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その日は朝から上司……王宮魔導士長に呼び出されていた。
朝のエスコートと称し、しつこく追いかけてくるオルフェを巻きながらも私は何か問題を起こしただろうか、と過去の行いを見つめ直す。
先週オルフェとの討伐時に物置小屋を一軒破壊したことだろうか、でもあれは殆どオルフェの過失だし。それとも一昨日オルフェを巻くために使った魔導花火のことだろうか、この件だとすると確かに私に非があるかもしれない。
でも今日呼び出されたという事は、昨日の演習で暇になった後余りにもベタベタしてくるオルフェにムカついて、追いかけまわした挙句演習を滅茶苦茶にした件という事も考えられる。
うん。分からない。
……毎日のようにオルフェのペースに巻き込まれているのもあり、問題を起こし過ぎてどの件で呼び出されているのか分からないという不名誉な結果で頭の中で完結した。
そんなことを考えながらも足は進む。魔導士長の執務室の扉の前、ノックを三回響かせると『入れ』と声が聞こえた。
「失礼します。エルカ=トラヴァトーレ、呼び出しに応じ参上しました」
「……5分の遅刻だ」
細やかな意匠が施された高そうな懐中時計を見つめる神経質そうな壮年の男。彼が私達王宮魔導士の総括であり、上司。マルクス=アントニウスだ。
どうやら5分の遅刻が気に食わないようだ。でも仕方がないだろう。今日はオルフェを巻くのに特に時間がかかったのだ。
「文句があるなら、黒騎士団第二師団副団長オルフェウス=ノーツグリアにどうぞ。彼に追いかけられなければもっと早くに到着していたので」
「……はあ、またアイツか。まあいい。座れ」
溜息を吐きながらも、理由を聞いて一応は機嫌が戻ったらしい。そんな態度に少し調子に乗りながら、素直に返事をした。
「はーい」
「返事はハッキリ、元気よく!」
「はい!失礼します、マルクス魔導士長!」
「ふむ。良いだろう。それで今回呼び出した件だが――」
「請求はいつも通りオルフェウス=ノーツグリアにお願いします!」
私を呼び出すという事は大抵が何かしらの請求かお小言だろうと当たりを付けて返事をする。大体がオルフェの所為なので、彼に請求が行くようにしておけば、全部を押し付けられ且つそのうち解決するだろうという下衆な考えをひた隠しにしながら澱みない笑顔で答えた。
「――お前達が何をしでかしたのかは大体想像がつくが敢えて聞かないでおいてやろう。あと今回はその件ではない。……アイツも話を聞かないが、お前も大概だぞ」
「うぐっ」
言外にオルフェと同レベル扱いされて、流石に心に堪える。そんな私の様子なんて気にすることなく魔導士長は話しを続けた。
「それで今回はエルカ、お前が以前希望していた留学についてだ。先日の会議でお前が選出された」
「へ?留学……?」
「まさか自分で志願書を出しておいて、忘れたなんていうつもりではないだろうな?」
「っいいえ!彼の魔導大国・リンブルクへの留学のお話でしたよね」
志願書と言われてやっと思い出す。それは丁度3カ月ほど前の事だった――。
その日もオルフェに追いかけまわされたがなんとか撒き、彼のねちっこさに憂鬱な気分になって廊下を進んでいた時の事だ。
その時は本気で疲れ切っていて、オルフェから逃れられる方法があるのならば何でも試してやるという程に怒っていた。その時だ。丁度大きく貼り出されていたソレを見つけてしまったのは。
そして私はそのままポスターの下に付けられていた志願書に必要事項を記入し、迷う暇なく提出した。
朝のエスコートと称し、しつこく追いかけてくるオルフェを巻きながらも私は何か問題を起こしただろうか、と過去の行いを見つめ直す。
先週オルフェとの討伐時に物置小屋を一軒破壊したことだろうか、でもあれは殆どオルフェの過失だし。それとも一昨日オルフェを巻くために使った魔導花火のことだろうか、この件だとすると確かに私に非があるかもしれない。
でも今日呼び出されたという事は、昨日の演習で暇になった後余りにもベタベタしてくるオルフェにムカついて、追いかけまわした挙句演習を滅茶苦茶にした件という事も考えられる。
うん。分からない。
……毎日のようにオルフェのペースに巻き込まれているのもあり、問題を起こし過ぎてどの件で呼び出されているのか分からないという不名誉な結果で頭の中で完結した。
そんなことを考えながらも足は進む。魔導士長の執務室の扉の前、ノックを三回響かせると『入れ』と声が聞こえた。
「失礼します。エルカ=トラヴァトーレ、呼び出しに応じ参上しました」
「……5分の遅刻だ」
細やかな意匠が施された高そうな懐中時計を見つめる神経質そうな壮年の男。彼が私達王宮魔導士の総括であり、上司。マルクス=アントニウスだ。
どうやら5分の遅刻が気に食わないようだ。でも仕方がないだろう。今日はオルフェを巻くのに特に時間がかかったのだ。
「文句があるなら、黒騎士団第二師団副団長オルフェウス=ノーツグリアにどうぞ。彼に追いかけられなければもっと早くに到着していたので」
「……はあ、またアイツか。まあいい。座れ」
溜息を吐きながらも、理由を聞いて一応は機嫌が戻ったらしい。そんな態度に少し調子に乗りながら、素直に返事をした。
「はーい」
「返事はハッキリ、元気よく!」
「はい!失礼します、マルクス魔導士長!」
「ふむ。良いだろう。それで今回呼び出した件だが――」
「請求はいつも通りオルフェウス=ノーツグリアにお願いします!」
私を呼び出すという事は大抵が何かしらの請求かお小言だろうと当たりを付けて返事をする。大体がオルフェの所為なので、彼に請求が行くようにしておけば、全部を押し付けられ且つそのうち解決するだろうという下衆な考えをひた隠しにしながら澱みない笑顔で答えた。
「――お前達が何をしでかしたのかは大体想像がつくが敢えて聞かないでおいてやろう。あと今回はその件ではない。……アイツも話を聞かないが、お前も大概だぞ」
「うぐっ」
言外にオルフェと同レベル扱いされて、流石に心に堪える。そんな私の様子なんて気にすることなく魔導士長は話しを続けた。
「それで今回はエルカ、お前が以前希望していた留学についてだ。先日の会議でお前が選出された」
「へ?留学……?」
「まさか自分で志願書を出しておいて、忘れたなんていうつもりではないだろうな?」
「っいいえ!彼の魔導大国・リンブルクへの留学のお話でしたよね」
志願書と言われてやっと思い出す。それは丁度3カ月ほど前の事だった――。
その日もオルフェに追いかけまわされたがなんとか撒き、彼のねちっこさに憂鬱な気分になって廊下を進んでいた時の事だ。
その時は本気で疲れ切っていて、オルフェから逃れられる方法があるのならば何でも試してやるという程に怒っていた。その時だ。丁度大きく貼り出されていたソレを見つけてしまったのは。
そして私はそのままポスターの下に付けられていた志願書に必要事項を記入し、迷う暇なく提出した。
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