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3.追憶Ⅲ
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そして、いざヒロインに絶対に危害を加えないと誓った私に立ち塞がる大きな壁。
私の前世での最推しであり、現在婚約者という立場になってしまったこの男……立花 樹。麗華より二つ年上である彼の特徴は一言で言うと、『学校の王子様』と呼ばれるが、実のところ女嫌いであるという部分。数いる女の中でも特に麗華が大嫌い。実はこの部分、ゲームの特典として付いてくるキャラクター解説ブックの立花樹の紹介欄の一番上に書かれている。麗華の存在の強さよ……。
しかし麗華が大嫌いなのはきちんと理由がある。大きく分類すると2つ。
そのうちの1つ目は立花樹の過去に遡ると全てがわかる。
彼の両親は元々恋愛結婚でお互い愛し合っていたのだが、樹が生まれる頃にはその愛は既に冷え切っており、樹の世話も全てお手伝いさん任せだった。
そして両親は毎日家にいない。父親は仕事で家に帰ってくるのはよくて半年に1回、母親は父親が作った金を使って愛人と遊び回っている。だから生まれてから一度も彼は母と正面から話したことがなかった。遠目から見て、アレが自分の母親だと紹介されただけ。
しかしながら『父親の作った会社を継ぐ人間』として幼い頃から厳しく躾けられ続けてきた。彼の父親は新進気鋭のIT系の大企業とまで呼ばれる会社を一代で立ち上げた代表取締役社長だったのだ。それ故に全てに完璧を求めていた。それは一人息子である立花樹にも当然のように適用される。けれど、既に愛していない女との間の子供――ただ自身の跡を継がせるだけの人間に対して、それ以上の興味がないようで、愛情を注がれることはなかった。
そうして彼が愛情を求めたのは、一番近くにいた専属の女性――20代という若さのお手伝いさんだった。ご飯を与えてくれ、身の回りの世話をしてくれる彼女を、まるで母親の代わりのように慕い、彼女からも彼女の子供のように愛されていると彼は思っていた……否、そう思い込んでいたのだ。
けれどそんな親子ごっこはある日、崩される。
樹が精通した直後、そのお手伝いさんは豹変した。「愛している」「母親ではなく、貴方の妻になりたい」「貴方の美しい容姿が大好きなの」そんな言葉をかけられて、馬乗りにされたのだという。正直、ここの描写はエロゲーではなく、乙女ゲームだったのでぼかされてはいたが、確実に童貞を奪われたと取れる文章だった。要は、その美しい容姿により無意識のうちに年上の女性を誘惑してしまっていた彼は、母親のように慕っていた女性に懸想されていた上に、幼いにもかかわらず性的な被害を受けたのだ。
それから彼は、自分の容姿を褒め称える女性や、見目だけで迫ってくる女性、そして自分を性的に見てくる人間全般が嫌いになった。ちなみに麗華は全てが当てはまっていた。害悪パーフェクト……。
しかもこれ、婚約の2年前に既に起きている出来事なのである。そこに麗華がぶつけられた。なんてひどい運命の悪戯。麗華は破滅がこの時から既に決まっていたのかもしれない。
そしてもう一つの理由。
それは麗華の家庭環境が恵まれていたからである。
え?そんなことで??と思われるかもしれない。しかし家庭環境が控えめに言って最悪、その上母親のように慕っていた女性に逆レイプされたなんていうもはや泣きっ面に蜂状態の立花樹。両親は愛し合って結婚した後である現在も仲が良い、なによりも家族が全員、蝶よ花よの如く愛して、甘やかして育てている麗華。私がずっと感じていた通りに傍から見ても恵まれている。
私、麗華と立花樹の人生は真逆だ。
ゲーム内でも樹は『自分とは違い、恵まれている彼女が出会った当初から大嫌いで大嫌いで、殺したいほどに憎らしかった。だから、出会った直後から麗華が自分に恋情、そして劣情を抱いていることに対して吐き気を催しながらも、恵まれている彼女からの『愛』を支配していることで優越感に浸っていた』と回想で語っていた。
いや、こっっわ。
そんだけ重い憎悪や支配に近いドロドロの感情を抱かれてた麗華って何者!?
