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第二章:王都
20.初めての友達③
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サミュエルに諭された後に、クラウスがいると聞いた場所を探していたのだが、目的の人物は中々見つからなかった。
このフロアにある廊下、会議室、休憩室と順に覗いていくが、どこにもいない。
そんなに時間は経っていないはずなのに中々会えないこの現状に、もしかして避けられている?嫌われてしまった?そんな悲観的な考えが浮かび、休憩室の隅で膝を抱えてしまった時の事だ。複数人の男性の声が部屋に入ってくる足音を聞いた。
一瞬クラウスかと思い、声を掛けようとするが、会話を遮ってはいけないと思い直して咄嗟に黙る。
しかしそれがいけなかった。会話の主はクラウスではない、別の人物だったのだ。ちらりと見えたが、白衣を着た男達の3人組だった。黙っているうちに彼らは日常会話のような雰囲気で口を開いた。
「にしても、クラウスのやつも情けないよな~。去年も一昨年も最優秀賞貰ってたくせに、今年はぽっと出の女に賞とられてやんの。所詮、公爵家のお貴族様は本物には勝てないってわけだ」
「それな~~。てかどうせ、今までのアイツの魔道具とか受賞した賞も公爵家の力で買ってたんじゃねーの?だって次期公爵様だぜ?テキトーに名声買うくらいはするだろ。情けねえの、はははっ」
「あー。それありうるわ。そもそもお坊ちゃんがあんな大層な賞をもらってること自体おかしいんだわ」
「な。王室直下の研究室で働いてる俺達魔道具師が十年以上研究してるにも関わらず、もらえない賞だもんな。そんな俺らですら取れないソレをその辺プラプラしてるやつがって……そりゃ賄賂使ってるに決まってんだろ」
「本当、お貴族様はムカつくよな。金でなんでも買いやがって。っと、あ!そうだ。さっき、アイツの研究室行の材料が積まれてるの見たな。いくつか高そうなの盗んでやるか」
「賛成!!どうせアイツはコネだし、外面のために頼んでるだけだろ。どうせ使わずに腐らせるだけだろうし、勝手にとっても分かんねーだろーな。高いパーツあるかなー、あるよな!!」
あまりにも最低な会話内容に、怒りが腹の底からこみ上げてくる。あまりにも勝手な言い分だと思う。
確かに私はクラウスとの付き合いこそ短いが、彼の底の見えないほどに深い知識が一朝一夕でつくようなものでないことくらいは分かる。
実際、彼は私の目の前で何度も新しい魔法式を提案し、魔道具にその場で組み込んでいったという場面を既に飽きるほどに見たのだ。そんなことが出来る人間が賞を取るためだなんて理由で賄賂など払っている筈がない。だって、あの実力ならそんなことをしなくても取れるだろうし、現に昨年まではとっていたようだし。
謂れのない誹謗中傷を受け、それに加えて嫌がらせをされそうになっているその姿は、王国に居た頃の自分と重なった。
苛立っていたとはいえ、初っ端から彼の事を『肩パッド』と呼んで揶揄ったことも追加で謝罪しようと考えながら、休憩室の隅から出て行こうとした――のだが。
「あれ?君って……最近、クラウスに粉かけられてる子じゃん」
先ほどのよく吠える3人組に見つかってしまった。非常に不愉快。最低最悪な状況である。
「ほんとだ!ねえ君、アイツは汚い貴族だよ?君の優秀な血を自分の家にいれたい……いや、もしかしたら君の魔道具に関する新技術を盗もうとしているのかもしれない。アイツからはすぐに離れて、僕達のところに――」
「うるさい」
「……へ?」
卑しくも、肩に伸ばされたその手を触れるより前に一瞬で氷漬けにする。
手を血液まで全て氷漬けにされた男は、突然の事に身体が動かないのに自分の身に何が起こったのかが分からず、平凡な一文字しか発することが出来ていないようだった。
「な、んだ、なんだこれ!!?俺の手が!!ここにある筈なのに、何も、ないんだ!!」
「あ。それ無理矢理動かそうとすると折れちゃいますよ?パキンって」
「ひっ――」
「知っていますか?魔道具作りの基礎。魔道具っていうのは中身に魔法式を組み込むので、作成者の魔法技術に依存するんです。しかも作っても、全く同じ精度の魔法を使えるものは作り出せない。出来たとしても、作成者の魔法より5割減だと言われているんです」
完全に怯え切っている男達に近づき、顔をまじまじと見る。恐怖からか唇は青くなり、身体全体が小刻みに震えている。手を氷漬けにされた男はこちらを見ながら、現在進行形で失禁していた。
私が使った魔法である『氷魔法』に属するモノのせいだった。しかも今回かけた魔法は、その部分の感覚を奪い去りると同時に相手の魔力を吸い続けて、凍った状態を保つという攻撃魔法の中でもかなり高度なもの――呪いに属する魔法である。
正しい解呪方法を除けば、魔力切れ――即ち、その命が終わる瞬間までその魔法が解けることはない。
あまりにも情けないその姿に溜息を吐きながら、彼らに顔を近づけ、囁くように言葉を落とした。
「その程度の魔法も解くことが出来ないだなんて、貴方達もたかがしれていますね。クラウスだったら、一瞬でそんな魔法解けますよ。だって彼は陰口を叩いて、妬んで、全てを立場や金、そして他人のせいにする貴方達と違って、魔道具に対して誰よりも真摯に、真剣に向き合って、その才能に胡坐をかくことなく努力し続けている人ですから」
******
あとがき:
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このフロアにある廊下、会議室、休憩室と順に覗いていくが、どこにもいない。
そんなに時間は経っていないはずなのに中々会えないこの現状に、もしかして避けられている?嫌われてしまった?そんな悲観的な考えが浮かび、休憩室の隅で膝を抱えてしまった時の事だ。複数人の男性の声が部屋に入ってくる足音を聞いた。
一瞬クラウスかと思い、声を掛けようとするが、会話を遮ってはいけないと思い直して咄嗟に黙る。
しかしそれがいけなかった。会話の主はクラウスではない、別の人物だったのだ。ちらりと見えたが、白衣を着た男達の3人組だった。黙っているうちに彼らは日常会話のような雰囲気で口を開いた。
「にしても、クラウスのやつも情けないよな~。去年も一昨年も最優秀賞貰ってたくせに、今年はぽっと出の女に賞とられてやんの。所詮、公爵家のお貴族様は本物には勝てないってわけだ」
「それな~~。てかどうせ、今までのアイツの魔道具とか受賞した賞も公爵家の力で買ってたんじゃねーの?だって次期公爵様だぜ?テキトーに名声買うくらいはするだろ。情けねえの、はははっ」
「あー。それありうるわ。そもそもお坊ちゃんがあんな大層な賞をもらってること自体おかしいんだわ」
「な。王室直下の研究室で働いてる俺達魔道具師が十年以上研究してるにも関わらず、もらえない賞だもんな。そんな俺らですら取れないソレをその辺プラプラしてるやつがって……そりゃ賄賂使ってるに決まってんだろ」
「本当、お貴族様はムカつくよな。金でなんでも買いやがって。っと、あ!そうだ。さっき、アイツの研究室行の材料が積まれてるの見たな。いくつか高そうなの盗んでやるか」
「賛成!!どうせアイツはコネだし、外面のために頼んでるだけだろ。どうせ使わずに腐らせるだけだろうし、勝手にとっても分かんねーだろーな。高いパーツあるかなー、あるよな!!」
あまりにも最低な会話内容に、怒りが腹の底からこみ上げてくる。あまりにも勝手な言い分だと思う。
確かに私はクラウスとの付き合いこそ短いが、彼の底の見えないほどに深い知識が一朝一夕でつくようなものでないことくらいは分かる。
実際、彼は私の目の前で何度も新しい魔法式を提案し、魔道具にその場で組み込んでいったという場面を既に飽きるほどに見たのだ。そんなことが出来る人間が賞を取るためだなんて理由で賄賂など払っている筈がない。だって、あの実力ならそんなことをしなくても取れるだろうし、現に昨年まではとっていたようだし。
謂れのない誹謗中傷を受け、それに加えて嫌がらせをされそうになっているその姿は、王国に居た頃の自分と重なった。
苛立っていたとはいえ、初っ端から彼の事を『肩パッド』と呼んで揶揄ったことも追加で謝罪しようと考えながら、休憩室の隅から出て行こうとした――のだが。
「あれ?君って……最近、クラウスに粉かけられてる子じゃん」
先ほどのよく吠える3人組に見つかってしまった。非常に不愉快。最低最悪な状況である。
「ほんとだ!ねえ君、アイツは汚い貴族だよ?君の優秀な血を自分の家にいれたい……いや、もしかしたら君の魔道具に関する新技術を盗もうとしているのかもしれない。アイツからはすぐに離れて、僕達のところに――」
「うるさい」
「……へ?」
卑しくも、肩に伸ばされたその手を触れるより前に一瞬で氷漬けにする。
手を血液まで全て氷漬けにされた男は、突然の事に身体が動かないのに自分の身に何が起こったのかが分からず、平凡な一文字しか発することが出来ていないようだった。
「な、んだ、なんだこれ!!?俺の手が!!ここにある筈なのに、何も、ないんだ!!」
「あ。それ無理矢理動かそうとすると折れちゃいますよ?パキンって」
「ひっ――」
「知っていますか?魔道具作りの基礎。魔道具っていうのは中身に魔法式を組み込むので、作成者の魔法技術に依存するんです。しかも作っても、全く同じ精度の魔法を使えるものは作り出せない。出来たとしても、作成者の魔法より5割減だと言われているんです」
完全に怯え切っている男達に近づき、顔をまじまじと見る。恐怖からか唇は青くなり、身体全体が小刻みに震えている。手を氷漬けにされた男はこちらを見ながら、現在進行形で失禁していた。
私が使った魔法である『氷魔法』に属するモノのせいだった。しかも今回かけた魔法は、その部分の感覚を奪い去りると同時に相手の魔力を吸い続けて、凍った状態を保つという攻撃魔法の中でもかなり高度なもの――呪いに属する魔法である。
正しい解呪方法を除けば、魔力切れ――即ち、その命が終わる瞬間までその魔法が解けることはない。
あまりにも情けないその姿に溜息を吐きながら、彼らに顔を近づけ、囁くように言葉を落とした。
「その程度の魔法も解くことが出来ないだなんて、貴方達もたかがしれていますね。クラウスだったら、一瞬でそんな魔法解けますよ。だって彼は陰口を叩いて、妬んで、全てを立場や金、そして他人のせいにする貴方達と違って、魔道具に対して誰よりも真摯に、真剣に向き合って、その才能に胡坐をかくことなく努力し続けている人ですから」
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