ロード・オブ・ファンタジア

月代 雪花菜

文字の大きさ
上 下
50 / 53

漆黒の騎士(コンラッド視点)

しおりを挟む
 
 
 食事が終わり、約束通り兄は隣に座っていたルナティエラという綺麗な女性をエスコートして学園長の下へ行ってしまった。
 確かに学園長室は入り組んだ場所にあるが、兄が案内しなくても、付近にいる職員に声をかければ良い話では無いだろうか。
 兄が甲斐甲斐しく世話をする理由が何かあるのかもしれないと考えていると、マリアベルが「あら?」と声を上げた。
 その視線の先にいたのは、目つきの鋭い濡れ羽色の髪をした男――知り合いなのか?
 不可思議な色の瞳は、声をかけられたことにより反応して此方を見るのだが、凄い迫力だ。
 何というか……兄と同じくらいの実力を持っているとわかるほどに感じる威圧感が胸を締め付けて、うまく呼吸することも出来ない。
 それなのに、マリアベルは平然と挨拶を交わしている。
 す、すごいな……

「マリアベル、ルナを知らねーか?」
「先ほどまで此方にいらっしゃいましたが、今はヴォルフ様の案内で学園長室へ向かわれました」
「そうか、ヴォルフがいるなら問題ねーな。他の誰かだったら心配だったが……」

 も、もしや……兄上が自ら案内しているのは、この目の前の男性が原因だとは言わない……ですよね?
 心の中で兄に語りかけるが、答えが返ってくるはずも無い。
 近づかなくてもわかる実力者……それだけではなく、引き締まった体と長すぎる脚が芸術品のようで、男でも見惚れてしまうほどだ。
 それなのに、近づいてくると嫌というほどわかる顔立ちの良さは、筆舌に尽くしがたく……イケメンとしか言えない自分の語彙力に泣けてきた。

「お仕事で、一度戻られていたと聞いたのですが、戻ってこられたのですね」
「ああ。大した用事では無かったからな」
「マリちゃんの声なのー」
「まあ、チェリシュ様、やはりご一緒だったのですね」
「あいっ!」

 ぬっと彼の背中から顔を出したのは、春の女神様で――え、えっと……どうして春の女神様が人間の背中に張り付いているのですか?
 私と同じ驚きと戸惑いが兄の幼なじみ達から感じられる。
 全てをこの場で理解しているのはマリアベルだけなので、説明を求めるよう視線で訴えれば、彼女はくすくす笑いながら「すぐに戻ってくると思いますから、ここで待ちませんか?」と漆黒の青年を誘った。
 戸惑いの表情を見せたのは、私たちだけではなく向こうも同じだったようで、チラリと一同を見渡してから「折角仲間でくつろいでいるんだろ?」と遠慮がちに問えば、問題無いと言って問答無用とばかりに立ち上がって彼の腕を掴んで椅子に座らせる。
 なかなかダイナミックなことをしてくれる。

「くつろいでいるところにお邪魔をして申し訳ない。アルベニーリ騎士団のギルドマスターでリュートという」

 今、巷で噂になっているギルドマスターじゃないかっ!
 慌ててマリアベルを見るが、彼女は涼しい顔をして「軽く自己紹介をさせていただきますね」と言い、此方が口を挟む間もなく、さっさと紹介を終えてしまう。

「へぇ、ヴォルフの弟か……あまり似ていないからわからなかったが、仲は良さそうだな」
「え、あ……はい、兄とは……親しいのでしょうか」
「ああ。アイツには色々と世話になっているから、いつも感謝している。特にルナとは仲が良くて、面倒をみてもらっているからな」

 ああ……それは先ほども感じたと全員が同意した。
 兄はルナティエラさんを大事にしているようで、いつも気にかけていたし、なんなら弟の自分よりも大切に扱っていたのでは無いだろうか。
 まあ、女性だから仕方の無いことだが……まるで家族のようだと感じたほどだ。

「ルナ様を探して此方まで?」
「あ、まあ、一人で出歩いているから心配になって……」
「ルーが外に出た話を聞いて飛び出して来ちゃったの。心配していたのっ!」
「チェリシュ、シーッ! そういうことは言わないのっ」

 慌てて春の女神様の口を大きな手で塞ぐのだが、先ほどまで感じていた圧力は何だったのかと思うほど、微笑ましい様子を見せる。
 頬を赤らめてコホンッと咳払いをしているが、彼がルナティエラさんをどう思っているのか、それだけでわかるというものだ。
 も、もしかして……兄の……ライバル?
 えっと……女っ気の無かった兄が、いきなり三角関係という未知の領域へっ!?
 しかも、相手は兄と同じくイケメンで……でも、ルナティエラさんほど美しい女性を取り合うなら、わかる気もするし……いや、でも……兄上、いきなりレベルが高すぎませんかっ!?

「リュー……喉がかわいたの」
「そうだな。マリアベル、何かあるかな」
「メニュー表は此方ですが、お店の味には劣りますよ?」
「そうなのか?」
「キルシュのお料理は、全般的に美味しいのですもの。ココと比べたら雲泥の差です」
「へー……そりゃ嬉しいな」

 確か、白と黒の騎士団の間で噂になっている食事処では無かっただろうか。
 連日、その店のランチを食べに行くのが楽しみなのだと、兄が父に話していたような気がする。

「とりあえず、ベリリミルクを頼んでおいたから、チェリシュはそれでいいか?」
「あいっ! リューも一緒に飲む……なの?」
「俺はアイスコーヒーを頼んでおいた」
「うー……にがにがなの」
「だから、俺が飲んでいるのは駄目だって言ったろ? ルナかハルくんのにしておけば良いのに……」
「リューはにがにが、からからが大好きなの。チェリシュにはちょっと厳しいの」
「そりゃな……」

 すぐに運ばれてきたベリリのジュースとケーキに目を輝かせる春の女神様を膝に抱き、アイスコーヒーのグラスに形の良い唇をつけて飲んでいるのだが、それすら様になる。
 な、何だろう……同じ男なのにズルイって思ってしまう。

「随分と鍛えているようだな」

 そう言ったのはレオ様だった。
 どうやら、気になるらしい。

「数日前まで、ヴォルフやロンバウドやテオドールに訓練を受けていたから、そう感じるのかも?」
「何? あのお二人にか……?」
「ああ、ヴォルフとはいい打ち合いが出来るようになったし、連携技が出来るようになってきたから、訓練も楽しくて仕方が無いんだ」
「ほう……それは一度見てみたいものだな」
「その訓練は、いつでも見られるのですか?」
「今日は午後から白の騎士団の広場を使わせて貰って、一緒に練習だ。それが終わる頃には俺の仲間達がそれくらいになったら転職も終わっているだろうから、夕食を店で一緒にとろうって話になっている」
「ふむ……我らも丁度時間が空いているのだ。一緒に訓練をさせてもらっても良いか?」
「それはヴォルフに聞いてくれ。俺は誘われた側だからな」
「わかった。ならば、ヤツに確認しよう」

 完全に楽しい事を発見したというような喜びに満ちた表情をしているレオ様と、目を細めるシモン様……レオ様は見た目通りだが、意外にもシモン様も訓練好きである。
 この二人に目をつけられたら、倒れるまで解放して貰えないのだが、大丈夫だろうか。
 イーダ様は止めようかどうしようか迷っている様子だが、トリス様は好きにしろというスタンスである。
 レオ様を唯一止められるのはイーダ様なのに……
 でも、その訓練というものを少し見てみたいと思ったのは、私も一緒だ。
 兄とどういう風に戦うのか――そう考えるだけで心が躍り、父も見学したいと言い出すのではないかと苦笑を浮かべ、親子共通の話題が目の前にいる漆黒の騎士のような彼であるのも良いかもしれないと思えた。
しおりを挟む
感想 229

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。 だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。 その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます

まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。 貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。 そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。 ☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。 ☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

身体交換

廣瀬純一
SF
男と女の身体を交換する話

冤罪だと誰も信じてくれず追い詰められた僕、濡れ衣が明るみになったけど今更仲直りなんてできない

一本橋
恋愛
女子の体操着を盗んだという身に覚えのない罪を着せられ、僕は皆の信頼を失った。 クラスメイトからは日常的に罵倒を浴びせられ、向けられるのは蔑みの目。 さらに、信じていた初恋だった女友達でさえ僕を見限った。 両親からは拒絶され、姉からもいないものと扱われる日々。 ……だが、転機は訪れる。冤罪だった事が明かになったのだ。 それを機に、今まで僕を蔑ろに扱った人達から次々と謝罪の声が。 皆は僕と関係を戻したいみたいだけど、今更仲直りなんてできない。 ※小説家になろう、カクヨムと同時に投稿しています。

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

処理中です...