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「返せっ、返せ返せ返せ!返せぇぇええええ!!!!」
「……すごい執着心だな。それにその魔力量――なるほど、私の魔法にかからなかっただけのことはある」
リオンは近接戦では風を纏った剣を振るい、距離を取れば連続する魔法と銃撃の合間に瞬間移動で距離を詰める。
しかし女は物理攻撃を軽くいなし、魔法を退けるだけだが、そんな攻防のせいで周囲の壁は傷つき、地面は抉れ、周囲は荒れ果てていた。いつの間にか城内に移動したその場所は、周囲の建造物に甚大な被害を出していた。
場は、リオンから放たれた濃厚な殺気で満たされている。
「だが、お前に用はない。そろそろ終わりに――」
女が手を翳して、強力な魔法を発動しようとした瞬間、何かに気を取られ、魔法は不発に終わる。
視線の方向を見ると、複数人の騎士に護衛されながら、転移ポートに移動しようとしているこの国の国王の姿があった。
「見つけた」
リオンが反応する間もない程の速度で女が何種類もの武具を国王に飛ばす。咄嗟に『しまった』と感じるリオンだったが、それらの攻撃は対象に当たる前に消滅した――。
リカルド=ハイラント。この国の白騎士団長が女の攻撃を無力化したのだ。
「リカルドさん!助かりました」
「ああ、仕事だからな。して、こいつが件の侵入者か。助太刀する」
「…………」
リオンはリカルドの参戦の言葉に何も答えることが出来なかった。クロエや自分と同じ団長格で且つ近い年齢の人間として、彼は交流が深かった。それなのに中身は違えど、彼女のことを憶えていないどころか敵として排除しようとしている。やはり誰も彼女を思い出すことはない。それにどうしようもなく心が痛む。
それと同時にもう一つの想いもあった。一拍置いて冷静になった今、正直この目の前にいる彼女に対して勝てる自信はない。そう思わせる程の化け物染みた力を感じる。その考えはリカルドという味方が加わっても変わらない、確信染みたものがあった。しかし、どうなるにしろ戦わないわけにはいかなかった。だってリオンが知る彼女は、他人を傷つけて笑顔でいられる人間ではなかったから。正気に戻った時に泣くのは彼女だ。だから彼は、今回の騒動で出たたくさんの範囲内の負傷者を治療し続け、同時に今もどんな絶望的な勝率であろうと闘うことを選択した。
***
そこからの戦いは一方的なものだった。
逃げようとしている国王を何故か殺そうと攻撃を繰り出す女に対して、ただただ攻撃をなんとか無効化するリオンとリカルド。二人は攻撃するどころか、女が攻撃してくる度に腕に足にと深い傷を負い、それをリオンの魔法で無理矢理治療することで戦っていた。
「お前達のせいで、私は――彼はっ」
女が深い恨みや怒りが籠った激情を言葉と共にぶつけると同時に魔力がどんどん膨らんでいく。女はリオンとは逆に先程まで保っていた冷静さがなくなり、直情的だが、例えるのなら天変地異と同等程の強力な攻撃を続けていた。
その状態が10分ほど続いた頃だろうか。ようやく国王を護りながら転送ポートまで数メートルのところに近づいた時だ。
ようやっと女の目がリオンとリカルドを捉える。獲物を逃がさないためにも、先に自分達を排除しようとしていると二人は咄嗟に察した。
剣やら槍やら複数の武器が四方八方から飛んでくるのを紙一重で躱していく。いつまでも終局しない武器の雨に、顔を歪めたその時だった。背後にいつの間にか女が現れ、リオンの首に刃を当てているという状態でピタリと止まった。
首を刎ねられる――。
薄皮一枚が切れ、隣にいたリカルドにもリオンの首が飛ぶビジョンが見えたが、瞬きの間にその構図は一転する。
「は?」
先程まで優勢だった筈なのに、今、女の首に剣を当てているのはリオンだ。
間抜けた一文字が女の口から漏れた。これは一種の賭け。きっと最後は背後から直接首を取りに来るだろうとリオンは準備していたのだ。流石に首周辺が負傷する覚悟はしていたが、何故か女の動きが直前で止まった事で思っていたよりもすんなりと成功させることができた。
彼は、自身の背後に戦闘中では気づかない程に小さく魔力でマーキングをし、いつでも位置の入れ替えが出来るように、所持している魔法の内の一つである空間転移系の魔法をいつでも発動できるようにしていたのだ。そうして今、女の首に剣を当てているのがリオンとなったのだ。まさに起死回生の一手。攻撃を緩めることなく、中々近付いてくることのなかった女が最後の最後にその手で直接首を取りに来るのを待ち続けていた故に発動出来た究極の一手だった。
そのままの勢いで、リオンは女の意識を刈り取った。
「……すごい執着心だな。それにその魔力量――なるほど、私の魔法にかからなかっただけのことはある」
リオンは近接戦では風を纏った剣を振るい、距離を取れば連続する魔法と銃撃の合間に瞬間移動で距離を詰める。
しかし女は物理攻撃を軽くいなし、魔法を退けるだけだが、そんな攻防のせいで周囲の壁は傷つき、地面は抉れ、周囲は荒れ果てていた。いつの間にか城内に移動したその場所は、周囲の建造物に甚大な被害を出していた。
場は、リオンから放たれた濃厚な殺気で満たされている。
「だが、お前に用はない。そろそろ終わりに――」
女が手を翳して、強力な魔法を発動しようとした瞬間、何かに気を取られ、魔法は不発に終わる。
視線の方向を見ると、複数人の騎士に護衛されながら、転移ポートに移動しようとしているこの国の国王の姿があった。
「見つけた」
リオンが反応する間もない程の速度で女が何種類もの武具を国王に飛ばす。咄嗟に『しまった』と感じるリオンだったが、それらの攻撃は対象に当たる前に消滅した――。
リカルド=ハイラント。この国の白騎士団長が女の攻撃を無力化したのだ。
「リカルドさん!助かりました」
「ああ、仕事だからな。して、こいつが件の侵入者か。助太刀する」
「…………」
リオンはリカルドの参戦の言葉に何も答えることが出来なかった。クロエや自分と同じ団長格で且つ近い年齢の人間として、彼は交流が深かった。それなのに中身は違えど、彼女のことを憶えていないどころか敵として排除しようとしている。やはり誰も彼女を思い出すことはない。それにどうしようもなく心が痛む。
それと同時にもう一つの想いもあった。一拍置いて冷静になった今、正直この目の前にいる彼女に対して勝てる自信はない。そう思わせる程の化け物染みた力を感じる。その考えはリカルドという味方が加わっても変わらない、確信染みたものがあった。しかし、どうなるにしろ戦わないわけにはいかなかった。だってリオンが知る彼女は、他人を傷つけて笑顔でいられる人間ではなかったから。正気に戻った時に泣くのは彼女だ。だから彼は、今回の騒動で出たたくさんの範囲内の負傷者を治療し続け、同時に今もどんな絶望的な勝率であろうと闘うことを選択した。
***
そこからの戦いは一方的なものだった。
逃げようとしている国王を何故か殺そうと攻撃を繰り出す女に対して、ただただ攻撃をなんとか無効化するリオンとリカルド。二人は攻撃するどころか、女が攻撃してくる度に腕に足にと深い傷を負い、それをリオンの魔法で無理矢理治療することで戦っていた。
「お前達のせいで、私は――彼はっ」
女が深い恨みや怒りが籠った激情を言葉と共にぶつけると同時に魔力がどんどん膨らんでいく。女はリオンとは逆に先程まで保っていた冷静さがなくなり、直情的だが、例えるのなら天変地異と同等程の強力な攻撃を続けていた。
その状態が10分ほど続いた頃だろうか。ようやく国王を護りながら転送ポートまで数メートルのところに近づいた時だ。
ようやっと女の目がリオンとリカルドを捉える。獲物を逃がさないためにも、先に自分達を排除しようとしていると二人は咄嗟に察した。
剣やら槍やら複数の武器が四方八方から飛んでくるのを紙一重で躱していく。いつまでも終局しない武器の雨に、顔を歪めたその時だった。背後にいつの間にか女が現れ、リオンの首に刃を当てているという状態でピタリと止まった。
首を刎ねられる――。
薄皮一枚が切れ、隣にいたリカルドにもリオンの首が飛ぶビジョンが見えたが、瞬きの間にその構図は一転する。
「は?」
先程まで優勢だった筈なのに、今、女の首に剣を当てているのはリオンだ。
間抜けた一文字が女の口から漏れた。これは一種の賭け。きっと最後は背後から直接首を取りに来るだろうとリオンは準備していたのだ。流石に首周辺が負傷する覚悟はしていたが、何故か女の動きが直前で止まった事で思っていたよりもすんなりと成功させることができた。
彼は、自身の背後に戦闘中では気づかない程に小さく魔力でマーキングをし、いつでも位置の入れ替えが出来るように、所持している魔法の内の一つである空間転移系の魔法をいつでも発動できるようにしていたのだ。そうして今、女の首に剣を当てているのがリオンとなったのだ。まさに起死回生の一手。攻撃を緩めることなく、中々近付いてくることのなかった女が最後の最後にその手で直接首を取りに来るのを待ち続けていた故に発動出来た究極の一手だった。
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