いざその激重感情を向けられる立場になってみると、怖くて仕方がないわ。
ここでもう一つ決めた。
立花樹にはとりあえず、敵意がないことを示しながら、最小限の交流のみでそのうち婚約を円満に解消してもらおう。まるで瞼に大きめの出来物が出来たような気分だ。胃が痛くなってくるが、彼に関わる回数を減らし、負担を減らせば麗華ほど嫌われることなく、その辺のちょっと特殊なモブCくらいの立場で物語の最後まで生き残るができる……と思いたい。
私の前世での最推しであり、現在婚約者という立場になってしまったこの男……立花 樹。麗華より二つ年上である彼の特徴は一言で言うと、『学校の王子様』と呼ばれるが、実のところ女嫌いであるという部分。数いる女の中でも特に麗華が大嫌い。実はこの部分、ゲームの特典として付いてくるキャラクター解説ブックの立花樹の紹介欄の一番上に書かれている。麗華の存在の強さよ……。
しかし麗華が大嫌いなのはきちんと理由がある。大きく分類すると2つ。
そのうちの1つ目は立花樹の過去に遡ると全てがわかる。
彼の両親は元々恋愛結婚でお互い愛し合っていたのだが、樹が生まれる頃にはその愛は既に冷え切っており、樹の世話も全てお手伝いさん任せだった。
そして両親は毎日家にいない。父親は仕事で家に帰ってくるのはよくて半年に1回、母親は父親が作った金を使って愛人と遊び回っている。だから生まれてから一度も彼は母と正面から話したことがなかった。遠目から見て、アレが自分の母親だと紹介されただけ。
しかしながら『父親の作った会社を継ぐ人間』として幼い頃から厳しく躾けられ続けてきた。彼の父親は新進気鋭のIT系の大企業とまで呼ばれる会社を一代で立ち上げた代表取締役社長だったのだ。それ故に全てに完璧を求めていた。それは一人息子である立花樹にも当然のように適用される。けれど、既に愛していない女との間の子供――ただ自身の跡を継がせるだけの人間に対して、それ以上の興味がないようで、愛情を注がれることはなかった。
そうして彼が愛情を求めたのは、一番近くにいた専属の女性――20代という若さのお手伝いさんだった。ご飯を与えてくれ、身の回りの世話をしてくれる彼女を、まるで母親の代わりのように慕い、彼女からも彼女の子供のように愛されていると彼は思っていた……否、そう思い込んでいたのだ。
けれどそんな親子ごっこはある日、崩される。
樹が精通した直後、そのお手伝いさんは豹変した。「愛している」「母親ではなく、貴方の妻になりたい」「貴方の美しい容姿が大好きなの」そんな言葉をかけられて、馬乗りにされたのだという。正直、ここの描写はエロゲーではなく、乙女ゲームだったのでぼかされてはいたが、確実に童貞を奪われたと取れる文章だった。要は、その美しい容姿により無意識のうちに年上の女性を誘惑してしまっていた彼は、母親のように慕っていた女性に懸想されていた上に、幼いにもかかわらず性的な被害を受けたのだ。
それから彼は、自分の容姿を褒め称える女性や、見目だけで迫ってくる女性、そして自分を性的に見てくる人間全般が嫌いになった。ちなみに麗華は全てが当てはまっていた。害悪パーフェクト……。
しかもこれ、婚約の2年前に既に起きている出来事なのである。そこに麗華がぶつけられた。なんてひどい運命の悪戯。麗華は破滅がこの時から既に決まっていたのかもしれない。
そしてもう一つの理由。
それは麗華の家庭環境が恵まれていたからである。
え?そんなことで??と思われるかもしれない。しかし家庭環境が控えめに言って最悪、その上母親のように慕っていた女性に逆レイプされたなんていうもはや泣きっ面に蜂状態の立花樹。両親は愛し合って結婚した後である現在も仲が良い、なによりも家族が全員、蝶よ花よの如く愛して、甘やかして育てている麗華。私がずっと感じていた通りに傍から見ても恵まれている。
私、麗華と立花樹の人生は真逆だ。
ゲーム内でも樹は『自分とは違い、恵まれている彼女が出会った当初から大嫌いで大嫌いで、殺したいほどに憎らしかった。だから、出会った直後から麗華が自分に恋情、そして劣情を抱いていることに対して吐き気を催しながらも、恵まれている彼女からの『愛』を支配していることで優越感に浸っていた』と回想で語っていた。
いや、こっっわ。
そんだけ重い憎悪や支配に近いドロドロの感情を抱かれてた麗華って何者!?
いざその激重感情を向けられる立場になってみると、怖くて仕方がないわ。
ここでもう一つ決めた。
立花樹にはとりあえず、敵意がないことを示しながら、最小限の交流のみでそのうち婚約を円満に解消してもらおう。まるで瞼に大きめの出来物が出来たような気分だ。胃が痛くなってくるが、彼に関わる回数を減らし、負担を減らせば麗華ほど嫌われることなく、その辺のちょっと特殊なモブCくらいの立場で物語の最後まで生き残るができる……と思いたい。
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