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第二章:王都

17.王都②

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「……い、ーーおい、女!!」
「!ああ、ごめん、ボケっとしてた。私に何か?」

サミュエルによって付けられた案内人というのは、クラウスだった。
先程の会話を思い出していた私は、いつの間にかクラウスに話しかけられていたようだった。無視していたような反応になってしまって、少しだけ気まずい。

「はあ、そんなボケっとしていて道を覚えられているのか……と言いたいところだが、巻き込んだのはこちらだな。だから今日はやめておく。聞きたかったのはお前は魔道具を作り始めてどれくらい経つのか、だ」
「魔道具?急に何故?」
「……サミュエルが言ったことを聞いてなかったのか。俺もお前と同じ魔道具士だ。だからその、少し気になっただけだ」
「あー、そういえば言っていましたね。別に日数を数えていたわけではありませんが、ちょうど今が半年ってところかな」
「は?」
「うわ、顔こわ」
「っ俺はこの業界でまだ半年の、それに加えてこんなふざけたやつに負けたのか」

なるほど。妬み。
国で何度も見てきた光景に、またかという感情が浮き上がる。
今まで私は彼女の立場や相手を負かした時のその強さに対して、何度も何度も――それはもう、飽きるくらいにこの感情を向けられてきた。だから正直『またか……』と思ってしまった。環境が変わろうとも、結局他人から向けられるこういう感情は変えられない……変えることは出来ないのだ。そう、なんだか落ち込んでしまった。

「別に私のことをどう思っても構いませんが、問題だけは起こさないでくださいね。面倒なので」
「は?問題?何故そうなるんだ」
「え……」

今回もまたあの、深い井戸の底にいるかのような昏い瞳を向けられているのだろう。そう思ってクラウスを見たのに、その考えを裏切られることになる。なにせ、彼の瞳は昏いなんて言葉とは対極だったのだ。
だからこれ以降は黙るつもりだったのに、思わず疑問を口に出してしまった。

「だって、さっき怖い顔を――」
「ああ、先ほどのか。あれは純粋に人は見かけや態度、言動によらないんだなという驚きと、単純に自分の研究や修練不足を嘆いていただけだ」
「……馬車の中でも私のことを睨んでいたじゃない」
「同年代でそこまでの才能を持っているものは今までいなかったからな。見極めようとしていただけだ。……睨んでいるように見えたなら謝る。すまなかった。よく言われるんだ、顔が怖いと」

集中するとどうしても眼光が強くなってしまうんだ――なんて、瞑った目の辺りを軽く揉みながら言うその態度に拍子抜けする。本当に申し訳なさそうに謝る彼はどう見ても嘘を言っているように見えなかったのだ。
答えに迷う私に再び向けられた瞳は怖いくらいに真剣で――きっと彼はとても真っ直ぐな人間なのだろうということが痛いくらいに伝わって来た。
あの国に長い間居たせいで、少しでも重なる状況があれば疑ってしまう。それを少しだけ反省して、改善しようと考えを改めた。

「でも、魔導車を追い出したのは一生恨むから」
「何を言っている?俺は巻き込まれないようにわざわざ追い出してやったんだぞ?あの日あの街から出発する予定だった魔導車は全てキャンセルされてたしな。そもそもあの戦闘では非戦闘員は確実に無事ではいられなかっただろう」
「あの言い方で善意だったっていうの??」
「ああ。サミュエルは『客を追い払うのが面倒だから、襲われた時の肉壁にでもなってもらおう』などと言っていたが、俺は流石にそれは人としてどうかと思ったからな。善意だ」
「……とりあえず、あの人が予想以上のクソだってことは分かった」

訂正。確かにクラウスは嫌な人間ではないが、言葉遣いに関しては最低なようだ。
しかし話もせずに警戒し、遠ざけるのはやめようと決めたのだった。
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