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告白1
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そこからのユベールの行動は早かった。誰かに連絡を取ったかと思うと、流れるように外出の準備をさせられる。連絡を取っている時の妙に嬉しそうな表情のユベールが印象的だった。姉である私にすら見せることのない、愛おしくて愛おしくて仕方がないというような瞳……まるで恋人にでも話すかのような――――。
そして私が動きやすい服装に着替え、準備を終わらせた私に対して言った。
「これから会えますよ。レイナルド様に」
「へ……でも、レイは学園にいるんじゃ?」
「う~~ん、何故すぐに会えるかはまだ秘密です」
まるでとても楽しい事を隠すかのようにクスリと笑う。先程までの大人っぽいユベールと今の年相応の純粋な子供っぽいユベール。あまりの落差にクラクラしながらも、深い事はあまり考えないようにしてユベールと共に魔馬車に乗り込んだ。
******
馬車に揺られて数十分。着いたのは森にひっそりと佇む小さな木製の小屋だった。小屋の壁には薄っすらと蔦が侵食していたことから建てられて、それなりの月日が経っていることが伺える。
(ここからだと屋敷が米粒程に小さく見えるな)
そんなことを考えながらユベールに促され、小屋の扉を開けた。
中に入ると二人の男性が立っていた。一人は知らない人。そしてもう一人は――――。
「レイ……」
「イリアッ!!」
私が名前を呼んだよりも強い勢いで名前を呼ばれる。無意識の内に、レイの近くに行くように足が勝手に動いていた。
近付いてみると、本物のレイだということがより鮮明に分かる。最後に会ってそんなに経っていない筈なのに、随分と久しぶりに会ったかのような感覚があった。
いつのまにかレイの隣に立っていた男性とユベールはいなくなっていて、小屋には二人きりだ。
その状況に緊張しながらも、決意したことを言おうと口を開こうとする……ものの、言葉は中々口から出て来てはくれなかった。
けれどそれはレイも同じようで、何度も口を開いては閉じることを繰り返していた。部屋には気まずい沈黙が流れる。
取り敢えず一旦お茶でも淹れて落ち着こうと考え、扉の近くにあったキッチンに向かおうとしたところで、焦った様なレイに呼び止められた。
彼はそこで、決意をしたかのように口を開く。
「俺……ずっとイリアに嘘を吐いてた」
「嘘?」
「イリアといる方が楽だなって言葉。アレ、嘘なんだ」
「っ――!?」
思わず絶句する。私の隣では落ち着けないという意味なのだろうか。それでは私が告白したとしても――。
「楽なんかじゃない。一緒にいるだけで心臓が痛いくらいに高鳴るし、君に良い所を見せたくて格好つけてしまったり、君に俺を見て欲しくて……一緒に居て欲しくて阿呆なことをしたり。とにかく、イリアは他の人とは違うんだ」
「え?どういうこと……?」
続けて言われた言葉に理解が追い付かなくて、思わず聞き返してしまう。だって、こんな言葉はまるで――――。
「イリアの事が好きだ。幼馴染としてじゃない。一人の女性として好きなんだ」
頭の中が真っ白になる。一人の女性として好き。この言葉は私が何度も求めては、諦めてきた言葉。幻でも見ているのではないかとすら思えてくる。
「受け入れられない事は分かっている。でもイリアが俺の事を幼馴染の腐れ縁だとしてしか思っていないとしても、俺は……君の事を愛している」
幻かと疑っていたところに、それを打ち消すようにレイが言葉を重ねる。しかし、そこでふと一つの疑問がわいてきた。
「でも、レイはずっと色んな女の子と――」
「最初は!君の関心を引きたくて……冗談のつもりだったんだ。でも君が何でもないように”付き合えば?”と言ったことがショックで、自棄になって――自分でも馬鹿だったと思う」
レイは色んな女の子と付き合い続けていたじゃないか。その言葉は私の口から発される前にレイによって否定された。でも確かに私は、彼が告白されたというところを見て、それをあの時レイから肯定されて、自分の気持ちを隠すために――一番近い幼馴染のままでいるために、なんでもない風を装ってそう言った。心は”彼が誰かと付き合うなんて嫌だ!”と、まるで嵐のように吹きすさび、荒れていたのに。
「例え幼馴染のままでもいい。俺と同じ感情を返してくれなくてもいい。だから、俺を置いていかないでくれ……捨てて、いかないでくれ」
私が驚きのあまり何も言葉を返せないでいると、レイは私に抱き着いてくる……まるで置いていかれることを恐れる幼子のように。
基本的に大人びていて、私より一歩前にいて、いつでも助けてくれる彼しか見たことのなかった私にとってそれは新鮮だった。それと同時にとても穏やかな気持ちになる。だって彼は、こんなに泣きそうになって縋りついてくるくらいに私の事を――。そう考えると素直に自分の気持ちが口から出てきた。
「っ私も……私も本当は後悔していた。貴方に幼馴染としてしか見られていないと思っていたから、良い幼馴染を演じて……少しでも長く一緒にいたくて」
レイが泣きそうな瞳でこちらを見下ろしてくる。それを落ち着けるように、少し背伸びをして彼の頭を撫でた。
「私もね、レイが好きよ。一人の男の人として」
そこからは変な説明も難しい言葉も必要なかった。
どちらともなく唇が近づいて――――というところで、視線を感じた。
「あのー、そろそろかなって思って帰って来たんだけど……お邪魔だった、みたいですね」
「あああぁー!レイナルド、お前今ぶっちゅーってぶっちゅーってしようとしてたよな!!?」
横を振り向くと此方をニヤニヤと見つめる人間……しかも二人。片方は自分の肉親であり、もう片方は全く知らない人。其々違う種類の羞恥心で顔が熱くなる。
「っ今のを人に見らていたなんて……」
「ライナス黙れ」
私が羞恥に顔を隠し、頭を抱えているのに、レイは全く恥ずかしがることなくユベールの隣にいる男性を睨みつけていることが印象的だった。
******
2020/04/09 間違い個所を修正しました。
そして私が動きやすい服装に着替え、準備を終わらせた私に対して言った。
「これから会えますよ。レイナルド様に」
「へ……でも、レイは学園にいるんじゃ?」
「う~~ん、何故すぐに会えるかはまだ秘密です」
まるでとても楽しい事を隠すかのようにクスリと笑う。先程までの大人っぽいユベールと今の年相応の純粋な子供っぽいユベール。あまりの落差にクラクラしながらも、深い事はあまり考えないようにしてユベールと共に魔馬車に乗り込んだ。
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馬車に揺られて数十分。着いたのは森にひっそりと佇む小さな木製の小屋だった。小屋の壁には薄っすらと蔦が侵食していたことから建てられて、それなりの月日が経っていることが伺える。
(ここからだと屋敷が米粒程に小さく見えるな)
そんなことを考えながらユベールに促され、小屋の扉を開けた。
中に入ると二人の男性が立っていた。一人は知らない人。そしてもう一人は――――。
「レイ……」
「イリアッ!!」
私が名前を呼んだよりも強い勢いで名前を呼ばれる。無意識の内に、レイの近くに行くように足が勝手に動いていた。
近付いてみると、本物のレイだということがより鮮明に分かる。最後に会ってそんなに経っていない筈なのに、随分と久しぶりに会ったかのような感覚があった。
いつのまにかレイの隣に立っていた男性とユベールはいなくなっていて、小屋には二人きりだ。
その状況に緊張しながらも、決意したことを言おうと口を開こうとする……ものの、言葉は中々口から出て来てはくれなかった。
けれどそれはレイも同じようで、何度も口を開いては閉じることを繰り返していた。部屋には気まずい沈黙が流れる。
取り敢えず一旦お茶でも淹れて落ち着こうと考え、扉の近くにあったキッチンに向かおうとしたところで、焦った様なレイに呼び止められた。
彼はそこで、決意をしたかのように口を開く。
「俺……ずっとイリアに嘘を吐いてた」
「嘘?」
「イリアといる方が楽だなって言葉。アレ、嘘なんだ」
「っ――!?」
思わず絶句する。私の隣では落ち着けないという意味なのだろうか。それでは私が告白したとしても――。
「楽なんかじゃない。一緒にいるだけで心臓が痛いくらいに高鳴るし、君に良い所を見せたくて格好つけてしまったり、君に俺を見て欲しくて……一緒に居て欲しくて阿呆なことをしたり。とにかく、イリアは他の人とは違うんだ」
「え?どういうこと……?」
続けて言われた言葉に理解が追い付かなくて、思わず聞き返してしまう。だって、こんな言葉はまるで――――。
「イリアの事が好きだ。幼馴染としてじゃない。一人の女性として好きなんだ」
頭の中が真っ白になる。一人の女性として好き。この言葉は私が何度も求めては、諦めてきた言葉。幻でも見ているのではないかとすら思えてくる。
「受け入れられない事は分かっている。でもイリアが俺の事を幼馴染の腐れ縁だとしてしか思っていないとしても、俺は……君の事を愛している」
幻かと疑っていたところに、それを打ち消すようにレイが言葉を重ねる。しかし、そこでふと一つの疑問がわいてきた。
「でも、レイはずっと色んな女の子と――」
「最初は!君の関心を引きたくて……冗談のつもりだったんだ。でも君が何でもないように”付き合えば?”と言ったことがショックで、自棄になって――自分でも馬鹿だったと思う」
レイは色んな女の子と付き合い続けていたじゃないか。その言葉は私の口から発される前にレイによって否定された。でも確かに私は、彼が告白されたというところを見て、それをあの時レイから肯定されて、自分の気持ちを隠すために――一番近い幼馴染のままでいるために、なんでもない風を装ってそう言った。心は”彼が誰かと付き合うなんて嫌だ!”と、まるで嵐のように吹きすさび、荒れていたのに。
「例え幼馴染のままでもいい。俺と同じ感情を返してくれなくてもいい。だから、俺を置いていかないでくれ……捨てて、いかないでくれ」
私が驚きのあまり何も言葉を返せないでいると、レイは私に抱き着いてくる……まるで置いていかれることを恐れる幼子のように。
基本的に大人びていて、私より一歩前にいて、いつでも助けてくれる彼しか見たことのなかった私にとってそれは新鮮だった。それと同時にとても穏やかな気持ちになる。だって彼は、こんなに泣きそうになって縋りついてくるくらいに私の事を――。そう考えると素直に自分の気持ちが口から出てきた。
「っ私も……私も本当は後悔していた。貴方に幼馴染としてしか見られていないと思っていたから、良い幼馴染を演じて……少しでも長く一緒にいたくて」
レイが泣きそうな瞳でこちらを見下ろしてくる。それを落ち着けるように、少し背伸びをして彼の頭を撫でた。
「私もね、レイが好きよ。一人の男の人として」
そこからは変な説明も難しい言葉も必要なかった。
どちらともなく唇が近づいて――――というところで、視線を感じた。
「あのー、そろそろかなって思って帰って来たんだけど……お邪魔だった、みたいですね」
「あああぁー!レイナルド、お前今ぶっちゅーってぶっちゅーってしようとしてたよな!!?」
横を振り向くと此方をニヤニヤと見つめる人間……しかも二人。片方は自分の肉親であり、もう片方は全く知らない人。其々違う種類の羞恥心で顔が熱くなる。
「っ今のを人に見らていたなんて……」
「ライナス黙れ」
私が羞恥に顔を隠し、頭を抱えているのに、レイは全く恥ずかしがることなくユベールの隣にいる男性を睨みつけていることが印象的だった。
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2020/04/09 間違い個所を修正しました。
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