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7.パーティーⅠ
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立花樹が訪ねてきた日から1カ月が経過した。
あれからは何故か彼は毎週水曜日に必ず私を小学校に迎えに来る。水曜日は現在小学5年生は6時間授業、中学1年生は5時間授業なので帰る時間がほぼ同じなのだ。だからだろう。
正直、一番最初に教室に訪ねてきた時は滅茶苦茶ビビった。あの周囲のざわつきは一生忘れることが出来ないだろう。立花樹の見目にキャーキャー騒ぐ女子たち、男子はその女子たちの騒ぐ声につられて興味を示す。そんな男に声を掛けられた私に向けられる視線と言ったら……。私はゲームの桜小路麗華とは違い、ゲームに転生したと気付くよりずっと前からあまり目立たないように地味に生活しているのだ。本当にあの時は地獄だった。
と言っても、立花樹には特に悪意はないのだ。会いに来たのは婚約者だからだのなんだのと言っていたが、ラルフに会いたいだけだというのが察せられてかつ、害も特にないので今は放置している。私自身に対して向ける瞳も前のような冷たいものではなく、かといって親しい者に向けるものでもないので、私自身は特になんとも思われていないのだろう。このままラルフの飼い主のモブとして扱っていただきたい。
それに結局そのまま二人でラルフの散歩に出かけるので、私としては変わらないのだ。ラルフの健康のための散歩が出来れば何でもいい。
正直なところ、最初は会話をどうすれば良いのかという気まずさを感じていたが、彼自身からあまり話しかけてこないし、彼自身も双方無言だろうと気にしていないようだったのでそのままいないものとして扱っている。
色々あった1カ月だが、今は安定している……否、安定していた筈だった。父様が夕食時にあの話を持ち出してくるまでは――。
「麗華もそろそろパーティに参加してみないかい?」
それを言われた瞬間、夕食の丁度飲んでいたボルシチが気管に入り、噎せた。
「大丈夫かい、麗華!?」
「っありがとうございます、大丈夫です」
背中をさすってくれた優しい人は、次男の蓮音兄様。『汚いな』と呟きながらも視線は心配そうに蓮音兄様の隣の席からこちらを見つめてくるのは紫苑兄様である。
彼らは私が大丈夫だと返事をすると、この話題を振って来た父様を睨みつける。兄達は明らかに私に対して甘い態度をとる。きっとこういうところもゲーム内の麗華を作り上げる要因になっているのだろう。私は絶対ああいう性格にはならないように気を付けようと再度思い直すと同時に、何故こんな話題を振ったのかと長机を挟んで対面に座っている父様に視線を投げつけた。
「今度開かれるパーティーは、とある家のお子さんの誕生日を祝うものなんだ。うちとも交流が深い家の催しだから、将来の事を考えてどうかなと思ってね。そんなお堅い集まりじゃないから――」
「俺は反対です。そもそも麗華の性格はそういう集まりに向いていない。あまり人が多く集まる場が得意ではないだろう。やりたくないならやらせなくていい。俺が代わりに出れば良いことだ」
「そうだね。紫苑兄さんが一番経験もあるし、その方が安心だよ。麗華を急にそんな場所に放り込んだら、可哀そうだろう」
兄様達が私の表情を伺った直後、父様の言葉を遮り、私を庇うように反論する。
確かにパーティーと聞いて、嫌だなと思ったのは事実だ。あまりああいう華やかな場は私は得意とは言えない。しかしながら、ゲーム内の様子を見ていても分かる事だが、金を持っている人間はそれなりの頻度でパーティーを開いており、麗華もかなりの頻度で参加しているようだった……と立花樹が呆れていた覚えがある。
そして私自身もこの家の人間として、ずっと私だけ不参加ということも出来ないことは分かっている。将来いつか参加を避けられない事態に陥った時に大失敗をかますのは嫌なのである。
だから正直なところ嫌だなと思いながらも、これは経験を積むには良い機会なのではないかと思った。なにせ今回は主役を祝うという明確な目的がある。私も何度か誕生日を祝われるパーティーを家で開かれたことがある故に分かる。主役に挨拶さえ済ませられれば、後はプラプラしていれば良い部類のものだろう、これは。
初めて参加する他家のパーティーとしては悪くないと思われる。
「父様、私、参加します」
兄様達が驚きに目を見開く。少し申し訳ないなと思いながらも、私はそう主張していた。
桜小路麗華、パーティーに参加します!
あれからは何故か彼は毎週水曜日に必ず私を小学校に迎えに来る。水曜日は現在小学5年生は6時間授業、中学1年生は5時間授業なので帰る時間がほぼ同じなのだ。だからだろう。
正直、一番最初に教室に訪ねてきた時は滅茶苦茶ビビった。あの周囲のざわつきは一生忘れることが出来ないだろう。立花樹の見目にキャーキャー騒ぐ女子たち、男子はその女子たちの騒ぐ声につられて興味を示す。そんな男に声を掛けられた私に向けられる視線と言ったら……。私はゲームの桜小路麗華とは違い、ゲームに転生したと気付くよりずっと前からあまり目立たないように地味に生活しているのだ。本当にあの時は地獄だった。
と言っても、立花樹には特に悪意はないのだ。会いに来たのは婚約者だからだのなんだのと言っていたが、ラルフに会いたいだけだというのが察せられてかつ、害も特にないので今は放置している。私自身に対して向ける瞳も前のような冷たいものではなく、かといって親しい者に向けるものでもないので、私自身は特になんとも思われていないのだろう。このままラルフの飼い主のモブとして扱っていただきたい。
それに結局そのまま二人でラルフの散歩に出かけるので、私としては変わらないのだ。ラルフの健康のための散歩が出来れば何でもいい。
正直なところ、最初は会話をどうすれば良いのかという気まずさを感じていたが、彼自身からあまり話しかけてこないし、彼自身も双方無言だろうと気にしていないようだったのでそのままいないものとして扱っている。
色々あった1カ月だが、今は安定している……否、安定していた筈だった。父様が夕食時にあの話を持ち出してくるまでは――。
「麗華もそろそろパーティに参加してみないかい?」
それを言われた瞬間、夕食の丁度飲んでいたボルシチが気管に入り、噎せた。
「大丈夫かい、麗華!?」
「っありがとうございます、大丈夫です」
背中をさすってくれた優しい人は、次男の蓮音兄様。『汚いな』と呟きながらも視線は心配そうに蓮音兄様の隣の席からこちらを見つめてくるのは紫苑兄様である。
彼らは私が大丈夫だと返事をすると、この話題を振って来た父様を睨みつける。兄達は明らかに私に対して甘い態度をとる。きっとこういうところもゲーム内の麗華を作り上げる要因になっているのだろう。私は絶対ああいう性格にはならないように気を付けようと再度思い直すと同時に、何故こんな話題を振ったのかと長机を挟んで対面に座っている父様に視線を投げつけた。
「今度開かれるパーティーは、とある家のお子さんの誕生日を祝うものなんだ。うちとも交流が深い家の催しだから、将来の事を考えてどうかなと思ってね。そんなお堅い集まりじゃないから――」
「俺は反対です。そもそも麗華の性格はそういう集まりに向いていない。あまり人が多く集まる場が得意ではないだろう。やりたくないならやらせなくていい。俺が代わりに出れば良いことだ」
「そうだね。紫苑兄さんが一番経験もあるし、その方が安心だよ。麗華を急にそんな場所に放り込んだら、可哀そうだろう」
兄様達が私の表情を伺った直後、父様の言葉を遮り、私を庇うように反論する。
確かにパーティーと聞いて、嫌だなと思ったのは事実だ。あまりああいう華やかな場は私は得意とは言えない。しかしながら、ゲーム内の様子を見ていても分かる事だが、金を持っている人間はそれなりの頻度でパーティーを開いており、麗華もかなりの頻度で参加しているようだった……と立花樹が呆れていた覚えがある。
そして私自身もこの家の人間として、ずっと私だけ不参加ということも出来ないことは分かっている。将来いつか参加を避けられない事態に陥った時に大失敗をかますのは嫌なのである。
だから正直なところ嫌だなと思いながらも、これは経験を積むには良い機会なのではないかと思った。なにせ今回は主役を祝うという明確な目的がある。私も何度か誕生日を祝われるパーティーを家で開かれたことがある故に分かる。主役に挨拶さえ済ませられれば、後はプラプラしていれば良い部類のものだろう、これは。
初めて参加する他家のパーティーとしては悪くないと思われる。
「父様、私、参加します」
兄様達が驚きに目を見開く。少し申し訳ないなと思いながらも、私はそう主張していた。
桜小路麗華、パーティーに参加します!
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