46 / 79
第三章:ポッシェ村
45.平常運転
しおりを挟む
「サミュエル、起きて」
「んー、ソフィア?」
ずっと看病してくれていたらしいサミュエルを起こすのは少し申し訳なかったが、こんな固い床で眠るよりはきちんと自室に戻って休んだ方が良いだろう。そう思って彼の肩を軽く揺すって起こそうとする。
一応返事を出来るくらいには意識があるようだ。これくらいに意識があるのであれば、肩を貸せばきっと部屋に返せるだろう。
「肩貸すから、部屋に帰ってから休ん――」
「おはよう、僕のお姫様」
うつ伏せで眠っていたサミュエルのために、身体を屈めて肩を貸そうとしていた体勢からグイっと両手で肩を引き寄せられ、抱き寄せられる。驚きすぎて声が出なかったが、明らかにサミュエルは寝ぼけていた。
「っ離して!」
「だーめ。暴れないで」
いつもよりも気の抜けた声でゆるゆると甘ったるい言葉を吐いてくる。この男、意識が完全に覚醒していないくせに力が強い。しかも目を閉じながら、耳に直接囁きかけてくるように声を発してくるせいで耳がこそばゆくて仕方がなかった。
動揺していると、サミュエルの手が段々と肩から背中、腰回りへと怪しくなぞるように降りてくる。それを感じると同時に、手が勝手にサミュエルの脳天を大きく揺さぶった。
「いっっっっつーー!!」
******
「ごめんなさい」
「はあ、貴方のセクハラ行為は今に始まった事じゃないので、もういいわ。これ以降気を付けて」
「……僕に触れられるのは嫌?」
「は?」
「僕は君に触れたいっていつでも思っているよ」
いつの間にか私が座っていたベッドの淵の左隣に腰を掛け、右手で私の手をするりと撫でてくる。その感触が擽ったくて手を引っ込めそうになるが、強く手を握られ、それは許してもらえなかった。
「なに、言って――いるの」
「ん?君を口説いてるんだけど、分からない?」
冷静にしゃべることが出来ない。急に真面目な顔で距離を詰められて、頬に熱が集まるのを感じる。今までサミュエル相手にこんな状態になったことはなかったのに、『死の制約』を経て改めて口説かれてみると、以前は感じなかった彼の真剣さや痛いくらいに強い想いを感じてしまったのだ。
「っその、私は……こういうのは、あの……」
「うん。こういうのは?ダメ?それともダメじゃない?」
手を握っている方と逆の手がスルリと上ってきて、首筋に触れる。自分でもこういう真っすぐすぎる明らかに好意が籠った色気のある迫られ方は今までされていなかったということもあり、どうすれば良いのか分からない。彼の手が冷たく感じるくらいに身体が熱くなっていた。
そして段々とサミュエルの顔が近付いてくる。キスをしようとしてきている。
そこまで認識して、やっと正常な思考回路が戻って来た。
「何しようとしてんのよ!!」
「ぶへばっ!」
目の前には思い切りベッドのサイドに顔をぶつけて埋めたサミュエルが居た。
本当にこの男は油断も隙もない。しかし私を口説くくらいに無駄な元気があるのであれば、このまま休みを与えずに、私を襲ってきた人間達の元に案内させても問題ないだろう。
先程赤面させられた恨みも込めて、倒れ伏しているサミュエルを軽く足蹴にして叩き起こした――。
「んー、ソフィア?」
ずっと看病してくれていたらしいサミュエルを起こすのは少し申し訳なかったが、こんな固い床で眠るよりはきちんと自室に戻って休んだ方が良いだろう。そう思って彼の肩を軽く揺すって起こそうとする。
一応返事を出来るくらいには意識があるようだ。これくらいに意識があるのであれば、肩を貸せばきっと部屋に返せるだろう。
「肩貸すから、部屋に帰ってから休ん――」
「おはよう、僕のお姫様」
うつ伏せで眠っていたサミュエルのために、身体を屈めて肩を貸そうとしていた体勢からグイっと両手で肩を引き寄せられ、抱き寄せられる。驚きすぎて声が出なかったが、明らかにサミュエルは寝ぼけていた。
「っ離して!」
「だーめ。暴れないで」
いつもよりも気の抜けた声でゆるゆると甘ったるい言葉を吐いてくる。この男、意識が完全に覚醒していないくせに力が強い。しかも目を閉じながら、耳に直接囁きかけてくるように声を発してくるせいで耳がこそばゆくて仕方がなかった。
動揺していると、サミュエルの手が段々と肩から背中、腰回りへと怪しくなぞるように降りてくる。それを感じると同時に、手が勝手にサミュエルの脳天を大きく揺さぶった。
「いっっっっつーー!!」
******
「ごめんなさい」
「はあ、貴方のセクハラ行為は今に始まった事じゃないので、もういいわ。これ以降気を付けて」
