28 / 78
第二章:王都
27.授賞式当日
しおりを挟む
結果から言うと、授賞式はこれ以上ない程の成功を納めた。
開会の挨拶から賞の受け取り、国民全体の前で魔道具の性能をお披露目して、王族に直接受け渡しするところまで、それはもう完璧に……いや、嘘を吐いた。実際のところ、魔道具披露の場面はそこまで穏やかでなかった。
王族もいるにも関わらず、またしてもあの研究員達が邪魔をしてきたからだ。本来であれば、予め用意されていたCランク程度の雑魚魔物を魔道具の結界の効果を発動して、消し去る予定だった。
……のだが、あの研究員達はどうやって用意したのか分からないが、Aランクの魔物である『マンティコア』を持ってきたのだ。人間の顔、獅子の胴体、蝙蝠の翼と蠍の尾を持ちながら、人間の集まる街や村を襲い、それらを喰らうと言われているあの『マンティコア』である。
しかも今までかなりの数の人間を喰ってきたのだろう、人語を操る程に知能が高いものだったので、研究員本人たちも話しかけられてビビっており、非常に間抜けだった。
あの手の魔物は、動揺を見せればそこに付け込んでくる。魔道具とは言え、魔法の研究をしているのにそんな知識すらもないだなんて、本当にこの研究員たちは魔道具師としても下の下なのだろうことが簡単に考察出来た。
正直なところ、どこまで足を引っ張りたいのだろうと、ここまで来たら呆れてしまった。
しかし彼らはどこから湧き上がってきているのか分からないその自信を隠そうともしない。
どうせ私の持っている魔道具が見せかけだけの偽物だと思ったのだろう。顔を見ているだけで湧き上がって来る怒りから、魔法で『マンティコア』だけでなく研究員ごと消し去っても良かったが、クラウスの顔がちらついて出来なかった。
だからこそこのプロトタイプに、直前まで改良を重ねた魔道具をきちんと使用し、ごちゃごちゃとまだ研究員に対した喋り続けていた『マンティコア』だけを綺麗に消し飛ばした。
その時の彼らの驚いた顔と言ったら……。今思い出すだけでも愉快な気持ちになる。
それだけじゃない。彼らは私の魔道具を発動させた後も、『その魔道具は偽物だ』やら『そいつは悪魔と契約している』だのなんだと叫び散らかし、そのまま事情聴取されることになっていた。
あれだけ謂れのない誹謗中傷をし続けていれば、怪しまれるのも当然の事だろう。全てが明るみに出れば、きっともう大好きな研究どころじゃなくなることが簡単に予想できた。
あれ以上攻撃をしてこなければ、私も彼らに対してわざわざ報復なんてしなかっただろうに。あまりにも哀れである。
そうして、授賞式は綺麗に幕を閉じた――。
「フィーア、お疲れ様」
「クラウス……ありがとう」
授賞式が終わった後の会場にて、装飾を外している作業員たちを横目に、なんとなく夕日を見上げていたら、クラウスに声を掛けられた。まだ湯気を立てる紅茶を片方差し出されたので、きっと私を見かけてわざわざ淹れてきたのだろう。流石に会場の設営撤去までは私の仕事に含まれていないので、クラウスも怒るようなことはないだろうと思っていたが、まさか労いの言葉まであるとは。本当に彼の私に対する接し方は、初対面の時から大きく変化した。
白い磁器に金の線で縁取られた高そうなティーカップ。温かさよりも値段で手が震えそうだ、なんてくだらないことを考えながら、お礼を言う。
「それにしても、マンティコアさえ消し去ってしまうなんてな。相変わらずお前の魔道具には驚かされるよ」
「ポッシェ村で皆と改良を重ねていたから出来たことだよ。私だけの力じゃない」
「そう、か。それじゃあ、あの村の住人にも今度礼を言いに行かないとな」
「礼を言いに来るんじゃなくて、遊びに来てよ。クラウスだったら皆歓迎するわ。貴方ほど知識がある人とだったら、一緒に研究出来れば私も嬉しいし……楽しいと思うわ」
「お前にそう言われると、なんだか嬉しいものだな」
そして、沈黙が落ちる。お互い、湯気を立てる紅茶を飲んでいるだけだが、心地よい時間だった。ブレメンス王国では感じなかった心穏やかな時間。
授賞式が終わってしまえば、火事の事やら、あの研究員たちのことやら、きっと色んな問題が私に降りかかってくることが簡単に予想出来るが、今だけはこの穏やかな時間を楽しみたかった。
******
あとがき:
X(旧ツイッター)にサミュエル視点の短編載せてます。こっちに中身入れると、なんかごちゃっとしそうだったので。
開会の挨拶から賞の受け取り、国民全体の前で魔道具の性能をお披露目して、王族に直接受け渡しするところまで、それはもう完璧に……いや、嘘を吐いた。実際のところ、魔道具披露の場面はそこまで穏やかでなかった。
王族もいるにも関わらず、またしてもあの研究員達が邪魔をしてきたからだ。本来であれば、予め用意されていたCランク程度の雑魚魔物を魔道具の結界の効果を発動して、消し去る予定だった。
……のだが、あの研究員達はどうやって用意したのか分からないが、Aランクの魔物である『マンティコア』を持ってきたのだ。人間の顔、獅子の胴体、蝙蝠の翼と蠍の尾を持ちながら、人間の集まる街や村を襲い、それらを喰らうと言われているあの『マンティコア』である。
しかも今までかなりの数の人間を喰ってきたのだろう、人語を操る程に知能が高いものだったので、研究員本人たちも話しかけられてビビっており、非常に間抜けだった。
あの手の魔物は、動揺を見せればそこに付け込んでくる。魔道具とは言え、魔法の研究をしているのにそんな知識すらもないだなんて、本当にこの研究員たちは魔道具師としても下の下なのだろうことが簡単に考察出来た。
正直なところ、どこまで足を引っ張りたいのだろうと、ここまで来たら呆れてしまった。
しかし彼らはどこから湧き上がってきているのか分からないその自信を隠そうともしない。
どうせ私の持っている魔道具が見せかけだけの偽物だと思ったのだろう。顔を見ているだけで湧き上がって来る怒りから、魔法で『マンティコア』だけでなく研究員ごと消し去っても良かったが、クラウスの顔がちらついて出来なかった。
だからこそこのプロトタイプに、直前まで改良を重ねた魔道具をきちんと使用し、ごちゃごちゃとまだ研究員に対した喋り続けていた『マンティコア』だけを綺麗に消し飛ばした。
その時の彼らの驚いた顔と言ったら……。今思い出すだけでも愉快な気持ちになる。
それだけじゃない。彼らは私の魔道具を発動させた後も、『その魔道具は偽物だ』やら『そいつは悪魔と契約している』だのなんだと叫び散らかし、そのまま事情聴取されることになっていた。
あれだけ謂れのない誹謗中傷をし続けていれば、怪しまれるのも当然の事だろう。全てが明るみに出れば、きっともう大好きな研究どころじゃなくなることが簡単に予想できた。
あれ以上攻撃をしてこなければ、私も彼らに対してわざわざ報復なんてしなかっただろうに。あまりにも哀れである。
そうして、授賞式は綺麗に幕を閉じた――。
「フィーア、お疲れ様」
「クラウス……ありがとう」
授賞式が終わった後の会場にて、装飾を外している作業員たちを横目に、なんとなく夕日を見上げていたら、クラウスに声を掛けられた。まだ湯気を立てる紅茶を片方差し出されたので、きっと私を見かけてわざわざ淹れてきたのだろう。流石に会場の設営撤去までは私の仕事に含まれていないので、クラウスも怒るようなことはないだろうと思っていたが、まさか労いの言葉まであるとは。本当に彼の私に対する接し方は、初対面の時から大きく変化した。
白い磁器に金の線で縁取られた高そうなティーカップ。温かさよりも値段で手が震えそうだ、なんてくだらないことを考えながら、お礼を言う。
「それにしても、マンティコアさえ消し去ってしまうなんてな。相変わらずお前の魔道具には驚かされるよ」
「ポッシェ村で皆と改良を重ねていたから出来たことだよ。私だけの力じゃない」
「そう、か。それじゃあ、あの村の住人にも今度礼を言いに行かないとな」
「礼を言いに来るんじゃなくて、遊びに来てよ。クラウスだったら皆歓迎するわ。貴方ほど知識がある人とだったら、一緒に研究出来れば私も嬉しいし……楽しいと思うわ」
「お前にそう言われると、なんだか嬉しいものだな」
そして、沈黙が落ちる。お互い、湯気を立てる紅茶を飲んでいるだけだが、心地よい時間だった。ブレメンス王国では感じなかった心穏やかな時間。
授賞式が終わってしまえば、火事の事やら、あの研究員たちのことやら、きっと色んな問題が私に降りかかってくることが簡単に予想出来るが、今だけはこの穏やかな時間を楽しみたかった。
******
あとがき:
X(旧ツイッター)にサミュエル視点の短編載せてます。こっちに中身入れると、なんかごちゃっとしそうだったので。
212
お気に入りに追加
3,436
あなたにおすすめの小説
貴方が側妃を望んだのです
cyaru
恋愛
「君はそれでいいのか」王太子ハロルドは言った。
「えぇ。勿論ですわ」婚約者の公爵令嬢フランセアは答えた。
誠の愛に気がついたと言われたフランセアは微笑んで答えた。
※2022年6月12日。一部書き足しました。
※架空のお話です。現実世界の話ではありません。
史実などに基づいたものではない事をご理解ください。
※話の都合上、残酷な描写がありますがそれがざまぁなのかは受け取り方は人それぞれです。
表現的にどうかと思う回は冒頭に注意喚起を書き込むようにしますが有無は作者の判断です。
※更新していくうえでタグは幾つか増えます。
※作者都合のご都合主義です。
※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。
※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります)
※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。
【完結】皇太子の愛人が懐妊した事を、お妃様は結婚式の一週間後に知りました。皇太子様はお妃様を愛するつもりは無いようです。
五月ふう
恋愛
リックストン国皇太子ポール・リックストンの部屋。
「マティア。僕は一生、君を愛するつもりはない。」
今日は結婚式前夜。婚約者のポールの声が部屋に響き渡る。
「そう……。」
マティアは小さく笑みを浮かべ、ゆっくりとソファーに身を預けた。
明日、ポールの花嫁になるはずの彼女の名前はマティア・ドントール。ドントール国第一王女。21歳。
リッカルド国とドントール国の和平のために、マティアはこの国に嫁いできた。ポールとの結婚は政略的なもの。彼らの意志は一切介入していない。
「どんなことがあっても、僕は君を王妃とは認めない。」
ポールはマティアを憎しみを込めた目でマティアを見つめる。美しい黒髪に青い瞳。ドントール国の宝石と評されるマティア。
「私が……ずっと貴方を好きだったと知っても、妻として認めてくれないの……?」
「ちっ……」
ポールは顔をしかめて舌打ちをした。
「……だからどうした。幼いころのくだらない感情に……今更意味はない。」
ポールは険しい顔でマティアを睨みつける。銀色の髪に赤い瞳のポール。マティアにとってポールは大切な初恋の相手。
だが、ポールにはマティアを愛することはできない理由があった。
二人の結婚式が行われた一週間後、マティアは衝撃の事実を知ることになる。
「サラが懐妊したですって‥‥‥!?」
この戦いが終わったら一緒になろうと約束していた勇者は、私の目の前で皇女様との結婚を選んだ
めぐめぐ
恋愛
神官アウラは、勇者で幼馴染であるダグと将来を誓い合った仲だったが、彼は魔王討伐の褒美としてイリス皇女との結婚を打診され、それをアウラの目の前で快諾する。
アウラと交わした結婚の約束は、神聖魔法の使い手である彼女を魔王討伐パーティーに引き入れるためにダグがついた嘘だったのだ。
『お前みたいな、ヤれば魔法を使えなくなる女となんて、誰が結婚するんだよ。魔法しか取り柄のないお前と』
そう書かれた手紙によって捨てらたアウラ。
傷心する彼女に、同じパーティー仲間の盾役マーヴィが、自分の故郷にやってこないかと声をかける。
アウラは心の傷を癒すため、マーヴィとともに彼の故郷へと向かうのだった。
捨てられた主人公が、パーティー仲間の盾役と幸せになる、ちょいざまぁありの恋愛ファンタジー短編。
※思いつきなので色々とガバガバです。ご容赦ください。
※力があれば平民が皇帝になれるような世界観です。
※単純な話なので安心して読めると思います。
私が我慢する必要ありますか?【2024年12月25日電子書籍配信決定しました】
青太郎
恋愛
ある日前世の記憶が戻りました。
そして気付いてしまったのです。
私が我慢する必要ありますか?
※ 株式会社MARCOT様より電子書籍化決定!
コミックシーモア様にて12/25より配信されます。
コミックシーモア様限定の短編もありますので興味のある方はぜひお手に取って頂けると嬉しいです。
リンク先
https://www.cmoa.jp/title/1101438094/vol/1/
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
(完)貴女は私の全てを奪う妹のふりをする他人ですよね?
青空一夏
恋愛
公爵令嬢の私は婚約者の王太子殿下と優しい家族に、気の合う親友に囲まれ充実した生活を送っていた。それは完璧なバランスがとれた幸せな世界。
けれど、それは一人の女のせいで歪んだ世界になっていくのだった。なぜ私がこんな思いをしなければならないの?
中世ヨーロッパ風異世界。魔道具使用により現代文明のような便利さが普通仕様になっている異世界です。
婚約破棄された私は、処刑台へ送られるそうです
秋月乃衣
恋愛
ある日システィーナは婚約者であるイデオンの王子クロードから、王宮敷地内に存在する聖堂へと呼び出される。
そこで聖女への非道な行いを咎められ、婚約破棄を言い渡された挙句投獄されることとなる。
いわれの無い罪を否定する機会すら与えられず、寒く冷たい牢の中で断頭台に登るその時を待つシスティーナだったが──
他サイト様でも掲載しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる