13 / 17
12.
しおりを挟む
「自動追尾式の雷とかどう?この闘技場いっぱいの規模で魔法陣を展開して、魔力追尾で対象に雷を落とし続けるの」
「魔法コストを考えろ。んなもん展開したら、俺達数日は動けねえぞ。出来なくはねえけど、研究期間が圧倒的に足りない」
「えー。じゃあ攻撃系から一転、敵をマリオネットみたいに操る魔法とか?」
「……そんなもの組めるのか?」
「原理的には、身体だけだったら操れるよ。流石に精神を操る魔法は禁止されてるから、使えないけど」
私のその一言で全てが決した。
学生の誰も作った事がない、否、作れない魔法。
これできっと彼も見返せる……そこまで考えたところで疑問符が浮かんだ。私が見返したかった人って誰だっけ?
なんだかここだけ抜け落ちている気がする。最近、とても悔しい思いをした覚えがあるのに、さっきまでは覚えていたはずなのに、思い出せない。
思い出そうと思えば思う程に、霞になって消えていくような不思議な感覚。
でもなんかそこまで考えたところでどうでもよくなってしまった。忘れるということは、大したことではなかったのだろう。
私は気持ちを切り替えて、ディリアと共に魔法式の構築を始めた。
******
魔法式の構築を始めて3日。
昼はいつも通りに面白くない座学に出席して、それ以外の時間は全てディリアと魔法式の構築に充てるという生活を続けていた時の事だ。
昼を食べる時間すらも惜しいとばかりに私とディリアは食堂でご飯を食べながらも一緒に魔法式の細部について話し合っていた。
「ここにある人体の事前分析部分、周辺を全部包み込むよりも、最初に人体の範囲を魔力で計測してから範囲を収縮させた方が効率がいいんじゃないか?」
「でもそれをしてしまうと、式が複雑に――」
「……テレスタシア」
「あら、ゼルク様」
この幼馴染の研究バカをなんだか久しぶりに見た気がする。
まだ生きていたんだという軽いトーンで敬語を使いながら、名前を呼び返すが、なんだかいつものゼルクではない気がした。彼の背後では、フェリクスが頑張れと肩を叩いていた。何を頑張るつもりなのだろうか。
「様付け……いや、違うな。この間はすまなかった。酷い、ことを言ってしまった」
「え?」
何の話をしているのか全く分からなかった。そもそもゼルクの言葉が無神経で酷いことなどいつも通りだし、過去を遡って見ても心当たりがありすぎて、何を謝っているのか全く理解できない。
でも珍しく謝られているので、シンプルに考える。きっと彼は何かを考えすぎているのだろう。疲れているのかもしれない。
「よく分からないけど、別に気にしてなんていませんよ。ゼルクの言葉選びが最低――いえ、あまりよろしくないだなんてことは昔からでしょう」
「だがお前はあの時――」
「えっと……今ディリアと魔法式の構築理論について話してる途中なので、後ででも良いですか?普通になんとも思ってない話をされても正直困りますし、私達ちょっと焦っているので」
そう言った瞬間、何故かゼルクがとても傷付いたような顔を一瞬見せた気がした。
しかし、他人に全く興味・関心がないゼルクが傷付くなんてことあるわけないだろうとすぐにその考えは打ち消される。
そうして少し引っ掛かりながらも、ディリアとの話し合いを再開させたのだった。
******
あとがき:
近いうちにこの話は完結する予定です。ちょっと賛否両論ありそうな終わり方になる予定ですが……。
追記:
・ゼルクの名前の誤記載を修正しました。
・一部セリフの誤字を変更しました。
「魔法コストを考えろ。んなもん展開したら、俺達数日は動けねえぞ。出来なくはねえけど、研究期間が圧倒的に足りない」
「えー。じゃあ攻撃系から一転、敵をマリオネットみたいに操る魔法とか?」
「……そんなもの組めるのか?」
「原理的には、身体だけだったら操れるよ。流石に精神を操る魔法は禁止されてるから、使えないけど」
私のその一言で全てが決した。
学生の誰も作った事がない、否、作れない魔法。
これできっと彼も見返せる……そこまで考えたところで疑問符が浮かんだ。私が見返したかった人って誰だっけ?
