上 下
52 / 74
第三章:ポッシェ村

51.魔力欠乏症③

しおりを挟む
他人の体内の臓器器官の修復なんて久しぶりだ。ブレメンスに居た頃以来だろうか。
しかも今回は自分の魔力を相手の魔力に同調させながら治療するという今までにしたことのない試みをしなければならない。患者の今の状態を分析してみればみるほどに、治療を始める前からその難易度の高さひしひしと感じていた。

「村中のものと、騎士たちから集めてきたもの、これで全部だよ」
「ありがとう」
「無理はしないでね。最低なことを言うけど、僕は彼の命よりも君の方が大切だと思っている。もし彼が死んだとしても、君のせいではない。そもそも君は被害者なんだ」

きっとサミュエルは治療内容については全て理解できていないだろうが、私の焦り具合やハルトリッヒの魔力の量などから、状況が芳しくないことは分かっているのだろう。だから私を気遣って、事前に声をかけてくれている。失敗したとしても私が気に病まないように、わざわざ言葉を掛けてくれているのだ。身内だと認めた者には甘い男だと思った。

けれど、私には失敗する気などなかった。ハルトリッヒのボロボロになった姿が、過去の疲弊しきって死にかけていた自分と重なったからだろうか。救いたいとそう強く思ったのだ。
ハルトリッヒからはブレメンスの災厄だと思われていることは知っている。しかし、恨まれているからと言って、出来ることがあるにも関わらず何もしないのは違うだろう。

他の人間の強力な魔力が近くにあると集中できないから、エーテルを持ってきてくれたサミュエルには出て行ってもらった。これから私は魔力が空っぽになって、それをエーテルで強制的に補給して、また空っぽになるという地獄を繰り返すのだろう。かつて何度も感じた苦しみを思い出して身震いするが、動かないわけにはいかない。決意を固めて、眠っているハルトリッヒの身体と向き合った。
透視魔法を目に掛けて、ハルトリッヒの体内の様子を観察しながら、数ミクロン単位で修復していく。集中力が少しでも途切れてしまえば、ハルトリッヒの刻印によって私の身体は弾かれて、治療どころではなくなってしまうだろう。そして私を弾いた彼の身体は、魔法を強制的に使ったことによって体内が更に傷付く。そこまで分かっているからこそ一つもミスなんて出来なかった。
定期的にエーテルを取り込みながら、自身の魔力を彼と同調させて少しずつ修復をしていった。

******

「おわ、った――」

完璧に治療が終わったという安心感から、身体から力が抜け落ちる。咄嗟にベッドの端を手で弾いたので、ハルトリッヒの身体に顔面から突っ込むという事故は起こらなかった。
しかし身体は固い床に伏せる形になってしまった。魔法と魔力を酷使しすぎて身体が熱い。私は今、熱が出ているのだろうことが分かる。冷たい床がただただ心地良くて、全てが終わった安心感も相まって、私は意識を手放してしまった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

断腸の思いで王家に差し出した孫娘が婚約破棄されて帰ってきた

兎屋亀吉
恋愛
ある日王家主催のパーティに行くといって出かけた孫娘のエリカが泣きながら帰ってきた。買ったばかりのドレスは真っ赤なワインで汚され、左頬は腫れていた。話を聞くと王子に婚約を破棄され、取り巻きたちに酷いことをされたという。許せん。戦じゃ。この命燃え尽きようとも、必ずや王家を滅ぼしてみせようぞ。

【完結】契約妻の小さな復讐

恋愛
「余計な事をせず、ただ3年間だけ僕の妻でいればいい」 借金の肩代わりで伯爵家に嫁いだクロエは夫であるジュライアに結婚初日そう告げられる。彼には兼ねてから愛し合っていた娼婦がいて、彼女の奉公が終わるまでの3年間だけクロエを妻として迎えようとしていた。 身勝手でお馬鹿な旦那様、この3年分の恨みはちゃんと晴らさせて貰います。 ※誤字脱字はご了承下さい。 タイトルに※が付いているものは性描写があります。ご注意下さい。

【完結】亡き冷遇妃がのこしたもの〜王の後悔〜

なか
恋愛
「セレリナ妃が、自死されました」  静寂をかき消す、衛兵の報告。  瞬間、周囲の視線がたった一人に注がれる。  コリウス王国の国王––レオン・コリウス。  彼は正妃セレリナの死を告げる報告に、ただ一言呟く。 「構わん」……と。  周囲から突き刺さるような睨みを受けても、彼は気にしない。  これは……彼が望んだ結末であるからだ。  しかし彼は知らない。  この日を境にセレリナが残したものを知り、後悔に苛まれていくことを。  王妃セレリナ。  彼女に消えて欲しかったのは……  いったい誰か?    ◇◇◇  序盤はシリアスです。  楽しんでいただけるとうれしいです。    

断罪されているのは私の妻なんですが?

すずまる
恋愛
 仕事の都合もあり王家のパーティーに遅れて会場入りすると何やら第一王子殿下が群衆の中の1人を指差し叫んでいた。 「貴様の様に地味なくせに身分とプライドだけは高い女は王太子である俺の婚約者に相応しくない!俺にはこのジャスミンの様に可憐で美しい女性こそが似合うのだ!しかも貴様はジャスミンの美貌に嫉妬して彼女を虐めていたと聞いている!貴様との婚約などこの場で破棄してくれるわ!」  ん?第一王子殿下に婚約者なんていたか?  そう思い指さされていた女性を見ると⋯⋯? *-=-*-=-*-=-*-=-* 本編は1話完結です‪(꒪ㅂ꒪)‬ …が、設定ゆるゆる過ぎたと反省したのでちょっと色付けを鋭意執筆中(; ̄∀ ̄)スミマセン

【完結】いてもいなくてもいい妻のようですので 妻の座を返上いたします!

ユユ
恋愛
夫とは卒業と同時に婚姻、 1年以内に妊娠そして出産。 跡継ぎを産んで女主人以上の 役割を果たしていたし、 円満だと思っていた。 夫の本音を聞くまでは。 そして息子が他人に思えた。 いてもいなくてもいい存在?萎んだ花? 分かりました。どうぞ若い妻をお迎えください。 * 作り話です * 完結保証付き * 暇つぶしにどうぞ

危害を加えられたので予定よりも早く婚約を白紙撤回できました

しゃーりん
恋愛
階段から突き落とされて、目が覚めるといろんな記憶を失っていたアンジェリーナ。 自分のことも誰のことも覚えていない。 王太子殿下の婚約者であったことも忘れ、結婚式は来年なのに殿下には恋人がいるという。 聞くところによると、婚約は白紙撤回が前提だった。 なぜアンジェリーナが危害を加えられたのかはわからないが、それにより予定よりも早く婚約を白紙撤回することになったというお話です。

あなたが見放されたのは私のせいではありませんよ?

しゃーりん
恋愛
アヴリルは2年前、王太子殿下から婚約破棄を命じられた。 そして今日、第一王子殿下から離婚を命じられた。 第一王子殿下は、2年前に婚約破棄を命じた男でもある。そしてアヴリルの夫ではない。 周りは呆れて失笑。理由を聞いて爆笑。巻き込まれたアヴリルはため息といったお話です。

私が我慢する必要ありますか?

青太郎
恋愛
ある日前世の記憶が戻りました。 そして気付いてしまったのです。 私が我慢する必要ありますか? 他サイトでも公開中です

処理中です...