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第三章:ポッシェ村
42.クラウスの悩み①(クラウス視点)
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「……なんで。なんで、サミュエルには話せて、俺には話せないんだ」
部屋に帰って、第一声でそんな情けない呟きが漏れる。我ながら女々しいと嘲笑が漏れ出てしまった。
それと同時に、抑えきれないくらいに膨れ上がってしまったフィーアという人間に対する独占欲に自分でも少し驚いていた。
俺はそんなに鈍い部類の人間ではないと自覚している。
確かにフィーアからの好意は感じていたし、俺自身もフィーアに好意を向けていた。しかし結局大切だと、守りたいと思った女から帰ってきたのは、謝罪と冷たい拒絶だけだった。
少し前。フィーアと大して親しくない……むしろ嫌われているのだろうとすら見えていたサミュエルと急に距離が近くなった彼女。
俺とサミュエル、何が違うんだ?出会った時期はほぼ同じだろう。むしろ俺の方が少し早かった筈だ。しかし、彼女が全てを話し、託して、全面的に信用しているのはサミュエルのようだった。
俺はそんなに信用できない人間なのか?どこがサミュエルに負けているんだ。魔法を使う才能?武術?それとも血筋だろうか。しかし、フィーアはそんなことを気にして比較するような人間ではない。それは俺自身が一番良く分かっていた。
自分のどこがダメだったのか、選ばれる対象になれなかったのかが分からない。
一言言えるのは、サミュエルが羨ましい。今まで感じたことのなかったそんな嫉妬の醜い炎が心の中で燃え上がっていた。
俺はきっと、フィーアの事が本当に好きなのだ。だから彼女に拒絶されて、こんなに悲しくて悔しい。
そして彼女に信頼されていて、全ての事情を把握しているであろう人間が憎らしい。
いつのまにか心の中に入り込んでいた存在。
いつからだろうか、彼女にこんな感情を抱くようになったのは――。
***
フィーア=アドライン。
彼女の第一印象は正直言って、最悪だった。
俺の優しさから来ている忠告を聞かない、厄介で生意気な一般人。しかし再会してみれば、存在しないはずのテレポーテーション……瞬間移動の魔道具を使ったなどといってくる意味不明な女。
それに真面目に戦っている横で笑いながら人の戦いを分析しているところも、イラっときた。確かに追い出した時の俺の言い方も悪かったが、流石にこんな態度を取ることはないだろう。しかし彼女自身に向かってくる敵はなぎ倒しているから、俺自身に害を及ぼしては来ないと放っておいたのだ。
とにかく最低最悪な出会いと言えた。
しかしそれも段々と変わっていった。
最初に少し見直す結果になったのは、彼女も魔道具を開発する者だと知った時。そして同じくらいの年齢のはずなのに、自分よりも強力な魔道具を創り出せる実力者であると知った瞬間。俄然興味が湧いた。
それにサミュエルに失礼な物言いをする気の強いところも、正直少し気に入っていた。しかも、ただ知らなくてサミュエルに酷い態度を取っていたのではない。アイツの立場を知った後もその態度を貫いた。立場によって態度を変えない人間というのは俺にとっても、サミュエルにとっても、貴重だ。だからサミュエルが初手からグイグイと彼女を勧誘していた理由もなんとなく察せられた。フィーアを人間的にも気に入ったのだろう。
そんなフィーアと、授賞式や魔道具の事を話題に段々と親しくなっていく中で気付いたことがある。
彼女は不遜に見える物言いとは裏腹に、案外素直で可愛らしい人間だった。きっとこんな態度が身についてしまったのは、何かしらの境遇や環境によるものだろう。自分が攻撃されるのをただ恐れている。だから少しでも脅威を感じれば、自分を強く見せようとする。きっと無意識の内に。
王都に居る時の初対面の人間に対する警戒心からもそれが伺い見えた。この頃からだったかもしれない。なんとなく危ういこの少女を少しでも守れるように、授賞式について教えるという名目でわざわざ自分から構いにいったのは。
*******
この後まだ長いので、話を切ります。
部屋に帰って、第一声でそんな情けない呟きが漏れる。我ながら女々しいと嘲笑が漏れ出てしまった。
それと同時に、抑えきれないくらいに膨れ上がってしまったフィーアという人間に対する独占欲に自分でも少し驚いていた。
俺はそんなに鈍い部類の人間ではないと自覚している。
確かにフィーアからの好意は感じていたし、俺自身もフィーアに好意を向けていた。しかし結局大切だと、守りたいと思った女から帰ってきたのは、謝罪と冷たい拒絶だけだった。
少し前。フィーアと大して親しくない……むしろ嫌われているのだろうとすら見えていたサミュエルと急に距離が近くなった彼女。
俺とサミュエル、何が違うんだ?出会った時期はほぼ同じだろう。むしろ俺の方が少し早かった筈だ。しかし、彼女が全てを話し、託して、全面的に信用しているのはサミュエルのようだった。
俺はそんなに信用できない人間なのか?どこがサミュエルに負けているんだ。魔法を使う才能?武術?それとも血筋だろうか。しかし、フィーアはそんなことを気にして比較するような人間ではない。それは俺自身が一番良く分かっていた。
自分のどこがダメだったのか、選ばれる対象になれなかったのかが分からない。
一言言えるのは、サミュエルが羨ましい。今まで感じたことのなかったそんな嫉妬の醜い炎が心の中で燃え上がっていた。
俺はきっと、フィーアの事が本当に好きなのだ。だから彼女に拒絶されて、こんなに悲しくて悔しい。
そして彼女に信頼されていて、全ての事情を把握しているであろう人間が憎らしい。
いつのまにか心の中に入り込んでいた存在。
いつからだろうか、彼女にこんな感情を抱くようになったのは――。
***
フィーア=アドライン。
彼女の第一印象は正直言って、最悪だった。
俺の優しさから来ている忠告を聞かない、厄介で生意気な一般人。しかし再会してみれば、存在しないはずのテレポーテーション……瞬間移動の魔道具を使ったなどといってくる意味不明な女。
それに真面目に戦っている横で笑いながら人の戦いを分析しているところも、イラっときた。確かに追い出した時の俺の言い方も悪かったが、流石にこんな態度を取ることはないだろう。しかし彼女自身に向かってくる敵はなぎ倒しているから、俺自身に害を及ぼしては来ないと放っておいたのだ。
とにかく最低最悪な出会いと言えた。
しかしそれも段々と変わっていった。
最初に少し見直す結果になったのは、彼女も魔道具を開発する者だと知った時。そして同じくらいの年齢のはずなのに、自分よりも強力な魔道具を創り出せる実力者であると知った瞬間。俄然興味が湧いた。
それにサミュエルに失礼な物言いをする気の強いところも、正直少し気に入っていた。しかも、ただ知らなくてサミュエルに酷い態度を取っていたのではない。アイツの立場を知った後もその態度を貫いた。立場によって態度を変えない人間というのは俺にとっても、サミュエルにとっても、貴重だ。だからサミュエルが初手からグイグイと彼女を勧誘していた理由もなんとなく察せられた。フィーアを人間的にも気に入ったのだろう。
そんなフィーアと、授賞式や魔道具の事を話題に段々と親しくなっていく中で気付いたことがある。
彼女は不遜に見える物言いとは裏腹に、案外素直で可愛らしい人間だった。きっとこんな態度が身についてしまったのは、何かしらの境遇や環境によるものだろう。自分が攻撃されるのをただ恐れている。だから少しでも脅威を感じれば、自分を強く見せようとする。きっと無意識の内に。
王都に居る時の初対面の人間に対する警戒心からもそれが伺い見えた。この頃からだったかもしれない。なんとなく危ういこの少女を少しでも守れるように、授賞式について教えるという名目でわざわざ自分から構いにいったのは。
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この後まだ長いので、話を切ります。
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