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第14話 ……来ちゃった
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勘弁して欲しい。
それがオレの今の気持ちだ。
少しは気分が晴れるかと思った熱いシャワーも大した効果が無かっただけならまだしも、冷たい麦茶を飲みに戻ったリビングには、何故か姉貴と談笑をする円詩子の姿があるのだ。
オマケにテーブルの上にはオレの中学、高校時代の卒業アルバムが広げてある。
「あら、壮ちゃん、お風呂あがったのね。お客様よ」
「見ればわかるよ」
このタイミングで五十里の事を伝えるわけにもいかず、オレは冷静である事を装い、冷蔵庫を開け1.5ℓの容器に入った麦茶をコップに注いで一気に呷《あお》る。よく見るとリビングのテーブルの上には姉貴が出したのであろう、2人分のコーヒーカップ。中身が既に半分以下になっているところを見ると、円詩子が来てからある程度の時間はたっているのだろう。
風呂上りの為か、あるいは暑さのせいか、再び噴き出してきた汗をオレは首に下げていたスポーツタオルで軽く拭った。
「……来ちゃった。約束より早くて、ごめんなさいね」
“来ちゃった”じゃない。
そもそも約束なんぞしていない。おそらく、店までタクシーか何かで来て、姉貴に東京の友達だとでも伝えたのだろう。
しかも、話し方が正樹との電話で見せた外面モードで棘が全く無い。服装も白いチューリップスリーブのブラウスにデニム地のアンシンメトリーのスカートという出で立ちでお嬢様然としている。
幸いなのは親父とお袋が寄合の日でいなかった事。特にお袋と円詩子が遭遇したら碌《ロク》な事態にならないのが断言できる。
「スゴイ荷物だな。店を開くつもりなら、九十九堂《ウチ》の軒先くらい貸してやるよ」
円詩子の脇には、これから一人暮らしでも始めるのかでも、言うくらいの大荷物がある。おそらくは急遽、宿泊する為にオリオンモールで購入した衣類なのだろう。
「露子さん、いつもこんな感じで私の事、苛めるんですよ。酷いと思いませんか? 」
なにがいつもだ。
姉貴にだったら、説明できなくも無いが、経緯とこれからの事を考えると控えていた方無難の筈だ。円詩子もそれが分かっている為か、表情には余裕がある。
「ごめんなさいね、詩子ちゃん。ウチの弟、少し変わっているの」
「それはよく知ってます。お姉さんがこんな素敵なのに何故なんでしょうね」
コーヒーを啜りながら微笑む円詩子の勝ち誇ったような表情はいったい何なのだろう。
「壮ちゃん、新しいコーヒーのパックを取って貰いたいんだけど、棚の上だから一緒に来てもらえる? 詩子ちゃん、少しだけ待っていてね」
別室に連れ出し、円詩子の事を尋ねるのが、見え見えの姉貴の言葉。
「露子さんは大事な身体なんですから、私がいきます」
身重の姉貴を動かす事に心が痛むのか、円詩子が腰を上げる。
「キミじゃ、場所が分からないだろ? 」
「あっ!? そ、そうですね。どこにあるんですか? 」
オレの指摘に顔を赤らめ、質問を返す。どうやら姉貴の言葉の真意を読む事は出来ていないらしい。
「説明で分かる所にあるのなら、オレひとりで行ってるよ」
「…… そ、そうね」
耳まで真っ赤だ。少し面白い。
「大丈夫よ。少し動いた方が身体も楽なくらいなんだから、でも、嬉しいわ。気を使ってくれてありがとう」
姉貴はそう静かに笑い、ゆっくりと腰をあげた。
「インスタントコーヒーを棚からとるだけだからすぐ戻るよ」
オレは円詩子にそう微笑みかけ、何故かオレの頭を軽く叩いた姉貴と共にリビングを後にした。
それがオレの今の気持ちだ。
少しは気分が晴れるかと思った熱いシャワーも大した効果が無かっただけならまだしも、冷たい麦茶を飲みに戻ったリビングには、何故か姉貴と談笑をする円詩子の姿があるのだ。
オマケにテーブルの上にはオレの中学、高校時代の卒業アルバムが広げてある。
「あら、壮ちゃん、お風呂あがったのね。お客様よ」
「見ればわかるよ」
このタイミングで五十里の事を伝えるわけにもいかず、オレは冷静である事を装い、冷蔵庫を開け1.5ℓの容器に入った麦茶をコップに注いで一気に呷《あお》る。よく見るとリビングのテーブルの上には姉貴が出したのであろう、2人分のコーヒーカップ。中身が既に半分以下になっているところを見ると、円詩子が来てからある程度の時間はたっているのだろう。
風呂上りの為か、あるいは暑さのせいか、再び噴き出してきた汗をオレは首に下げていたスポーツタオルで軽く拭った。
「……来ちゃった。約束より早くて、ごめんなさいね」
“来ちゃった”じゃない。
そもそも約束なんぞしていない。おそらく、店までタクシーか何かで来て、姉貴に東京の友達だとでも伝えたのだろう。
しかも、話し方が正樹との電話で見せた外面モードで棘が全く無い。服装も白いチューリップスリーブのブラウスにデニム地のアンシンメトリーのスカートという出で立ちでお嬢様然としている。
幸いなのは親父とお袋が寄合の日でいなかった事。特にお袋と円詩子が遭遇したら碌《ロク》な事態にならないのが断言できる。
「スゴイ荷物だな。店を開くつもりなら、九十九堂《ウチ》の軒先くらい貸してやるよ」
円詩子の脇には、これから一人暮らしでも始めるのかでも、言うくらいの大荷物がある。おそらくは急遽、宿泊する為にオリオンモールで購入した衣類なのだろう。
「露子さん、いつもこんな感じで私の事、苛めるんですよ。酷いと思いませんか? 」
なにがいつもだ。
姉貴にだったら、説明できなくも無いが、経緯とこれからの事を考えると控えていた方無難の筈だ。円詩子もそれが分かっている為か、表情には余裕がある。
「ごめんなさいね、詩子ちゃん。ウチの弟、少し変わっているの」
「それはよく知ってます。お姉さんがこんな素敵なのに何故なんでしょうね」
コーヒーを啜りながら微笑む円詩子の勝ち誇ったような表情はいったい何なのだろう。
「壮ちゃん、新しいコーヒーのパックを取って貰いたいんだけど、棚の上だから一緒に来てもらえる? 詩子ちゃん、少しだけ待っていてね」
別室に連れ出し、円詩子の事を尋ねるのが、見え見えの姉貴の言葉。
「露子さんは大事な身体なんですから、私がいきます」
身重の姉貴を動かす事に心が痛むのか、円詩子が腰を上げる。
「キミじゃ、場所が分からないだろ? 」
「あっ!? そ、そうですね。どこにあるんですか? 」
オレの指摘に顔を赤らめ、質問を返す。どうやら姉貴の言葉の真意を読む事は出来ていないらしい。
「説明で分かる所にあるのなら、オレひとりで行ってるよ」
「…… そ、そうね」
耳まで真っ赤だ。少し面白い。
「大丈夫よ。少し動いた方が身体も楽なくらいなんだから、でも、嬉しいわ。気を使ってくれてありがとう」
姉貴はそう静かに笑い、ゆっくりと腰をあげた。
「インスタントコーヒーを棚からとるだけだからすぐ戻るよ」
オレは円詩子にそう微笑みかけ、何故かオレの頭を軽く叩いた姉貴と共にリビングを後にした。
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