「……僕に触れられるのは嫌?」
「は?」
「僕は君に触れたいっていつでも思っているよ」
いつの間にか私が座っていたベッドの淵の左隣に腰を掛け、右手で私の手をするりと撫でてくる。その感触が擽ったくて手を引っ込めそうになるが、強く手を握られ、それは許してもらえなかった。
「なに、言って――いるの」
「ん?君を口説いてるんだけど、分からない?」
冷静にしゃべることが出来ない。急に真面目な顔で距離を詰められて、頬に熱が集まるのを感じる。今までサミュエル相手にこんな状態になったことはなかったのに、『死の制約』を経て改めて口説かれてみると、以前は感じなかった彼の真剣さや痛いくらいに強い想いを感じてしまったのだ。
「っその、私は……こういうのは、あの……」
「うん。こういうのは?ダメ?それともダメじゃない?」
手を握っている方と逆の手がスルリと上ってきて、首筋に触れる。自分でもこういう真っすぐすぎる明らかに好意が籠った色気のある迫られ方は今までされていなかったということもあり、どうすれば良いのか分からない。彼の手が冷たく感じるくらいに身体が熱くなっていた。
そして段々とサミュエルの顔が近付いてくる。キスをしようとしてきている。
そこまで認識して、やっと正常な思考回路が戻って来た。
「何しようとしてんのよ!!」
「ぶへばっ!」
目の前には思い切りベッドのサイドに顔をぶつけて埋めたサミュエルが居た。
本当にこの男は油断も隙もない。しかし私を口説くくらいに無駄な元気があるのであれば、このまま休みを与えずに、私を襲ってきた人間達の元に案内させても問題ないだろう。
先程赤面させられた恨みも込めて、倒れ伏しているサミュエルを軽く足蹴にして叩き起こした――。
351
お気に入りに追加
3,274
あなたにおすすめの小説

婚約破棄された公爵令嬢は本当はその王国にとってなくてはならない存在でしたけど、もう遅いです
神崎 ルナ
恋愛
ロザンナ・ブリオッシュ公爵令嬢は美形揃いの公爵家の中でも比較的地味な部類に入る。茶色の髪にこげ茶の瞳はおとなしめな外見に拍車をかけて見えた。そのせいか、婚約者のこのトレント王国の王太子クルクスル殿下には最初から塩対応されていた。
そんな折り、王太子に近付く女性がいるという。
アリサ・タンザイト子爵令嬢は、貴族令嬢とは思えないほどその親しみやすさで王太子の心を捕らえてしまったようなのだ。
仲がよさげな二人の様子を見たロザンナは少しばかり不安を感じたが。
(まさか、ね)
だが、その不安は的中し、ロザンナは王太子に婚約破棄を告げられてしまう。
――実は、婚約破棄され追放された地味な令嬢はとても重要な役目をになっていたのに。
(※誤字報告ありがとうございます)

殿下、幼馴染の令嬢を大事にしたい貴方の恋愛ごっこにはもう愛想が尽きました。
和泉鷹央
恋愛
雪国の祖国を冬の猛威から守るために、聖女カトリーナは病床にふせっていた。
女神様の結界を張り、国を温暖な気候にするためには何か犠牲がいる。
聖女の健康が、その犠牲となっていた。
そんな生活をして十年近く。
カトリーナの許嫁にして幼馴染の王太子ルディは婚約破棄をしたいと言い出した。
その理由はカトリーナを救うためだという。
だが本当はもう一人の幼馴染、フレンヌを王妃に迎えるために、彼らが仕組んだ計略だった――。
他の投稿サイトでも投稿しています。

【完結】婿入り予定の婚約者は恋人と結婚したいらしい 〜そのひと爵位継げなくなるけどそんなに欲しいなら譲ります〜
早奈恵
恋愛
【完結】ざまぁ展開あります⚫︎幼なじみで婚約者のデニスが恋人を作り、破談となってしまう。困ったステファニーは急遽婿探しをする事になる。⚫︎新しい相手と婚約発表直前『やっぱりステファニーと結婚する』とデニスが言い出した。⚫︎辺境伯になるにはステファニーと結婚が必要と気が付いたデニスと辺境伯夫人になりたかった恋人ブリトニーを前に、ステファニーは新しい婚約者ブラッドリーと共に対抗する。⚫︎デニスの恋人ブリトニーが不公平だと言い、デニスにもチャンスをくれと縋り出す。⚫︎そしてデニスとブラッドが言い合いになり、決闘することに……。
神のいとし子は追放された私でした〜異母妹を選んだ王太子様、今のお気持ちは如何ですか?〜
星里有乃
恋愛
「アメリアお姉様は、私達の幸せを考えて、自ら身を引いてくださいました」
「オレは……王太子としてではなく、一人の男としてアメリアの妹、聖女レティアへの真実の愛に目覚めたのだ!」
(レティアったら、何を血迷っているの……だって貴女本当は、霊感なんてこれっぽっちも無いじゃない!)
美貌の聖女レティアとは対照的に、とにかく目立たない姉のアメリア。しかし、地味に装っているアメリアこそが、この国の神のいとし子なのだが、悪魔と契約した妹レティアはついに姉を追放してしまう。
やがて、神のいとし子の祈りが届かなくなった国は災いが増え、聖女の力を隠さなくなったアメリアに救いの手を求めるが……。
* 2023年01月15日、連載完結しました。
* ヒロインアメリアの相手役が第1章は精霊ラルド、第2章からは隣国の王子アッシュに切り替わります。最終章に該当する黄昏の章で、それぞれの関係性を決着させています。お読みくださった読者様、ありがとうございました!
* 初期投稿ではショートショート作品の予定で始まった本作ですが、途中から長編版に路線を変更して完結させました。
* この作品は小説家になろうさんとアルファポリスさんに投稿しております。
* ブクマ、感想、ありがとうございます。
拝啓、婚約者様。ごきげんよう。そしてさようなら
みおな
恋愛
子爵令嬢のクロエ・ルーベンスは今日も《おひとり様》で夜会に参加する。
公爵家を継ぐ予定の婚約者がいながら、だ。
クロエの婚約者、クライヴ・コンラッド公爵令息は、婚約が決まった時から一度も婚約者としての義務を果たしていない。
クライヴは、ずっと義妹のファンティーヌを優先するからだ。
「ファンティーヌが熱を出したから、出かけられない」
「ファンティーヌが行きたいと言っているから、エスコートは出来ない」
「ファンティーヌが」
「ファンティーヌが」
だからクロエは、学園卒業式のパーティーで顔を合わせたクライヴに、にっこりと微笑んで伝える。
「私のことはお気になさらず」

七光りのわがまま聖女を支えるのは疲れました。私はやめさせていただきます。
木山楽斗
恋愛
幼少期から魔法使いとしての才覚を見せていたラムーナは、王国における魔法使い最高峰の役職である聖女に就任するはずだった。
しかし、王国が聖女に選んだのは第一王女であるロメリアであった。彼女は父親である国王から溺愛されており、親の七光りで聖女に就任したのである。
ラムーナは、そんなロメリアを支える聖女補佐を任せられた。それは実質的に聖女としての役割を彼女が担うということだった。ロメリアには魔法使いの才能などまったくなかったのである。
色々と腑に落ちないラムーナだったが、それでも好待遇ではあったためその話を受け入れた。補佐として聖女を支えていこう。彼女はそのように考えていたのだ。
だが、彼女はその考えをすぐに改めることになった。なぜなら、聖女となったロメリアはとてもわがままな女性だったからである。
彼女は、才覚がまったくないにも関わらず上から目線でラムーナに命令してきた。ラムーナに支えられなければ何もできないはずなのに、ロメリアはとても偉そうだったのだ。
そんな彼女の態度に辟易としたラムーナは、聖女補佐の役目を下りることにした。王国側は特に彼女を止めることもなかった。ラムーナの代わりはいくらでもいると考えていたからである。
しかし彼女が去ったことによって、王国は未曽有の危機に晒されることになった。聖女補佐としてのラムーナは、とても有能な人間だったのだ。
将来を誓い合った王子様は聖女と結ばれるそうです
きぬがやあきら
恋愛
「聖女になれなかったなりそこない。こんなところまで追って来るとはな。そんなに俺を忘れられないなら、一度くらい抱いてやろうか?」
5歳のオリヴィエは、神殿で出会ったアルディアの皇太子、ルーカスと恋に落ちた。アルディア王国では、皇太子が代々聖女を妻に迎える慣わしだ。しかし、13歳の選別式を迎えたオリヴィエは、聖女を落選してしまった。
その上盲目の知恵者オルガノに、若くして命を落とすと予言されたオリヴィエは、せめてルーカスの傍にいたいと、ルーカスが団長を務める聖騎士への道へと足を踏み入れる。しかし、やっとの思いで再開したルーカスは、昔の約束を忘れてしまったのではと錯覚するほど冷たい対応で――?
修道女エンドの悪役令嬢が実は聖女だったわけですが今更助けてなんて言わないですよね
星里有乃
恋愛
『お久しぶりですわ、バッカス王太子。ルイーゼの名は捨てて今は洗礼名のセシリアで暮らしております。そちらには聖女ミカエラさんがいるのだから、私がいなくても安心ね。ご機嫌よう……』
悪役令嬢ルイーゼは聖女ミカエラへの嫌がらせという濡れ衣を着せられて、辺境の修道院へ追放されてしまう。2年後、魔族の襲撃により王都はピンチに陥り、真の聖女はミカエラではなくルイーゼだったことが判明する。
地母神との誓いにより祖国の土地だけは踏めないルイーゼに、今更助けを求めることは不可能。さらに、ルイーゼには別の国の王子から求婚話が来ていて……?
* この作品は、アルファポリスさんと小説家になろうさんに投稿しています。
* 2025年2月1日、本編完結しました。予定より少し文字数多めです。番外編や後日談など、また改めて投稿出来たらと思います。ご覧いただきありがとうございました!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる