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第三章:ポッシェ村

30.調査①

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家が消し炭になっていた私は結局、ポッシェ村の北東辺りにある客人用の家屋のうちの1つに暫く住むことになった。ただし、サミュエル・クラウスと一緒に。
カンナさんが変な気を利かせたのだ。決める時に私に対してウィンクをしていたから間違いない。女性はこの手の他人のコイバナが好きだとは知ってはいたが、自身がいざ体験してみると疲れる。

とりあえず部屋は分かれているが、一種の同居のような生活が始まってしまった。
この仮の住まいは、個人用の部屋は丁度3つ、リビング・ダイニング、風呂とトイレは共用。私が前に住んでいた全焼してしまったあの家より少し広いくらいの平屋である。
そこで予め家事を私とクラウスで分担して、現在生活している。サミュエルはもうただそこにいるだけだ。

初日は荷物の整理、2日目に同居生活における最低限のルールを決め、調査を始められたのは3日目の昼からだった。

「これがこの地区の警察機構・第29治安維持部隊の調査結果。それで、これがこの村の皆が治安維持部隊の調査があまりにもテキトーだったからと追加で調査してくれた結果をまとめた最新の資料よ」
「カンナさん、有難うございます。調査してくれた皆にもお礼を言っておいてください」
「君、この村では人望があるんだね。流石は僕の未来のパートナー!」
「そもそもフィーアの性格だったら、サミュエルよりも人望があって当然だろう……」
「えっと……僕、自分より人望がないクラウスに諭されてる??肩パッドのくせに???」
「肩パッド呼びはもうやめろ!それを呼び始めた人間ですらもうその呼び方をしていないんだぞ!?」
「なんかムカついたんだよね~。僕は似合ってると思うよ、この渾名!」

なんだか言い合っている二人を放置して、カンナさんが手渡してくれた資料に目を通す。
内容としては、治安維持部隊の方の資料は3ページ程で構成されており、あまりにも雑かつ根拠のない結論『自然発火』と最後に記載いた。正直、読むだけ時間の無駄とすら思ってしまうほどに全く参考にならないものだった。

逆に、ポッシェ村の人達が調査してくれた方の資料は分厚い魔導書のような太さ。受け取った時もズシリとした重さと手で持った時に指の中指を精一杯伸ばしてやっと資料を持てた程に重厚なものとなっていた。
資料内容としては、様々な魔法や魔道具を使い、多角な視点から様々な調査と考察がされていた。
しかし結局、『自然発火ではなく、人為的なものである可能性が高い。
そして重要なのがここだ。未知の魔法式で隠されているようで、現時点で犯人も使った魔法式も分からない』という結論が出されていた。

人為的なもの。私の家だけが綺麗に燃やされていたことから、確実に誰かが私に対して悪意を向けた結果。
それだけじゃない。相手はかなり手練れの魔法使いだ。きっとこの村の人達よりも優れた技術を持っている。そして、確実に私に対して何かしらの悪意がある。命すら狙われているかもしれない。

そこまで仮定して、その恐ろしさに鳥肌が立つ。
ブレメンス王国――あの国を出て、全てを捨ててしまった今は、もう狙われることなどないだろうと思っていたこの命。安心しきっていたからこそ、今再び以前のように命を狙われる立場になって、苦しみを味わっていた。気が付かないうちにあの何度も命を狙われた経験は、私の中でトラウマになっていたのだろう。それを今更になって自覚した。
私は一度安息を手に入れて、もしかしたら弱くなってしまったのかもしれない。以前は感じなかった命を狙われることに対する恐怖心で心が埋め尽くされていた。

「……また、なのね」
「また?何が『また』なんだ?」
「え、っと、その、『また』厄介なことに巻き込まれたな~って」

クラウスからの心配を誤魔化してしまった。なんとなくしたことだったが、考えてみれば、彼に自分が弱っているところを見せたくなかったのかもしれない。
クラウスは納得できないといった顔を一瞬したが、私がヘラヘラとした態度をとり続けていたら、呆れたような顔をして、問いただすのを諦めたようだ。

久しぶりに、『明日』というものに不安を感じながら、今の仮の住まいへの帰路を歩んだ。
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