上 下
51 / 74
第三章:ポッシェ村

50.魔力欠乏症②

しおりを挟む
私は魔力を他人と同調させることが出来る。
それは即ち、エーテルの上位互換の役割を果たすことも出来るのだ。エーテルで必要な『魔力を自分自身のものに変換する』という作用の部分を私自身が補ってあげることで、ハルトリッヒの身体に直接魔力を補充することが出来る。
きっとこの人は、私が魔力を補充しなければ、数日以内に死んでしまうだろう。

「本当に助けるのかい?」
「ええ。この人……ハルトリッヒは、ブレメンス王国の人間に騙されて、踊らされていただけだから。あんな異常な国ブレメンスを信用しきって――いえ、狂信ともいえるわね。それを見ても、やっぱりブレメンスはおかしな国だと思うわ」
「君の冷たそうに見えて、実は慈悲深いところ、僕は好きだよ」
「慈悲深い?冗談はよして頂戴。あの国に居た人間としての責任を果たそうとしているだけ。襲撃された上、私のせいだって責められて、その上応戦して勝手に死にかけられるだなんて、寝ざめも悪すぎる」

そう。ただ私があの国の行いを許せないから、勝手に死なれたらモヤモヤするから助けるだけ。
助けた上で、誰かに感謝されたいなんて思いはない。ブレメンスに居た頃からそうだ。心は折れかけていたが、他社を助け続けていたのは、私の自己満足だ。私が嫌な気持ちになりたくないという理由から。

こうして私はハルトリッヒのほぼ空になってしまった魔力貯蓄器官に注――ごうとした。
しかしそれは出来なかった。身体の中の魔力を貯める器官がのだ。これはただの魔力欠乏症ではない。

「……エーテルをありったけ持ってきて。掻き集めてでも。今すぐに」
「ハルトリッヒに飲ませる気かい?彼はどうやってもそれを飲めなかったのだが」
「いえ。飲むのは私よ。彼の魔力貯蓄器官、このまま魔力を注ぐと完全に壊れちゃうから」

それは、ひび割れた壺のように。
きっと元々膨大な魔力を一気に放出なんてしたせいだろう。酷使し過ぎた彼の魔力貯蓄器官はボロボロになっていた。これは人体で最も複雑だと言われる臓器の内の一部、魔力貯蓄器官を治療してから、更に魔力欠乏症を治さないといけない。私の病み上がりの魔力では、それを全て補い切る事なんて出来ないと一瞬にして確信してしまった。
これは眠れない夜になりそうだ。そう確信しながら、私は治療を開始した――。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】契約妻の小さな復讐

恋愛
「余計な事をせず、ただ3年間だけ僕の妻でいればいい」 借金の肩代わりで伯爵家に嫁いだクロエは夫であるジュライアに結婚初日そう告げられる。彼には兼ねてから愛し合っていた娼婦がいて、彼女の奉公が終わるまでの3年間だけクロエを妻として迎えようとしていた。 身勝手でお馬鹿な旦那様、この3年分の恨みはちゃんと晴らさせて貰います。 ※誤字脱字はご了承下さい。 タイトルに※が付いているものは性描写があります。ご注意下さい。

【完結】亡き冷遇妃がのこしたもの〜王の後悔〜

なか
恋愛
「セレリナ妃が、自死されました」  静寂をかき消す、衛兵の報告。  瞬間、周囲の視線がたった一人に注がれる。  コリウス王国の国王––レオン・コリウス。  彼は正妃セレリナの死を告げる報告に、ただ一言呟く。 「構わん」……と。  周囲から突き刺さるような睨みを受けても、彼は気にしない。  これは……彼が望んだ結末であるからだ。  しかし彼は知らない。  この日を境にセレリナが残したものを知り、後悔に苛まれていくことを。  王妃セレリナ。  彼女に消えて欲しかったのは……  いったい誰か?    ◇◇◇  序盤はシリアスです。  楽しんでいただけるとうれしいです。    

【完結】結婚して12年一度も会った事ありませんけど? それでも旦那様は全てが欲しいそうです

との
恋愛
結婚して12年目のシエナは白い結婚継続中。 白い結婚を理由に離婚したら、全てを失うシエナは漸く離婚に向けて動けるチャンスを見つけ・・  沈黙を続けていたルカが、 「新しく商会を作って、その先は?」 ーーーーーー 題名 少し改変しました

断腸の思いで王家に差し出した孫娘が婚約破棄されて帰ってきた

兎屋亀吉
恋愛
ある日王家主催のパーティに行くといって出かけた孫娘のエリカが泣きながら帰ってきた。買ったばかりのドレスは真っ赤なワインで汚され、左頬は腫れていた。話を聞くと王子に婚約を破棄され、取り巻きたちに酷いことをされたという。許せん。戦じゃ。この命燃え尽きようとも、必ずや王家を滅ぼしてみせようぞ。

愛してしまって、ごめんなさい

oro
恋愛
「貴様とは白い結婚を貫く。必要が無い限り、私の前に姿を現すな。」 初夜に言われたその言葉を、私は忠実に守っていました。 けれど私は赦されない人間です。 最期に貴方の視界に写ってしまうなんて。 ※全9話。 毎朝7時に更新致します。

【完結】どうやら私は婚約破棄されるそうです。その前に舞台から消えたいと思います

りまり
恋愛
 私の名前はアリスと言います。  伯爵家の娘ですが、今度妹ができるそうです。  母を亡くしてはや五年私も十歳になりましたし、いい加減お父様にもと思った時に後妻さんがいらっしゃったのです。  その方にも九歳になる娘がいるのですがとてもかわいいのです。  でもその方たちの名前を聞いた時ショックでした。  毎日見る夢に出てくる方だったのです。

危害を加えられたので予定よりも早く婚約を白紙撤回できました

しゃーりん
恋愛
階段から突き落とされて、目が覚めるといろんな記憶を失っていたアンジェリーナ。 自分のことも誰のことも覚えていない。 王太子殿下の婚約者であったことも忘れ、結婚式は来年なのに殿下には恋人がいるという。 聞くところによると、婚約は白紙撤回が前提だった。 なぜアンジェリーナが危害を加えられたのかはわからないが、それにより予定よりも早く婚約を白紙撤回することになったというお話です。

【完結】いてもいなくてもいい妻のようですので 妻の座を返上いたします!

ユユ
恋愛
夫とは卒業と同時に婚姻、 1年以内に妊娠そして出産。 跡継ぎを産んで女主人以上の 役割を果たしていたし、 円満だと思っていた。 夫の本音を聞くまでは。 そして息子が他人に思えた。 いてもいなくてもいい存在?萎んだ花? 分かりました。どうぞ若い妻をお迎えください。 * 作り話です * 完結保証付き * 暇つぶしにどうぞ

処理中です...