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二週間後……。
フォルティシア公爵家のある一室にて。
「……ジュリエッタ、何故だ」
「…………お嬢様」
二人の男が顔を突き合わせながら、暗い表情で椅子に座っている。その部屋は薄暗く、カーテンから覗く月明かりに照らされた二人の顔は、綺麗なだけに何処か荘厳な近寄りがたさが滲み出ていた。
この二人の男……キースとジルベルトはフォルティシア公爵、即ちキースとジュリエッタの父親からジュリエッタが本日正式に婚約したことを今しがた告げられたばかりだった。何故、自分たちはパーティーに招かれなかったのか!?と、すぐに問いただしたキースだったが、それはジュリエッタたっての願いだったと父に一刀両断されてしまった。
「やはりお嬢様は、この家……私達から逃げ出すつもりなのでしょうか」
「婚約したということは、そういう事だろう。全く馬鹿なことを……でも、逃がさない。逃がしてやらない。覚悟しろよ、ジュリエッタ」
「そう、ですね……」
彼らは薄暗く笑うのだった。
*******
深い、深い眠りに落ちる。記憶が戻ってから初めて、ここまで深い眠りに落ちた気がする。本当に深い眠りの中というのは、なにも夢を見ないのだなと思った。私は自分の意識も朧気に、暗闇の中だ。もしかしたら、此れも夢といえば、夢と言えるのかもしれないが、夢ではないのだろう。一面の暗闇という空虚が私を満たしきっている。
……なんだか、落ち着く。
この暗闇の中に溶け込めたようで、安心する。まるで、その暗闇が私にとても近しい者のように感じた。だが、こんな安堵の中に居られるのはきっと今だけだ。
あんなことがあったのだもの。きっと、明日はキース兄様やジルへの説明で忙しい……私はこれでゲームの流れから出られた筈なのだから。
こんなことを今考えても明日には忘れているのだろうけど。
どんなことを感じても、思っても、全ては泡沫。次の日には少しの残滓を残すことはあっても消えてしまう。夢というものは基本そういうものだ。そうして、更なる深い眠りに意識を沈めていくのだった……。
***
「んんんん~~、よく寝た」
朝、私は目覚めを迎える。しかし、ふと下腹部に違和感を感じた。そのままそこに手を伸ばして、触ってみる。
「え、なに……?」
触れた指先にぬるりとした感触。何故だか私のそこは、私自身の愛液であろうもので濡れていた。
しかも、それは私のお尻の方にまで伝っていて……身に覚えのないソレに私は恐怖を感じながらも、すぐにお風呂場に行って洗い流す。今までなかった初めての事だった。流している間も何故こんなことになっていたのか気になって仕方がない。
そうして洗い流し、お風呂から出た所でジルベルトが私を呼びに来た。
「お嬢様。朝食が出来ています」
私はその声に思わず身構えてしまう。
何故か、その声はいつもよりも冷たい気がしたのだ。ジルベルトは基本サポートキャラとして出てくるので、元々別のルートに行こうとすると邪魔してくる一番厄介な攻略対象であるキース兄様程は警戒していなかったのだ。
ルートによっては、攻略対象との仲を稀にキース兄様から匿ってくれることすらあるキャラである。それが何故今、こんな違和感を覚えるのだろうか。
しかし、このままここで返事をせずに突っ立っているわけにもいかない。私は、一瞬の緊張で竦んだ足を動かし、自分で扉を開けに行った。
「おはよう。ジルベルト」
出来るだけいつも通りを心がけて、彼にジルベルトに声を掛ける。
しかし、私に彼の顔を見る勇気はなかった。出来るだけ顔を見ないようにして、そのままいつも通りを心がける。何も、見ないように。……なにかに気づかないように。
そうして、そのままジルベルトを伴って朝食の席に着いたのだった。
フォルティシア公爵家のある一室にて。
「……ジュリエッタ、何故だ」
「…………お嬢様」
二人の男が顔を突き合わせながら、暗い表情で椅子に座っている。その部屋は薄暗く、カーテンから覗く月明かりに照らされた二人の顔は、綺麗なだけに何処か荘厳な近寄りがたさが滲み出ていた。
この二人の男……キースとジルベルトはフォルティシア公爵、即ちキースとジュリエッタの父親からジュリエッタが本日正式に婚約したことを今しがた告げられたばかりだった。何故、自分たちはパーティーに招かれなかったのか!?と、すぐに問いただしたキースだったが、それはジュリエッタたっての願いだったと父に一刀両断されてしまった。
「やはりお嬢様は、この家……私達から逃げ出すつもりなのでしょうか」
「婚約したということは、そういう事だろう。全く馬鹿なことを……でも、逃がさない。逃がしてやらない。覚悟しろよ、ジュリエッタ」
「そう、ですね……」
彼らは薄暗く笑うのだった。
*******
深い、深い眠りに落ちる。記憶が戻ってから初めて、ここまで深い眠りに落ちた気がする。本当に深い眠りの中というのは、なにも夢を見ないのだなと思った。私は自分の意識も朧気に、暗闇の中だ。もしかしたら、此れも夢といえば、夢と言えるのかもしれないが、夢ではないのだろう。一面の暗闇という空虚が私を満たしきっている。
……なんだか、落ち着く。
この暗闇の中に溶け込めたようで、安心する。まるで、その暗闇が私にとても近しい者のように感じた。だが、こんな安堵の中に居られるのはきっと今だけだ。
あんなことがあったのだもの。きっと、明日はキース兄様やジルへの説明で忙しい……私はこれでゲームの流れから出られた筈なのだから。
こんなことを今考えても明日には忘れているのだろうけど。
どんなことを感じても、思っても、全ては泡沫。次の日には少しの残滓を残すことはあっても消えてしまう。夢というものは基本そういうものだ。そうして、更なる深い眠りに意識を沈めていくのだった……。
***
「んんんん~~、よく寝た」
朝、私は目覚めを迎える。しかし、ふと下腹部に違和感を感じた。そのままそこに手を伸ばして、触ってみる。
「え、なに……?」
触れた指先にぬるりとした感触。何故だか私のそこは、私自身の愛液であろうもので濡れていた。
しかも、それは私のお尻の方にまで伝っていて……身に覚えのないソレに私は恐怖を感じながらも、すぐにお風呂場に行って洗い流す。今までなかった初めての事だった。流している間も何故こんなことになっていたのか気になって仕方がない。
そうして洗い流し、お風呂から出た所でジルベルトが私を呼びに来た。
「お嬢様。朝食が出来ています」
私はその声に思わず身構えてしまう。
何故か、その声はいつもよりも冷たい気がしたのだ。ジルベルトは基本サポートキャラとして出てくるので、元々別のルートに行こうとすると邪魔してくる一番厄介な攻略対象であるキース兄様程は警戒していなかったのだ。
ルートによっては、攻略対象との仲を稀にキース兄様から匿ってくれることすらあるキャラである。それが何故今、こんな違和感を覚えるのだろうか。
しかし、このままここで返事をせずに突っ立っているわけにもいかない。私は、一瞬の緊張で竦んだ足を動かし、自分で扉を開けに行った。
「おはよう。ジルベルト」
出来るだけいつも通りを心がけて、彼にジルベルトに声を掛ける。
しかし、私に彼の顔を見る勇気はなかった。出来るだけ顔を見ないようにして、そのままいつも通りを心がける。何も、見ないように。……なにかに気づかないように。
そうして、そのままジルベルトを伴って朝食の席に着いたのだった。
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