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第三章:ポッシェ村

40.無敵の男③

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「は……?え、なんで??」
「言ったでしょう。貴方は私に負ける」

動きを封じるために、更に追い討ちを仕掛ける。
先程の態度とは違い、男も動揺しているのか滅茶苦茶にかつ明らかに火力が異常な魔法をこちらに打ち続けていた。巨大な氷塊、天から降る雷、こちらを飲み込まんとする大規模な地割れ。どれも大幅に魔力を消費するはずの魔法だ。それを一瞬の隙さえなく放ち続けている。こんな状態であればすぐに男も限界を迎えるはずだ。敵対している私にも、みるみるうちに魔力が減っていっているのが分かるから。

「大人しく捕まれば、これ以上危害は加えないわ。投降しなさい」
「ふざけんなっ!こんな、ブレメンス――祖国を裏切った雑魚に!!俺が負けていいはずがない!!死ね!死ねええええぇぇえええ!!!」
「うっわ、これはちょっとまずいかも」

男がそう激昂すると同時に、空に巨大な魔法陣が浮かぶ。
魔法を打ち続けて、魔力切れになって終わりだなんて生易しいことにはなってくれなかった。私は敵を少々ナメすぎていたようだ。まだこんな抵抗が出来る魔力が遺っているだなんて。

初めて見る規模で強大な炎の魔力を魔法陣から感じる。なんて膨大な量の魔力出力だろう。まるで太陽だ。距離はまだ離れているはずなのに、暑くて仕方がない。それに耐えながら魔法陣を破壊しなければいけないのに、先ほどよりももっと攻撃魔法は激しくなっていた。一人でこの魔法陣を止めるのは難しいかもしれない。

しかし、こんなものを放たれたら、この森どころかポッシェ村、そしてこの地域自体の人間が全滅した上に、土地すらも向こう数十年何も育たない不毛の大地になってしまうだろうことは簡単に予測できた。
止める以外の選択肢は残されていない。

「っおい!どういう状況だ!!?」
「なんだか危機的状況って感じだね」
「ナイスタイミング!魔法陣の発動を止めるのを手伝って!!」

クラウスとサミュエルが戦っていた敵二人を拘束した状態で帰ってくる。きっとこちらの異変を感じ取って、急いで走ってきたのだろう。息が上がっていた。
そうして、気絶している上に縛り上げられた敵に軽い保護魔法をかけた上で木にもたれ掛からせるように座らせて、駆け寄って来た。ちゃんと情報を搾り取るために、守るということは、彼らもこんな状況に立たされようと、生き残る気しかないようで少し安心した。

けれど本当に助かる。これであの魔法陣を発動前に破壊できる確率が確実に上がったから。

「私があの魔法陣を強制的に壊す。だからあの男の意識を私から逸らし続けて」
「仰せのままに」
「分かった!お前を守り抜く」

その言葉と同時に、それぞれクラウスは大剣、サミュエルは彼の背丈程ある巨大な斧を召喚して敵に向かって行く。
男はやはり、そちらの意識がどうしても逸れるようで、先程よりも私に対して向けられる警戒が分散された。今しかない。男の魔法陣は既に50パーセント程構築が完了している。そしてここに魔力が全て流しこまれて完成するのは、今のままの勢いで行けば約20分後と予測できる。きっとこの男の強さからして、クラウスとサミュエルの相手をしていても、魔法陣への魔力供給スピードは変化しないだろう。だからこそ、すぐにでも魔法陣を破壊しなければならない。

「不滅の光の神・ファレンティアに誓う――」

あまり使いたくはなかったが、あの魔法陣を壊せるほどに力がある魔法は聖女としてのものしかない。
本来であれば、その強大な力によって、空の天候をも変化させる魔法。これに魔力で作った贄を捧げることによって、更に強化して、威力を高めていく。
そして今回は完全詠唱を行う。ブレメンスにいた女神にして『永遠』を司るファレンティア。その聖典の一部を読むのだ。このせいで時間がかかる。

「初めに、神は王に魔法を与え、武器を与え――」

ブレメンスの成り立ちを言っているらしい聖典。聖職者や敬虔な信者であれば、全てを読み上げることが出来るらしいが、正直聖女としての魔法を使うのにわざわざ読み上げるのは馬鹿らしい。久々に使うなと思いながらも、口から勝手に聖典の続きが紡ぎ出される。

「フィーア、まだか!?もう魔法陣が完成しかかっているぞ」

丁度最終節を読み上げ終わったところで、私に降りかかってきていた氷の礫を弾き返していたクラウスに声を掛けられる。それに対して、頷くだけで終わった事を伝えた。

「聖典・神機契約に従い、エデルギオスの贄を捧げる」

贄。それは私自身の魔力。教会の一部の人間……女神の力を少しだけ使える神父たちは、動物やら犯罪者やらを捧げていたが、私の場合は魔力で全てが事足りる。
残り少ない、なけなしの魔力を搾り取られるが、仕方ないだろう。死にはしない。そう前向きに考えることにする。

「その力をもって、天を穿て」

魔法陣を壊した後の事はクラウスとサミュエルが何とかしてくれると信じて、私は魔法詠唱を完成させると同時に、意識を手放した――。
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