瞬間でしょうか。
私の場合は、婚約者と知らない女が、裸で寝ているところを見た瞬間でしょうか。
私の名前は、ナターシャ・アウルムメタール。
国を支える御三家の一つ、アウルムメタール侯爵家の娘。
ダイヤモンド鉱山や金鉱を持った我が一族は、莫大な富を有しております。
婚約者に朝食をともにしようと、誘われたのはいいのですが、いつまで経っても、朝食の席に現れない婚約者にしびれを切らして、部屋に入ってみれば、裸で寝ている婚約者と男爵令嬢の姿がありました。
このまま叫んで、婚約破棄を訴えても良いのですが、さすがに王太子ともあろうお方。
そんなことをすれば、王族の支持率が、爆下がりしてしまうことでしょう。
そんなわけで、私は、穏便に事を済ませようと、浮気の証拠を集めて、陛下に突きつけ、婚約解消をしてもらおうと、コツコツ証拠集めに精を出しておりました。
そんな時、留学していた隣国から、第2王子が帰ってこられました。
結局、王太子は、廃太子になり、借金と浮気女を両手に抱えて、平民の生活を送ることになったしまったようです。
だから、穏便に済ませてあげようと思いましたのに。
【完結】公女が死んだ、その後のこと
杜野秋人
恋愛
【第17回恋愛小説大賞 奨励賞受賞しました!】
「お母様……」
冷たく薄暗く、不潔で不快な地下の罪人牢で、彼女は独り、亡き母に語りかける。その掌の中には、ひと粒の小さな白い錠剤。
古ぼけた簡易寝台に座り、彼女はそのままゆっくりと、覚悟を決めたように横たわる。
「言いつけを、守ります」
最期にそう呟いて、彼女は震える手で錠剤を口に含み、そのまま飲み下した。
こうして、第二王子ボアネルジェスの婚約者でありカストリア公爵家の次期女公爵でもある公女オフィーリアは、獄中にて自ら命を断った。
そして彼女の死後、その影響はマケダニア王国の王宮内外の至るところで噴出した。
「ええい、公務が回らん!オフィーリアは何をやっている!?」
「殿下は何を仰せか!すでに公女は儚くなられたでしょうが!」
「くっ……、な、ならば蘇生させ」
「あれから何日経つとお思いで!?お気は確かか!」
「何故だ!何故この私が裁かれねばならん!」
「そうよ!お父様も私も何も悪くないわ!悪いのは全部お義姉さまよ!」
「…………申し開きがあるのなら、今ここではなく取り調べと裁判の場で存分に申すがよいわ。⸺連れて行け」
「まっ、待て!話を」
「嫌ぁ〜!」
「今さら何しに戻ってきたかね先々代様。わしらはもう、公女さま以外にお仕えする気も従う気もないんじゃがな?」
「なっ……貴様!領主たる儂の言うことが聞けんと」
「領主だったのは亡くなった女公さまとその娘の公女さまじゃ。あの方らはあんたと違って、わしら領民を第一に考えて下さった。あんたと違ってな!」
「くっ……!」
「なっ、譲位せよだと!?」
「本国の決定にございます。これ以上の混迷は連邦友邦にまで悪影響を与えかねないと。⸺潔く観念なさいませ。さあ、ご署名を」
「おのれ、謀りおったか!」
「…………父上が悪いのですよ。あの時止めてさえいれば、彼女は死なずに済んだのに」
◆人が亡くなる描写、及びベッドシーンがあるのでR15で。生々しい表現は避けています。
◆公女が亡くなってからが本番。なので最初の方、恋愛要素はほぼありません。最後はちゃんとジャンル:恋愛です。
◆ドアマットヒロインを書こうとしたはずが。どうしてこうなった?
◆作中の演出として自死のシーンがありますが、決して推奨し助長するものではありません。早まっちゃう前に然るべき窓口に一言相談を。
◆作者の作品は特に断りなき場合、基本的に同一の世界観に基づいています。が、他作品とリンクする予定は特にありません。本作単品でお楽しみ頂けます。
◆この作品は小説家になろうでも公開します。
◆24/2/17、HOTランキング女性向け1位!?1位は初ですありがとうございます!
偽物と断罪された令嬢が精霊に溺愛されていたら
影茸
恋愛
公爵令嬢マレシアは偽聖女として、一方的に断罪された。
あらゆる罪を着せられ、一切の弁明も許されずに。
けれど、断罪したもの達は知らない。
彼女は偽物であれ、無力ではなく。
──彼女こそ真の聖女と、多くのものが認めていたことを。
(書きたいネタが出てきてしまったゆえの、衝動的短編です)
(少しだけタイトル変えました)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる