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エルカ=トラヴァトーレ。
彼女はカークレイン王国周辺諸国の食料の流通を担うギルドを経営しているトラヴァトーレ家の3女である。
父親の先代である祖父が立ち上げたギルドは父親が更に大きくしたことによって、貴族などの血筋ではないが国内でもそれなりに立場も権力も金もある家系となった。
貴族女性というわけではないのもあって、夜会や婚約者などと言ったものも特になく、両親からも『エルカのやりたいことをやりなさい』と言われてきた。そしてピアノやヴァイオリン、ダンス、花、刺繍――とにかく様々なモノの中からエルカが選んだのは”魔法学”の道だった。
エルカが魔法学に興味を持ったのを知った両親は喜び、すぐに国の中でも優秀な講師を彼女につけてくれた。幼い心というのは単純なもので、自身が興味を持つものに詳しい人……その憧れからエルカはすぐに講師になった男性に恋してしまった。淡い初恋だった。
そして奇跡が起こる。
彼に告白したら、了承の返事を貰えたのだ。そこからは浮かれに浮かれたエルカは講義を受けた後は毎日のように彼をお茶に誘い、彼もそれを快く受けてくれた。
しかし、ある時その状況は一変する。お茶会に丁度手が空いていた姉が『妹がいつもお世話になっているから』と参加した時の事だ。すぐに分かった。彼の目が姉に釘付けになっていることを――。
姉は昔から優しいうえに美しい。女性としてこれ以上ない程に大きな魅力を持つ。エルカはそんな姉の事が昔から大好きだった。しかし今は……彼の視線を奪っている姉の存在が憎くて仕方ない。
でも一番憎いのは大好きな姉にそんな醜い感情を抱く自分だった。
そしてそのお茶会からすぐにその日は訪れた。
「その……エルカ。俺、君のお姉さんの事が好きになっちゃったんだ。だから――僕と別れて……彼女を紹介してくれないかな?」
その言葉の後にも、『君からの僕への感情は年上に対する憧れ的なモノだったんだよ』、『所詮は一過性のものだ』、『いい子の君なら分かってくれるよね?』というエルカの心を抉り出すような言葉が続いていたが、彼女は何処言葉にも答えることが出来なかった。
彼が選んだのはいつも一緒に居る自分ではなく、あの時会った以外は殆ど会話すらもしたことがない姉……。その言葉はエルカの恋心を崩壊させ、心の中の自尊心や自信と言った感情をそぎ落としたのだった。
それからエルカは『愛』や『好意』と言った類のものが苦手になった。
彼女はカークレイン王国周辺諸国の食料の流通を担うギルドを経営しているトラヴァトーレ家の3女である。
父親の先代である祖父が立ち上げたギルドは父親が更に大きくしたことによって、貴族などの血筋ではないが国内でもそれなりに立場も権力も金もある家系となった。
貴族女性というわけではないのもあって、夜会や婚約者などと言ったものも特になく、両親からも『エルカのやりたいことをやりなさい』と言われてきた。そしてピアノやヴァイオリン、ダンス、花、刺繍――とにかく様々なモノの中からエルカが選んだのは”魔法学”の道だった。
エルカが魔法学に興味を持ったのを知った両親は喜び、すぐに国の中でも優秀な講師を彼女につけてくれた。幼い心というのは単純なもので、自身が興味を持つものに詳しい人……その憧れからエルカはすぐに講師になった男性に恋してしまった。淡い初恋だった。
そして奇跡が起こる。
彼に告白したら、了承の返事を貰えたのだ。そこからは浮かれに浮かれたエルカは講義を受けた後は毎日のように彼をお茶に誘い、彼もそれを快く受けてくれた。
しかし、ある時その状況は一変する。お茶会に丁度手が空いていた姉が『妹がいつもお世話になっているから』と参加した時の事だ。すぐに分かった。彼の目が姉に釘付けになっていることを――。
姉は昔から優しいうえに美しい。女性としてこれ以上ない程に大きな魅力を持つ。エルカはそんな姉の事が昔から大好きだった。しかし今は……彼の視線を奪っている姉の存在が憎くて仕方ない。
でも一番憎いのは大好きな姉にそんな醜い感情を抱く自分だった。
そしてそのお茶会からすぐにその日は訪れた。
「その……エルカ。俺、君のお姉さんの事が好きになっちゃったんだ。だから――僕と別れて……彼女を紹介してくれないかな?」
その言葉の後にも、『君からの僕への感情は年上に対する憧れ的なモノだったんだよ』、『所詮は一過性のものだ』、『いい子の君なら分かってくれるよね?』というエルカの心を抉り出すような言葉が続いていたが、彼女は何処言葉にも答えることが出来なかった。
彼が選んだのはいつも一緒に居る自分ではなく、あの時会った以外は殆ど会話すらもしたことがない姉……。その言葉はエルカの恋心を崩壊させ、心の中の自尊心や自信と言った感情をそぎ落としたのだった。
それからエルカは『愛』や『好意』と言った類のものが苦手になった。
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