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第二章:王都

27.授賞式当日

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結果から言うと、授賞式はこれ以上ない程の成功を納めた。

開会の挨拶から賞の受け取り、国民全体の前で魔道具の性能をお披露目して、王族に直接受け渡しするところまで、それはもう完璧に……いや、嘘を吐いた。実際のところ、魔道具披露の場面はそこまで穏やかでなかった。

王族もいるにも関わらず、またしてもあの研究員達が邪魔をしてきたからだ。本来であれば、予め用意されていたCランク程度の雑魚魔物を魔道具の結界の効果を発動して、消し去る予定だった。
……のだが、あの研究員達はどうやって用意したのか分からないが、Aランクの魔物である『マンティコア』を持ってきたのだ。人間の顔、獅子の胴体、蝙蝠の翼と蠍の尾を持ちながら、人間の集まる街や村を襲い、それらを喰らうと言われているあの『マンティコア』である。
しかも今までかなりの数の人間を喰ってきたのだろう、人語を操る程に知能が高いものだったので、研究員本人たちも話しかけられてビビっており、非常に間抜けだった。
あの手の魔物は、動揺を見せればそこに付け込んでくる。魔道具とは言え、魔法の研究をしているのにそんな知識すらもないだなんて、本当にこの研究員たちは魔道具師としても下の下なのだろうことが簡単に考察出来た。

正直なところ、どこまで足を引っ張りたいのだろうと、ここまで来たら呆れてしまった。

しかし彼らはどこから湧き上がってきているのか分からないその自信を隠そうともしない。
どうせ私の持っている魔道具が見せかけだけの偽物だと思ったのだろう。顔を見ているだけで湧き上がって来る怒りから、魔法で『マンティコア』だけでなく研究員ごと消し去っても良かったが、クラウスの顔がちらついて出来なかった。
だからこそこのプロトタイプに、直前まで改良を重ねた魔道具をきちんと使用し、ごちゃごちゃとまだ研究員に対した喋り続けていた『マンティコア』だけを綺麗に消し飛ばした。

その時の彼らの驚いた顔と言ったら……。今思い出すだけでも愉快な気持ちになる。
それだけじゃない。彼らは私の魔道具を発動させた後も、『その魔道具は偽物だ』やら『そいつは悪魔と契約している』だのなんだと叫び散らかし、そのまま事情聴取されることになっていた。
あれだけ謂れのない誹謗中傷をし続けていれば、怪しまれるのも当然の事だろう。全てが明るみに出れば、きっともう研究どころじゃなくなることが簡単に予想できた。
あれ以上攻撃をしてこなければ、私も彼らに対してわざわざ報復なんてしなかっただろうに。あまりにも哀れである。

そうして、授賞式は綺麗に幕を閉じた――。

「フィーア、お疲れ様」
「クラウス……ありがとう」

授賞式が終わった後の会場にて、装飾を外している作業員たちを横目に、なんとなく夕日を見上げていたら、クラウスに声を掛けられた。まだ湯気を立てる紅茶を片方差し出されたので、きっと私を見かけてわざわざ淹れてきたのだろう。流石に会場の設営撤去までは私の仕事に含まれていないので、クラウスも怒るようなことはないだろうと思っていたが、まさか労いの言葉まであるとは。本当に彼の私に対する接し方は、初対面の時から大きく変化した。

白い磁器に金の線で縁取られた高そうなティーカップ。温かさよりも値段で手が震えそうだ、なんてくだらないことを考えながら、お礼を言う。

「それにしても、マンティコアさえ消し去ってしまうなんてな。相変わらずお前の魔道具には驚かされるよ」
「ポッシェ村で皆と改良を重ねていたから出来たことだよ。私だけの力じゃない」
「そう、か。それじゃあ、あの村の住人にも今度礼を言いに行かないとな」
「礼を言いに来るんじゃなくて、遊びに来てよ。クラウスだったら皆歓迎するわ。貴方ほど知識がある人とだったら、一緒に研究出来れば私も嬉しいし……楽しいと思うわ」
「お前にそう言われると、なんだか嬉しいものだな」

そして、沈黙が落ちる。お互い、湯気を立てる紅茶を飲んでいるだけだが、心地よい時間だった。ブレメンス王国では感じなかった心穏やかな時間。
授賞式が終わってしまえば、火事の事やら、あの研究員たちのことやら、きっと色んな問題が私に降りかかってくることが簡単に予想出来るが、今だけはこの穏やかな時間を楽しみたかった。

******
あとがき:
X(旧ツイッター)にサミュエル視点の短編載せてます。こっちに中身入れると、なんかごちゃっとしそうだったので。
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