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ディリアは渋ったが、私はそういう魔法があるというところまでは聞きだした。それに、それを扱える者が一定数いるということも。
本来であれば、自分の感情の一部を消すためとはいえ『人間の感情を操作する』魔法は禁忌とされている。それと同じ理由で『惚れ薬』や『人間の感情を消す』などと言った魔法薬や魔法も一般生徒では教わる事がない。
なにせどちらも歴史上で悪用されたものなのだ。前者は王侯貴族間でかつて流行り、滅びた国もあったという。後者は戦争時に使用され、使われた人間は人間としての感情の一切を失い、生き残っても普通の人間としては暮らせなかったのだという。このように歴史上でも大きな亀裂を生んでいるのだ。
だから、これらの魔法を知っていたとしても精々魔法犯罪対策課の人間と言った犯罪者に関わる人間くらいだろう。
実のところ、歴史や魔法についてはきちんと学んではいたものの、こんなピンポイントな恋心を消す魔法なんて思いつきもしなかった。しかし、人間の感情を消せる魔法があるのだ。恋心など簡単に消すことが出来るだろう。

落ち込んでなんていられない。でも、この苦しさから簡単に抜け出すこともできない。だから私は、この醜い感情恋心を消すための魔法を探し出すことにした。

***

「おい、テッサ!!お前、本当に行くのか!?危ないし、それにバレたら良くて停学、悪ければ退学だぞ?」

ディリアから魔法について聞きだした後、私は早速行動を起こした。
これから行く学院の図書館の最奥にある禁書の棚。教師ですら入る事を許されている人間は少なく、そこを利用できるのは一部の上位貴族と王族、魔法局でも特殊な科で働く者のみだという。なにせ、禁書の棚だ。読むだけで死に至るものやら、呪いがかかるもの、どこか異なる世界に飛ばされたりなどなど入ってそれらの本を手に取れば、無事に戻る事すら難しいと言われている。
当然、一生徒程度では入る事は許されていない。学生証に魔法を流すと出現する校則にも、『禁書の棚に許可なく入った学生は厳罰』という風なことが書かれている程だ。まあ、生きて帰れればという注釈が付くが。
実際、学期末や卒業間際と言った節目節目には、禁書の棚に行くというチャレンジをする者が一定数存在するのだが、その大半が帰って来ることはない。そういう部分でも、卒業者数が削られているのだと思う。
でも、今の私にはそんなことは関係ない。欲しいものは平穏。ただこの苦しみから解放されたかった。

「そんなヘマはしないわ。それにどうせ私は家を継ぐことが出来ない。退学になったとして、嫁ぐまでの期間が短くなるだけよ」
「……お前はそれでいいのか」
「ええ。もう私はこんな感情を持っていたくないの。何をしたとしても。それにディリアも教えてくれないんじゃ、自分で行くしかないでしょう」

こんな言い方をするのはズルいとは思うが、どれだけ私が頼んでも彼が教えてくれなかったのは事実だ。だからこそ今、禁書の棚なんてところに行こうとしている。
これで私を止めるようなことはもうしないだろう。そう思った……のだが。その予想は簡単に裏切られた。

「あー、もう、分かった!!教えるよ、教えりゃいいんだろ!!」

白い肌と対比のようになっていた漆黒の前髪を掻きあげて、ディリアがそう言った――。
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