私は普通の人と恋に落ちたいんです!~とんでもない乙女ゲームに転生していることに気付いてしまった件について~

皇 翼

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私のお父様は調停士という仕事をしている。この仕事は、それぞれの一族の特に力が強い家系の仕事なので、私の家であるフォルティシア公爵家がそれにあたる。
この仕事は中々に忙しい。まず淫魔族のまとめ役は勿論の事、淫魔族間の争いを止めに行ったり果ては淫魔族のある程度の交わり・食事の管理も調停士の仕事だ。

食事というのはなにも通常の食事ではない。淫魔族特有の精気の食事についてだ。基本的に淫魔は性に奔放だが、正直魔界的にそんなに悪影響もないので自由にさせている。けれど、その自由にもいくつかのルールがあるのだ。
例えば他の魔族からの精気の取り込み方の制限だったり、遺伝子の問題で近親者同士で交わってはいけないこと……それと、天使族との交わりの禁止だ。

この他にも細かいことがいくつかあるのだが、大きく分けるとこんな感じだ。
しかしこのルールはかなり大切なことなのだ。

まず食事について。淫魔族は実は接触吸収という特殊な特性を持っている。この能力は接触によって更なる力を得られるというものなのだが、その力の得方にも制限が掛かっているのだ。

淫魔族は普通の食事でも一応は生きていけるのだが、より強い者の精気や魔力を吸うことによってその者の特性……例えば、吸血鬼からだったら寿命、人魚族からは美貌というようにその種族の特性をある程度まで取り込むことができる特殊な一族だ。
その中でも特性を求めすぎてしまうあまりに、『狂色ラスディアン』と呼ばれる特殊な者が出てくることがある。

そもそも『狂色ラスディアン』というのはある一定の条件で発現してしまうものである。
ある一定の条件下というのは、食って取り込むのだ……他の魔族の血肉を。

私達は主に性交による精気・魔力しか吸わないのだが、淫魔の中には何を勘違いしたのか力の増強のために魔族の血肉を求めてしまう者がいる。
そして一度食べてしまうと爆発的な能力をえられるが、抑えが効かなくなり、他の魔族の血肉を求めなければ生きていけない存在『狂色ラスディアン』になってしまうのだ。
そしてこの『狂色ラスディアン』たちは、最終的には自我がなくなり、交わると同時に他の魔族の血肉を貪ろうとするとんでもない化け物になる。

そのような者を出すのを防ぐため、淫魔族では調停士が監査をし、取り締まるという他の一族にはない特殊なルールがある。

簡単に言うと、性交はいいけど、食べちゃうと罰されちゃうよということだ。

実は、共通ルートのBADENDのうちのひとつでヒロイン……即ち私が『狂色ラスディアン』になってしまい、メインキャラの内の何人かを食ってしまうというとんでもないBAD ENDもあった。
そして、その狂った状態で父様と同じく調停士の仕事をしている兄・キースによって永遠に飼われるのだ……。ここからも私の兄の異常性が分かるだろう。このENDを見たときは、いくら推しだったと言えど、背筋がゾッとした。

……と、まあ、そんな恐ろしいENDは置いておいて。次に近親者との交わりについてだが、このルールは『ある事件』から淫魔族のみに追加されたルールらしい。私も詳しくは知らないが、私の祖父母辺りの代でその件で大きな争いが起こったことが起因していると聞いたことがある。


実は、最後の天使との交わりについては、実は魔族全体で禁止されている。
表面上の理由は、天使族は魔族の敵だから……ということらしいが、私はこのゲームに転生しているとわかってからは、それ以外にも理由があるのではないかと疑っている。だって、私の従者を務める天使族のジルベルトルートでの彼曰く、天使はそこまで魔族を敵視していないそうなのだ。眼中にもないという意味で、らしいが。

それに天使が敵だというのなら、そもそもこんなルールを大々的に発布する必要はないだろう。まあ、要はこんなにも大々的に言っていることが怪しいということだ。

長くなったがまあ、何が言いたいのかというとお父様は基本的に忙しいので、ほとんど家にいない……ということだ。
なのでこれからお父様に詳しいメイドにお父様の予定を伺いに行かなければならないのだ。
前世の記憶を持っている私からすると、あまり家族らしくないなという思いがあるが、お父様の多忙さからしたら仕方がないのかと思う。
しかしメイドに聞くと、運がいいことに今晩は父様も魔王城から帰ってくるとのことなので、晩餐後なら、話をできるのでは?ということだった。

今晩会える。
これは、かなり運が良い。私は、運が自分の方を向いていることを確信し、独りほくそ笑んだのだった。

そして晩餐後。

「お父様、お話があります」

父の書斎にて私は父に声を掛けた。
私からお父様に話しかけることは実は少ない。幼少期から、私は公爵令嬢として厳しく躾けられてきた。
なので実は厳しいお父様のことが苦手だった。けれど、前世の感性を取り戻した今では分かる。お父様は私達兄妹を愛しているが故に厳しかったのだと。

そして、思い切って私の計画を切り出す。

「私、結婚したい相手がいるのです……!!」

******

話は案外簡単に収束した。
まず、お父様に結婚したい相手がいると切り出し、前世の口の上手さ……お父様の説得の時に気づいたのだが、前世の記憶を取り戻すと同時に口がかなりうまくなっているようだったので、それでそのまま丸め込み、説得した。
それに思いの外お父様が私自身に甘かったのもあった。

まあ、相手自体も短時間で見つけたにしては自分から見ても中々良い相手だと思う。
同じ淫魔であるレキシール侯爵家の長男で歳も私より100程上。
淫魔族のわりに、遊んでいる形跡がなく、身の回りはかなり綺麗だ。顔も淫魔らくそれなりに整っているらしいのだが、今まで女性との浮いた話の一つも出たことがない。

実は、これには理由がある。……彼は、如何せんホモなのだ。

調べた限り男にしか全く興味がなく、女に勃ったことはないようなので、個人的にあまりそのようなことをしたくない私にはうってつけの相手だ。
そして彼は今、親に婚約者探しを強制されているらしいので、困っているらしい。
そこに私の計画を持ち込み、一定期間お互いに隠れ蓑として利用し合えば……私は勝利を確信している。

どうやって、ここまでの情報を集めたかって?魔界のお嬢様方のお茶会を舐めないでほしい。彼女らに少し手を貸してもらえば、男関係の事で分からない事などないに等しいのだ!だから私はここ最近、頻繁にお茶会に参加していた。

ついでに彼を選んだのは、公爵家よりも家格は下なので、いざとなったら比較的簡単に此方の有利に立ち回ることができるという理由もある。
……という中々の良い物件だったのだ。
ついでに、お父様にはテキトーに前の舞踏会で一目惚れをして――などと誤魔化しておいた。正直会った事など一度もないのだが。

そして、やはり相手がホモ……男色家だと知っていたお父様。ここも、お見合いをして愛の力で何とか致しますわ的なことを言って、ねじ伏せておいた。

こうして、私のこの計画は幸先よくスタートしたのだった。
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