なんだかここだけ抜け落ちている気がする。最近、とても悔しい思いをした覚えがあるのに、さっきまでは覚えていたはずなのに、思い出せない。
思い出そうと思えば思う程に、霞になって消えていくような不思議な感覚。
でもなんかそこまで考えたところでどうでもよくなってしまった。忘れるということは、大したことではなかったのだろう。
私は気持ちを切り替えて、ディリアと共に魔法式の構築を始めた。
******
魔法式の構築を始めて3日。
昼はいつも通りに面白くない座学に出席して、それ以外の時間は全てディリアと魔法式の構築に充てるという生活を続けていた時の事だ。
昼を食べる時間すらも惜しいとばかりに私とディリアは食堂でご飯を食べながらも一緒に魔法式の細部について話し合っていた。
「ここにある人体の事前分析部分、周辺を全部包み込むよりも、最初に人体の範囲を魔力で計測してから範囲を収縮させた方が効率がいいんじゃないか?」
「でもそれをしてしまうと、式が複雑に――」
「……テレスタシア」
「あら、ゼルク様」
この幼馴染の研究バカをなんだか久しぶりに見た気がする。
まだ生きていたんだという軽いトーンで敬語を使いながら、名前を呼び返すが、なんだかいつものゼルクではない気がした。彼の背後では、フェリクスが頑張れと肩を叩いていた。何を頑張るつもりなのだろうか。
「様付け……いや、違うな。この間はすまなかった。酷い、ことを言ってしまった」
「え?」
何の話をしているのか全く分からなかった。そもそもゼルクの言葉が無神経で酷いことなどいつも通りだし、過去を遡って見ても心当たりがありすぎて、何を謝っているのか全く理解できない。
でも珍しく謝られているので、シンプルに考える。きっと彼は何かを考えすぎているのだろう。疲れているのかもしれない。
「よく分からないけど、別に気にしてなんていませんよ。ゼルクの言葉選びが最低――いえ、あまりよろしくないだなんてことは昔からでしょう」
「だがお前はあの時――」
「えっと……今ディリアと魔法式の構築理論について話してる途中なので、後ででも良いですか?普通になんとも思ってない話をされても正直困りますし、私達ちょっと焦っているので」
そう言った瞬間、何故かゼルクがとても傷付いたような顔を一瞬見せた気がした。
しかし、他人に全く興味・関心がないゼルクが傷付くなんてことあるわけないだろうとすぐにその考えは打ち消される。
そうして少し引っ掛かりながらも、ディリアとの話し合いを再開させたのだった。
******
あとがき:
近いうちにこの話は完結する予定です。ちょっと賛否両論ありそうな終わり方になる予定ですが……。
追記:
・ゼルクの名前の誤記載を修正しました。
・一部セリフの誤字を変更しました。
931
お気に入りに追加
1,495
あなたにおすすめの小説
番を辞めますさようなら
京佳
恋愛
番である婚約者に冷遇され続けた私は彼の裏切りを目撃した。心が壊れた私は彼の番で居続ける事を放棄した。私ではなく別の人と幸せになって下さい。さようなら…
愛されなかった番
すれ違いエンド
ざまぁ
ゆるゆる設定
『親友』との時間を優先する婚約者に別れを告げたら
黒木メイ
恋愛
筆頭聖女の私にはルカという婚約者がいる。教会に入る際、ルカとは聖女の契りを交わした。会えない間、互いの不貞を疑う必要がないようにと。
最初は順調だった。燃えるような恋ではなかったけれど、少しずつ心の距離を縮めていけたように思う。
けれど、ルカは高等部に上がり、変わってしまった。その背景には二人の男女がいた。マルコとジュリア。ルカにとって初めてできた『親友』だ。身分も性別も超えた仲。『親友』が教えてくれる全てのものがルカには新鮮に映った。広がる世界。まるで生まれ変わった気分だった。けれど、同時に終わりがあることも理解していた。だからこそ、ルカは学生の間だけでも『親友』との時間を優先したいとステファニアに願い出た。馬鹿正直に。
そんなルカの願いに対して私はダメだとは言えなかった。ルカの気持ちもわかるような気がしたし、自分が心の狭い人間だとは思いたくなかったから。一ヶ月に一度あった逢瀬は数ヶ月に一度に減り、半年に一度になり、とうとう一年に一度まで減った。ようやく会えたとしてもルカの話題は『親友』のことばかり。さすがに堪えた。ルカにとって自分がどういう存在なのか痛いくらいにわかったから。
極めつけはルカと親友カップルの歪な三角関係についての噂。信じたくはないが、間違っているとも思えなかった。もう、半ば受け入れていた。ルカの心はもう自分にはないと。
それでも婚約解消に至らなかったのは、聖女の契りが継続していたから。
辛うじて繋がっていた絆。その絆は聖女の任期終了まで後数ヶ月というところで切れた。婚約はルカの有責で破棄。もう関わることはないだろう。そう思っていたのに、何故かルカは今更になって執着してくる。いったいどういうつもりなの?
