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第二章:王都

16.王都①

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暫く魔導車に揺られていると、そのうち王都に着いた。とても長く感じる移動時間だった。魔導車が嫌いになりそうだ。
そうして『お礼』をしたいからと、連れてこられた目が痛くなるほどに豪華な部屋。確実に高いのだと分かる調度品の数々に、少しドン引きしながら、これまた無駄に肌触りが良い革製の三人がけソファーに腰を降ろした。

「さて。じゃあこれがさっきまで言っていたお礼」

ドスン。そんな擬音が聞こえる程の重い袋を、正面に座ったサミュエルによって机の上に置かれる。曰く、お金だったらどれだけあっても困ることはないでしょと言いながら、笑顔で部下に聞くだけでもすごい額の金貨を持ってくるように指示を出していた。あまり中身を覗きたくない。

「ちなみにこれには君が将来僕に尽くしてくれるかも~っていう期待も込められているから、しっかりと受け取ってね」
「はあ。別に要らないのですが、受け取らなかったら受け取らないでもっと付きまとわれそうで面倒なのでもらっておきます」
「本当、君ってハッキリ言うよね~。そういうところ、好きだよ」
「流石フィオレント帝国の女たらしと言われるだけありますね。言葉が一つ一つ甘ったるい」
「へえ。僕の立場、知ってたんだ?」
「顔を見ればわかりますよ、貴方の顔は週刊誌や新聞でも出ていて有名ですから。でも私、どんな立場の人であろうともそういう軽薄な言葉や態度が一番嫌いなので、どちらにしろ貴方に従う気はありません」
「っ……!」

『嫌い』。彼の立場を分かっているという前提の上で、かけられた期待をバッサリと切り捨てる。これ以上時間を無駄にしたくないがために放った本心からの言葉、これ以上は近寄るなという拒絶の言葉だった。
しかしその言葉を放った瞬間、サミュエルは予想外の反応を示す。
そのまま立ち去ろうとする私の手を急に握り、顔を覗き込んで来たのだ。その表情には先程までの軽薄さはなく、恐ろしいくらいの真顔だった。

「あの、何か?私、疲れてるので少しでも早く身体を落ち着けたいのですが」
「君……いや、でも顔も髪も、魔力すらも別物――」
「独り言なら独りでやってください。私を巻き込まないで」
「っああ、ごめんね。ちょっと知り合いと重なってしまってね。思わず止めてしまった」

知り合い、重なる。その言葉に一瞬ヒヤリとするが、彼を嫌っていた人間など私だけではないはずだ。だからこんな風にハッキリと嫌悪を示したのも、きっと私だけではないと思う。だって私がどんな酷いことを言っても、彼はへこたれたことがない。慣れている。それが何よりの証拠だろう。そう考え直して心を落ち着けていると、案の定彼はすぐに手を離してくれた。

不自然に思われない程度に、髪の毛の色を確かめる。そこにあるのは以前の白銀ではなく、この白に近い色の肌によく映える漆黒の髪の毛だった。そう、確認しながら安心感を得ていると、再びサミュエルに声を掛けられた。

「そうだ、宿泊予定の部屋がどこか分からないだろう。ちゃんと案内人を手配するよ」
「……わかりました。お願いします」

確かに彼の言う通り王宮のどこが宿泊場所なのか分からなかったので、素直にその厚意を受け取る。しかし、一度生まれ、燻ぶった不安は一度心を落ち着けただけでは簡単に消えてくれなかったのだった――。
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