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4.麗華の決意

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順調に桜小路麗華の設定と、立花樹の過去や詳細を無事思い出せた私。もっと情報が必要だと思い、それ以外の設定を思い出そうとした――のだが、ほとんど思い出せなくなって行き詰まっていた。

なにせ私は正直、立花樹以外のルートについては憶えていなかったからだ。
それは何故か。はい、前世の私の好みが『闇を抱えた色素薄い系イケメン』だったからです!それを考えると立花樹は白に近い金髪に碧眼、肌の色も全く日焼けしていないどちらかというと不健康と言われる部類に入るという超絶好みの容姿であり、かつ内面も物凄く深い闇を抱えている。彼はそれはもう私の性癖にぶっ刺さりまくった。彼のためにゲームを買ったとすら言えるレベルだろう。

まあ、だから簡単に言うと彼以外眼中になかった当時の私は、立花樹以外の攻略対象の事は良くも悪くも印象に残っていないのだ。ついでにヒロインも。立花樹に完全なるキャラ萌えをしていた当時の私は、一日一回以上オートプレイでルートのストーリーを流しながら周回をしていた時期があったほどなので、最低でも100周以上しており、彼の事は完璧だ。ゲーム内でのセリフも一言一句違えず言える。しかしヒロインにはボイスが実装されていなかったこともあり、基本的に空気だった。推しの周りを漂う空気。私にとってヒロインとはそういう存在だ。

その空気とほぼ同義の存在である他キャラはと言えば、エンディング・スチルのフルコンプ特典であるスペシャルストーリー(立花樹も出る)を読むためにルートを流し読みしただけなのだ。
まあ、ルート自体どのキャラも立花樹程に闇が深くなかったこともあり、完走してみても結局そこまで私の好みではなかった……のだと思う。
流石に監禁されるルートや殺人が起こるルートなんかがあれば、印象に残っている筈なので、きっと平和な青春ストーリーが展開されたのだろう。知らんけど。

結論として、姿を見てかつ声を聞けば攻略対象か否かを見分けられる……かもしれないというレベルだ。攻略対象は全員立花樹と幼馴染だったり、親友だったりという関係性だったので、それなりの頻度でルートに立ち絵やボイスが登場したのだ。
しかし姿を思い出せない彼らについても一つ言えることがある。それは、全員麗華を言葉で言い表せないレベルで嫌っているということ!!はい、知ってた!!!
本当、全員に嫌われるとか麗華って何したの??ここまでくると逆に気になってくる。

麗華と同じような行動を取らなければ、そこまで嫌われることはない……とは思うのだが、きっと基本的には好かれることはあり得ないと考えて行動したほうがいいだろう。
麗華は、家族以外からは孤立無援の女なのだ。むしろよく家族だけはずっと麗華の味方でいてくれたなと少し感動すら覚える。

***

その他攻略対象やヒロインについて考えることを完全に諦めた私は、どうやって自身の家の破滅ひいては自分の刑務所送りを回避するかの方向性を考える。考えることは尽きないのだ。
大前提として、今後ヒロインに危害を加えないことは当然ながら、立花樹に最低限の接触のみで、最終的に円満に婚約を解消してもらう。あと最重要事項として刑務所所送りにはならない。経歴に傷がつくのは、今後の人生を考えても絶対に嫌だ。

しかしこれらは中々に難しい条件である。特に婚約解消の部分が。既に成された約束というのが大きい。
もしも私が無理矢理に『彼との婚約を解消して欲しい!』などと言った場合、父は全力で私の願いを叶えるために何かしらの手段を取って、立花樹との婚約をなかったことにするだろう。
けれどこちらから……しかも私の身勝手な理由で破談にしたのであれば、確実に立花樹の反感を確実に買って、きっと近い将来私と私の家は潰される可能性がかなり高い。彼は表面上穏やかに見えて、プライドが途轍もなく高く、かつ嫌いな人間には平気で冷徹なことをする人間だ。
今の私は既に好感度が低い状態なのだから、変な行動をとってリスクを犯したくなかった。それ故の円満な婚約解消である。

だから私は一つの道筋を立てた。
確実に私が悪いと思われないかつ穏やかに婚約解消をしてもらえる道筋を――。
それは、ヒロインと立花樹に、婚約期間中に深い仲になってもらうことである!
彼が婚約者以外の人間であるヒロインと不貞行為を働けば、それは確実に彼の心の中に罪の感情を植え付ける。それに周囲から見ても、浮気された私はただの被害者だ。だから私はモブになれるように徹しながら、陰ではヒロインと立花樹をくっつける。
私に対して恨みと嫌悪しか抱いていない男との結婚なんて、こちらからも御免なのである。
ヒロイン――多分名前は西園寺さいおんじ 日向ひなた(デフォルト名)だったと思う――彼女には是非とも立花樹を落とすために頑張っていただきたい……私の今後の自由のために!!絶対に他のキャラのルートになんて行かせてあげない。西園寺日向、貴女は必ず立花樹とラブラブになるのです!

ここで私は、立花樹と西園寺日向をくっつけよう委員会の会長に(勝手に)就任したのだった――。
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