戸惑いつつも情を捨てきれないステファニア。プライドは捨てて追い縋ろうとするルカ。さて、二人の未来はどうなる?
※曖昧設定。
※別サイトにも掲載。
冷たかった夫が別人のように豹変した
京佳
恋愛
常に無表情で表情を崩さない事で有名な公爵子息ジョゼフと政略結婚で結ばれた妻ケイティ。義務的に初夜を終わらせたジョゼフはその後ケイティに触れる事は無くなった。自分に無関心なジョゼフとの結婚生活に寂しさと不満を感じながらも簡単に離縁出来ないしがらみにケイティは全てを諦めていた。そんなある時、公爵家の裏庭に弱った雄猫が迷い込みケイティはその猫を保護して飼うことにした。
ざまぁ。ゆるゆる設定
記憶を失くした彼女の手紙 消えてしまった完璧な令嬢と、王子の遅すぎた後悔の話
甘糖むい
恋愛
婚約者であるシェルニア公爵令嬢が記憶喪失となった。
王子はひっそりと喜んだ。これで愛するクロエ男爵令嬢と堂々と結婚できると。
その時、王子の元に一通の手紙が届いた。
そこに書かれていたのは3つの願いと1つの真実。
王子は絶望感に苛まれ後悔をする。
婚約者が義妹を優先するので私も義兄を優先した結果
京佳
恋愛
私の婚約者は私よりも可愛い義妹を大事にする。いつも約束はドタキャンされパーティーのエスコートも義妹を優先する。私はブチ切れお前がその気ならコッチにも考えがある!と義兄にベッタリする事にした。「ずっとお前を愛してた!」義兄は大喜びして私を溺愛し始める。そして私は夜会で婚約者に婚約破棄を告げられたのだけど何故か彼の義妹が顔真っ赤にして怒り出す。
ちんちくりん婚約者&義妹。美形長身モデル体型の義兄。ざまぁ。溺愛ハピエン。ゆるゆる設定。
私は既にフラれましたので。
椎茸
恋愛
子爵令嬢ルフェルニア・シラーは、国一番の美貌を持つ幼馴染の公爵令息ユリウス・ミネルウァへの想いを断ち切るため、告白をする。ルフェルニアは、予想どおりフラれると、元来の深く悩まない性格ゆえか、気持ちを切り替えて、仕事と婚活に邁進しようとする。一方、仕事一筋で自身の感情にも恋愛事情にも疎かったユリウスは、ずっと一緒に居てくれたルフェルニアに距離を置かれたことで、感情の蓋が外れてルフェルニアの言動に一喜一憂するように…?
※小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しております。
王子妃教育に疲れたので幼馴染の王子との婚約解消をしました
さこの
恋愛
新年のパーティーで婚約破棄?の話が出る。
王子妃教育にも疲れてきていたので、婚約の解消を望むミレイユ
頑張っていても落第令嬢と呼ばれるのにも疲れた。
ゆるい設定です
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる