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ゼノスの『破壊』の力を使うため、結晶化したクロエに触れたリオン。眩い光に包まれたかと思えば、先程の薄暗い部屋とは全く別の場所に彼は一人立っていた。
柔らかい光に全身を包まれる様な、不思議な心地良さのある空間。地面を見れば透明度の高い水の上に自分が立っていることが分かった。しかし沈むでもなく、その水の上に。息を吸い込めば、清く澄んだ空気で肺が満たされる。そんな景色も空気も気温も何もかもが心地よく、美しい場所だった。

「ここは?……僕はクロエさんの封印を壊そうとしていたはずだ」

そう。リオンは融合したゼノスの力を引き出した上で、結晶化したクロエに触れたのだ。だからこそ自身の認識している空間がガラリと変わってしまっている理由が分からない。
何かの魔法――瞬間移動させられたのか、はたまた精神錯乱系の魔法か、自分の身体は本当にここに存在しているのか。そこまで考えたところで、肉体的にも研ぎ澄まされたのか、遠くから何か妙な音がすることに気付いた。見えない程に遠くで金属同士がぶつかり合う音や爆発音が聞こえるのだ。

行くしかない。
今この場所で何が起こっているのかは分からないが、やっと見つけた違和感。この意味が不明な状況ではこれに縋るしかなかった。

***

音の発生源、そこではクロエと女神が1対1で戦いを繰り広げていた。それを目視したリオンは急いでそこに向かう。遠目から見てもクロエの劣勢は火を見るより明らかだったからだ。

「そろそろ諦めたらどうだ?所詮はお前は人間なのだから、いつまでも私と戦い続けるなんて不可能なこと。それはクロエ、お前自身が一番分かっているはず」
「――っはあ、うるさい!!」
「息が上がっている。そんなに苦しいなら、さっさと諦めて楽になってしまった方がお前も苦しまないというのに。愚かな生き物だ」
「昔の貴女と同じ、よ」
「はぁ?」

『昔の貴女と同じ』。その言葉に意味が分からないと反応する女神を睨みつけたクロエが無数の剣を空中に生成する。それを馬鹿にしたような瞳で見つめる女神に対して、クロエは言葉を放った。

「女神・フローリア、貴女がゼノスを守りたかったように、私もリオンを守りたい。リオンだけじゃない。私は父さん達や部下、守りたい人がたくさんいるからこそ諦めずに戦えるの!」

言い終わると同時に360度上下左右から女神に向かって向けられていた剣が放たれた。

言葉の意味を飲み込むと共に呆気にとられた顔になった女神。そして全方位からの避けようのない攻撃。それは遠くから走りながら見ていたリオンからも『確実に攻撃が当たった』と言い切れるほどに完璧な攻撃だった。
しかし――――。


「弱い。意思も感情も弱すぎる。これがお前の心を全て乗せた攻撃か?」

クロエの眼の前には傷一つ負っていない女神が空に浮かんでいた。
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