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第二章:王都
25.一時的な帰還③
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入り口の複雑な魔法式を解除した上で、ノックをして研究室に入る。
1カ月ぶりに来たにも関わらず、中の空気もそこに居る人達も何一つ変わっていなかった――。
「おー、フィーア。戻って来たんだな。授賞式はどうだった?楽しかったか??」
「っその……授賞式は……まだっていうか」
「は!!?そういえば、そうだ!!俺授賞式の実況未だ見てねえ!!」
「結局フィーアは授賞式サボって帰ってきちゃったか~。仕方ねえ奴だ。さて、夜逃げプランの準備でも――」
「サボって帰って来たわけでもないの!待って、私の話を聞いて欲しい……!」
魔道具が盗まれて、プロトタイプをここに取りに戻って来た旨を研究室にいるメンバーに説明する。新しく『テレポーテーションの魔道具』を創り出したところでも驚かれると同時に、自分で実験をしたことがバレたが、今はここは割愛する。
それにしても、王都で他人に足を引っ張られているという事実が言いにくく、少し言葉を濁しただけで、大変な目に遭い掛けた。折角送り出してもらったのに、王都であまりうまくやれなかったという事実が情けなくて、切り出しにくかったのだ。そしたら、変な方向に勘違いされて、ヤバい方向性への手続きにアクセルを踏まれそうになってしまった。彼らは変に思い切りが良すぎる所がある。こんな風な方向性でも手伝ってくれようとするのは、ある意味自分がここに馴染めているからなのだと少し嬉しくはあるが、サボるだのそういう方向性でも信頼されていたみたいでちょっと恥ずかしかった。
「話は全部把握したわ。……折角真面目に授賞式に参加しようとしていたフィーアちゃんに対して、なんて仕打ち。許せないわね」
「俺達の村のもんに手出ししたこと、地獄の果てまで追いかけまわして後悔させてやるよ……」
「わ~。この村の人達って仲良いんだね。楽しそう。よし!第二王子の僕も協力――」
「サミュエルはちょっと黙っていてください。それと、今回は別に彼らに直接報復するために帰って来たのではないです。ここでコンテストに出したものを改良したプロトタイプを新しく提出するだけでも、十二分に彼らの鼻を明かすことは出来るでしょう?」
クラウスが散々下準備をしていた授賞式だ。
それに、彼以外の色んな人もこの日のために働いていたり、残業したりしていたのを知っている。だからこそ、私怨とも言えるこの怒りの感情だけで表立って犯人たちに復讐して、全てを台無しにしてしまうのは避けたかった。
そういう理由もあって、なんとか村の人達を説得して、彼らに加担しようとしていたサミュエルも諫めた。サミュエルに関しては完全に好奇心と言った感じだったので、簡単に止めることが出来たが、村の人達の説得には時間を要した。
それだけ私の事をまるで自分達の事のように考えてくれているのだなという嬉しさはあったが、それ以上に本当に大変だった。皆、授賞式をサボろうとしていた私を説得した冷静な大人とは思えないほどに、とても過激だったのだ。
「フィーアがそこまで言うんだったら、仕方ねえな。ほれ、プロトタイプ」
「有難う!これで頑張ってくる!!」
「フィーアちゃん、でも一つ覚えておいて。その犯人たち、次はないから」
「う……うん」
この魔道具を受け取れるまで長かった。
なんならこの受け取るまでのやり取りで、テレポーテーションの魔道具を使った時よりも疲労が溜まったのだから、本当に大仕事をやり遂げたと思う。深く溜息を吐いてなんとか冷静さを取り戻すと、今度は王都に戻るために魔道具を起動させようとした――のだが、カンナがまるで今思い出したというように、『あ!』と私の肩を掴んで、呼び止めた。
「あのね、フィーアちゃんの家、全焼しちゃったの」
「は……?????」
あまりにも唐突な事実。青天の霹靂、寝耳に水とはまさにこのことだろう。
1カ月ぶりに来たにも関わらず、中の空気もそこに居る人達も何一つ変わっていなかった――。
「おー、フィーア。戻って来たんだな。授賞式はどうだった?楽しかったか??」
「っその……授賞式は……まだっていうか」
「は!!?そういえば、そうだ!!俺授賞式の実況未だ見てねえ!!」
「結局フィーアは授賞式サボって帰ってきちゃったか~。仕方ねえ奴だ。さて、夜逃げプランの準備でも――」
「サボって帰って来たわけでもないの!待って、私の話を聞いて欲しい……!」
魔道具が盗まれて、プロトタイプをここに取りに戻って来た旨を研究室にいるメンバーに説明する。新しく『テレポーテーションの魔道具』を創り出したところでも驚かれると同時に、自分で実験をしたことがバレたが、今はここは割愛する。
それにしても、王都で他人に足を引っ張られているという事実が言いにくく、少し言葉を濁しただけで、大変な目に遭い掛けた。折角送り出してもらったのに、王都であまりうまくやれなかったという事実が情けなくて、切り出しにくかったのだ。そしたら、変な方向に勘違いされて、ヤバい方向性への手続きにアクセルを踏まれそうになってしまった。彼らは変に思い切りが良すぎる所がある。こんな風な方向性でも手伝ってくれようとするのは、ある意味自分がここに馴染めているからなのだと少し嬉しくはあるが、サボるだのそういう方向性でも信頼されていたみたいでちょっと恥ずかしかった。
「話は全部把握したわ。……折角真面目に授賞式に参加しようとしていたフィーアちゃんに対して、なんて仕打ち。許せないわね」
「俺達の村のもんに手出ししたこと、地獄の果てまで追いかけまわして後悔させてやるよ……」
「わ~。この村の人達って仲良いんだね。楽しそう。よし!第二王子の僕も協力――」
「サミュエルはちょっと黙っていてください。それと、今回は別に彼らに直接報復するために帰って来たのではないです。ここでコンテストに出したものを改良したプロトタイプを新しく提出するだけでも、十二分に彼らの鼻を明かすことは出来るでしょう?」
クラウスが散々下準備をしていた授賞式だ。
それに、彼以外の色んな人もこの日のために働いていたり、残業したりしていたのを知っている。だからこそ、私怨とも言えるこの怒りの感情だけで表立って犯人たちに復讐して、全てを台無しにしてしまうのは避けたかった。
そういう理由もあって、なんとか村の人達を説得して、彼らに加担しようとしていたサミュエルも諫めた。サミュエルに関しては完全に好奇心と言った感じだったので、簡単に止めることが出来たが、村の人達の説得には時間を要した。
それだけ私の事をまるで自分達の事のように考えてくれているのだなという嬉しさはあったが、それ以上に本当に大変だった。皆、授賞式をサボろうとしていた私を説得した冷静な大人とは思えないほどに、とても過激だったのだ。
「フィーアがそこまで言うんだったら、仕方ねえな。ほれ、プロトタイプ」
「有難う!これで頑張ってくる!!」
「フィーアちゃん、でも一つ覚えておいて。その犯人たち、次はないから」
「う……うん」
この魔道具を受け取れるまで長かった。
なんならこの受け取るまでのやり取りで、テレポーテーションの魔道具を使った時よりも疲労が溜まったのだから、本当に大仕事をやり遂げたと思う。深く溜息を吐いてなんとか冷静さを取り戻すと、今度は王都に戻るために魔道具を起動させようとした――のだが、カンナがまるで今思い出したというように、『あ!』と私の肩を掴んで、呼び止めた。
「あのね、フィーアちゃんの家、全焼しちゃったの」
「は……?????」
あまりにも唐突な事実。青天の霹靂、寝耳に水とはまさにこのことだろう。
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